表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一般人でも順応しなきゃね  作者: モビ
第1章:全てを見直す、それも重要
9/16

神話と現状とドボルの覚悟

読んでくださっている方、ありがとうございます。

そしてお待たせしました!

ちょっと長めになってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。


 その場に沈黙が流れる。

 先生も黙ってしまったが、状況が理解できていない為、オロオロしているようだ。


「…そうですね、本来ならは貴方様が初めてこちらにいらした時に伝えるべきでした。申し訳ありません。では説明のお時間を少々いただきましょう。」


 ドボルはそう言うと手を上に上げて二回叩き、サラとガーランドを呼んだ。


「「失礼します」」


 ノックをして入ってくる二人。サラにはお茶とお菓子の用意、ガーランドには地図と紙とペンの用意を頼むと、二人は短く返事をしてすぐさま行動に移した。


 ドボルは我々二人にソファに腰掛けるよう促し、自らも座る。


「さて…どこからお話ししましょうかね。クライは現状はある程度わかっていると思うので、サトウ様向けに少し御伽噺をさせて頂きます」

「…」


 とりあえず黙って聞いてみる。御伽噺とは言うが、無関係で子供騙しな話を今、このタイミングでするはずがない。


「昔々ある所におじいさんとおばあさんが居ました。おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ行きました。するとおば「まてまてまてまてーい!」」

「…なにか?」

「それ今本当に関係のある話なんだよな?間違いないよな?」

「いえ、これは御伽噺と聞いてクライが頭に浮かべた話をそのまま引用しました」

「いや、ね?わかるでしょ?今すごく緊迫してたじゃん?台無しでしょ、これ?」

「そうですね…。でも…この感覚、懐かしくもあります。良いものを見させていただきました。ありがとうございます」


 ドボルが顔を上げ目を閉じ、祈るように手を組み、キラキラしている。わけがわからん。先生を見ると、照れ笑いをしていた。


「…おほん。では、ちゃんとお話いたしましょう」


 タイミングよくサラがティーセットとお茶菓子を持ってくる。みんなにお茶が渡り、サラが出て行ったところでドボルは真剣に話し出した。お茶が出るまでの時間を稼いでいたのか?




 昔々、世界にまだ大地もなく、全てが水の中だった暗い昔の話。

 雲の上のある所に、暇で暇で仕方のない神様がおりました。その神様は生まれた時から神様でしたが、何もする仕事がなくて、暇で仕方がなかったのです。

 そんなある時、神様は思いつきました。


「暇なら話し相手を創ればいいのじゃ」


 そう思い、雲のかけらを少しちぎり、息を吹きかけました。するとどうでしょう。手の上に神様の形そっくりな、生きた人形ができました。

 動くことも話すことも出来るようでしたが、神様よりもかなり小さく、声がちゃんと聞き取れません。いくつか創りましたが、どれも雲の上に乗ることができなかった為、神様の体の上を歩きます。


「話し声はあまり聞こえないが、可愛いやつじゃの」


 神様は、その小さな人形達を眺めて暇を潰しました。


 人形たちは神様が寝ている時も起きている時も動きます。

 ある時、神様がお昼寝していると、お腹の上をテクテク歩きまわる人形がいました。神様は寝ていましたが、くすぐったかったのか、間違えて手で払いのけてしまいました。いくつかの人形は雲より下の水の中に落ちてしまいました。

 お昼寝から目覚めた神様はそれに気づくととても残念に思い、そしてまたこんな事があると可哀想だと思いました。そこで雲の下に、人形が歩く事のできる場所を創る事にしました。


 神様の長い髪の毛を切って、細かく編みます。それを水の上に浮かべてみました。するとどうでしょう、みるみる固くなって地面が出来上がりました。さらに雲をちぎって薄く貼り付けます。茶色一色だった地面に木や草が生えました。柔らかくなった緑の地面に人形達を降ろします。


 人形たちは自由に動けるようになって喜んでいましたが、雲の上と違い、お腹が減っている事に気づきました。神様はそれを見て、また雲をちぎって息を吹きかけると、今度は動物が出来上がりました。それを地面に乗せると、人形たちは動物を追いかけて食べ物にしました。中には草を食べる者もいました。

 神様はその様子を面白がって、たくさんの地面、たくさんの種類の人形、たくさんの種類の動物を色々な場所に創りました。


 いくらかの時間は潰せましたが、それでもまだ暇で仕方ありません。神様は新しい事を始めます。

 地面を少し引っ張って大きな山を創り、そこに手ですくった水をかけます。そこには川や滝が出来ました。

 それから、地面と雲の間に何もいない事を寂しく思い、空を飛ぶ人形も創りました。

 ついでに大きめな自分のペットもいくつか創ってみました。

 さらに、自分の長い髭を編んで空を覆い、いつも暗い場所を創ります。そこには、そこにしかいない珍しい生き物を創って楽しみました。

 水の中にもたくさんの生き物を創り、自由に泳ぐ姿を鑑賞します。

 じっと見ていると、最初に落ちた人形は、水の中の生き物を食べて生活をしているようでした。


 神様はみんなが自由に生きている事を見て楽しく思い、いつでも暇を潰せるようになりましたとさ。




 …長い御伽噺は、どうやら神話だったようだ。

 ドボルの話では、この世界に伝わる神話はどこもこれに似たものらしい。突き詰めて研究すると面白そうだな、とか思ったが、今はそれどころじゃない。


「…で、ドボルは何が言いたいんだ?御伽噺をしたかっただけなわけじゃないんだろう?」

「今のお話はさっきも言った通り、この世界のどこでも似たような神話でございます。その中で出てきた神様の髭のところ、覚えていらっしゃいますか?」

「あぁ、ずっと暗い場所がどうのっていう」

「それに当たるのが我々魔族です。その昔話に『珍しい生き物』とある通り、種族数はさほど多くはありません。ただ、その珍しさゆえに我々を狩って楽しむ下衆が少なくありません」


 この世界の神話は本当に今とつながっているのか。

 ドボルの言う話では、圧倒的に人間の数は多い。人口が多くなって豊かになった文明は、得てして芸術や技術を高めていくものだ。

 魔族は数は多くないものの、単体それぞれが人間に比べ長命であり、力もあり、知識もあるので人間よりも文明が発達している。その技術などを人間に教えることは別に大した事でもないのだが、人間の中にはそれを悪用する者や独占したがる者、それを圧倒する事で力を示したがる者がいたようだ。


「人間は組織を作るのを好みます。冒険に出て未開の地を発見したり、まだ見ぬ知識を得たり、そういう好奇心も旺盛です。ですから、ある意味ではそういった、本来なら独立している様々な組合(ギルド)が協力して『冒険組合(ベンチャーユニオン)』という求道心の強い者の集まりができるのは、自然発生してしかるべきなのかも知れません」


 本当に危険な魔物を倒して人類の役に立ったり、力を示して人の上に立つという願望は誰しもあるとは思う。ただ、いきすぎた文明は利己主義的で排他的になったようだ。


「今では人間至上主義者が数多くいます。本来なら、魔族と呼ばれる我々の力の足元にも及ばない彼らが、今では組織立って我々や多くの魔物を狩り、奴隷にしたり、知識を奪うまでになっております。おかげで我々は住む場所も追われ、皆散り散りになってしまいました。ただ、それでも魔族は人間が嫌いではありません。それはサトウ様、貴方様の以前の姿、アルゴリズマイア様の影響が大きいのですよ」

「そんなに凄い人だったのか?」

「それはもう!全ての叡智の結晶と言って過言ではありますまい。あのお方がこの世界を支配していたわけではありません。しかしこの世であのお方の上に立つ者などおりませんでした。我らが導き手であり、象徴でもあらせられたあのお方は、人間がお好きでした。だから我々も人間が嫌いではないのです。ただある時突然、その力の波動をこの世界から感じる事ができなくなりました。それでもしばらくは平穏だったのです…」


 興奮したり意気消沈したり忙しい人だな。

 アルゴリズマイアはどういうわけか突然雲隠れしたらしい。あまりに強い力はこの世界のどこでも感じる事ができた。だがそれが消えたという事は、力を封印して死んだという事以外は考えられなかった、と。

 そしてアルゴリズマイアがいなくなった後のこの世界で、沈んだ気持ちの魔族を押さえつけ、人間が世界を支配しようと動き出したわけだ。


「不老不死のアルゴリズマイア様は、力を封印しない限り崩御する事はありません。しかし御隠れになられ、この世界中どこを探してもあの方と同じ波動を感じない。という事は違う世界へと転生されたのでは…と」


 …ふむ、それで魔王を探していたのか。話を聞く限り、この世界の人間は殺されたとしても仕方ないかと思ってしまう。というか自業自得か。だからと言って後輩の件は見過ごせない。


「…その話が本当なら、魔族には同情する。だが、だからと言って後輩や他の世界の人間の命を奪うのは看過できない」

「もう致しませんよ。こうして貴方様は再びいらして下さったのですから。私の願いはただ一つ。サトウ様、貴方様に我々の導き手となり、希望となっていただきたいのです。我々は数が減り、このままですと50年もしないうちに絶滅してしまうやも知れません。…ですが!もし貴方様が居てくだされば、それだけでも魔族は奮起し、ただではやられなくなるでしょう!その分数も増え、絶滅も避けられましょう!種の存続、その為ならこの身、どんな汚名や泥を被ろうが、叱責されようが、貴方様に命を奪われようが構いません!これが私の『覚悟』でございます!どうか我々の王に!どうか即位を!」


 ドボルは会話の途中で興奮のせいか突然立ち上がったかと思うと、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。


 …う〜ん、事情はわかったが…即答できないよな、こんなの。

推敲って時間かかりますね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ