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夜会の翌朝はいつもそう。虚無感で一杯になる。
「………はぁ」
誰に美しいと言われても足りない。
誰に聡いといわれても足りない。
誰に可愛いと言われても、誰にどう最上級で誉められても、わたしはその人たちにすら劣等感を抱く。
「でもあなたは誠実だわ」「あなたは仕事に熱心だし」「あなたは皆からの信頼がある」「あなたは仕草が女の子に大人気だし」「あなたは勉強が誰にだって誇れる」
わたしは?
――わたしには何もない。
わたしはそんな人たちの心を集めることで、それの代わりにしたかった。
できないことは、知っていたけれど。
――コンコンコン
「おはようございます、お嬢様」
「…おはよう」
ガラガラとワゴンを押しながら入ってきたのはポーラだった。
窓からの光が無駄に眩しくて、ワゴンはなんだか喧しくて、いつも通り髪をきつくお団子にしたポーラ、いつもと同じ朝。なのに。
太陽だけが無理矢理朝を装ってるみたいだ。
「昨晩はいかがでした?」
てきぱきとした手つきでポーラがお茶を淹れてくれる。
伏し目がちのポーラの睫毛が、影を落としている。
「…いつもといっしょよ」
「あらあら」
「…エリック様も飽きたわ」
言ってから、聞かれてもないことを言ってしまったなと少し後悔する。ポーラがこっちを向いたのには気付いたが、今は彼女の目が見たくなかった。
「…東屋に行ってもいいかしら」
「今日は予定もございませんし、よろしいですよ。お召し物すぐご用意いたしますね。お菓子もお持ちしま…」
「ポーラ」
わたしは本当に勝手な女だ。
こんなときだけ、主従を求める。
「一人で大丈夫」
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東屋はヴェルリーニ家の隅、しかも周りは緑豊かと言えば聞こえがいいが、ただの鬱蒼とした木々に囲まれた場所にあるため、基本的に誰も近寄らない。もっぱら一人になりたいバイオレットが利用しているくらいである。
「………誰か」
一人に、なりたかった。
誰かと、優しい誰かといたら、甘えてしまいそうだったから。傷つけてしまいそうだったから。
なのに寂しいなんて、なんて勝手なんだろう。
ああ、嫌だな。ここは暗くて、気味が悪くて、静かで、切り離されてるみたいだ。
…なんて、考えていたときだった。
「こんにちは~!」
「…!?」
「えっ…!なんかびっくりさせてごめんなさい…!」
東屋の柱の陰からひょっこり、やたらと陽気に現れたのは、わたしより少し年下くらいの白銀の髪が印象的な男の子だった。




