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旅立ち編_第一章_4_母と姉妹

「姉さん。起きてる?」

『……起きてるわよ。どうしたの?』


インプラントに届いたミヤビの通信にセイカは答える。

必要な時以外は時間帯を気にしないため、ミヤビの言葉で深夜帯の時間だと気付いた。


「暇……」

『もう寝る時間じゃないの?』

「……眠くない」


模擬戦が終了してから、ミヤビには母から自室待機の指示が出ていた。妹にとって母の言いつけは絶対である…が、ストレスがたまらない訳では無い。


もう1週間経っただろうか。セイカにとって外に出れないのはいつものことだが、妹にとってはそうではなかった。


『だったら、こっそり出かけてしまう?』

「……それはダメ」


妹は拗ねたような声を出すも言いつけは守る方針らしい。

様子を見れるかと、セイカは通信モバイルのカメラにアクセスしてみる。すると、枕に顔を埋めながらこちら……モバイルの画面を見ているミヤビの顔が見えた。


『モバイルなんて見てたら余計に寝れないわね』

「むぅ……」


ミヤビのモバイルカメラが暗転する。どうやら何処かに置いたようだ。


「訓練も試験も終わったんでしょ」

『そうね』

「いつまでこうしてたらいいの……?」

『そうよね』

「……姉さんは知らないの?」

『私にも知らないことはあるわね』


むしろ知らないことの方が多いかもしれない。


『……母さんに聞くしかないと思うわ。食事の時に聞いてみたら』

「……姉さんは聞いてないの?」

『聞いたけど……誤魔化されたわね。ミヤビからも聞いてみてくれない?』

「……姉さんでダメなら、私じゃダメ」


妹にとって、姉のほうが母への発言権がある認識のようだ。


『……愚痴くらい聞いてあげるわよ?』

「……うん」


セイカの言葉にミヤビはポツポツと愚痴をこぼす。シャワーを浴びすぎて髪が傷んだ、ゲームはもう飽きた、動いてないため少し太った、操縦の腕がなまるんじゃないか……などなど、妹が寝付くまで他愛のない愚痴を聞いていた。


愚痴の代わりに寝息が耳に入るようになった。起きる様子がないか、しばらく耳を傾けていたが通信を切った。


「……ミヤビか?」

『そうよ』


隠れるように黙っていた母の言葉に、セイカは嘆息する。母はアルコールが入っており、少し顔が赤い。


「今は駄目だ。こんな状態で話はできない」

『私にはいいわけ……?』

「セイカに、隠し事はできないだろう。この施設で」


母はセイカが施設のあちこちに不正アクセスしていたことに気付いていたようだ。気付いた上で放置していた。


『それ、監督不行届って言わない?』

「セイカの能力は、私が求めたものだ……。その成長に水を差したくなかった」

『研究凍結にされちゃ、意味ないんじゃないかしら』


セイカの言葉に、母はアルコールの入ったグラスを強く握りしめた。


母いわく、あの模擬戦のあと、相手の男にセイカとミヤビ……制限解除個体の実験について危険性を誇張して上に報告されたとのことだ。


「あいつらは、セイカの可能性が分かっていない。君は……脳の機能すら機械に代替できる……可能性が……。それは人の、肉体に囚われない進化の……」

『はいはい』


誇張だろうか。ツチグモのセイカの能力は部隊を統括するだけではなく、権限すら奪うことができる。理論上は、無限に群体を拡張していける。


意識したことはなかったが、言われてみると怪物のような能力だ。無人兵器の直接な操作は6機までだが、権限を奪い指揮官として自律AIに指示を出すだけなら上限はない。


『私のせい、なのかしらね……』

「それは違う」


あの模擬戦でクラッキングを使わなければ……と思ったが、母はピシャリと否定した。


「遅かれ早かれ、こういった手は使ってきたさ……」

『……それで、私達は処分かしら』


セイカの言葉に、母は弾かれたように顔を上げた。図星だろうか。


「……あと1週間で、あの男の部隊が回収に来るそうだ。封印し、解析するというが……」

『事実上、処分ということなのね』


母はセイカの答えに口をつぐんだ。沈黙もまた答えというべきか。


このオンライン上での自由すら奪われたら、自分はどうするだろうか。生きているのか死んでいるのか分からない状態で拘束される……たぶん、生きることをやめるだろう。


しかし、母に処分がないということは、よほど母の研究を重要視しているのか。


「……セイカ」

『何?』

「……ミヤビを連れて、逃げてくれないか」

『無理よ』


母の世迷言をひと言で否定する。当たり前のことを言ったつもりなのだが、母は眉根を寄せた。


こんな表情をする母を見たことなどあっただろうか。


『……私、変なこと言ったかしら?』

「なぜだ。セイカの性能なら容易いはずだ」


容易いかどうかは分からない。そもそもセイカのような無人兵器を統括指揮を取る個体やシステムを研究する施設で対策がないとは思えない。


しかし、セイカの挙げる不可能理由はもっと単純だった。


『ミヤビは着いてこないわ』

「あの子は素直な子だ。言うことはなんでも……」

『あなたの言うことだから聞くのよ』


親の心子知らずというものの、逆もまた然りだ。


『私の言うことは、あなたを蔑ろにしない範囲でなら聞いてくれるわ』

「2人が逃げたところで、私が処分されるわけでは……」


やはり分かっていない。そういった合理的な、論理的な話や判断ではない。


『私は脱走なんていくらでも考えたし、ミヤビにも話したわ』

「それは……」


この母親からしたら、母と呼ばせていてもミヤビもセイカも実験室で作った作品でしかない。


『あの子は、あなたが傍にいなくなることを許容しない……しなかったわ』


しかしミヤビにとっては、この女は本当の母親だった。


「……独りででも逃げようと思わなかったのか?」

『……独りで生きていく勇気なんてなかったわ』


セイカはミヤビの母に固執する姿を否定できなかったし、馬鹿にもできなかった。

セイカ自身も妹の固執している。ミヤビの姿で自覚することになった。


セイカの言葉を、母は呆然と聞いていた。


「……そうか。私が、君達を縛っていたんだな」


自嘲気味に母が呟いた。

母のその様子に、セイカは眉間にしわを寄せた。


『変なこと考えないで』

「いや、私は冷静だよ」


何が腑に落ちたというのか。酒をあおって取り乱していた母は、普段の落ち着いた様子に戻っていた。


「なら、私がミヤビに命令しよう。母を連れて逃げてくれと」

『……本気なの?』


いつも通りの自信家な研究者の母に見えた。

だが、母がここを捨てるということは、


『研究を捨てるのと大差ないわよ』

「いいや。2人が生き延びてくれれば、私の勝ちさ」

『……どういうことよ?』

「思い立ったら吉日と言うし。明日にしようか」

『は?』


母の突飛な言動に追い付けない。


「明日の昼だな」


そう一言いうと、母はグラスを煽って簡易ベッドに横になってしまった。


----------


いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

ミヤビは通信モバイルの画面で時間を確認する。


朝の4時。


起床の時間にはいささか早すぎ、二度寝しても充分に眠れそうな時間だ。


眠れるかは別問題だが。

実戦形式の模擬戦を終えてから、無期限の自室待機。


待機の指示はあっても、期限もなくいっさい外に出てはいけないという指示は初めてだった。


母が日に3度食事を持ってきてくれる。むしろ訓練や機体の試験を行っていた時より、ゆっくり顔を合わせる時間も増えていた。


しかし、日が経つほど漠然とした不安が増していった。その結果として、昨晩、姉に愚痴をぶつけてしまった。


姉は、嫌がる様子も見せず聞いてくれていた。基本的に姉は、ミヤビに肯定的で、優しく、彼女が分かる範囲でだが質問や相談も受けてくれる。


母も、何かあれば姉に相談しなさいと言う。

それでも、どうしても相談できないことがあった。


ミヤビには恐ろしい事が2つあった。


1つ目は、母がいなくなる、または嫌われることだ。

だから、良い子であり続けている。言いつけは守るし困らせるような事は言わないし、しない。そうすれば傍にい続けられる。対価として褒めてもらえるし甘えることもできる。


この場所で、母以外の人間がミヤビに対してよい感情を持っていないことは分かっていた。おおよそ、忌避しているか不埒なことを考えているか。


母だけが居場所なのだ。だが、だからこそ聞けないことも多い。それに答えてくれるのは姉だった。


2つ目は、あれは本当に姉なのかということだった。

これまで顔も見たことがなければ、どこにいるのかも知らなかった。


幼い頃、無邪気にもどこにいるか聞いたことがあった気がする。ガラスの中とか、抽象的な答えでかわされた覚えがある。


同じ事を聞く勇気はもはやなかった。唯一の救いは、自身の妄想の類ではないということだろうか。姉……彼女との会話は襟足のインプラントに内臓される通信機を介してのものだからだ。必ず振動で通知が来るし、こちらからも繋ぐ事ができる。


また、姉はどうにも母を嫌っている節がある。ところどころで、母に対してはトゲがある気がしていた。母はその態度を意にも介さないが、姉を信頼しているようだ。この前の模擬戦も、最後は姉に助けられた。


姉はミヤビを1番に考えてくれている。願望を叶えてくれようとしてくれる。何度か、何もかも捨てて逃げないかと言われたことがある。その願望が全くないと言うと嘘になる。


姉は妹を正す天使でもあり、誘惑する悪魔でもあった。


……機械に人の真似事をさせることもできる。

姉の正体については考えないことにしていた。


姉と名乗ってくれている以上、妹として助けてもらい、甘えることに何のデメリットもないのだ。


漠然とした不安が、今までの不安を増幅させて余計な思考を回している。思考を遮るように目を閉じ、枕に顔を押しつけた。


『あら?ミヤビ起きているの?』


通信が入って、姉の声が聞こえてきた。繋いで返事を返す。


「うん」

『そう……。なら、ちょっといいかしら』

「うん」


ミヤビが肯定すると、姉はため息交じりに口を開いた。

姉が煩わしそうな感じを出す時は、母から伝言を頼まれた時にする癖だ。


『換えの服と……下着も持ち出せるようまとめて欲しいわ。服は……歩兵訓練用のものはあるわよね。ボディアーマーも付けてね』

「……?生身の訓練でもするの?」


姉の言葉に、ミヤビは首を傾げた。

今回も、読んでくださったあなたへ感謝を。


会話パート?です。

次はまた戦闘に入っていく予定です。ここから2人は否応なくもともといた場所と外の世界を意識し、考えないといけなくなっていきます。


引続きお付き合いいただけると幸いです。

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