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死神と呼ばれる者と世界を滅ぼす黒き翼  作者: 蒼聖石
第1章 無知な少年は死神と呼ばれた
5/11

鉄は熱いうちに叩くが良い

 2時間ほどしてユウは冬馬に起こされた。ぐっすりと眠って、体力を回復したユウはすぐにあの場所へと向かった。春から話を聞いて、今度は出来るという自信が漠然としながらもあったからだ。


『ホントに出来るのか?』

―多分!さっき春さんから聞いた話がヒントになった!


 食事が終わってすぐ、ユウは春に能力について聞いていた。いくつもの形を持った能力というのは自分がやろうとしていることに似通っていた。だから話を聞けば何かしらのヒントになると思ったのだ。


―「能力を創ったときのイメージ?そうね。鉄の塊を削る感じかしら。ああ、でも小剣を基準にしてね。大剣の大きさを基準にすると小剣のとき時間がかかるから。大剣のときは塊を積んでく感じかなあ。こんなでいいの?」―


―塊を積む。こんな簡単なことに気づかないなんて……

『馬鹿だな』

―はっきり言いすぎ。

 はあ……。集中するからしばらく黙ってて。

『わかった』


 心を落ち着けて深く息を吸うと目を閉じた。最初にイメージするのは漆黒の空間。何もない、創造する最初の段階。

 次は望む力。時に優しく照らし、時に激しく燃える赤い炎。緩やかに時に干渉し、やがて止める青い氷。天地を貫き、内から焦がす黄の雷。追いたてて力になり、向かって壁になる緑の風。黒い空間の中に4つの色が渦巻く。

 最後は望む形。自分が最も慣れ親しんだ物。基準はリボルバーの拳銃弾。一つ積んでライフル弾に。さらに積んで……


―何にしよう

『あ?どうした?』

―最後の一つ、どうしようかな、って

『予備みたいなもんだろ?じゃあなんか適当に使ってみたい銃の弾を選べばいいだろ』

―うぅん……まあいっか。それで


 さらに積んで散弾に。色が渦巻いていただけの空間にイメージした弾が満たせれていく。

 出来た。そう確信して目を開く。気づかない内に握られていた手の中には赤い拳銃弾が入っていた。


「出来たぁっ!!!!!」

「出来ましたか」


 成功した喜びで思わず大きな声を出したユウのところに、それぞれの武器を手にして汗を流している冬馬と春が近づいてきた。


「はい!これです!」

「へえ、意外と地味ね」

「う……。いいじゃないですか、別に」

「その分なら大丈夫そうですね」


 ユウの状態を見て、冬馬は嬉しそうに頷く。汗をかいている様子もなく目に見えて疲労しているようにも見受けられない。冬馬に言われて、ユウは初めて気づき、驚いた。


「疲れるのは最初だけだからねえ。一度出来ちゃえば精神を安定させてる限り大した疲労は感じないわよ」

「そのかわり、乱れた状態で行えば出来る前とは比にならない消耗を強いられます。己の精神状態を常に客観的に見つめ、最良の状態を維持できるように努めてください」

「はい!」

「よろしい。晩御飯は今日は貴方が作ってもらえますか?私はもう少し春と試合を重ねたいので」

「わかりました!」


 嬉しそうに返事をしてユウは走って家に戻っていく。それを見送ると冬馬と春は顔を見合わせて笑った。

 しばらく笑うと、冬馬はさて、といって動き出した。


「もう始めるの?あんたも疲れ知らずね」

「試合はしませんよ。ちょっと準備を」

「準備?」

「ええ。鉄は熱いうちに叩いてしまったほうが良いでしょう?」


 悪戯を思いついた子どものような笑みを浮かべて冬馬は歩いていく。幼馴染として、この顔をしたときの冬馬はろくな事をしないこと知っている春は苦笑いで、手伝うわ、とついていった。


「うわあ!美味しそう!」


 リビングに入ってきた春は食卓に並べられた食事を見て嬉しそうに声を上げる。それを聞いてユウも嬉しそうに準備を続ける。


「ユウの作る食事は私のものより段違いに美味しいですよ」

「そんな。過大評価です。さて、準備できました。手洗ってきてくださいね」

「はぁい」


 手を洗いに二人がキッチンへと入っていく。ユウは自分の席について嬉しそうに待っていた。


『嬉しそうだな』

―いつもは先生と二人だけだったから。さっきもすごい楽しかったし

『…そうだな』

「お待たせ~」


 二人が戻ってきて席につくと、いただきます、といって食事を始めた。食べている間、ユウは春からまた能力に関するアドバイスを受けた。能力に名前を付けておくとイメージが固まりやすいこと。完成した後でも少しの伸び白が残されていること。能力を使えるものの中には操作したり、物を消したり、創ることだけが能力ではないということ。

 能力に関することを聞き終わると今度は春が乗ってきたものについて聞き出した。


「あれってバイクですよね?本で見ました!」

「そう、銃と同じ、古代遺物を復刻したものよ」

「すごいですね。あんなのが人を乗せて走るなんて」

「今度乗ってみる?あなた、物覚え良さそうだし」

「いいんですか!?」


 目に見えて喜ぶユウに、春と冬馬は一瞬驚いたが大きな声で笑い出した。それにユウは恥ずかしくなって俯いた。

 食後、ユウは食器を洗い終えると、疲れたので先に寝させてもらいます、といって部屋に入っていった。



 深夜、ぐっすりと眠っていたユウはけたたましく鳴らされるドアの音にたたき起こされた。一気に眠気が吹き飛んだユウはすぐにドアを開けた。


「どうしたんですか?」

「理由は不明ですが結界が破られました。魔獣が押し寄せてきます。結界を張り直す暇はありません、応戦してもらえますか?」

「はい!」


 取って返してホルスターに入ったリボルバーとライフルを手に冬馬のあとをついて外へと出ると、家を取り囲むように森の中に魔獣の目が光っている。そのおびただしい数にユウはつばを飲んだ。


「私と春は裏に回ります!大変ですが表を任せられますか?」

「大丈夫です!」

「お願いします!」


 裏のほうへと消えていく冬馬。それを見送り、ホルスターを身に付けるとユウは前を見据えた。足が少し震えている。


―とんでもないことになったね

『ああ。あの数じゃ俺の体術は当てにならない。視覚情報だけよこせ』

―了解


 一瞬で視覚情報の所有権をシュウに繋げる。情報伝達のロスを考えても、シュウの視野の広さは対多数の状況で役に立つ。

 繋げた瞬間、魔獣たちが一気に押し寄せてきた。


「烈火の赤弾!」


 ホルスターから引き抜きながら握った手に赤い弾を作り出して装填。この辺りの魔獣は主に獣型、火がよく効く。

 ユウの予想通り、まず目に見えたのは大兎の成体。鋭利な爪と牙を持っているが近づかなければ問題ない。最初の一匹の頭に1発。その横の胴体に2発。


『上から来るぞ!』


 シュウの指令どおり、兎の名に恥じない跳躍で2匹が飛び掛る。それを一跳び後退して避け、頭に1発ずつ。どの大兎も着弾点から火がつき、焼かれている。


『すげえな…』

―感心するのは後!次来るよ!


 突然火に包まれた大兎に他の大兎たちの動きが鈍っている。これ以上、積極的に襲ってくることはないだろう。そう考えて、次はその後ろにいるものに狙いを定めた。


『右後方!二頭狼!』


 目に入れることもなくユウは左方向へと跳んだ。さっきまでユウがいた場所に、頭を二つ持った狼の鋭い歯が空を切った。その一匹に気を取られている内に、ユウは完全に囲まれていた。

 次々と飛び掛ってくる二頭狼に、ユウはただシュウの指令どおりに避けることだけが精一杯だった。肩にかけたライフルが動きを抑制してかなりギリギリの状況だ。


―補充してる隙がない…

『なんとかしろ!』

―ううん…

 あ、そうだ!


 一か八か、ユウは思いついたことを試すことにした。攻撃を避けるとすぐにリボルバーの弾倉に手をかぶせる。


「烈風の緑弾っ」


 イメージが形になるのだったらこうゆうことだって出来るはず。すぐに弾倉の中を見る。中には緑色の弾丸がしっかりと入っていた。ユウは心の中で喜んだ。

 同時に飛び掛ってくる二頭狼の一匹に撃ち込むと大風が他の魔獣ごと吹き飛ばした。


―シュウ!脚の使用権譲渡!屋根から狙撃に入る!

『任せろ!』


 シュウに使用権を移されたユウの脚は体を家の屋根へと一跳びで導いた。そこでライフルに同じように装填してユウは魔獣を次々と撃ち倒していった。

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