再試行につぐ再試行の末
よし、個人的にはキリがいい!
「くっ、これも違うか!」
あの後俺は後輩を引きずり、非常階段を使ってどうにか会社から見つからずに脱出できた。タクシーも拾えて小一時間くらいで俺の住むアパートに着く。道中こいつがクソでかくて重いのなんの!いっそここで捨てていこうかと何度思った事か…お前、元気になったら覚えてろよ。
帰ってすぐに、記憶から溢れて消えそうな転移の手順をメモ帳に書き出していく。実際、溢れて消えたのか、手順は虫食いだらけ。しかも他の手順と混ざっているっぽいな。でも片っ端から試してやっていくしかない。
「これでもないって事は…これで試すか?いや違ったような。う〜ん……んぁぁぁぁああああああ!!!もう、わっかんねえええ!!!!」
くそ、なんで思い出せない!俺の馬鹿!!なんて無力なんだ!
己の記憶力のなさにイラつく。己の無力さにイラつく。頭をガリガリ搔きむしる。でも後輩を諦める事は絶対しない。
……気分が煮詰まりすぎてるな。一回クールダウンするか。
前に買ったタバコを一つ取り出し、口に咥え火をつける。久しぶりの味。昔はよく吸っていたが、今はもうほとんど吸わない。でも時々、こういったむしゃくしゃした時だけ気分転換に吸うのだ。久しぶりに吸うタバコは少し臭いけど、燻らした紫煙を見ていると気分が落ち着いて冷静になれる。たまには良いもんだ。
そう言えば、タバコをやめたのもこいつが原因だったな。
こいつが入社してからハチャメチャで、失敗の連続だった。入社したてだから今ほどの仕事はできず、俺がフルサポートをしなければならなかった。もちろん自分の仕事もあるので、仕事量は2倍。当時も過労死寸前だった。おかげでタバコなんて吸う時間が取れず、健康の為にもそのままやめたんだっけ。
その分、こいつが普通に仕事ができるようになるまでの成長は早かった。今では、俺が落ち込んだ時はこいつに愚痴ったりしながら無理矢理呑みに連れて行ったり、コーヒーブレイク中に眠気覚ましに使ったりと扱いは酷いが、持ちつ持たれつやってきたんだ。今更見捨てられるはずがない。
仮にこいつがただの過労で、無駄骨で終わったとしてもそれでいい。ただ、万が一の『刻印』の可能性を考えた場合、救えるのは思いつく限り俺だけだろう。ならばやるしかないんだ!
やる気が再燃してきた頃、ちょうどタバコを吸い終わった。吸い殻を灰皿で潰す。
「さて、再開するか。後やってなかったのは…えっと、条件が満月の夜か。満月はこの前見たばっかりだから当分先だな。他は…なになに、条件は大人が10人程が腕を伸ばして振れる位の広い空間である事。屋根がある事。風がない場所である事。空間内に物が置いていない事。四隅に皿を置き、塩を高く盛る。それぞれの周りにロウソクを6本ずつ等間隔に並べて火を灯す。その後、中心から大きめの同心円を3つ描き、そこからから六方向に…ってここじゃ無理だな。近くの体育館を借りれないか調べてみるか」
PCで調べるとすぐ近くの中学校の体育館が出てきた。電話をかけると、たまたま今日の夜8時までなら空きが出たので使えるらしい。そのまま予約を取り、準備をしながら夜になるのを待つ。待っていろよ、後輩。もうすぐ向こうに行けると思うから。
夜になった。体育館にて準備を始める。
火を使うのがバレるとまずいだろうから、火をつけるのは一番最後にしよう。
並べたり地面に書いたりは30分程度で終わった。しかし貸し出し終了の時間は残り1時間を切っている。急ごう。
後輩を引きづり、円の中心へ。ロウソクに火を灯した後は、教わった通りの儀式を始める。うろ覚えだが、出来るだけ記憶から再現した呪文を唱え、沸騰させて冷ました水に塩をいれて濾したもの、塩、墨などを順番に撒く。最後に自分のへその下あたりに意識を集中すれば…
にわかに体が軽くなっていく気がする。後輩を見ると、円陣とともに少し光っている。どうやらうまくいきそうだ。しばらく集中すれば…っていかん!目を!目を閉じなきゃまた具合が\\\\\
\\\\\うつ伏せになっている体をガバッと起こす。周りを見渡すと後輩も倒れている。ここは…と、ここで再び悪夢のような猛烈な吐き気が!建物の影に吐きに行く。
はぁ…はぁ…気持ち悪い。そう、ここは村の奥の大きめの建物のすぐ近く。ドボルさんが屋敷と呼び、先生がいた建物。周りの家とは違い、丸太ではなく木の板で丁寧に作ってある。塗装がされていないため質素に見えなくもないが、細かな飾り彫りも見られるため、安い家ではないなって印象だ。
ここを見て思う。戻ってきちゃった…
ここら辺で書きたかったプロローグは終わりです。ちょっと長くなっちゃいましたね…
次話からは少し展開を変えていきます。
いま、ぼうけんがはじまる!