迷ペース、マイペース「特別編」
「迷ペース、マイペース」の後日談です。
先に本編を読むことををおすすめします。
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いつもの食堂へ、2人で向かう。
今日は窓際の特等席を陣取ることができた。
「はいっ、どうぞっ」
「ん、ありがと」
渡された弁当を受け取る。
「今日のは僕の自信作だよっ!」
いつもと変わらない笑顔。
だけど、とても愛おしく思えた。
「それにしても昨日は散々だったね」
照れくさそうに頬を掻きながらそう言った。
昨日、か。
昨日と言えばあの事だろう。
俗に言う「屋上大泣き事件」だ。
我ながらひどい醜態を晒したものだ。
この年であんなにわんわん泣いてしまうなんて。
くそっ、恥ずかしい・・・。
でも、まぁ・・・お互い様だ。
多分こいつは私ほど気にしちゃいないだろうけれど。
それにしても、弁当を開けてみて驚いた。
一昨日も十分に豪華だったのだが、今日のはまた一段と豪華だった。
ちなみに昨日は食べ損ねた。
わんわん泣いているうちにお昼が終わってしまったのだ。
閑話休題。
食べる前から美味しいことは約束されているようなものだが、感想は弁当を口にしてから言うべきだろう。
卵焼きから手をつける。
一口、ぱくり。
ーーーーーだめだ、顔が緩んでしまう。
なんで、こんなにも美味しいのだろうか。
おまけにこちらを満面の笑みで見つめてくるのだから、対応に困る。
「どうかなっ?」
「ん、美味しい」
努めて冷静に返す。
「それは良かったっ」
「じゃあ、僕も食べようかなっ」
嬉しそうにお揃いの弁当箱を開ける。
もちろん、中身もお揃いだ。
ちなみに弁当はおかずとご飯の二段構えなのだが、ご飯にでかでかと踊っている海苔文字のことにはあえて触れないことにした。
そして、今更ながら。
本当に今更感は否めないのだけど、こいつといるととても目立つ。
なにせこいつは成績も優秀で、眉目秀麗だ。
周りからの視線がものすごいことこの上ない。
こいつは全く意に介さないようだけれど。
箸を置く。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでしたっ」
綺麗に空っぽになった弁当箱を手渡す。
甲斐甲斐しくお弁当を片付けるその姿はとても女性らしい。
私とは大違いだ。
きっと私の台詞を文章に起こせば女性らしさなど微塵もないだろう。
それでもこいつは、私を選んでくれた。
私を、選んでくれたんだ。
2人の行く先は茨の道かもしれない。
でも、きっと。
2人でならどんな困難も乗り越えていける。
「ーーー」
初めて、彼女の名前を呼ぶ。
驚いたようにこちらを見る。
一呼吸置いて、切り出す。
「あのさ・・・もし良かったら、その、これからも・・・ずっと、私にお弁当を作ってもらえないかな?」
「それって・・・・・・・・・告白、かな・・・?」
「そう、なる・・・・・・・かも・・・・・」
だめだ、顔が見れない。
おまけに返事がない。
言うべきじゃ・・・なかった・・・・・?
沈黙に耐えきれず、様子を伺う。
彼女はーーーーー。
とても綺麗な笑顔で。
涙をこぼしていた。
「ふふっ、君には敵わないなぁ・・・・・」
「すごく・・・嬉しいよ・・・・・」
「それにしても、僕は、たった一日で色んな物を盗まれちゃったみたいだねっ」
「えっ・・・・・?」
こういう時、鈍感な自分が腹立たしい。
彼女はくすりと笑う。
「どうやら僕は、心を盗まれちゃったみたいだよ・・・・・」
そして彼女は。
私の瞳を。
いつか見た。
あの凛とした眼差しで見つめこう言った。
「あなたが、・・・・・・・・犯人です」
おまけの後日談です。
何となくですが、後日談で2人の性別をはっきりとさせました。
そして、最後に原点へと回帰できたので良かったです。




