第二話
第二話
「……はぁ。お前、聖剣はどうした」
「あそこに捨ててきた」
「拾え。国宝だろう」
ゼノヴィアは呆れ果てながらも、その白く細い指でノアの柔らかな銀髪を梳き始めた。こうなるともう、魔王と勇者の対峙というよりは、大型犬に甘えられる飼い主の図である。
「ねえゼノヴィア、もう世界征服とかやめたら? 私が養ってあげるからさ」
「逆だろう。お前は今、私の城で私の菓子を食い、私の膝で寝ている。養われているのはお前だ」
「あ、そっか。じゃあ、一生飼って?」
ノアが上目遣いで、澄んだ綺麗な瞳を向けてくる。
ゼノヴィアは心臓が跳ねるのを感じた。魔族の心臓は強靭なはずだが、この「光の属性」全開の笑顔には、どんな禁呪よりも強力な破壊力がある。
「……お前は、本当に恥ずかしいやつだな」
ゼノヴィアは顔を赤く染め、長い耳をパタパタと動かしながら、強引にノアの視線を逸らすために彼女の頬を指でつねった。
「いたいっ! でも、ゼノヴィアが照れてるから許す!」
「照れていない! 殺意だ!」
「嘘だぁ。心臓、トクトク言ってるよ?」
ノアがゼノヴィアの豊満な左胸に耳を寄せると、魔王はついに限界を迎えた。
その後の展開
結局、その日も「決戦」は行われなかった。
代わりに、魔王城のキッチンでは、ゼノヴィアが手際よく作った(勇者好みの)パンケーキが振る舞われたという。
魔王城の窓から見える夕日は赤く、二人の影は仲良く一つに重なっていた。
「ねえ、明日の朝ごはんはフレンチトーストがいいな!」
「……卵の在庫があればな」
人類の希望である勇者は、今日も魔王の胃袋と優しさに、完全に攻略されている。




