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旅立ち編_第一章_2_最後の模擬戦2

ミヤビとの機体装備の相談を終え、データを送った後に母はやってきた。


セイカが収納されている培養槽の部屋だ。

長方形の部屋の中央に人ひとりが容易く入るサイズの培養槽があり、その中にセイカが入っている。身体を固定するアームがセイカを培養槽の中層に留めていた。


ミヤビのインプラントが1箇所であるのに対し、セイカの背には襟足から背骨に沿って6箇所の接続用インプラントがある。襟足にはアームから伸びた太い配線が、背骨はアームが直接繋がってセイカの体重を支えていた。


培養槽の周囲はセイカのバイタルチェックを行う機器の他、なぜか仮眠用の簡易ベッドの他、テーブルとチェア、私物らしき衣類、酒瓶やグラスまでが置かれていた。このあたりは母の私物である。


セイカの培養槽の周りはさながら母の秘密基地のような様相に成り果てていた。

そもそもセイカは性能テストが終了しており、母がゴネたためにミヤビのテスト完了まで配備が保留となっている状況である。栄養剤の補充や排泄用のカテーテルの交換以外で来る必要のない場所だ。


だが、母は時折こうしてセイカのもとへやってくるのだった。


「やぁ、何日ぶりかなセイカ」

『予定がない時は日時を数えないことにしてるのよ』


母の言葉にセイカは素っ気ない返事をする。意識覚醒当初と比べ、セイカから母への感情は冷めたものとなっていた。


明確な1つの理由がある、というよりは様々な不満や嫉妬の累積による感情だ。産まれたことを悲観しないものの、培養槽の中に閉じ込められた環境というものは不便も多く、オープンネットワーク上から知識を得るほど自身の異常さに気付かされた。


セイカは生まれてこの方裸体のまま、歩くどころか地面を這ったことすらない。


無限に感じられる時間の中で、精神と繋がるオープンネットワークとシステムだけがセイカに与えられた自由だ。


そんなセイカのもとに理由はわからないが母は特に理由のない時にも顔を出した。憐憫か、自分の作品を眺めたいのか、定かではないが、会話の内容も世間話だったり愚痴だったりする。


『愚痴だったら聞かないわよ』

「おやおや、反抗期かな。つれないな」

『ミヤビを連れてきてくれたら機嫌がよくなるかも』

「残念ながら、現状ここには私しか入れないようにしてる」


などと言い、勝手に話し始めるのがこの女だ。


「昼に話した、次の模擬戦の話なんだけどな」

『……資料は送ってくれたじゃない』


ミヤビと共に目は通してある。カタログスペックは出力と装甲の質が高いスコルピウスだが、備考には有人機に匹敵する動きができると記載があった。


基本的に無人兵器はAIを搭載していようが命令の遂行優先で融通が効かず、意図しない攻撃には、レーダー照射を受けてからの反応となるため、後手となるのが常だ。


そのため、どのような動きをするかは想像が難しく、セイカが動かす無人兵器や、人に遠隔操作されている無人兵器の動きを想定することにしている。


「相手の無人兵器もね、もとは私の試作品なんだ。私の手は離れているけどね」

『……聞いてないわよ』

「今言ったからね」


母はチェアに腰掛け大仰に肩をすくめる。セイカに睨まれようとどこ吹く風だ。


『ミヤビには……』

「言わないでくれ。あの子は私の作品と聞いたら躊躇うかもしれない。優しいからね」


優しい……というよりは、ミヤビにとって母が全てなのだとセイカは思う。

たしかに、母に関わるものと潰しあいとなると、余計な思考が入り動きに支障をきたすかもしれない。


「セイカ、君を作る前の試作機なのさ。システムとフレームを試作したのみで解体予定だったんだが……」

『……盗まれたのね』

「社内での利用だから、法的にはそうならないがね」


自分、セイカを作るための試作機という言葉に顔をしかめる。この女は自分のような存在をもう1人作っていたということだ。


『それは自律型と言えるの?私の同類なら遠隔操作の無人兵器じゃない』

「そうとも言えるが……。そうだね……あれは有人機なんだよ」


母の言葉にセイカは首を傾げる。そもそもスコルピウスは構造上、人が搭乗できるようなスペースはなかったはずだ。無理やりフレームの隙間に人を入れてどうこうなる話ではない。


『……どういうことよ?』

「……気を引きしめてかかってくれということさ。何。私だって言葉にしたくない事はある」


はぐらかされ、セイカの眉間には深いシワが寄る。それを他所に、母は強めの蒸留酒をグラスに注ぎあおった。


「私にとってはアレよりセイカとミヤビの方が重要だ。容赦なく叩き潰してかまわないよ」

『……言われなくてもそのつもりよ』


セイカの素っ気ない言葉に、母は嬉しそうに微笑むんだ。腑に落ちないセイカは訝しげな表情をするしかなかった。


「……君達さえ完成すれば、アレはスクラップになるだろうからね」


母がかすかに独り言た言葉をセイカは聞き取ることができなかった。


----------


「制限解除個体を2体並べ立てるとは……」

屋外演習場にある管制塔から忌々しそうにこちら……クラッドビートルを睨みつける中年の男と目が合う。いや、クラッドビートルの視界を得ているセイカから見ると、目が合ったように見えただけだ。

会話に関しては通信を傍受して耳にしている。


男はこちらが見聞きしていることに気付いてすらいない。


どうにも、こちらの無人兵器を操作しているのがセイカだと把握しているらしい。こちらも事前に相手機の情報が送られていたので最初から知っていたはずだが、何やらブツブツ文句を言っている。


文句を言いたいのはこちらの方なのだが。

対して母は、


「おや、無理矢理に部隊戦へ切り替えるようゴネてきたのはそちらじゃないか」


セイカの目の前で嫌味を返していた。

母は管制塔ではなく、セイカの培養槽の前で機器とセイカ、ミヤビのバイタルチェックを行なっている。だが、母の助手である研究者は整備士と共にジョロウとクラッドビートルの周りで作業をしていた。


「顔も出さないとは、礼儀も知らないのか」

「こちらは最終試験なものでね。そっちの希望を通すために、ツチグモの戦闘システムを久々に動かしているんだ。万全を期すのは当然だろう」


などと言いっているが、顔も合わせたくないというだけだろう。研究を盗まれたことをよほど根に持っているのか。


表向きには正論であるため、相手は舌打ちをし黙ってしまった。代わりにあちらの部下らしき男たちが怒鳴られるように指示を受けていた。


現在、セイカの視界には5箇所の映像が目に入っている。


まず、目の前の母だ。さすがに仕事中のため、セイカに無駄口を叩くことはないが、相手方に嫌味を吐きつつ作業を進めている。


次に、クラッドビートル2機分の視界だ。演習場でミヤビのジョロウと並んで待機させている。ただ、4脚は馬のような形状ではなく、虫のように放射状に脚を開いていた。

この無人兵器の特徴で、目的に合わせて形状を変化させることができる。さらに盾と上半身を背負うように収納し、甲虫のような姿になることもできる。

今回の武装は盾と機関砲。予備にブレードを腹面……4つ脚の間に分離ボルトで固定している。

助手の研究者が忙しなく動き回り機関砲の動作チェックや分離ボルトの固定状況を整備士に聞き取り母に情報を送っていた。


そして、ミヤビの機体であるジョロウのカメラ映像。妹が何を見て行動しているか、補助のオペレーションを行うために同期している。

ジョロウも全高7mはある機体なのだが、大盾と機関砲を携えたクラッドビートルと並ぶと小振りに見えた。


最後は薄暗い格納庫の中だ。これは格納庫に保管されている"ツチグモ"のカメラ映像で、セイカがいる場所だった。演習場とは離れており、予備機、予備パーツを保管している。また、実験を終えた機体達が眠っている場所でもある。


ツチグモもその中の1機だった。

普通自動車の倍以上の横幅がある、大型輸送車両の形状をしたツチグモのセンサーの明かりが周囲を照らしている。


ツチグモはトレーラーや大型のキャンピングカーのように機関車両と牽引車両に分かれており、母とセイカがいるのは牽引車両の中だ。その牽引車両には、セイカの培養槽と生命維持装置を稼働するための電源と水を供給するため、太いホースと配線が繋がれていた。


母が好き勝手やっている物的証拠でもあるのだが、現状、ツチグモの中に入れるのは母とセイカ……まだ来たことはないがミヤビもセキュリティ上は入れるようになっている。

後者はセイカが勝手に登録したものだ。


ツチグモの周囲に不明な人影はなく、予備の指揮車両のコロニーが無人兵器を満載にして並んでいる。


『さすがにあからさまな妨害はしてこないのかしら』


このような複数の情報の処理、複数の無人兵器のマニュアル操作はセイカの能力でもあるが、ツチグモという電子戦に特化した専用機に接続されているからこその能力だった。

通常の機体、機器であれば、機体の処理能力と回線が渋滞しフリーズしてしまう。


コロニーで死角となっている箇所を確認しようと、隣のコロニーにアクセスする。


「セイカ、流石に模擬戦の方に集中してくれないかい?」


母から指摘を受けてしまった。母は物理的な断線がないか確認していたようで、接続先の増加に気付かれてしまった。


「心配しなくても誰も来ないさ」

「……母さんと姉さん、もしかして一緒にいるの?」


ミヤビから不満そうな声が耳に入った。


「姉さんの機体を久しぶりに動かすからね。ミヤビはこれが終わったら一緒にお風呂に入ろうか」

「うん」


セイカが返答に窮していると母が一言二言でミヤビの機嫌をなおしてしまった。

悔しいが、妹の扱いに関して参考になる。


「博士、クラッドビートルとジョロウの最終確認を完了しました」

「ご苦労。セイカ、ミヤビ、機体の待機状態を解除。クラッドビートルはマニュアル操作。ジョロウはセミオートだ」

「うん」『了解よ』


クラッドビートルのカメラで足下に人がいないことを確認すると、待機状態となっていたクラッドビートルカメラ以外のシステムを起こす。


『武器システムオンライン。オールグリーン。操作系をシンクロ』


機体状態の表示が視界に増える。

2機のクラッドビートルがシンクロした動作で腕部の大盾と機関砲を持ち上げ、その場で足踏みをした。さらに、身動ぎするように全身の動作を確認していく。その動作ですら全く同じ動きをするのは異様に見えるが、1機ごとに行うより効率的だ。


『シンクロを解除。いつでもいけるわ』

「システムオールグリーン。ジョロウ、操縦をセミオートに移行」


ミヤビからの通信が耳に入った。

MⅢのセミオートは操縦桿とフットペダルで簡易的な操作を行える……戦闘のための操作システムだ。


「アレは使わない、でいいんだよね」

『アレは識別信号でのセーフティを無視してしまうから……。ただ、いざという時は自己判断でいいわよ』

「うん」


アレとは人機直結システムのことだ。全操作系をミヤビの脳が掌握するため、誤射を防ぐ安全装置も動作しなくなる。

妹のものはセイカのシステムとは似て非なるシステムだ。


セイカの方は複数のシステムに直接的な指示……コントローラーを同時に操るようなもので、セキュリティは活きており権限が必要である。ロックがかかっていればコードの入力も必要となる。


対して、ジョロウに入っているシステムは機体を機械義手のように人間の身体の一部として扱うものだ。そのため、操作に支障をきたさぬようMⅢのシステムやリミッターを無視できる権限がミヤビに与えられる。警告こそ出るもののジョロウのシステムに限り全て無視できてしまう。


このシステムを使ったジョロウとの連携にはまだ訓練が必要とセイカは考えており、ミヤビも度重なる訓練から危うい部分を把握しているので、反論せず言う事を聞いてくれている。


「相手の準備も整ったようだね」


母の声にセイカは視界を2機のクラッドビートルに戻す。

視界には入っていたが、見ないようにしていたものだ。


『……あれはなんなのかしら』


3台のトレーラーの上に、無人兵器のスコルピウスが獣でも拘束するように鎖で羽交い締めにされていた。勝手に拘束から逃れようとしているのか、鎖が軋んでいる。


整備士だろう。トレーラーの周囲から人が逃げるように離れていく様子が見えた。


「分離ボルト起動のカウントダウン開始。戦闘開始の合図も分離の起爆音でいいかね」

「かまわない。セイカ、ミヤビ。始めるよ」


カウントダウンが開始される。


この模擬戦まで、2人は全力で勝ち続ければ良いのだと、そう思っていた。

読んでくださったあなたへ感謝を。


次からようやく戦闘を書けます。

最後の模擬戦3で"ツチグモ"と"完全自律型スコルピウス"のメモを記載しようかと思います。


引続き読んでいただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

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