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一般人でも順応しなきゃね  作者: モビ
プロローグ:不可思議は時に唐突に日常を壊す
1/16

日常

初投稿です。誤字脱字ご勘弁を。

 俺はあまり夢を見ることがない。


 夢と言っても、睡眠でみる夢のことね。朝早く家を出て、満員電車で身動きも取れないような通勤ラッシュを耐え、出勤後にPCで当日しなければならない業務の確認と下準備をし、しばらくしてから来る上司にノルマがどうのと小言を言われ、後輩の育成をしながら接客をこなし、夜遅くまでデータ管理に勤しみ、また身動きの取れないような終電の満員電車に揺られ、夜遅く家についてももはや趣味に費やす体力も無く、玄関で寝てしまう事すらあるような状態で、安らかに眠って夢を見るなんてほとんどない。


 なんだっけ?眠りが浅いと夢を見るんだっけ?

 現状の翌日分の体力を作るためだけの睡眠では、一瞬で深い眠りに落ちて、アラームで起きてっていう繰り返しだけしか意識できない。本当は見てるのかもね。


 だから、仕事の合間のコーヒーブレイク中、後輩が

「俺、今日変な夢みたんですよ」

 なんていう話を振ってきても、へー、とか、ふーん、ぐらいしか出るものもなかった。興味が無くて聞き流してても仕方ないだろ?




「…あの、先輩。ちゃんと聞いてくれてます?」

「……ああ聞いてるよ。アレだろ?言葉が通じなくて困ったとか言ってたよな?」

「言ってませんよ!言葉が通じないんじゃ無くて、何を言ってるかわからない言葉で呪文みたいなのを唱え出したから、なんか怖くなって逃げ出したんですよ。聞いてないじゃないですか!」

「うん、眠いんだよ。少し脳みそがとろけてる感じでさぁ…」

「だから眠気が覚めるような話をしろって言ったのは先輩じゃないですか!」

「…あぁ、そうだったな。それで何だっけ?話が通じなかったんだっけ?」

「……いや、だから…。もういいや、最初から話しますね」






 眠気を取る為に少し集中して聞いてみたらこんな感じだった。

 通勤途中、椅子に座れてウトウトし始めた後輩がどうやら夢を見たらしい。

 ふと気がつくと森の中だった。かなり森の奥深くらしく、車の音はおろか、空すら木々が茂っているため見えにくい。その為薄暗く、時間感覚も曖昧。ただ意識ははっきりしていた為、これは夢だと思うことが出来た。

 ありがちな頬をつねる行動に出たが、やはり痛くない。夢なら早く起きてしまわないと電車を乗り過ごしちゃうと思った彼は勤勉だね。俺ならそのまま仕事のことなんか忘れて散策に出ただろうね。

 ともかく、起きる為にはどうしたらよいか考えたが解らず、仕方なしにその辺に落ちている枝で頭を叩いたり、木に直接ぶつけたりしてみたんだそうな。






「…痛くないからってぶつけたりしないほうがいいんじゃないか?」

「必死だったんですよ!遅れたら先輩に何されるかわか「何もしねーよ、人聞きの悪い。」」


 食い気味に否定してする。っていうか今までだってそんな事したことないし。

 はぁ、と深いため息をつきコーヒーをすする。さっきより目が冴えたか?

 その様子を見てウシシと歯茎を出すような変な笑い方をした後輩は話を続けた。彼なりの機転だったのか?






 奇妙な行動を森の中で続けながらひとり歩いていると、少し先から明るい光が見えた。おそらく日の光。森を抜けたら夢から覚めるのかもと期待した彼は、走ってそこまで向かった。生い茂った森はなかなかに移動し辛く、思ったより距離もあったせいで息も上がってしまったが、それもここまでだと思えば頑張れたそうな。

 日の光が見える場所へたどり着くと、そこはまだ森の中…ではあったが、集落のような感じで少し開けていて、家や人の姿があった。結局夢から覚めることはなかったが、人の姿に安心して近寄ってみる。


「あのー、すみません」


 その声に振り向いた村人?は普通の中年男性だったようだが、顔色が急に変わり、少し離れた家に向かい駆け出した。

 ぽつんと残された後輩は、集落のなかを歩いてみる。さっきまでは必死だったせいか気付かなかったが、よく見るとほとんどの家々がログハウスのような感じで、丸太を組み上げて作ったような物ばかりだった。一番遠くに見える少し大きめの家だけはちゃんと木を板のように加工して作られているようだが、特に塗装もされておらず、どこか質素な感じがする。ここの集落の建物の全ては、森から切り出して作ったのだろうと感心した。


 そんなよくわからないことを考えていると、件の大きめの家から黒い長めのローブを羽織った人が3人程こちらに向かって走ってきた。性別はわからない。背はそんなに高くないが、背を丸め、前かがみだったようだ。






「…ふーん、で?」

「以上です」

「…ふーん、で?」

「で?って言われても…それで終わりですよ。その後、よくわからない言葉の歌?呪文?みたいなのを唱え始めたので、怖くなってまた森の方へ走って逃げたんですよ。そしたら目が覚めて、ここの最寄り駅だったんで急いで電車降りて会社に来ました」

「オチは?」

「夢にオチなんてないでしょう?そもそも先輩の眠気さえ取れればいいんですから」


 ふむ。確かに少し目は冴えたが、いまいちスッキリしない。眠いのも当然あるが、それより話が途中で終わったような感じでどうもモヤモヤする。

 晴れない気持ちを晴らす為、少し八つ当たり気味に後輩の背中をパンッと叩いて「いいから仕事するぞ」と煽って自分の仕事に戻る。なんか暇なときにたまたま意味もなく手に取った漫画の続きが半端に気になって、先が見たいけどどうせ大したことないんだろ、みたいな中途半端な気持ちが、眠い頭を刺激してくれる反面、苛立った。ごめんね後輩、俺の為に話してくれたのに。今度コーヒーでも奢ってやるか。


「ひどいですよ先輩〜!」


 と彼も言いながら、自分の仕事に戻るようだ。この後もやる事は次々出てくる。一息入れたし、このままうだうだやってると上司からどやされるのも、そろそろ分かってきたみたいだ。俺も集中しなくちゃ。




 そんなこんなの話をした後、仕事に取り掛かること数時間。後輩もすでに帰宅し、俺もそろそろ退社しないと終電がなくなる頃合い。はぁぁぁぁ、また明日も仕事だ、帰って少しでも寝なきゃな。


 この時まではそんなことを思っていたよ。もっと後輩に詳しく聞いておくんだったな…。

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