最後の中学校生活(1)
感想や意見なども待ってます。
「母さん。そろそろ俺にもケータイ買ってくれよ。
周りのやつだってみんな持ってるし......」
僕は今年で中学3年生。
進学のお祝いということで、じゃあケータイを......とはならず、
買ってもらったのは電子辞書。
高校2年生の兄貴もケータイを持っていた。
こんなの貰ってもなにも嬉しくない。
むしろ不満が募った。
「母さん、これなんだよ」
「何って見りゃわかるでしょ。電子辞書よ」
「そんなのわかってる。俺が欲しかったのはケータイだから」
「ケータイ?そんなもの持ってどーするの?」
「どーするもこーするも、今時中3にもなってケータイを持ってない奴なんてそういないよ。
兄さんだって持ってるじゃないか」
「あんたはそんなもの持ったら、ずっと夢中になりそうだもの。今年は受験生なんだからね。あんたはまだ早いわ」
「ちゃんと勉強はするって。それに、今のケータイだったら電子辞書の機能だってついてるのもあるだろ」
「ケータイは受験が終わるまで我慢しなさい」
「ちぇっ、なんだよ」
僕は2階の自分の部屋へと上がっていった。
机には新しい参考書が並んでいる。
僕は、電子辞書を引き出しにしまい込み、ベッドに横になった。
ベッドの横には数枚の賞状とメダルが飾ってある。
これらは、陸上の大会でとったものだ。
都内の大会でも数々の競技で入賞した。
これだけが、唯一の自慢であり誇りだった。
中学も今年でラスト。この夏で陸上部も引退だ。陸上だけは、最後まで完全燃焼したかった。
賞状の横には、一枚の写真が置いてあった。
去年の大会の時の写真だ。
僕を中心に、駿介と雅紀と麗奈の4人が満面の笑みを浮かべている。この3人は陸上部の仲間であり、僕の親友だった。
あの時は、駿介が自己ベストのタイムで3年生を差し置いて100メートル1位。
他の3人もメダルを獲得した。
駿介とは、小学校からの仲だった。駿介は抜群の運動神経で学校ではいつもヒーローだった。
僕はそんな駿介の背中を追って陸上を始めた。
彼はとても人柄がよかった。
自分の方が早く走れるし、勉強も少しばかりは僕よりもできる。
だけど、決して勝ち誇りはせず、いつも仲間として僕を見てくれた。
駿介は僕の親友であると同時にライバルと勝手に決めつけていた。
中学でも、駿介と陸上部に入った。
そこで、雅紀と麗奈に出会った。
駿介の背中を追っていると、いつの間にか学校の1、2を争うまでに成長した。
でも、決して勝ち誇りはしなかった。
そうすると、中学でも仲間から好かれ、仲間の輪が広がっていったのだ。
雅紀も悪くない走りをする。
だが、彼が得意とするのは走り幅跳び。この競技では駿介と同格、もしかするとそれ以上の実力かも知れない。
麗奈は女子の中でもタイムはそこそこだった。
しかし、驚かされたのは彼女のスタイル...いやフォームの良さだった。
黒人のようなバネを持っている。しかし足の回転が遅く、タイムがあまり伸びない。
そこで駿介が指導したところ、驚くほどタイムが伸びた。
それ以来、僕たちのグループに入っている。
去年の夏ちょうどこの写真を撮ったあと、僕たちは部の最高学年となった。
そして、当然のように駿介がキャプテンとなり活動してきた。
部は僕たちを入れて男女合わせて16人。うちの学校の中では少ない方だが、実績はトップクラスだった。
とても楽しく雰囲気のいい部活だった。僕は毎日部活に行くのが楽しみだった。
写真を見つめていると、いつの間にか眠りについてしまっていた。
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次の日、目が覚めると7時だった。
学校までは自転車で15分で着く。毎朝駿介が8時に向かえにきて、雅紀の家に寄ってから3人で学校へ行く。
8時までは充分余裕があった。
昨日は風呂に入らずに寝てしまったので、朝風呂に入り、朝食を食べた。
「ピンポーン」
いつもと同じ時間。駿介が玄関から顔を出している。
「おーい、翔悟。行くぞー!」
「行ってきまーす」
僕は、かばんを背負い、エナメルバッグを自転車のカゴに入れて出発した。
雅紀の家までは5分もかからない。
家の前では、雅紀がもう待っていた。
「おはよー」
「おう、今日は早いな」
「いやぁ、昨日は珍しくぐっすり眠れてさ。今日も絶好調だぜ」
「お前は授業中もぐっすりじゃねーかよ」
「おいおい、そりゃないぜ。俺だって起きてるときは起きてるし」
「じゃあ、今日は寝るなよ」
「当たり前だ。誰が寝るか!」
3人は自転車で学校へ向かった。
いつものたわいのない会話と、4月の柔らかな風が僕たちを包んだ。
そして、3人でいつものように校門をくぐると、
後ろから、麗奈が走ってきた。
「おはよー、みんな!」
「おう、麗奈」
「おはよう」
「今日も部活はグラウンドでしょ」
「うん」
「冬の間は体育館だったからね、やっぱりグラウンド走るのが一番楽しいな」
「そろそろ後輩にも教えてやらないといけないことがたくさんあるしな」
4人が集まると、部活の話になる。それほどみんな陸上が好きだった。
放課後はほぼ毎日部活。僕はその時間が楽しみだった。
受験よりもまずは夏の陸上大会に向けて、部活に励みたかった。
僕たちが教室に入るとちょうどチャイムが鳴る。
こうして僕の1日が始まった。
小説のタイトルについてですが、まずケータイを手にするまでに時間がかかる設定になってしまいました。
第1章では、中学校でのストーリーを楽しんでいただけたら幸いです。