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「...おい」
やらかした、と思ったときにはもう遅かった。
ふらりとやって来てしまった廃ビル近くに溜まっていた不良の群れ、そのうちの1人と目が合ったその時、場の空気が凍りついた気がした。
どうなら一際ガラの悪いそいつはボス猿らしい。
「なんだよ小僧」
ドスの効いた声が響くと周りにいた子分共はあっと言う間に俺を囲んで逃げ場を塞いだ。
...いや俺何もしてないよね?
「あははっ、なんでもありませんよー?ちょっとぼーっとしてたら目が合っただけ、なんですけどねぇ」
肩をすくめた大袈裟な演技。
...これは逆効果だな、なんて思うけど仕方が無い。
仕方が無い、けどこれは不味い。
「生意気言ってんじゃねえぞ...!」
元々機嫌の良くなかったらしい彼を逆に煽ってしまった。
怒号が遠くで聞こえた気がした。
直後にガツン、と頭に走った衝撃に一瞬世界が眩む。
「......痛ぅッ............」
後ろにいた不良の1人に殴られたと気づいたのはアスファルトとにらめっこしたとき。
厄日かな。
悠長にそんなことを考える。
静かで反抗しない俺にさらに苛立ったのか、俗に言うリンチが始まった____と思った。
「...ぐぁッ...」
呻き声がする。
俺のじゃない、不良側のだ。
何かと思って視線を声のする方に向けたら丁度新しい声がした
「ざまぁねぇな、クソ猫」
鉄錆塗れの金属バットを片手に持って嘲笑うように、吐き捨てるように言う。
「......うわぁ、笑えない」
いつも周りに構わず登場と共に俺に殴りかかってくるけど、今日は違った。
不良共をなぎ倒していく。まるでいらない枝葉を苅るように。
どうやら彼、煌亀烙々の今の目的は俺じゃないらしい。
「あー、亀ってば1人で片付くなら俺呼ばないでよ...、李助大丈夫ー?」
また1人、現れたときには不良は全員伸びきっていた。
近くに転がって呻く奴から視線を外す、どうもこうゆうのは苦手だ。
「大丈夫、食らったのは一発だから。軽く脳震盪は起こしたけどね」
へら、と烙々に文句を言ってから心配そうに聞く淡雪魅兎に笑う。
あとで病院に行こうかな、だとか考えながら埃を払って立ち上がる。
すると
「...たく、こんな雑魚相手になにやってんだよ」
いつの間にかすぐそばに来た烙々はため息を吐いて言った。
若干"殺られる"と思って焦ってたのに彼は くしゃ、と俺の頭を撫でて
「あーあ、瘤になってらぁ」
なんて、少しばかり思いやるように言ってくるから拍子抜けしてしまった。
ぽかん、とした俺に"なんだよ"ってしかめっ面の烙々と、愉快そうに、微笑ましそうに笑う魅兎。
懐かしい気がした。