約束
この町は、村と言うほど小さくはない。しかし、殺人事件や大金の盗難が起きれば町中で大騒ぎになる程度には小さい。
そうなった時、俺は真っ先に疑われる事になるだろう。いや、疑われるだけならまだ良い。たとえ証拠が無くとも俺が犯人だと決めつけられ、拘束される可能性も十分にある。
まあ、今回は実際俺が犯人な訳だが。
それはともかくとして、そんな状況であの男に金を渡して奴隷から解放してくれと言っても、拝金主義者の奴といえど金を受け取る事はないだろう。
俺から金を受け取ったことが周囲に知られると、奴隷である俺に指示を出して犯罪に及ばせた黒幕と町の者に思われかねないからだ。
どこか遠くの町で事を起こせたらそれが一番いいのだが、血の契約書のせいであの男の許可無しに俺は遠出することが出来ない。
だから、金を奪うならこの町に偶然やって来た余所者から奪う必要がある。それも大金を持った余所者だ。
殺して死体を処理してしまえば町の人間には気づかれないし、あの男も、急に大金を用意した俺を不振に思いはするだろうが、その状況なら奴は金を受け取るだろう。
少女の左手首にある朱色の腕輪を見る。あれは魔術師にとって必要不可欠であり、非常に高価な物だという話を聞いたことがある。
あれを金に換える事が出来れば……。
「……お前が、そうなのか?」
俺を不審げに見つめながら、彼女は言う。
しまったな。つい考えこんでしまっていた。
「えっ……ああ、そうだ。捕虜の話を聞きたいんだったか」
「……」
少女は頷く。
「生存者は、本当にいないのか?」
「ああ。皆死んじまったよ。一番キツイ事をやらされてたからな」
「…………そうか」
それだけ言うと、彼女は俯き、黙り込む。
……なんだこの子は。それを聞くためにわざわざ他所からやって来たのだろうか。
「……捕虜の家族も、ここにはいないのか?」
「いないな。かなり遠くから連れて来られたみたいだし」
「墓は……あるわけないか」
「あるぞ」
そう答えると、俯いていた彼女の顔がわずかに上がる。
「本当か」
「ああ。あの人達には世話になったから、俺が作った」
「……案内してくれ」
真剣な表情で少女はそう言う。なぜそんな場所に行きたいのかは分からないが、断る理由もない。了承しようと口を開きかける。
開きかけるが、ある考えが浮かび思いとどまった。
案内するのは今からではなく、明日の方が都合がいい。計画の為の時間を稼げるから。
「案内するのは構わない。でも今日はこれから用事があるから明日にしてくれ」
そう言う。彼女は不服そうだったが、了承した。
俺が新しく作った墓地は、この町の人間が埋められる墓地とは別の場所に作っているため、普段は誰も訪れない。
犯罪に適した場所だった。