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死神と呼ばれる者と世界を滅ぼす黒き翼  作者: 蒼聖石
第1章 無知な少年は死神と呼ばれた
7/11

憎悪の炎は消された

 春が家に入ったのを確認すると、冬馬はファウストに向き直った。その口はユウが、春すらも見たこともない笑みをたたえていた。


「いつかテメェのところに行ってやろうと思ってたが、手間が省けたっ!今すぐ消し炭にしてやるよぉ!」

「ああっ、そうですよ!やはり貴方はそうでなくてはっ」


 溢れ出そうな炎を何とか留めているような炎刀を片手にファウストを守るように立つ黒い影に向かって駆けていく。それに対してファウストが空中から出した指揮棒を振ると、影たちは冬馬に応戦した。


「ずいぶんな数の悪魔じゃねえかっ。全部手作りか!」

「ええ、そうです。貴方の抗するにはこれほどでないとっ」

「この程度でか……嘗めてくれるじゃねえか!」


 決壊した川のような炎の奔流が悪魔と呼ばれた影たちを巻き込み、灰にした。それを見たファウストの顔は歓喜の笑みを浮かべ、狂気に満ちた視線を冬馬に送っていた。


「ずいぶん優しくなったような雰囲気で残念だったのですが、やはりその方が良いっ。貴方の魂を悪魔に出来たら、どれほどの物になるかっ」

「黙れ狂人が」

「貴方も同じようなものでしょう?冷静に憎悪し、冷静に憤怒する。そんな人間、世界中探しても貴方だけですよっ」

「…否定はしねえ。だがテメェほど狂っちゃねえさ!」


 数が減った悪魔を斬り抜けてファウストに斬りかかる。冬馬の炎刀をファウストは指揮棒で受け止めた。その指揮棒は氷に包まれ、炎刀の炎の端を凍らせている。


「冷徹の指揮棒(タクト)……!それで俺の家に火をかけたのかっ!」

「堕天使の側に降る条件だったので。現…いまでは前ですか?死神部隊の隊長を殺すことが」


 その当時を思い出したのか、含み笑いをするファウストに冬馬の怒りが増し、それに呼応するように炎が激しさを増す。危険を察知したファウストは炎刀を弾いて数歩後退し、さらに数回跳んで冬馬の間合いの外まで距離を置いた。


「なるほど。怒りの炎、ですか。正確に敵を見定め、的確に憎悪し、冷静に怒りを抱くことの出来る貴方にはもってこいの能力だ」

「何故だ。何故っ、春にやらせた!」

「さっきも言ったでしょう。あれが嫌いなんですよ。

 しかし、我ながら良い能力です。相手の心を凍らせて自在に操る指揮棒っ。実に愉快だ!最も信頼を寄せていた息子の幼馴染に殺されるっ!知らぬ間に大事な想い人の親を手にかけるっ!愉快でしょう!?傑作でしょう!!?」

「このっ……狂人がぁ!」

「なっ…!?」


 振りかぶった炎刀をファウストへと突き向ける。刀身全体を包んでいた炎は大蛇の形を成してファウストへと向かっていった。

 冷静に、とにかく冷静に、冬馬は怒った。それが自分の持ち味であり、それが出来なければこの能力は身を滅ぼすことはわかっていた。

 憎む相手は目の前の男、怒る理由は自分の親を幼馴染に殺させたこと。その非道さ。冷静に、的確に、怒りの矛を相手に向ける。冷静なほど早く、的確なほど正確に、怒るほどに大きく、炎の大蛇はファウストに向かっていく。


「魂ごと灰になれっ!ファウスト!」

「くっ…私を守りなさいっ」

「ちっ」


 ファウストが指揮棒を一振りすると木陰から飛び出した影が冬馬を襲った。避けるために意識を乱され、炎の大蛇が消えさる。妨害されたことに苛立ちを覚えながら、妨害の張本人を改めて見た。


「黒い翼……堕天使か。ちょうど良い、お前も一緒に…」

「できますかねぇ。くくくっ」

「そんな……」


 向き直った黒い翼を生やした青年の顔を見て冬馬は完全に混乱し、能力の維持もままならなくなり炎刀が崩れ始めていた。


「手にかけられますか?自分の義妹の息子を。己が教え子の弟を」

「嘘だ……ユウはまだ、あんなに幼いのに…」

「堕天使に子どもが生まれたなんて例はありませんでしたから、ここまで成長が早いとは私も思いませんでしたよ」


 指揮棒が一振りされ、戦意を失った冬馬を取り囲むように影が滲み出る。


「私の目的はあの子の抹殺ではなく観察。しかし……殺したほうが後々よさそうですね」

「やめろっ」

「では私についてきてください。貴方はいい研究材料になりそうだ」

「………わかった」


 冬馬は唇を噛み締めながらファウストの条件を承諾した。人間のファウストなら結界内に容易く入れ、守るのは手負いの春のみ。今ここでユウを失うわけにはいかない。可能性に過ぎない。どんな結果になるかはわからない。それでも冬馬はユウに何かの可能性を感じていた。その可能性を守れるなら、冬馬は覚悟を決めた。

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