↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ヤンデレな弟が王になったので対決してみる。

掲載日:2014/05/21

 アランにとって、なによりも大切なのは姉、リーズシェランだった。


 虐められていた時、この姉だけはこっそりと助けてくれていた。

 いや、もし助けてもらえなかったとしても、気にかけてもらえただけで、冷たい目や蔑む言葉を向けてこないだけで、幼いアランにとっては“味方”だった。

 彼は幼い頃から利発で、自分の置かれた立場を理解していた。

 母が悪いわけじゃない。

 それはわかっているけど、苦しい。

 父を恨めばいいのか兄弟達を憎んだらいいのか。ひたすら耐える日々。


 ある時、母が死んだ。殺されたのだ。

 明確な悪意をもって投げ付けられた石が頭にあたり、そのまま――。

 たった一人になった彼を庇ってくれたのは、リーズシェランだった。

 まだ彼女も幼かったというのに、自分より一回り近くも年上の兄や姉にだって屈しなかった。


「姉の私が弟を庇って何が悪いの!」


 がくがくと震えながらリーズシェランが言い放ったその言葉が、どれだけアランの救いになっただろう。


 ――ねえさま。ねえ様。姉様。僕の、僕だけの貴女。貴女だけが僕の救い。

 ずっと一緒にいて。ずっとずっと。それだけでいいから。それだけでしあわせだから。

 ……なのに、どうして。 どうしてどこかに行こうとするの。

 ねえ、姉様……





 夜の闇を味方に馬を走らせる。

 私の名前はリーズシェラン。とある王国の王女で、国外脱出を企てている真っ最中だ。

 幸いにも城からの脱出はすんなりとうまくいった。後は城下町を出て、一路隣国アッシュベルを目指すだけである。


「姫、大丈夫ですか?」


 私を乗せて馬を走らせているレナードが気遣ってくれる。乗馬は出来るけど、今は一刻を争う事態だからね、侍女の勧めに従ってレナードの馬に乗せてもらっている。

 ちなみに、その侍女はというと、メイド服のまま颯爽と馬を駆っている。騎士団でも指折りだったレナードの乗馬についてこれる侍女って、本当に何者なの……

 もっとしっかり身元を洗うべきだった、と頭の片隅で考えながらも、私は背後のレナードに感謝を伝える。


「ありがとう、大丈夫よ。それにしても運がいいわよね。こんなにすんなりいけるなんて」

「……いえ、妙です」

「え?」

「あの陛下にしては――警備が、温すぎます」


 レナードの言葉に、反論出来なかった。それは私も漠然と感じていた不安だったから。

 それでも、もう止まることは出来ない。私とレナードはそれきり口を閉ざし、迫る何かを振り切るように馬を走らせた。




「姫様、あちらに馬車を用意しております」


 人気の無い小路で馬から降りた私を、侍女が先導する。逃亡用の馬車は暗がりにひっそりと置かれていて、なんだか不安になる。

 ダメだ、弱気になっちゃ。

 私が自分に喝をいれていると、レナードが突然立ち止まって叫んだ。


「姫、お待ち下さい! ここは――見張られています!」


 私が足を止めてすぐに、あちこちの影から黒ずくめの男達が出てくる。驚く暇もなく、あっという間に私達は囲まれてしまった。

 レナードと侍女の二人が前に出て私を庇う。

 そんな中、馬車の扉がゆっくりと開いて誰かが降りてきた。

 夜の闇の中でも輝く金髪、冬の夜空を思わせる藍色の瞳。まだ年若いが圧倒的なカリスマを持つ青年。

 今やこの国の国王となった私の弟――アランだった。

 まさかのラスボス登場である。

 終わった。

 固まる私に、アランはにっこりと微笑みを向ける。


「姉様。どうしてこんな夜更けにここにいるの?」

「え、えっと……それは……」

「睡眠不足はお肌の大敵。――姉様の口癖だよね?」

「そ、そうね……」

「姉様?」

「は、はい?」


 アランは優しく微笑みながら言った。


「足を切られるのと、僕から離れられなくなる薬を飲むのと、どっちがいい?」


 ……うわあ。

 どん引きして絶句する私に、アランはにこにこと続ける。


「だって姉様、すぐ騙されちゃうし危なっかしいからね。またこんな事が起こらないようにしないと。まさか姉様の側に虫がいるなんて、気付かなかった僕も悪いけど」


 虫。その言葉に思わず侍女――リーリャを見ると、彼女は唇を引き結びアランを睨み付けていた。

 ま、まさかとは思っていたけど。


「リーリャ! まさか私をどこかのエロ爺に売り払うつもりで!?」

「違います」

「違うよ、姉様」


 リーリャだけじゃなく、アランからも即座に否定されてしまった。あれ?


「まあ、それはいいや。他の虫も退治したしね」


 アランはあっさりとリーリャの仲間を始末したことを口にして、また私を見つめた。


「……ねえ、姉様。その二人、大切?」


 ……こ、これはどう答えるべきだろう。大切と言ったらヤバイ気がするし、大切じゃないと言ったら、ならいらないよね、なんて言いそうな気がする……!

 悩む私を見て、アランの笑みが変化した。


「……悩むくらい大切? 僕よりも? だから一緒に連れていこうとしたのかな」


 うわー! ヤンデレスイッチ入りそうです!


「わ、私の腹心ですもの。それなりに大切よ。弟であるアランとは比べられないけどね!」

「……そっか」


 にこり、とアランがいつもの笑みに戻る。はああ、ヤバかった……!

 だけど、追い詰められているのは変わらない。私はなんとか勇気を振り絞ってアランと話し合うことにした。


「ねえアラン。この二人は許してあげて。私の頼みをきいてくれただけなの」


 レナードとリーリャが何かを言おうとするのを目くばせで止める。アランはふうん、と呟いた。


「姉様の頼み、ね。つまり姉様はアッシュベルに行きたいんだ。――なんで?」


 うっ、まさか「あんたがヤンデレで怖いし国の将来が心配だから」とは言えない。

 言えない、けど。でも……もういい加減、面倒になってきた。


「だって、アラン。私だって自由に外に出たいわ。それにレナード達を勝手に離して! 王位についたからって勝手にしすぎじゃない!?」


 監禁ルートは怖いけど、この際だもの、言いたい事言ってしまえ! どうせどう頑張っても詰んでるし!

 ……と、いろいろぶちまけているうちに頭が冷えてきた。そうしたら、自分のした事でリーリャやレナードがどうなるか気付いて一気に青ざめる。

 リーリャはどうやらどこかのスパイらしいけど色々助けてもらったし、レナードは私が巻き込んだだけだから助けてあげたい。

 自分の短気を呪いながらアランを伺ってみると――


「……ねえさま」


 ……今にも泣きだしそうな目で俯いていた。


「あ、アラン……」

「……僕のことが嫌いになったの? だから僕を置いていくの? 僕は姉様しかいらないのに。姉様だけなのに。姉様は僕がいらないの。いらないから出ていくの。姉様姉様姉様……」


 正直、小さな声でぶつぶつ呟いている姿はとても怖い。顔はとても格好良いけど、いや、格好良いからこそ余計に怖い。

 だけど、――だけど。


「そんなこと、ないよ」


 私はアランに近寄り、幼い子供にするように抱き締めていた。


「姉、様」

「そんなこと、ない。――アランは、私の大切な弟だよ」


 そう。弟なのだ。いくらヤンデレで怖くても、それでもやっぱり見捨てられない、大切な家族。


「……傍にいてあげるから、私の話もちゃんと聞いて。結婚も許して。あとあの二人も許してあげて」

「……姉様が約束してくれるなら」

「指切りげんまんするから!」


 私が小指を突き出すと、アランは一瞬目を瞬かせ、そして破顔した。……最初からこうやって話せば良かったのか。


 そうして、なんとか話は丸く収まりレナードは元のように私の護衛に。リーリャはさすがに元のようにとはいかなくて、あの場で逃がしてあげるだけで精一杯だった。

 仲の良さそうだったレナードのためにも、なんとかしてあげたかったけど……仕方ないわよね。



 ――その後。私に婿入りの話が来て、それが元婚約者のユーリ皇子だったり、その侍女の一人がリーリャだったりするのだけれど、それはまた別のお話。



「姉様、どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないわ」


 今日も私はヤンデレな弟の隣で微笑みを浮かべている。

 ……正妃だけはなんとか選ばせないと、と頭を悩ませながら。

 >王女 は 逃げ出した!


 >しかし 回り込まれた!


 >王女 は 対決した!


 >弟は 涙目だ!


 >王女 は 負けた……




 取り敢えず、このような結末になりました。

 お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。