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父の日と言う名の、争奪戦。

yoyo様よりリクエストいただきました!ありがとうございますー!!

お題は『嫉妬する亨』。

ではどうぞ。

いつもと変わらぬ、六月のサタデーナイト。

金曜日の放課後から唯は亨のマンションにお泊まりしている。


世はジューンプライドだと躍起になって結婚式を挙げる月である一方、その影でひっそりと祭り上げられている父の日。まったく、母の日とはえらい違いだ。

唯と亨はそんな内容のテレビを見るともなしに見、夕食後のお茶を飲みながらまったりくつろいでいた。



「明日は父の日だねー。先生は蒼偉パパに何かあげるの?」


「あー…。この年になって父の日っていうのもな。昔はそれなりにネクタイとか贈ってたけど、今は普通に電話して終わると思う。お前は?何も無いってわけはないだろ?」


「私?私はいつも通りのやつでいいかなーって。」


「いつも通り?」


「うん。パパに一日中べったりくっついてるの。」



ビシッと凍った亨。思わず湯飲みを持つ手に力が入り、固いソレを握り壊す寸前で止まった。

しかしそれを尻目に、唯はいつものように至って呑気に調子っぱずれの鼻歌を歌っていた。





そして父の日当日。

唯は、宣言通り実家に帰るなり総一郎にべったりと張り付き、甲斐甲斐しくコーヒーを淹れ、机の上を片付けたりとまるで若奥様のような振る舞いをしていた。しかも、秀人や美奈を外出させるという徹底振り。さすがの息子達も今日ばかりは仕方が無いと思っているので、何も文句は言わない。それが父の日のプレゼントだ。

今日ばかりは唯を独占出来るので、いたくご満悦な総一郎なのだが約一名邪魔な男がいる。



「おい、バンビ。何でお前がここにいる。」


「いえ、別に気にしないで下さい。俺はただ貴方が、唯に過剰なほど接触しようとするのを防ぐ役割ですから。」


「はっ。器のちっちぇ奴だな、お前。唯、本当にこんなバンビでいいのか?なんだったらもっと良い奴紹介してやろ「ふざけんな、オヤジ!」オヤジって何だ、オヤジって!!こんないい男掴まえて、オヤジだなんていい度胸だな、バンビ!」


「還暦間際の十分オヤジじゃねーか!…っ!おい、唯!そんなにオヤジにくっつくな!!」



見れば総一郎の腰にべったりと両腕を回して引っ付いている唯。それを見た亨は青筋をたて、総一郎は勝ち誇ったドヤ顔をした。



「喧嘩は良くない!二人ともなんでそんなにカリカリしてるのよー。カルシウムが足りないんじゃないの?あ、小魚炒ってきてあげようか!うん、それいいかもー!」



二人の喧嘩の原因を全く見当違いの答えを見つけ、小魚小魚ー♪と言いながら、それに釣られたナイトを引き連れてリビングを出て行った唯を見送った総一郎と亨は、むっつりと顔をつき合わせた。


初対面時、唯に手を出したら堕とすとまで言われたものなのだが、結局唯の大絶叫でそれは叶わなかった。その影響か、暫くは義父にも彼氏にもどちらにも寄り付かなくなり、更には翼に雅、はたまた蒼偉にまで唯の大絶叫した経緯を知られ、三人に呼び出されて滔々(とうとう)と説教をされた。特に雅は興奮のしすぎで手が付けられなかった。

そして総一郎も秀人、美奈の両名に厳しく説教された。もちろん例外なく亨も含まれているのだが。



「随分と狭量だな、バンビ。」


「自分の女が父親とは言え、他の男にくっ付いているのを許容するだけの度量がないもんで。」


「はっ!」


「鼻で笑わないでくれません?本気で腹立ちます。」


「てめぇのその似非敬語の方が腹立つんだよ。この俺に、その表面だけの偽善面が通用すると思うなよ。」


「へー…、じゃあ早速。オヤジの分際で、俺と唯が過ごす休日を潰してんじゃねぇよ。」


「あ?今日は父の日だ。父の日の特権だっていうのがわかんねぇんだったら、さっさと帰って一人寝しやがれ。バンビが!」



ギリギリと睨み合う事数分。キッチンから香ばしい匂いがしてきたのに気付いているのだが、二人とも小魚なんて食っている場合ではない。むしろ、小魚如きではこのイライラは収まらない。



「バンビ、バンビ、いちいちうるせぇオヤジだな!」


「てめーはバンビで十分だ!唯を大人しくやると思ったら大間違いだからな!!」


「十分今でもうるせぇだろうが!!」



いい加減止めなければ。そう思っていると、タイミングよく唯が香ばしい匂いを漂わせた小魚を持って、その修羅場と化していたリビングに戻って来た。なにやら部屋は妙な雰囲気がしているのだが、それは完全にスルーする。

さっきからキッチンにまで怒号が聞こえて来ていたのだが、それを困ったなーと思いながらも仲裁する事は無かった。むしろ喧嘩するほど仲がいいと言うし、自分達は気付いていないだろうが、ああやって喧嘩しているのは傍から見ればじゃれているようにしか見えない。



「もー、喧嘩しないのー。はい、小魚炒って来たよ。美味しいよ。」


「「………」」


「要らないの?味付けちゃったからナイトに食べさせられないんだけど。私一人で食べるには量が多いし。」


「…バンビ、一時休戦だ。」


「ああ、賛成だ。」



一時休戦の宣言がされたのも束の間、またしても亨の火山が噴火寸前に。



「はい、パパ。あーん。美味しい?」


「ああ、美味い。本当に唯は料理が上手だな。千歳とは大違いだ。あいつは食えるもの作ったためしがなかった。」


「本当?よかったー。お父さんって味オンチだったんでしょ?お母さんが昔言ってたよ。」


「ああ。あいつに味付けを任せるととんでもないものになったんだ。塩と砂糖を間違えるなんて可愛いものじゃなかった。和菓子屋の息子なのに、味オンチってありえないだろ。」


「そうだったんだー!ってあれ?先生どうかした?小魚美味しくない?」


「………」


「えー、先生小魚嫌いだったっけ?あ、味が口に合わない?」


「おい、バンビ。折角唯が作ったんだ。食え。」


「『食え』じゃねーよ!!なんで唯を膝に乗せて食わせて貰ってんだ!!」



きょとんとした唯を膝に乗せた総一郎。その光景はまさに新婚夫婦のよう。いや、若い恋人にでもするような熱々っぷり。

さすがにそれには亨の堪忍袋も緒が切れかかった。



「おい、唯!こっち来い!!」


「えー?なんで怒ってるの、先生。小魚食べて食べて!」


「唯、気にすんな。ほら、おかわりくれ。」


「ん?はい、パパ、あーん。」



ブチッと何かが切れた音がしたのは聞き間違いではないだろう。その証拠に、亨の目が完全に据わっている。

ひっ!と脅えた唯が抱き付いた先は、やはり総一郎。それを見た亨は、酷薄に笑った。これは完全に怒っている。またしても火に油を注ぐ結果になってしまったのだと気付いたのだが、如何せん遅かった。



「おい、オヤジ…俺がいるのをわかっててワザとやってるだろ…」


「当たり前じゃねーか。はっ!悔しいんだったら、俺の位置まで来てみろよ。」


「あ゛ぁ゛!?だれがてめーの位置まで行きてぇなんぞ思うか!!父親ポジションだなんて絶対にごめんだ!!」


「あ!?恋愛出来るのはバンビだけじゃねえぞ!」


「唯がてめーに恋愛感情なんて持ってるわけないだろうが!!唯が惚れてるのはこの俺なんだよ!!」


「てめぇで言ってりゃ世話ねぇんだよ、このクソガキが!!」



またしても喧嘩してしまった二人を見ながら、炒った小魚を黙々と食べている唯はあくまでも中立を貫く。どちらに味方しても後がややこしくなるからだ。何度か経験済みなので、それは了承している。


折角の父の日なのに怒声が聞こえるなんて嫌だなーと思いながら、大量に炒ったはずの小魚があと少ししか無いのに気付いてため息を付いた。これではカルシウムを摂取したのは自分だけになってしまう。栄養の偏らない夕飯のメニューを考えながら、二人が殴り合いの喧嘩にならないように見守る唯であった。

いかがでしたでしょうか。ちゃんと先生はジェラってましたか?(笑)

喧嘩するほど仲がいい、総一郎と亨。それを見守る唯でした(´∀`)

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