信長続生記 端書き 4 (閲覧注意)
巻の四と巻の五の間をつなぐ? いやむしろたたっ斬る?
そんなバカな話も第四話目です。
思いの外好意的に受け止めて頂いたおかげで、今回も少々飛ばしております。
秀吉はいつもの事ですが、今回は家康のファン、という方にはいつも以上に広い御心で読んで頂けると助かります。
信長続生記 端書き4 「本能寺に変」
光秀「どうも皆様。 実は生きていた、やっぱり生きていた、なんで生きていた、と言われ続ける55歳。 当時の感覚なら立派にジジイ扱いの惟任日向守です」
蘭丸「あ、あの光秀殿? いきなり出てきて何を」
光秀「ああ蘭丸殿。 いえ、前回までで秀満が一足先にクランクアップしてしまったので、代わりとしてこれからは私が端書きのメインを務めようかと」
蘭丸「はあ、お心遣い感謝いたしますが…良いんですかこんな所に来て? 自分で言うのもなんですが、こんな所に来てもロクな事が無いと思いますよ」
光秀「そんなロクでもない所で今まで秀満は戦っていたのでしょう、ならば彼がいなくなった後、誰かがその業を背負わねばなりません」
蘭丸「その心掛けと性根は大変立派なんですが、残念ながらココってそういうのがかえって邪魔になるくらいのヒドイ場所ですよ? 本当に私が言うのもなんですが」
光秀「ご忠告は感謝します、ですがこれは他でもない私が決めたこと、ならばやり遂げるのみ!」
蘭丸「あー、この人ってどっか自分に酔ってる人なんですねー…」
光秀「では最初のお葉書…」
蘭丸「ありませんよ、ラジオじゃないんですから。 ここは本編とは異なる場所であり、妙な部分で繋がっている異空間、とでも思って下さい」
光秀「ふむ、それでは私は何をすればよいか…参考までに、具体的にあなたはここで何を?」
蘭丸「ひたすら秀満殿と秀吉殿がグダグダ話を繰り広げているのを、私がツッコんだり無視したり、時に見捨てたりしてました」
光秀「………ボケますのでツッコミを」
蘭丸「入れませんよ、というかボケると宣言されてどういうボケをされる気で?」
光秀「とりあえずズッコケてみたり、ダジャレを言ったり」
蘭丸「悪い事は言いません、お帰り下さい。 貴方はここに来るべきタイプの人間ではありません」
光秀「しかし最初の話ではいましたよ?」
蘭丸「飲み屋で利三殿のネタを聞いて動けなくなるほど笑うような人が、ここで何かを成せると思わないで下さい」
光秀「そ、そうですか……私では力量不足…」
秀吉「そうじゃのう、お主ではここに来るにはまだまだ」
蘭丸「セクハラ大王もお帰り下さい」
秀吉「誰がセクハラ大王じゃ!」
蘭丸「自覚あるんじゃないですか。 貴方が出て来ると話全体がシモに行きますんで、これ以上出て来られては本編の品性まで疑われかねないんですよ! セクハラ大王が嫌なら色情狂という呼び名もありますが、好きな方で呼んで差し上げますよ?」
秀吉「何を言う、人間は本質的に「エロ」と「グロ」が大好きと以前どっかの誰かが言ってたぞ!」
蘭丸「適当な持論はいいですから。 今回はれっきとしたゲストも呼んでいるんでそちらの方に登場してもらいます、秀吉殿と光秀殿も帰らないのなら、せめて静かにしていて下さいよ」
光秀「分かりました、端書きの現場をしっかりと学ばせて頂きましょう」
秀吉「堅苦しいのぅ、こんなもんササッと済ませればよい仕事じゃろうに。 あ、あと色情狂と呼ぶのはさすがに勘弁せぃ、なんか犯罪者っぽい」
蘭丸「それではゲストの方どうぞ、東海の太守・徳川家康様~!」
光秀「ほう、なるほどこれは確かに大物ゲストですね」
秀吉「ブーブーブー、女子を出せー! なんでここまで来て狸爺を見んといかんのじゃー!」
家康「初登場でいきなりブーイングとは、なかなかキツイ現場のようですな」
蘭丸「静かにしていてください、と言ったはずですが?」
秀吉「わしは了承した覚えないぞ、女子の一人でもおれば静かにしててもええがの」
家康「ではそんな秀吉殿に、わしの方から天下一の女性をご紹介いたしましょうか?」
秀吉「なに、天下一!? それはまた大きく出たのう、ぜひぜひ紹介してくれ!」
家康「ではご紹介しましょう、わしの二人目の妻『朝日姫』です!」
秀吉「ソレわしの妹じゃあああッ!!」
光秀「ほう、天下一の女性とは秀吉殿の妹御でしたか。 自らの妻を天下一と申されるとは、夫婦仲が円満で何よりな事ですね」
蘭丸「いえ、アレは完全な皮肉です。 史実では貴方が死んだ後の話ですから、貴方が知らないのは無理もありませんが」
光秀「そうですか、ですがそれを言うなら蘭丸殿も既に死んで……いや、でも何故あそこまで秀吉殿は打ちひしがれているのです?」
蘭丸「家康殿を傘下に降らせるために、秀吉殿があの手この手を使いましてね。 その中の一つが既に結婚していた妹を無理やり離縁させ、妻がいなかった家康殿に押し付けて結婚させるという手だったのです。 で、その際に天下人まで上り詰めた天下一の男の妹だから、天下一の女性だと言って……」
光秀「滅茶苦茶な事をしましたね、相当恨まれたでしょう」
蘭丸「しかもその時、妹さんも四十を過ぎていたという年齢でいきなり離縁&再婚ですからね。 元旦那さんには慰謝料代わりに大名にしてやると言ったそうですが、怒って武士を辞めてしまったそうです」
光秀「そこで大名になったとして、周りからは『女房を売って出世した』と言われるのが関の山ですからね、旦那さんの苦労が偲ばれます」
蘭丸「現代の晩婚と違って、当時は十代で嫁に行くのが当たり前。 しかも江戸時代の将軍の側室など30過ぎたら『御褥下がり』などという言われ方で、将軍が強く希望しない限り、夜の生活には用無しという扱いですからね…現代では考えられない『年増』扱いですね」
光秀「で、その『年増』をさらに超えた年齢で再婚ですか…現代でも40代以降の出産は無くはないですが…家康殿もよく了承しましたね」
蘭丸「当時の色々な情勢もあって、だったようですが。 よく言われる話として、容姿もその…大分齢を重ねておりましたし……兄の容姿に似ていたとも、その…」
家康「醜女じゃったな」
秀吉「やかましいわ! 人の妹つかまえて醜女とはなんじゃ! しかもわしに似ているとか言うた後に言いおってからに! 言って良い事と悪い事があるじゃろが!」
家康「ならば妹を無理やり離縁させて、政治の道具にするのは『やって良い事』ですかな? 人として、そして兄として『やって良い事』だと心からお思いで?」
秀吉「うぐッ!」(胸を抑える)
光秀「この件に関しては完全に分が悪いですね、当然と言えば当然でしょうが」
蘭丸「家康殿の最初の妻が築山殿、これは信長様の命により斬られましたが、この朝日姫は西暦1590年に病死しているようです。 それ以降は家康殿は独身を貫いたようですね、3回目とか考えなかったんですか?」
家康「2回ともわしが望んだ訳でもない上から押し付けられた政略結婚で、しかも2回とも妻に先立たれてもう一度結婚したい、と思うかね?」
光秀「それは確かに。 ですが側室は結構おりますね、記録に残っているだけでも十人は確実に……これだけいたら『独身生活』という言葉は当てはまらないようにも思えますが」
蘭丸「そういえば家康殿は子沢山でも知られますね、十一男五女でしたっけ?」
光秀「ご落胤説まで含めれば、子供20人超えるんじゃありませんか?」
秀吉「チッ!」
家康「どうなされました、私よりも多くの女子に手を付けても子に恵まれず、ようやく産まれた跡継ぎが浮気で出来た子、と後世まで言われ続けてしまっている秀吉殿?」
秀吉「ぐぅぅぅぅぅッ!!」(胸を押さえてのた打ち回っている)
蘭丸「うわー…一番痛い所突いたー…」
光秀「参考までに聞かせて下さい、蘭丸殿」
蘭丸「あ、ハイなんでしょう?」
光秀「ここでは秀吉殿って、ひたすらいじられる役どころなのですか?」
蘭丸「あまり否定できませんね、というか困った逸話が多すぎるんですよ、あの方」
秀吉「ぬぅぅぅ…それを言うたら家康殿、そちらにも困った逸話があるじゃろう! わしも知っておるぞ、お主が武田信玄と戦ったあの三方ヶ原で」
家康「逃げ帰る最中、恐怖のあまり糞を漏らしましたな! いやはやお恥ずかしい、若気の至りとはいえ今思い出しても情けない話にござる」
蘭丸「あ、自分で言った」
光秀「人に言われるより自らカミングアウト、やりますね」
秀吉「し、しかもその時に言ったのが」
家康「馬の鞍に漏らした糞があったため、非常食用の焼味噌がこぼれただけだ、と嘘まで吐きましてな! 嘘だとすぐに分かるというのに、我ながらつくづく恥ずかしい思い出にござる!」
秀吉「ぐぉぉぉぉぉ……」
光秀「上手い、先を読んで先手を打つとは!」
蘭丸「これが、小牧長久手の戦いの再現か!?」
秀吉「そんな訳あるか! というか家康の糞漏らしエピソードを小牧長久手に例えられてみぃ、そこで死んだと言われる●●●●や○○○が哀れになってこようが!」
蘭丸「危ない危ない、何とか伏字が間に合いましたか」
光秀「本編でもこれからだというのに、いきなりネタバレ発言をするとは相当焦ってますね」
家康「いや御食事中の方々には大変申し訳ない、某の思い出話で不快な思いをされた方々にはこの家康、謹んでお詫び申し上げる」
秀吉「そうやって自分だけ人気を得ようとは、さすがの狸親父よのぅ。 わしが死んだ後は好き勝手やって、天下を掠め取っただけのことはあるわい」
家康「いやいや、わしはただ皆から望まれて天下を治めたにすぎませぬ。 秀吉殿の遺言により伏見城にて天下の政を差配していただけで、何も掠め取る気など毛頭ございませんでしたぞ」
蘭丸「……光秀殿、どう見ます?」
光秀「まあ、普通に考えて表向きの営業トークのようなモノですね。 にこやかに言っていますが目の奥が完全に猛禽類のソレです」
秀吉「終いにはお主、わしが丹精込めて建てた大坂城まで焼きおって! アレを作るのにどれほど」
家康「大坂城ですか……そういえばこんな逸話がありますな、天下第一、難攻不落の巨城・大坂城を攻めるには、どうしたら良いかと秀吉殿が問われた際の答えが」
秀吉「ああ、南側だけは陸地続きじゃから攻め易かろう、とな」
家康「城攻めの名人、その名人の象徴たる大坂城の攻め方のご指摘、参考にさせて頂きました」
秀吉「貴様さては、いつか絶対攻め落とす気じゃったな!」
家康「まさかそんな日が本当に来ようとは、重ね重ね戦国の世とは残酷なものにて」
秀吉「白々しい! おお、そういえば大坂城攻めの際、お主あの真田信繁に散々っぱら追い回されたそうじゃの!」
家康「ぐッ!」
光秀「おお、秀吉殿の反撃が!」
蘭丸「あ、ちなみに「真田信繁」というのは「真田幸村」の本名です。 「幸村」の方が通称なのですが後の歴史講談物「真田十勇士」などでの影響か、「幸村」の方が有名になってしまったそうです」
光秀「誰に向かって言ってるんです?」
蘭丸「お気になさらず、メタな話ですので」
秀吉「しかも聞いた所によると、信繁の突撃に思わず腹を斬ろうとしたほどビビりまくったそうじゃの! で、家臣に止められて馬にしがみつきながら随分な距離を逃げ回ったとか! その時は糞漏らさずに済んだのか!? いや、焼味噌を持っておったのかのぅ?」
家康「ぬぅぅぅぅぅ……」
光秀「効いてますね……人生最後の危機だったのでしょうから、さすがに突かれれば痛い所だったのでしょう」
蘭丸「にしても徳川軍というと精強なイメージがあるのですが、真田はそれすら打ち破って家康殿の本陣に突撃できた、という事でしょうか?」
光秀「西暦1600年、慶長5年の関ヶ原からすでに15年が経過して、その間の戦と言えば数ヶ月前に起こった大坂冬の陣のみ。 純粋な実戦経験不足と、武勇を誇った者達の大半が亡くなっていたことに起因する、戦闘力と統率能力の低下が真田の突貫を許したのでしょうね」
蘭丸「なるほど。 戦国の最後を彩る戦で「真田 日ノ本一の兵」と言わしめたその強さは、徳川の弱体化した軍勢もその強さの喧伝に一役買ってしまった、と」
家康「そこで冷静な分析は止めてくれぬか御二人とも。 あの戦は実戦を知らぬ者達が、なまじ勝ち戦の手柄首を求めて、本陣の守りを手薄にした事も悪いのだ! 守るべき大将を守らずに、己が手柄に目が眩んだ者たちが多かったのが、わしにとっても痛恨事であった。 ただそれだけの事よ」
秀吉「手柄欲しさに主君すらそっちのけか、大した天下人じゃのぉ家康殿」
家康「だが生憎とわしの側にも忠義者がおりましてな、大久保忠教なる者が我が本陣の旗を死守したために、本陣陥落とは至りませんでしたぞ!」
光秀「誰ですか? 大久保の名字は聞いた事がありますが」
蘭丸「通称「大久保彦左衛門」ですね。 徳川将軍の秀忠や家光も読んだという『三河物語』の作者で、この人も通称の方が本名よりも有名な人物、のパターンの人かもしれません」
秀吉「つくづく家臣に支えられておるのぉ、家康殿は。 己一人の才覚ではなく、家臣頼みの天下人、というのは気楽でええのぉ」
家康「はっはっは、己一人で出来る事などたかが知れております故、信頼出来る家臣がおるなら任せた方が、後の世に独裁者と取られずに済みますしな」
秀吉「まるでそれではわしが信頼出来る家臣もおらず、独裁者であったかのように聞こえるが?」
家康「そのような事は決して。 ただ一人で全てを決め、背負い、突き進むと、いなくなった後を任せられる人物が育たない可能性もありますしなぁ」
光秀「ギスギスしてきましたね……お互い思う所があり過ぎる二人、だからですか」
蘭丸「考え様によってはこの上ない相性の悪さですよね、やはり秀吉殿がいる場所で徳川様を呼んだのは失敗だったようです」
光秀「これ以上続くと取っ組み合いの喧嘩を始めそうですし、そろそろ退散しますか」
蘭丸「そうですね、それではここで幕引きといたしましょう。 徳川様も、秀吉殿も帰りますよー!」
家康「おお、これは失礼いたした。 わざわざ呼んでもろうたのに大したことも話せませんで」
秀吉「そうじゃのぅ。 基本逃げた、糞を漏らしたの二つしか話しておらんのう」
家康「はっはっは、貧相な面をした猿面冠者はそろそろ黙られませ」
秀吉「ブクブクに肥え太った狸爺こそ、人を化かすのも大概になされよ」
家康「はっはっはっはっは」
秀吉「くっくっくっくっく」
蘭丸「あ、もしもし治部少輔さん? 御家の総大将、引き取りに来てくれませんか?」
光秀「ええ、こちらにそちらの御主君が。 ハイ、出来れば諍いを止められるレベルの豪の者を」
その後、リアルファイトに発展した二人の天下人を止めるため、両家から使者が派遣された。
豊臣家からの使者は石田三成と豊臣秀長、徳川家からの使者は本多忠勝と本多重次。
三成と秀長が必死に秀吉を説得中に、重次の大音響の怒鳴り声が響き、秀吉・家康・三成・秀長の鼓膜と三半規管を一時的にマヒさせた。
あらかじめ耳栓を付けていた忠勝は、身体を痙攣させた家康を担ぎ、悠々と帰っていった。
秀吉はこの時の事を恨みに思い、後に重次を切腹させよと家康に命じたが、重次は隠居・剃髪して坊主となり、秀吉からの干渉を生涯に渡って受け流し続けたという。
蘭丸「で、どうします光秀殿? 次があるとしたら来ますか?」
光秀「…………少し、考えさせて下さい」
次回は巻の五「頂上決戦」その1をお送りいたします。
大仰な題名の割にタイトル詐欺、と言われないようにしたい所ですが、片方の陣営にすでに敗北フラグが立っておりますので、お察し下さい。
今後とも拙作『信長続生記』をよろしくお願いいたします。




