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一般人でも順応しなきゃね  作者: モビ
プロローグ:不可思議は時に唐突に日常を壊す
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帰還と覚悟

 ああ懐かしい!間違いない、桜井先生だ!

 30年ぽっちだが今まで生きてきた人生の中である意味一番興味ある授業をしてくれた先生。そのおかげで、自分があまり興味のないことでも興味が持てるようになったり、身近にいろんな知らないことがあるんだと認識できるようになったり、人生の先生だった。


「ええ、確かに昔、教師だったことはありますが…あなたは?」

「佐藤です、先生!佐藤康雄!20数年前、帝都第一小の三年生で、あなたの生徒でした」

「確かにそこにいた事はありますが…ごめんなさい。さすがにもう覚えていないわ。でもあなたは覚えていてくれたのね、ありがとう」


 そういうと、先生は昔と同じ優しい笑顔をくれた。

 そっか、そうだよな。仕方ないか、もうかなり昔のことだし。俺にとって当時の先生は彼女一人だが、先生にとっては数多くいる生徒の中の一人だったわけだし。


「…いいえ、でも再び会えて嬉しいです。」

「ありがとう。それでご用件は?」

「ああ、そうでした」


 ドボルさんから聞いた内容を伝え、診てもらう事になった。


「じゃあまず後ろを向いてくれるかしら?」


 言われた通りにする。先生は椅子からゆっくりと立ち上がり、俺のそばまで来た。どうやら首の後ろあたりを見ているようだ。


「うーん…じゃあ今度はお腹を少しめくってくれる?」


 少しめくってみせると、今度はへその下あたりと心臓付近を見る。なんかそんな位置をじっと見られるとちょっと気恥ずかしい。


「うん、問題なさそうね。もう大丈夫だけど、元々が衰弱しているみたいだからしっかり栄養をとって睡眠もしっかりね!」

「ありがとうございます!…あの、少しいいですか?」


 先生の了承をとって質問をする。まず、先生が昔と変わらず若い理由が気になった。


「それは私がエルフだからよ。中でも耳が短い種族なの。だから耳のいい長耳族達と違って呪文に長けているわけじゃないの。その代わりに私たちは目がいいから、普通じゃ見えないものが見えて、それを職にしてる人も多いわ。でも寿命と目以外は普通の人間とほぼ同じね」


 なんと人間じゃなかった!ここ最近で一番驚いたぞ!担任はエルフ。うん漫画でありそう。

 それからドボルさんから聞いた話の裏をとる。念のため、自分が魔王の生まれ変わりらしいって話は伏せた。なんかはずかしいじゃん?中二病みたいで。それはともかくその他の異世界だとかの話は本当らしく、丁寧に教えてくれた。

 はー、やっぱり先生は先生だわ。教えたり伝えたりするのがすごく上手い。なんか引っかかってたものがスッと喉を通るというか、すごくわかりやすい。聞きやすいので他にも色々と昔話を交えながら聞いてみた。森が好きだったのはエルフだからだってさ。それだけよくわからんかった。


 話が結構はずんでいたせいか、思ったより時間が経っていたようだ。ドボルさんがドアをノックして呼びにきた。


「失礼します。サトウ様、お食事の用意ができましたので、よろしければおいで下さい」

「あ、はーい。すぐ行きます。先生、今日は本当にありがとうございました!」

「いいえ、こちらこそ懐かしい昔の話が聞けて楽しかったわ。またいつでも来てくださいね」

「…はい、ありがとうございます。では!」


 …なんとなくもう来るつもりがないとは言えなかった。過去と完全に決別するような気がしたから濁してしまった。…なんて感傷に浸るなんて俺らしくないな!ささっと飯を食って元気になって帰ろう!




 食事はとても豪華で美味しかった。ただ広いテーブルに一人きりは味気ないなぁ。


 食事が終わった後、ドボルさんに転移の方法を数種類教えてもらう。それぞれがそこそこ複雑なので全部覚え切れたかどうか…。まあ使うこともないんだし良いか。後はこれで帰るだけ。腹もふくれて凄く体の調子が良くなった。まるで十分な睡眠をとったような体の軽さで、こんなのは久しぶりだ!今にも走り出したいぜ!行こうぜ、ピリオドの向こうへ!なんちゃって。


 その後、建物の外に出て黒ローブの三人と挨拶を交わした。これで最後だ。やっと帰れる!


「短時間でしたが、色々お世話になりました。本当にどうもありがとうございました!」

「当然のことをしたまでです。感謝など結構ですよ、また来ていただけるんですから」

「いやいや」

「いやいや」

「「あはははははは」」


 …どこまで本気なんだ?この人。最後までつかみどころがよくわからん人だったな。


「さてそろそろ始めますよ。魔法が起動すればすぐに向こうに着くとは思いますが、送還中に目を開けていると、大変激しく酔うと聞いたことがありますのでご注意を。では参ります」


 三人が呪文を唱え始めると、俺の足元から光の魔法円陣が浮かぶ。おお、魔法みたいだ!じゃなくて魔法か。漫画みたいで興味深いな。そこでふと腕が気になった。壊れた腕時計。今もほとんど動かない…いや、動いてはいるが遅い。この世界の森についてから半日は経っているというのに、針は1:43を指している。はぁ、帰ったら新しいのを買わなきゃ。そういえば半日経ってる割に明るいのはこの世界は一部を除き、常に日が登っているのだとか。ここの住民はいつ寝てるんだろうね?


 そんなくだらないことを考えていたら体が光り始めた。

 あ!やばい!!目を閉じないといけな\\\\\






 \\\\\目が覚めて飛び起きた。ここは…自分の部屋?仕事鞄もある。夢だったのか?

 と、ここまで考えた瞬間、猛烈な吐き気に襲われた。トイレに駆け込む。




 ぅぅぅぅううう…まだ気持ち悪い。10分はトイレにこもっていたか?今何時だよ…目覚まし時計はどこだ?あぁ、あった。1:55か。


 …1:55!?今日は何日だ?急いでテレビをつける。番組表を出しながら日付と現在時刻を照らし合わせる。

 合ってる。腕時計は?…合ってる。頭の中で計算を始める。

 どうやら異世界の時間は現実世界の1/10程度の時間の早さらしい。今は深夜2:00丁度になったところだ。良かった、仕事も間に合う!後輩への土産話もできる!体力もほぼ全回復した!いい事づくめじゃん。現時点で眠気がないのが後々怖い気もするが、それくらい良しとしよう。とにかく今日も元気に仕事だ!わはははは!!!






 朝早く家を出て、満員電車で身動きも取れないような通勤ラッシュを耐え、出勤後にPCで当日しなければならない業務の確認と下準備をし、しばらくしてから来る上司にノルマがどうのと小言を言われ、後輩の育成をしながら接客をこなした。

 コーヒーブレイク中に思う。うん、これだよ、これ。これが日常。日常って素晴らしい!

「だろ?後輩よ、お前もそうだよな?あ、そうだ。コーヒー奢んなきゃ、コーヒー。おい、何飲む?なぁ、なぁったら!……おい!!」


 後輩の目の下にクマがある。反応も鈍い。まぁここの仕事上いつもこんな感じではあるが、いつもより酷い。酷いというより死相に見えた。じっとりと手汗をかくのがわかった。そこで夢だったかもしれない世界の彼との会話が頭を過る。




 ーーーーー道中、気づかぬうちに『刻印』を付けられてしまう場合があります」

「『刻印』?」

「魔物に変わった者の内、意志を持ったまま変化した者はかなりの強者になります。さらにその者らの中には、自分の目に映った生き物に『刻印』を付けることで、生気を吸い取ることが出来る者もいるのです。これは次元を超えて有効となり、徐々に衰弱させてしまうもの。今のサトウ様の体力だと、万が一『刻印』が付けられていたとすれば1週間と持ちますまいーーーーー




 もしかして、後輩は刻印を付けられていたのか?でも俺には見えない…




 ーーーーーご安心下さい。それをこれから会わせる者に診てもらうのです。闇祓いが出来る者でないと診ることができませんので。ちなみに服では防げませんーーーーー




 そうか、先生じゃないと診れないのか!しかしどうする!?また戻るのか!?いや、でも…

 頭の中がぐるぐるする。ここ24時間以内で起きた事の内容が濃すぎて処理しきれない。でも後輩がまずい!


「う、…先輩?」

「おい、気づいたか?ずいぶん具合悪そうだぞ。大丈夫か?」

「いぃやぁ、なんか朝から…体に力が入らなくて…それでも無理やり来てみたんですが…そろ…そろ限…か…」

「おい、瀬戸!起きろ!今寝るな!少し状態を教えろ!!」

「せ…輩、名前……珍し…」

「そんなんどうでも良いよ!おい!寝るなぁぁぁぁ!」


 それから後輩は意識を失った。このまま病院に連れてくのは良いが、結果は過労死扱いになるだろう。じゃあどうするか?




 …もう迷ってらんねぇだろ?




 おぶって異世界行くっきゃねーだろ!


 会社?後輩の命とどっちが大事だ!




 もう戻れないかもしれない。

 行ったらドボルさんが帰してくれないかも知れない。

 しがらみが俺を縛って帰れないかも知れない。




 なら、こいつ復活させて、自身も魔王の力とやらを取り戻してこっちへ戻ってやる!全て自力でやってやる!!覚悟は決まった!!!

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