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大会に向けて(2)

今日も、部活ではやはり駿介の様子がおかしかった。

いつもは、すごく楽しそうに取り組んでいた。

でも、今は自分からは走ろうともしない。だからといって、具合が悪そうでもない......


駿介はあのときを最後に記録を計ろうとはしてかった。


僕は、部活が終わると駿介に聞いてみた。

「駿介、お前も記録をとったらどうだ?また、タイムを計ってやる。」

「いや、まだ足が本調子じゃないから......」


「ああ、そうか。無理にとは言わない。早めに足治せよ」

「ああ......」

駿介はエナメルバッグを肩にかけて、校舎に戻っていった。



次の日の練習も駿介はいつもと同じように、ストップウォッチと記録用紙をもってみんなの記録をとる。

そして、アドバイスをしていた。

「駿介は走んないのか?」

雅紀が駿介に言った。

「ああ、後でな」

「おう、そうか」


とても気のない返事だ。

やはり、いつもの駿介とは少し違う。

でも、何て声をかけていいかわからない。

あのときのタイム――

きっと、責任と焦りを感じている。

なら僕はあのときどうしてあんな台詞を言ってしまったんだろう。


――「みんなは記録が伸びてるのに、肝心のキャプテンはどうした?」


責任を煽るようなことを言った僕はバカみたいだ。

きっと、キャプテンだからこそ、1番だからこそ辛いものだってあるんだろう。

その気持ちに気づいてやれなかった僕が悔しい。

駿介の背中を追ってきたけど、いつもアイツはトップを走ってた。


駿介は僕を仲間だと思ってくれた。

でも、僕の方は駿介をずっと目標としか思ってなかったのかもしれない。

駿介は1人の大切な仲間だ。

1人で責任を感じ込む必要なんてない。

そう伝えたい。

ようやく、お前の気持ちがわかったよ。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


六時間目が終わり、今日も部活が始まった。

駿介は相変わらずだった。

うまく言えない......

「責任を一人で抱え込むことないさ」

...何ていきなり言っても不自然すぎる。


僕の走りは好調だった。

僕はこのコンディションを大会までキープするように走った。

この走りで、駿介に気持ちが伝わったら...

何てことも考えたが、無駄な話だ。


駿介を心配そうな目で見つめることしかできなかった。

「じゃあ、今日練習はここまで」

駿介がそう言って、いつものように練習が終わった。


今日も駿介のやつ、走ってなかった。

もうすぐ大会なのにアイツ、記録も取らないで大会に望む気かよ。

少しいらだちのような感情に変わってきた。

僕は着替えを済ますと、駿介を探してみた。

しかし、部室に駿介の姿はない。


「なあ麗奈、駿介はどこ行ったか知らねー?」

「ああ、駿介なら先生に大会の運営で話すことがあるとか言って、着替えもしないで行っちゃったよ」

「着替えもしないでかよ...わかった、ありがと」


僕は職員室を覗いたが、駿介の姿はなかった。

「アイツ、どこ行った?」

部室に戻ると駿介のバッグがまだある。

「おかしいな......まさかアイツ...」


僕は急いでグラウンドに戻った。

「やっぱり......」

グラウンドにはスタートブロックに足をかける駿介の姿があった。


「おい、駿介!!

こんな時間まで一人で練習かよ!

足の調子が悪いじゃねーのか!?」

「......」

駿介はなにも言わずにスタートブロックから足を外す。

「一人で練習してたのか......」

「いや、今日はもう終わりだ」

「いつもこうやって、練習してたんだろ」

「まあな、足の調子を崩してたから......」

「嘘だ!!

足なんて痛くねーだろ!

何で、今走れて練習で走んねーんだよ。」

「それは、キャプテンだから、みんなをまとめないと......」

「......キャプテンだからって責任を一人で抱え込むことないんじゃないか?

今走れよ。タイムは計ってやる」


「いや、いい」


「なんでだ!

怖いのか、一番肝心のキャプテンがヘボいって言われんのが」

「............」

「前までのお前はそんなやつじゃなかったはずだ。

走ることを楽しんでた。キャプテンだからなんて考えなくていいよ。

お前は1人の仲間だからな!」


「.........ありがとう」


「じゃあ走るか?」

「おう!!」

駿介はスタートブロックに再び足をかけた。

「いつでも走れよ」

「なんで?ストップウォッチを押すだろ」

「タイムなんて計んねーよ。俺は駿介の走りが見たいんだよ」


駿介はフゥっと息を吐いた。

足をしっかりとブロックにかける。

その右足は思いきりスタートブロックを蹴り出した。

何の合図もなしに、駿介は走り出した。

でも、きっと彼の頭のなかでは、風を割くようなピストル音が聞こえていたはずだ。

あっという間にゴールした駿介はとてもいい顔をしていた。


「すげー速かった。

今の、10秒台出たんじゃねーか?」

「そんなはずないだろ」

「計ってみるか?」

「おい、さっきと言ってることが違うぞ。

計らないって言っただろーが」

「わかってるって」


「......ありがとな」

「何が?」

「俺、本当はきっと怖かったんだよな。

キャプテンなのにこんなんでいいのかって。

でも、そんなこと考えてたらいつまでたってもこのままだ。

『走ることを楽しむ』って1番大切なことを忘れてたよ。

それを翔悟が思い出させてくれた」

「俺の方こそうまく言えなくて、すまなかった」

「いや、お前のおかげで、大会を迎えられそうな気がする」


「大会、お互いに頑張ろうな!」

「おう!!」


それからは、部活でも駿介の素晴らしい走りを見れるようになった。



そして何日かが過ぎて、ついに大会の日がやって来た。





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