渇いた魂の十字架
母に贈ったベゴニアの花がすっかり枯れてしまったのは
歩いて五分 近場の農園に杏子の実が 実った時でした
杏子の花言葉 胸に響く 「乙女のはにかみ」 に思いを寄せ
母が 心身ともに 僕の魂から死んだ事実を 僕は受け入れる
あれから二年も過ぎたのか 僕の魂は干からびて 死んだまま
十字架を背負った街娼の体を抱き寄せても 満たされぬまま 悶え苦しんでる
そう たしかにあいつが言った通りだ
「お前の好きなバンドなんて 掃き溜めに打ち捨てられたゴミクズさ」
そう たしかにあの子が言った通りだ
「あいつらは薄汚れた格好で『自己嫌悪』を歌ってるだけよ」
それでも僕は 彼らと魂の泥と土くれを掘り起し
その泥を顔に塗りたくって 中途半端な人生を嘆いて 打ち震えるしかない
楔の打ち込まれた 君と僕の体が いつか一つの十字架に磔にされるのを夢見て
母に贈った懐中時計が 音もなく壊れてしまったのは
歩いてニ分 近場の広場に時計塔が 出来上がった時でした
時計塔の刻み込む 胸に響く 小さい秒針の音に 思いを寄せ
母が魂もろとも 僕の体中から死んでしまった事実を 僕は受け入れる
あれから二年も過ぎたのか 僕の魂は渇き 飢えたまま
因業を背負った娼婦の体を 愛撫し続けても 満たされぬまま 足掻き苦しんでいる
そう たしかにあいつの言った通りだ
「お前の好きなバンドなんて 気狂いが打ち捨てたゴミクズだ」
そう たしかにあの子の言った通りだ
「あいつらは自己満足の『自問自答』を繰り返しているだけよ」
それでも僕は 彼らと魂の泉を求めて 徘徊し 彷徨い
その水を口一杯に含んでは 中途半端な人生を嘆いて 潤していくしかない
高架線に隔てられた君と僕の体が いつか一つの十字架に磔にされるのを覚悟して
「そんなもんさ お前の人生の価値なんて」
誰かがそう嘲笑ったような気がした そう たしかにその通りかもしれない
それでも僕は この街の残骸とともに 生きていくだけだ
そう あの赤い血の滲む 渇いた魂の十字架を背負ったままに