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旅立ち編_第一章_5_脱走

昼までにという話だったが、目が覚めた時間が早かったため、姉に指示された事は朝食前に終わってしまった。

移動、とのことなので愛用している日用品、香水や化粧品も詰め込んである。


ようやく自室待機も終わり、別の場所への移動にでもなるのだろうか。姉いわく、ここは研究施設で戦う人間の専門の場所はまた別にあるらしい。駐屯地だったか。


母と姉が一緒であればどこでもよかった。ようやく息苦しい自室待機が終わるのだ。


『……ご機嫌ね』

「うん」


対して、姉は疲れている様子だ。母と準備でもしているのか。


「姉さんは知ってたの?」


なんとなく聞いてみた。


『昨晩に言われたのよ……詳しいことは、母さんから聞いて……』


ため息混じりの声で返事が返ってきた。ミヤビが寝たあとだとすると、夜の1時過ぎだろうか。人のことは言えないが、ほとんど寝てないということだろうか。


「時間まで寝てる?」

『そういう訳にもいかないのよ……』


母が朝食を持ってくるまでの間、他愛のない会話をした。いらぬストレスからの開放されて、先程までの鬱屈とした気分はどこかにいっていた。


新しい環境や場所よりも、これからも母と姉と自身が共にいられる。その安心感がミヤビにとっての幸福だった。


『そろそろかしら』


気付けば、そろそろ母が朝食を持って来る時間だ。鼻歌でも歌い出しそうなミヤビの様子に、セイカは頬が緩む。


母の説明が雑だった場合、セイカがフォローしなければならない。


「ミヤビ、入ってもいいかな?」


インプラントの通信機に母の声が入り、ミヤビはベッドから跳ねるよう立ち上がった。


「うん」


ミヤビの返事から、ロックを解除する分だけ少し遅れて扉が開いた。


機嫌の良さそうな母がキッチンワゴンを押して入ってきた。後に小銃を携行した男……警備兵の男が気味が悪いといわんばかりの表情で母を見ている。


その男に、ミヤビは少しムッとするも、今日は機嫌が良いので不問とした。


母は、少し顔が赤い気がする。


「母さん。顔、赤い」

「む……。顔に出ているかい?いや、支障はないよ」

『なんですって?』

「あっはっは……」


姉が怖い声を出すが、母は気に留めた様子もなく笑った。どことなく様子もおかしい気がする。


後の男も呆れた様子だった。

ミヤビが訝しげに眺めていると、母と目が合う。


「おや、もう準備できてるんじゃないか」


ミヤビを上から下まで撫でるように見ると、母は顎に手を当てる。


「……ふむ」

「……博士、さっさとしてくれませんかね」


この男の役割りは母の護衛だった。謹慎状態の制限解除個体が暴れたり反抗した際に非戦闘員の博士を守るのが任務だ。

だが、この施設の人間はミヤビの訓練の様子を見聞きしている者がほとんどで、男も博士やミヤビとの接触は最低限で済ませたいと考えていた。


酔っぱらいの奇行で長引かせられるのは懲り懲りだと思っただろう。


男が急かすと母は頷いて、おもむろに白衣の内ポケットに手を伸ばした。


「そうだね。私もせっかちな方だ」

「だから……」


乾いた発破が狭い部屋に響いた。


「がっ……は?」

「ふむ。これだけ近ければ、私でも当てられるものだね」


その護衛対象から突然、撃たれるなど想像していなかった。いや、舐めていたというのが正しかった。


ボディアーマーのない太腿を撃たれた男はその場に崩れ落ちる。


「はっ、博士…何を…?」

「いや、想定にはあったはずだよ。私が2人を連れて逃げ出す事くらい」


答えつつ、立て続けに2回発砲する。うち1発は男の眼球を撃ち抜いた。かろうじて起きていた上半身も倒れ伏し、男は動かなくなる。


ミヤビは母の突然の凶行に硬直し、母は男が動かないか様子を見ているのか、数秒、沈黙に包まれる。

沈黙を破ったのは姉だった。


『何やってるのよ!!』

「ああ、セイカ。ちゃんと殺せたかな?これ。監視カメラで確認できるか?」

『話を逸らさないで!計画では昼からの話だったでしょ!?』

「……どういうこと?」


姉は母の凶行の意図をわかっているらしい。現状、ミヤビだけが仲間外れだ。

ミヤビの言葉に母が清々しい笑みで答える。


「ああ。逃げるぞミヤビ。これは命令だ」

「逃げる?」

「ここにいると、セイカもミヤビも処分されてしまう。私はそれを良しとしない。だから逃げるのさ。さあ行こう」


話しながら、死体の小銃をミヤビに手渡す。監視カメラから見えるミヤビの夢心地な表情をしている。さながら、白馬の王子を見る村娘のようだ。


母は母でやりきった表情をしている。

セイカは頭が痛くなった。


『目的だけじゃなくて、詳細の説明もしなさいよ』


母への叱責の後、姉は簡潔に説明をしてくれた。


『2人はミヤビの機体、ジョロウの奪取が目標よ。狭いと思うけど、母さんも乗せたら離脱して。私は陽動として動くから、そっちのサポートはできないわよ。』

「姉さんは?」

『こっちは何とかなるし、こちらから見つけるわ。たぶん、しばらく通信もできなくなるから、ミヤビは母さんを守ることだけ考えなさい』


----------


心配など無用と言い切り、セイカは通信をきった。どうせしばらく使えなくなるからだ。


2人は何とかなるだろう。この研究施設の人間にとって本当に恐ろしいのはミヤビよりもセイカの方だからた。


『制限解除個体00からツチグモへ。システム起動』


母は逃げると言い切り、その証明としてセイカの機体……ツチグモの権限を全て自身からセイカに渡していった。


無理矢理奪うことができない訳ではなかったが、母がセイカの扱いに関して好きにできた理由はセイカが扱うシステムの上位権限者となっていたからだ。


母が死ねば、最上位は制限解除個体00となり暴走する。00は母の指示しか聞かないし、母に危機が迫っても同様だと……ほぼ脅迫に近い。


格納庫にはツチグモと並ぶように無人兵器の指揮車両であるコロニーが並んでいる。


コロニーは無人兵器の指揮車両兼輸送車両だ。


牽引車両と繋がったツチグモと同等の車幅と全長を持ち、アント20機、スコルピウス2機、クラッドビートル1機を積載している。……クラッドビートルとスコルピウスに関しては連結していると言ったほうが正しいかもしれない。


コロニーの機関車両に覆いかぶさるようにクラッドビートルが、貨物車両の上面にはスコルピウスが器用に覆いかぶさっている。


計5機のコロニーが無人兵器を満載の状態でホコリを被っていた。彼らの本来の役割は、前線の無人兵器達の予備機、予備パーツだった。


表立った作戦行動がない状況で無改造のままツチグモと温存されていた。


『……どの程度で警報がなるのかしら。不用心ね』


その分、セイカはしっかり準備をさせてもらうこととする。

警報が鳴ってしまえば、無人兵器が連携を取れぬようECMで本格的に通信ができなくなってしまう。


同格納庫のコロニーにアクセスし、識別信号をとアクセスコード上書きする。ジョロウにもアクセスし、識別信号を合わせる。


『通信をレーザー通信に。ひとまずアントだけでいいかしら』


セイカの指示で、1機のコロニーの側面ハッチから20機のアントが這い出してきた。


そして、ようやく警報が鳴った。

読んでくださったあなたへ感謝を。

3人の倫理観……死体などへの耐性について余談。

非戦闘員だが、そもそも人を培養するような研究をしているので無敵。


セイカ

施設のカメラや無人兵器越しに見慣れている(だいたい母とミヤビのせい)


ミヤビ

サバイバル訓練などで動物の解体から、奴隷を使った対人訓練もしており無敵


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