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死神と呼ばれる者と世界を滅ぼす黒き翼  作者: 蒼聖石
第1章 無知な少年は死神と呼ばれた
1/11

狩りと教練、それが少年の日常

人は罪を犯す。


意図して犯す。意図せずして犯す。


生まれた瞬間から人は罪を負う。


人は罪を犯さずには生きられない。


……しかし


はたしてそれは罪なのか。


願うことは罪なのか。求めることは罪なのか。


人の罪は人が裁いてきた。


だが人間の罪は


誰が裁くのか。



* * * * * * * * * * * * * * *



「風は右から、風速はやや小走りくらい、距離は500……かな」


 日が昇り始め空が青くなり始めた頃、少し高い木の枝の上、少年がライフルのボルトを引き、弾を込める。

 スコープを覗いた先には大兎の子どもが鼻を動かし、長い前歯の代わりに生えた牙に刺す獲物を探している。


「今日の糧を与えてくれし大地に感謝を」


 少年は祈りを捧げ、スコープのクロスラインをやや右にずらし息を止める。

 引鉄に指をかけた瞬間、大兎はスコープの先の少年を見て茂みへと飛び込んだ。


「あちゃあ……気付かれたか」


 直後、大兎が逃げていった方向から銃声が響き、少年は苦い顔をして枝から飛び降りた。

 銃声をした方向に歩いていくと、その方向から先ほどの大兎に縄をかけて引き摺り歩く、30代後半の長身の男の姿があった。

 少年の姿を見つけ、男は怒っているような、困ったような、複雑な表情で近づいてきた。


「ユウ」

「……はい」


 ユウと呼ばれた少年は萎縮して、小さな返事を返す。


「殺気が強すぎます。私のところにまで届きましたよ。あなたはもう少し気を隠す力を身に付けなさい」

「努力します…。トーマ先生」


 肩を落とすユウにトーマと呼ばれた男は苦笑いをしながら頭を撫でてやった。


「食料も確保しましたし、一度戻りましょう。今日の教練はシュウでしたね?」

「そうでしたっけ?どう、シュウ」


 シュウと呼ばれる人の姿はない。

 数瞬して、さっきまでしょぼくれた顔をしていたユウの顔が快活な笑顔に変わり、トーマに向かって拳を突き出す。


「今度はゼッテェ膝に土をつけてやるからな!」


 そしてすぐに表情は戻り、先ほどとは違った笑顔をトーマに向けた。


「だそうです」

「期待しています」

「だってさ、シュウ」


 口に出すと同時にユウは己の中に居るもう一人の自分に語りかける。


「"おう!油断すんじゃねえぞ!"ですって」


 シュウの返答をユウが代弁するとトーマは優しい笑顔を2人に向けた。

 トーマから射撃・狙撃についての教えを受けながらユウ達は深い森の中に建てられた住処へと歩いていく。

 もう少しで家が見えてくる、というところでトーマは足を止めて振り返りある一点を見つめている。

 ある一点というよりもその方向、その遥か先に忌まわしいものでもあるような厳しい目をしている。

 その表情は今までユウが見たことのないもので気にかけるよりも先に恐ろしさが先にたった。


「……行きましょう」


 踵を返しトーマは再び帰途へとつく。その表情はいつも通りで、それが余計にユウの恐怖をかきたてた。


* * * * * * * * * * * * * * *


 森が拓けた場所に建てられたログハウス。そこがユウ達の住居であった。

 その家の周りにはまだ日が昇って間もないのに、煌々と燃え盛る松明が四隅を囲むように立てられていた。


「私は昼の下ごしらえをしてきますから、それまで自由にしていてください」

「あ、じゃあ、松明見ててもいいですか?」

「あなたも飽きませんね。いいですよ」


 そう言ってトーマは仕留めた大兎を解体するために、裏へと引き摺っていった。

 それを見送るとユウはデッキに置かれたいつもの椅子に座り、松明を眺める。


『お前はホントに飽きないな』


 呆れたような声で、シュウは語りかけてくる。

 自分でもそう思うよ、とでもいうようにユウは苦笑した。


「でもすごく綺麗だから」

『まあな。あれがなかったらこの家はとっくに魔物に壊されて俺達は腹の中だ』

「うん。先生の能力で作った退魔の炎……。でも先生の能力自体はまだ見たことないんだよね」

『俺達に能力の修行を付けてくれる段階になったら見せてくれんだろ。焦らず行こうぜ』

「うん、わかってる」


 それからトーマが戻ってくるまでの数刻の間ユウはずっと眺め続け、トーマを呆れさせた。


* * * * * * * * * * * * * * *


 ログハウスの前、かなり広めにとられた広場の真ん中でユウとトーマが向かい合って立っている。

 広場のところどころ、草が生えてこなくなるまで踏み固められた土がそれまでの努力を物語っている。


「さて、ではシュウの教練を始めます」

「はい」


 ユウは軽く目を瞑り自分の意識を底へと沈めていく。

 水の中を沈んでいく自分がイメージできたとき、底の方から見慣れた光が上がってきた。


―頑張って

『任せとけ』


 光に触れたユウは光に変わって底へと沈み、触れられた光はユウと同じ姿に変わって上っていった。

 意識の入れ替え。練習し始めた頃は一度入れ替わるのに二日以上かかったが、今では数回呼吸する間に全ての意識を入れ替えられるようになった。


「さあ、始めようぜ」

「…来なさい」


 2人が同時に構える。距離は歩いて5歩ほど、一飛びで詰められる程度。

 しばし対峙し、先に動いたのはシュウ。距離を詰め、鳩尾に向かってストレート。

 トーマはそれを半身でかわし、シュウの力を利用して投げ飛ばした。

 投げ飛ばされたシュウは体を捻って着地し、そのまま低い態勢で突進し素早く連打する。

 連打を丁寧に捌きながら合間に加えられるトーマの手刀に対応するためにシュウはペースを乱され、逆にトーマのペースに乗せられていく。


「どうしたんですか?一昨日と同じですよ」

「言われなくてもわかってらあ!」


 シュウはトーマの攻撃を捌かずに避けて回り込み、頭部に向かって蹴りを入れる。

 その蹴りを片手で受け止められると残った足で飛び、蹴りを加える。

 トーマはその蹴りも受け止め、シュウを投げ飛ばした。

 地面に受身を取ったシュウの上に圧し掛かり、腕で首を押さえつける。


「ぐ……」

「惜しいですね。受けずに避けるというのは良い選択でした。受けるだけでもいけませんし、避けるだけでもいけません。バランスよく混ぜ、かつどこで切り替えるか。相手の力の入れ具合を見極めるのがこれからのあなたの課題ですね」


 トーマが体を退かすとシュウは恨めしそうな目で軽く睨みつけた。


「……避けやすいように打ちやがったな」

「それも戦術です。さあ、着替えて体を流してきてください。昼食にしますよ」


 少し乱れた服を正してトーマは昼食の準備のために家の中へと入っていく。


『惜しかったねえ』

「惜しいかよ。完全に誘われた…。代わるぞ」

『うん、準備は出来てるよ』


 再び意識を入れ替えるとユウは激痛を感じた。


「……痛い」

『俺疲れたから休むわ』

「疲れたのは僕の体なのに…」

『そう、お前の体だ。だから俺とは少しばかり合わないんだよ。お前が100で適合するなら俺は97。この3のダメージを俺が負ってる。だから疲れんだよ、じゃお休み』

「あ!」


 完全に交信を絶って休息状態に入ったシュウに不満を残しつつ仕方がないと諦め、部屋で着替えを取って風呂へと向かった。

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