決行
少女を連れて森の中を進む。
捕虜の墓を作ったのは、近くの森の中だった。人目につく場所に作ると町の人間に悪戯されかねないため、森の中に隠すように作った。
後ろを振り返り、少女の存在を確認する。彼女は無表情にその銀色の髪を何かで束ねていた。綺麗な子だなと、無感動に思う。
単純に容姿が美しいというのもあるが、その雰囲気が綺麗だった。世間に迎合する気のない、それでいて濁っていない透明な雰囲気だ。
世間に迎合する気がないのはこちらも同じだが、こっちの方は濁っている。濁っていると濁っていないの違いは我ながらよく分からないが、何かが違う。
その辺の石ころと宝石の違いだろうか。
まあどうでもいい。
俺は彼女を見るのを止め、前を向く。前方には木々に視界を遮られながらも、薄っすらと墓が見えた。
じきに墓にたどり着く。
「あれが、そうなのか」
彼女にも墓が見えたのか後ろから声がかかる。
「ああ」
再び振り返りながら答える。
それまで無表情だった彼女の顔から、感情の色のような物がほんの僅かに漏れた。その変化は小さく、それがどういう意味を持っているかは分からなかった。悲しみ……とは違う気がする。申し訳なさ? 分からない。分からないが辛そうだった。
そんな顔をされると、困る。殺しにくくなってしまう。
さっきまでのように超然としてくれ。そう思うが俺の願いはもちろん彼女には届かない。
やはり時間をかけてでも男のターゲットを待つべきだっただろうか。いや、そんな時間俺には残されていない。
一瞬の間に様々な考えが浮かんでは消えた。
歩みを止め、立ち止まる俺に対して彼女はその足を早めた。自然と彼女は俺を追い越し、その背中を俺に晒した。
やるしかない。俺に残されたチャンスは今日が最後の可能性が高い。
俺は、ポケットから抗魔石を取り出す。右手でしっかりと握り、鋭利に尖った尖端を彼女に向ける。
そして、前方を行く人間の背中に対して突き出した。スローモーションの様にすべての動きが遅く見えた。
走馬燈、とは違うが、日本で平和に暮らしていた頃の記憶が脳裏をよぎった。