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ゆい、ちいさくなる①

パラレルですので、なんとなーくで読んで下さっても結構です。

ちなみに、この話の主役は翼です。

「翼、今すぐ俺の部屋に来てくれ。何も言わずに今すぐに。」



返答する間もなく切られた弟からの電話。ちなみに現在時刻は時計を見ると、午前五時。

いくら何でも早すぎると思いながらも、電話口での弟の声は今までに聞いた事のない程焦っていた事を思うと、頼み通り行ってやらないといけないだろう。眠い目を擦りながら顔を洗って下に行くと、あまりに早い起床に驚いた渡瀬が足早に寄って来たが、亨の所に行ってくると言うと少々お待ち下さいと言われ、持ってきた袋を渡された。

朝食が入っていますので、亨坊ちゃんとお召し上がり下さい。と持たされたのだが、自分と弟以外の分も入っている事は言わずもがなでわかった。事情が良くわかっている渡瀬ににやりと笑って、行ってくると言い、自分のジャガーに乗って弟の住むマンションまで走らせた。


こんな早朝に呼び出されるなんてどうしたものか。いくら休日とは言え、あの焦り様は尋常じゃなかった事を考えると、彼女に何かあったのかとしか思えない。



「…何したんだか…。」



ポツリと呟いた自分の声は、ジャガーのエンジン音にかき消された。


祖父が所有しているマンションのペントハウスに住んでいる弟は、今の本命の彼女が出来るまでは女を連れ込むなという祖父との約束を律儀に守っていたのだが、出来てからはその約束を反故にしてしまった。何か言われるのだろうかと思ったのだが、祖母と母を完全に味方に付けてしまった事で、あいつは堂々と自分の部屋に連れ込んでいる。


一応彼女は未成年なので、その辺の事は抜かり無くやっているだろうと思うが、それでもたまに心配になる。

小さい頃から知っているせいか、妹のような存在のあの子は無邪気に自分を慕ってくれるのはいいのだが、如何せん弟の視線が怖い。というか、痛い。双子だからこそわかるその感情を恐ろしいと感じた事は、一度や二度じゃない。


駐車場に車を停めて、ペントハウスのインターホンを鳴らす。直後に反応した弟に、並々ならぬ何かを感じて、渡瀬に持たされた朝食一式を持って部屋へと急いだ。



――ピンポー…ガチャ――



鳴り終わる前に開かれたドアから覗く双子の弟、亨が待ってましたとばかりに顔を輝かせた。



「どうした、こんな朝から呼び出して…。」


「…まぁちょっとな…とりあえず入れ…。」


「何かあったのか?あ、これ渡瀬から。朝食だって渡されたけど、お前と僕と唯の分も入ってるって。まだ寝てるんだろ?」



亨に袋を渡しながらリビングに入って行くと、桐生家で飼っているという犬『ナイト』が大人しくこっちを見ていた。ここにいるってことは、昨日寝室から追い出されたな…。ひそかにそう思い、ナイトの頭を撫でていると、亨が言い難そうに口を開いた。



「翼、ちょっと来てくれ。」


「何…って、寝室!?いやだよ、唯寝てるんだろ?だったら、尚更断るし!つーか、お前「いいから。」……あー…嫌だー。何で弟と唯の夜の残骸を見せられ……………」



亨によって開け放たれた寝室のドアを静かに閉めた。

いや、見間違えだ。きっとそう。そう言えば、最近忙しくて全然休み取ってなかったし。ハニーにも会えてない。ヤバイんだよなー。会えない期間が長くなればなるほど、いじけるからなー。ま、そこが可愛いんだけどさ。



「おい、現実逃避するな。やっぱりお前にもそう見えたよな。俺の目がおかしくなったんじゃないよな?」


「…………確認したいんだけど、あれ…お前の隠し子じゃないよな?」


「バカ言うなよ。あれはれっきとした唯だ。」


「ちょっと待てよ!何で小さくなってんの!?お前なんか変な事でもしたんじゃないか!?あ、それとも変な物食べたとか!」


「知らねーよ!朝変な感じがして起きたら、隣で寝てたはずの唯が小さくなってたんだよ!」



喧々轟々。

とは言え、ここで言い争いをしていても埒があかない。しょうがないので、そろーりとドアを開けて中に入ると、ベッドの中にはやけに小さい人影が見える。ほとんど布団に埋もれてしまっているような状態の中、頭だけは辛うじて枕の上に乗っている。

記憶にある彼女の顔は、確かに童顔である。しかし、目の前ですやすやと気持ち良さそうに寝ている子供…いや、幼児は間違いなく、唯だ。

恐る恐る亨の顔を見ると、心底困ったような顔をしている。当然だ、こんな自然界にあるまじき超常現象を目の前にして、困らない方がおかしい。多分自分も同じような顔をしているのだと思うが、どうしたものかと考える余裕すらない。


大の男が雁首並べて困っている中、唯が大好きなナイトが主人を起こそうとやって来た。多分いつもこうやって起こしているのだろうが、今起こされると非常にマズイ。急いで部屋から追い出そうと思ったが、敵もさるもので、ワン!と明朗に鳴いてしまった。二人ともしまった!!と思ったその瞬間を狙って、ナイトが僕の拘束をあっさりと通り抜け、唯を起こそうと器用に前脚を使って掛かっている布団をずりずりと引き降ろしてしまった。

幸いだったのは、唯が服を着ていた事だ。とは言え、身体が小さくなってしまったので着ている服がブカブカだが…。



「ん……んぅ…ないとー…?」


「ワン!!」


「んーぅ…ちょっ…と、まってよぅ…。」



……なんか、エロくないか?

そう思って亨を見ると、手で顔を覆っている。

わかる。わかるぞ。大事な彼女の起き抜けを見られたくなかったのは、僕もよぉくわかるぞ!

とは言え、寝ぼけているのかまだ眠いのか、ぎゅうっと身体をちぢ込ませた唯は、いつもは隣にいるだろう亨の方へポスポスと小さい手を彷徨わせて、いないとわかるとようやくその身を起こした。

最初は視線の定まらなかった唯は、僕がいるのに驚いたのだろう。それで一気に覚醒したのか、亨を見つけるとパクパクと口を開けて何で?と言ってるのがわかった。



「おはよう、唯。」


「お…おはようごじゃいましゅ…?なんでここにたしゅくしゃんがいりゅんで……ん?」


「「………」」


「ちたがまわりゃない…なんでー?」



想像以上の光景に僕も亨も、ただただ言葉を失うばかりで、二人してきょとんとしている唯を呆然と見ていると、存在を無視するなとばかりにナイトがベッドに跳び乗った。それを見た唯がベッドから降ろそうとして逆にナイトに襲われた。いや、構って構ってーという(ナイト)なりのコミュニケーションなのだろうが…。



「きゃー!だめだよ、ないと!!おりてー!!」


「ナイト、降りろ。それにベッドに乗るなって何度言ったらわかるんだ。」


「そうだよ、だめだよー!!」



唯と亨、二人がかりでナイトを降ろしたはいいものの、唯がしんみりと「ないとってば、ふとったね」と言った事に端を発した、面倒くさい事極まりない説明が幕を開けた。

唯が自分の身体を確認するなり、「なにこれーーーー!!!!!」と叫び、それをわからないなりに説明しなければならない亨の押し問答が小一時間続き、これ以上説明してもしょうがないので、渡瀬が持たせた朝食を取る事にした。


保温瓶に入っていたスープを鍋に空けてもう一度暖めなおし、袋に入っていたサンドイッチを皿に盛る。亨が簡単なサラダを作り、コーヒーを入れて三人とも一息つくと、ひとまずは落ち着いて食べ始めた。


ナイトのご飯は唯が用意したものの、握力が無くなってパッカンが開けられないと至極困った風だった。仕方なく亨が空けてやると、今度は小さくなった唯に構わず突っ込んできたナイトによって押し倒され、缶に入っていたドッグフードを半分以上こぼし、それが顔にかかってしまい、顔を洗ってこなくてはならないという一騒動もあった。

また、席に着いたのはいいが、唯が小さすぎるためにテーブルから顔しか見えない。そのため、行儀は悪いがリビングのテーブルの上に皿を並べて食べる事になった。



「なんでいきなりこうなったのかなぁ…。わたち、もとにもどりゅよね?」


「…わからん…。」


「唯、心当たりはないの?変な物拾って食べたとか…。」


「そんなにいじきたなくないもん!!」



ぷんと怒った唯は、本当に子供にしか見えない。実際、僕達にも少し大きめのサンドイッチを半分に切ってやったそれを、両手に持って口いっぱいに頬張っているのを見ると、昔の唯を見ているようで不思議な感じがしてしまう。あの頃は離乳食で、こんなに固形物を食べられたわけではないけれど、それでも懐かしさは感じる。

懐かしさからふっと笑み唯を見ると、コーヒーを一口飲んで盛大に顔を顰めていた。



「にがーいぃぃ!」


「お前がいつも飲んでるやつだぞ、これ。」


「味覚も子供返りしちゃったんじゃない?」


「ぬぅぅぅぅ!」


「ホットミルクでも飲むか?それででかくなれば万々歳だろ。」



むきーっと言いながら亨を睨んでいるのだが、当の亨はと言えば全く気にする事も無く、至って冷静にキッチンで牛乳をレンジで温めていた。仕方ないので、唯が飲んでいたコーヒーを自分が飲もうとすると、あっさりと亨に取られた。

以外にコイツは嫉妬心の塊なのかもしれない…。そんな事を思いながらも、一応唯に今日の予定を聞いた。



「きょうは、ぱぱとおにーちゃんがかえってく…りゅ…どどどどどうちよう、せんせい、こんなかっこうじゃあえないよぅ!」


「………亨、どうするんだ…。」


「どうするもこうするも…。」



二人でじーっと唯を見たのだが、相変わらず小さいままだ。

これをどうしろと…。



「とりあえず、服は何とかなるんじゃない?あの二人デザイナーだから、さっさと作れそうじゃない?」


「…だな。ていうか、翼、コイツ何歳に見える?」


「………二、三歳ってとこかな…。」


「俺、あの二人の反応が手に取るようにわかるんだが…なぁ、唯…。」


「う………。」



はー…と朝っぱらから三人で盛大なため息を吐いてのスタートになってしまった。

さてさて、どうなる事やら…。

次回は小さくなった唯が桐生家の男二人に遭遇の巻。

秀人を主役でお送りします。お楽しみに。

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