introduction.
うずたかく積み上がった瓦礫の山がどこまでも連なる、廃墟の様な町並みが広がっていた。
まともに形を止どめて居る建物は何一つ無く、焚き上がる炎が漆黒の夜空を赤く染めている。
道端には煤けた人影が累々と折り重なり、絶え間ない魔法弾の爆撃が人々の希望を押し潰していく。
「その子は…無慈悲な運命と必死に戦って、そして生き残ったの。何百人と死んだこの街に残された数少ない希望よ。今度は…あなたが守ってあげて」
男は小さな白い包みを抱きながら優しいその瞳を茫然と見つめた。
「君は…」
「私?そうね…」
彼女は立ち上がり夜空を見上げた。
「私はあれを止めるわ」
炎の照り返しを受けて浮かび上がったその小さな肩は、容赦無く迫り来る現実に対してあまりにも頼りなく、しかし決然とたたずむその背中がやけに力強く見え、地面にひざまずいた男の姿がひどく矮小に見えた。
彼女が手にした魔杖が美しい呪文の光を放ちながら円弧を描き、全てを浄化する様な輝きが魔杖に収縮していく。
熱風に土煙が舞い上がり、吹き寄せた炎が彼女と男の間を絶望的に分かつ。
そして彼女は最期まで振り向かなかった。
見上げれば
落ちそうに蒼い月が
燃え落ちるアルストロメリアの街を
ただ見つめていた―
―Crystalline-Cell "SAGA"―
【いつか観た蒼月】
introduction.