旅立ち編_第一章_3_最後の模擬戦3
完全自律型スコルピウス
資料の内容も黒塗りだらけ。母の言葉も曖昧な点が多く異質な機体だとは考えていた。
それが相手として目前に3機運び込まれてきて、その印象は解消されるどころかより強まることとなった。
見た目は通常のスコルピウスと変わらない。4脚に装甲を持ったマニピュレーター。
背中の砲は機関砲を背負ったものが2機。
長距離砲を背負ったものが1機。
その機体達はトレーラーの牽引車両に厳重に固定されていた。転倒を防ぐためのものではなく、各関節、高速移動用のランドローラーまで勝手に動くことのないように縛り上げていたのだ。
「なんなのあれ」
ミヤビが1人ごちる声が耳に入った。
あれはもはや拘束と言ったほうが正しい。
カウントダウンの終了と共に、分離ボルトに点火される。その拘束が解かれる。
それが戦闘開始の合図だった。
『ミヤビ、慎重に行くわよ』
「うん」
敵方向に対してクラッドビートル2機が前に出る。ミヤビのジョロウはその後ろに隠れる形の陣形を構成する。
この模擬戦でチェスで言うキングはミヤビのジョロウとなる。戦力的にはクイーンでもあるが、機体に大きな損傷を負っても実戦投入に支障が出る。
母が言うには研究を盗むような手合いだ。時間を与えると何をされるか分からないというのがセイカの考えだった。
そのため、今回の戦法はシンプルかつ堅実なものだ。
クラッドビートルの大盾を城壁にみたて戦線を構築し、徹底して正面からの撃ち合いの形にする。
入り組んだ市街戦ならともかく、障害物が並んだ程度の演習場で、遊撃戦を得意とする軽装機体がされたくない戦法のはずだ。
クラッドビートルの盾は長距離砲本来の弾丸でも抜けない堅牢で重厚なもので、この無人兵器の名前の由来となっていた。
「つまらない手ですね」
管制塔に繋いでいる通信からそんな声が聞こえたが無視する。
相手のスコルピウスも即座に飛び出すことなく、様子を伺うようにロックオン用のレーダーを照射してきた。
セイカの耳と視界に音と警告文でアラートを伝えてくるが、すでに盾は構えている。
クラッドビートルも機関砲を撃てば有効射程内ではある。ただ、この距離ではすぐに避けられ牽制にもならないだろう。
完全自律型スコルピウスは身動ぎしながら、盾で武器も機体も隠すクラッドビートルへレーダー照射の挑発を続ける。
「目配せしてる……?」
『え……?』
敵機に無駄な動きが多いとは思っていたが、ミヤビの言葉にセイカも敵を注視する。
そもそも無人兵器は機械だ。
跳躍や歩行など予備動作が必要な行動を除き、その場で静止し通信を行っているだけであれば微動だにしないのが普通である。セイカが操る場合のスコルピウスも同様だ。
完全自律型と聞かされた3機の異質な点の1つだった。無駄な足踏みや可動装甲を打ち鳴らしたりなど動物のような動きをするのだ。動物の本能を模したプログラムの話は聞いたことはあるが、実験機ならともかく実戦用の機体に載せる意味がない。
ミヤビの言葉を意識して相手のスコルピウスを見ると確かに、人が目配せやコソコソ会話をしているように見えた。
まるでそういう形をした……
『っ……来るわよ!』
余計な想像を言葉でかき消す。背筋が泡立つ感覚が不快だが、今考えるべきことではない。
実際、相手のスコルピウスも動いた。
長距離砲が火を吹いた。目で見て避けられるものではない。間髪入れずにクラッドビートルの大盾に直撃した。
甲高い金属とともに、跳弾した砲弾が明後日の方向に飛んでいく
貫通する威力ではない。
受け止めた右翼のクラッドビートルが衝撃でわずかに傾いた大盾を構え直す。
初撃は射撃精度の問題で相手からだろうことは予想していた。問題は残りの機関砲を積んだスコルピウス2機の動きだ。
「突っ込んでくる!」
ミヤビの言葉とともに豪雨のように弾丸が降り注ぐ。
『正面からくる気!?』
機関砲をフルオートで掃射しながら2機のスコルピウスは肉迫していた。障害物など無いも同然に弾丸で吹き飛ばし、または跳躍し、脚部のローラーも使用して最大戦速で突進してくる。
降り注ぐ弾丸の中に時折重い砲弾が混じっている。見れば、長距離砲のスコルピウスは後方で脚部アンカーを地面に突き刺し精密射撃姿勢を取っていた。
『こじ開けるつもり……?』
「迎撃、いつでもいける。」
ジョロウは4本のサブアームの先端……迫撃砲の砲身と両手の機関砲を放射状に広げるように構えていた。
突撃してきた相手はクラッドビートルを避けるしかないはずだ。妹なら、どの方向から来ても先制を取る形で対応してくれるだろう。
培養槽の中で妹の研鑽を見てきた。模擬戦の相手をしたこともあった。
『任せるわ』
肉迫するスコルピウスはいよいよゼロ距離まで迫っていた。跳躍か。進路変更か。
予想される動きの先をシミュレーションする。
スコルピウスは目前で脚部を折り畳み、身を屈めた。
跳躍の前動作だった。
『跳んでくるわよ!!』
クラッドビートルを飛び越える気だと、そう思った。
「姉さん!前!!」
違った。スコルピウスは高く飛び上がらずクラッドビートルに突っ込んできた。
ミヤビの声に助けられた。反射的にクラッドビートルの姿勢を低くし大盾の下部を地に付けたことで、盾を持っていかれることはなく、2機のスコルピウスを受け止める事ができた。
砲弾の衝撃を受け止められる馬力を持つクラッドビートルだが、スコルピウスに腰掛けられ転倒する状況となると大盾を捨てるしかなくなる。
機体自体の装甲も薄くはないが、長距離砲の威力には耐えられない上、訓練用の弾丸とはいえ直撃判定をもらうことになる。
目論見通りにいかなかったスコルピウスは……
『よじ登る気!?往生際の悪い!!』
クラッドビートルの盾に傾斜が出来たのをいいことに、足場にしようとしていた。これだけ近いと、ミヤビも迎撃できない。
セイカは反射的に動いた。動いてしまった。
クラッドビートルの屈んだ機体を起こすと同時に大盾を振るい、スコルピウスを引き剥がした。
大盾の構えが解け、長距離砲を構えていたスコルピウスが視界の中心に移った。
『しまっ……』
直撃をもらう……と思った瞬間に視界が暗くなった。
見慣れた機体の後ろ姿が目の前に着地した。
『ミヤビ!?』
甲高い金属音が響いた。
「大丈夫」
機体は健在だった。跳弾した弾が天高くに消えていく。弾道を予測し、傾斜をつけて盾を構えたのだ。
相手が構えを解いたクラッドビートルを狙っていたことが解ったからこそ、できた芸当だろう。何度もできることではない。技量の問題だけでなく、サブアームや装甲の接合部にダメージは蓄積される。
ジョロウはそこまで耐久力に優れた機体でもない。
2射目、3射目となるほどリスクが高くなる。
「突っ込む。姉さん援護して」
『っ……』
ミヤビは言葉よりも先に、スラスターを吹かし、サブアームの迫撃砲を前方にばら撒くように発射していた。
意図を理解し、セイカもクラッドビートルを吹き飛ばした2機に向けた。
機関砲が火を吹く。
機関砲の射線が、スコルピウス2機の移動方向を制限させる。ミヤビを追跡させないためだ。
ミヤビはジョロウを最大戦速で突貫させる。
狙いはバレているだろうが、フルオートで発射される弾丸の中に軽装のスコルピウスが無策に飛び込めば蜂の巣になるだけだ。
『無理だと思ったらすぐに下がりなさい』
「うん」
相手はどう動くかが問題だった。
無人兵器ならおそらく愚直に長距離砲を構え続けているだろう。だが、相手は完全自律型と言われる特殊な機体だった。
「……やった」
そして、1番されたくなかったのは愚直に待ち構えられていることだった。
しかし、相手は人のように、さらに奇抜な作戦行動をとる機体だ。
射線がバレ、視界が塞がれた狙撃手がとる行動。
それは射点の変更。
「判断が遅い」
射点の変更にしても、ミヤビが考えていたよりも移動していなかった。
まだアンカーを収納したところだろうか。
自分であれば、迫撃砲の爆炎で煙幕をはられた時点で移動を決めたと思った。
慌てて砲身をこちらに向けようとしたのも判断ミスだ。逃げる選択肢を取れば初撃でやられることはなかったのに。
ジョロウの携行する機関砲が火を吹いた。
片腕で携行できるサイズのものだが、このゼロ距離で、軽装であるスコルピウス相手には充分な威力だった。
弾薬に糸目はつけない。フルオート。
相手のスコルピウスは防御姿勢をとるが、軽装機の上面や関節部の強度などしれている。
掃射の衝撃に姿勢を崩し、四肢が吹き飛び、スクラップとなっていく。
「終わり。次」
長距離砲の砲身を地に付け、スコルピウスは動かなくなった。しかし、ミヤビは動かなくなった機体に向け、駄目押しに迫撃砲を叩き込む。漏れたオイルに火が付いた。
高火力の長距離砲を後から撃たれるわけにはいかない。迫撃砲の衝撃で、四肢を失ったスコルピウスの胴が横転するのを見届けて、ミヤビは満足した。
『ミヤビ!そっちに行ったわ!!』
姉、セイカの声にミヤビは即座に踵を返した。
2機のスコルピウスがクラッドビートルを無視してこちらに突貫してくるところだった。
クラッドビートルの弾幕を無理に突破したのか、1機は脚部が3本となり、1機は機関砲の機関部が被弾したのか牽制の射撃すらできていない。
「どういうつもりなの……?」
武装を失ってまでこちらに突貫してくる意図が分からなかった。
機関砲が生きているスコルピウスの牽制をサブアームの装甲でいなし、もう1機にはこちらの機関砲で迎撃する。
脚部は健在のようで重い背負いものがない分、回避運動が軽快だ。だが、対機動兵器用の武装もなしで何をするつもりなのか。
「速い……!」
『こっちに逃げられる!?』
「無理かも……」
『わかったわ』
会話しつつも姉は動いてくれ、クラッドビートルが敵のスコルピウスを追走する。射線上にミヤビがいるため、射撃は難しかった。
すでに武装がないスコルピウスはゼロ距離に迫っていた。空いているサブアームを叩き付けるが避けられる。
避けると同時にスコルピウスが足下に滑り込んできた。そのまま、長い脚部で器用にジョロウに絡みついてきた。
「こいつ……」
マニピュレーターは射撃武器を自機に向けて撃てるようにできていない。絡み付いたスコルピウスの脚部がジョロウの脚部に干渉して移動も阻害された。
「このまま的にする気……?」
だが4本のサブアームは生きている。2本を地に付けバランサーとし、2本を盾に使えば、姉のクラッドビートルが駆け付けるまでは耐えられる。
だが、もう1機のとった行動は射撃ではなかった。
突貫の速度を殺すことなく突っ込んできた。
「は?」
スコルピウスが盾に使っていた2本のサブアームに貼り付いた。衝撃と脚部への干渉で押し倒される。
反射的にまだ動くサブアームを叩き付けて、後から来たスコルピウスの機関砲は潰したが、動けなくなってしまった。
完全に機体が拘束されてしまった。
「まさか……自爆する気!?」
ミヤビの予想を肯定するように貼り付いたスコルピウスから異音が耳に入った。
『させないわよ!』
セイカも、ミヤビと同じ予想をしていた。
クラッドビートルが駆け付けて引き剥がすとなると、自爆するまでギリギリ間に合うだろうか。セイカは確実な方法を選んだ。
スコルピウスは遠隔操作での運用も想定された機体だ。そして、セイカのツチグモは無人兵器の指揮車両の性能も持っている。
クラッドビートルの通信機を経由して、敵のスコルピウスへ不正アクセスする。
本来の用途ではないが、自分も扱っている機体だけあり、相手のスコルピウスに設定されている波長の検出に1秒もかからなかった。
後はクラッドビートル2機の操縦AIにリバースブルートフォース攻撃用の命令を上書きする。
こちらも本来の用途から外れるが、無人兵器のシステムを統括するAIだ。スペックとしては充分。それを単純作業に全振りする。
伊達に理不尽な引きこもり生活を強いられていない。妹を密かに眺めるのにも苦労が多いのだった。
『……あれ?』
『ーーーーーーー!』
『ーーーー……!!』
予想よりも圧倒的に早く……というか1度目のアクセスできてしまい、セイカは素っ頓狂な声を上げてしまった。
何かノイズのようなものがあるものの、操作権限は得られた。
『ちょっと重いわね……ミヤビ……!』
『ーーーー!!!!』
『ーーーーーー!』
動作が重い……というか、こちらの指示と真逆の指示が同時に出されているようだ。ならばクラッドビートルのAIを駆使して、さらに大量の指示を上書きするだけだ。
「ありがとう。いける!」
ー操縦システムをマニュアルに変更しましたー
機体のシステム音声と共に、操縦形式が切替わった。
これでマニピュレーターとサブアームを自由に動かせる。
まず、機関砲を捨て、脚部に纏わりつくスコルピウスを引き剥がした。姉のクラッキングにより拘束が甘くなっておりマニピュレーターの膂力で充分だった。
機体…ジョロウが立ち上がると、サブアームに取り付いていたスコルピウスも拘束が甘くなっていたため、地に落ちた。
痙攣するような動作をするスコルピウスをサブアームで吹き飛ばす。まだしぶとく立ち上がろうとしているが、こうなってはただの的だった。
動かなくなるまで迫撃砲を浴びせた。
「これで終わり。私達の勝ち」
『そうね……お疲れ様、ミヤビ』
『ーーーー……』
『ー……』
ノイズも徐々に消えていき、セイカも嘆息する。ミヤビは得意気な笑みを浮かべているのだろうか。声色からご機嫌なのが分かった。
「模擬戦……終了します」
呆気にとられたような、呆然としたような声で模擬戦の終了が告げられたのだが。
「貴様!これはどういうことだ!!」
管制塔の方で男が声を荒げるのが聞こえた。
「どうも何も、うちの娘達の勝利しただけだ」
「とぼけるな!!うちの機体にハッキングをしただろう!?」
「私は何もしていないさ。そちらの粗悪品とは違うんだよ」
「機体の性能だと……?そんな機能は報告されていない!!」
この時はまだ、また母と男との嫌味の応酬が始まった程度にセイカは思っていた。
少し長くなりましたが、いったんキリのいいところまできました。
セイカとミヤビにとっては1つのターニングポイントと言ったところでしょうか。
完全自律型の設定は……この手のメカものが好きな人はだいたい予想できているかもしれません。
今回も読んでくださったあなたへ感謝を。
以外設定
ツチグモ
輸送車両のような形状をした機体で機関車両が本体で無人兵器の指揮車両でもある。牽引車両も専用のもので牽引車両にはMⅢの輸送・整備設備を搭載している。
セイカの培養槽は牽引車両内にあるように見えるが、操縦席でもあるため、本体の機関車両の機構。また、牽引車両が無くても機能する。現在まで、格納庫の肥やしだった。
完全自律型スコルピウス(完全自律型無人兵器)
セイカ、ミヤビの所属する組織で主力兵器として扱われている機体。この組織内では他の中〜大型無人兵器でも同様の仕様機体が存在する。
特殊な自律戦闘用OSを搭載している以外に差異はないが、これにより人のような作戦行動や任務の遂行を行える。
遠隔操作も可能なようだが、不明なノイズが発生する他、動作も重くなる。
もとはセイカ、ミヤビの母が試作したシステムがもととなっており、母いわく有人機。




