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operation.39

「少しは落ち着いたか?」

「……ごめんなさい」


中央エントランスの上階にあるギルドの会議室。

セイカとウェインの2人はそこで膝を付き合わせていた。


特に問題がなければ、倉庫街での打ち合わせでも良かったのだが、姉妹のトラブルで妙に野次馬が集まってしまったため2人は場所を移すハメになった。


「ジパング社のガードにも見られていたからな。俺が今回の件で弁明しないといけなくなった時に協力してもらえるなら問題ない」

「……本当にごめんなさい」


謝罪するも、頭が痛そうなウェインから目を逸らす。そんな様子のセイカを見て彼はため息を付いた。


「妹は同席してないがいいのか?」


「そこは私から話すわ」


「2度目の姉妹喧嘩とならなければいいな」


チクチク痛い言葉だが、今回ばかりは完全にこちらに非があるため何も言い返せなかった。


「……契約だが、こちらが提案しているのはジパング社の強化人間用プラットフォームの開発研究を行っている研究所の実験部隊だ。テスト機体ではあるが、最新鋭の機体と武装が支給され、作戦行動にも参加している。俺からしても雲の上の部署だ」


「それは遠慮したいのよね」


「内容は……読まないタイプではないと思うが、理由を聞こう」


それとなく、セイカのひととなりを掴みつつあるのか、ウェインは問い返す。


セイカもこれが破格の待遇というのは分かる。ただ、その待遇には必ず対価が必要であることも理解しているつもりだった。


「質問に質問で返すことになるけれど、まず、そこまで優遇される理由が分からないわ。ただの契約書に書かれるものではないのかもしれないけれど、そこまでして首輪を着けたい理由を知らずに頷けないわ。

2つ目は、私達姉妹はもともとシンノーシの……隠し研究所とでも言えばいいのかしら。身の危険を感じて逃げ出すのに母が死んだ上、研究所を更地にしても追手の影は消えていない。その二の舞いにはなりたくないと思っているのよ。しかも今回は企業連合の研究施設だから何かあっても逃げられる気もしないわ」

「ふむ……」


セイカの回答に、ウェインは顎に手を当てる。どこまで手札を切るか考えているのだろうか。


少し間をおいて、ウェインは指を2本立てた。


「1つ目には答えられる。ただ2つ目は君達の感情の問題だな」


彼は立てた指を折りつつそう話した。


「じゃあ1つ目は?」

「君達のこれと、君達自身の価値によるものだ」


ウェインは自身の襟足につくインプラントを指差した。


「まず前提からだが、ジパング・インダストリー社は強化人間のインプラント手術をその他企業やギルドに許可を出している。これに関しては過去、ジパング社内の動物実験と人体実験にて比較的安全性を担保されたものを外に出している」


独占できる技術をわざわざ外に出している理由。ウェインが述べたのは3つだった。


そもそも遅かれ早かれ漏洩するため。


猿真似による事故が増えて評判が落ちるのを避けるため。


個人の資質で能力向上が左右されるので、施術者が増えたところで痛手も少なくメンテナンスで逆に利益となるため。


「研究施設が君達姉妹を欲しがる理由は、これの内の2番目と3番目が関係している」


セイカとミヤビに着いているタイプのインプラントは、ジパング社内ではマニュアルタイプと呼ばれ旧型にあたるそうだ。


「具体的に言うとシステム的なリミッターが無い。君達がいた研究所の監視カメラの映像を見たが、あれだけの無人兵器を大量に動かして君自身に異常はなかったか?」


彼の質問に、セイカは思い当たる節があった。


「……頭痛がしたわね」

「……頭痛で済むのか」


セイカの感想にウェインは愕然とする。


「俺が同じ真似をすれば廃人になる」

「……そんなに危険なの?」


今度はセイカの方が目を丸くすることになった。


「脳で機械を使っているが、機械からのフィードバックも当然ありそれに脳が答えている……らしい。俺も専門家では無いが、フィードバックが膨大になりすぎると、その処理に脳の他の機能が割かれてしまうらしい」


脳のキャパシティを超えると脳が自我や思考、記憶に割いている部分を使ってしまい、記憶障害や意識の喪失が起こるというのが専門家の見解で、そうなった人間もいるとのことだ。


あくまで聞いた話だ、彼はと申し訳程度に付け加えた。


アルビオン・バイオニクスのホムンクルスの話も大概だったが、こちらも人道的とは言い難い内容だった。


「……そうなった人達はどうなったの?」


「今もジパング社で働いて貰っている」


「……どういうことよ?」


セイカが首を傾げるが、彼自身もどう説明すべきか悩んでいる様子だった。


「脳機能は処理演算を延々行っているものの生きているんだ。家族の同意を得て飲食排泄を機械化して脳で働き、メンテナンスエンジニアとしての給与を払っている……らしい。申請すれば確認する事もできるぞ。家族の同意はいるだろうがな」


思わず口を押さえる。どういう状況かは容易に想像できた。ツチグモの培養槽の中にいたセイカと全く同じ状態だろう。意識がないだけで。


研究所を見てもらうのが一番早いと言うが見に行きたいとはこれっぽっちも思えなかった。


「……確認は、別にいいわ」


「わかった。そして、もう1つは単純にそれだけ危険なものを平然と使用している君達の資質だ。それを研究所は欲しがっていて、間違って壊れないようにリミッターも着けたがっている。特に君には動かしてもらいたい機体もあるそうだ」


「……私?ミヤビの方が戦闘能力は……」


指名を受けているのはてっきりミヤビの方だと思い込んでいた。


「そっちはそっちで、新しい機体開発をしたいと聞いている。君の方は強化人間用の無人兵器プラットフォームのプロトタイプが空いていて、それを動かして欲しいらしい」


すでにプラットフォームがあるという事は、もともと誰かが動かしていたということだ。


「……それの前任者は?」


前任者はどうなったのか。


流石に聞かずにはいられなかった。


「何十年も前に引退して、すでに亡くなっている。扱える後任者がいないから、研究が凍結されていたそうだ」


廃人になったとかでないのが唯一の救いだろうか。

だが、聞けば聞くほど碌な話ではない気がしてならない。


「……それを聞いて、首を縦に振ると思う?」


セイカの反応に、ウェインは気持ちは分かると頷きつつも反論する。


「あえて言うが、マイナス面を隠さず提示してくれる所も中々ないぞ。実験部隊所属になった場合、最初に行われるのは君達のインプラントへのリミッター取り付けによる安全性の確保からだ」


そうは言われても、断る理由の方を次々に探したくなってしまうような研究内容だった。


「……ちなみに、今ある私達の武装は?」

「最新鋭機が支給され、護衛もある状況で維持する必要があるか?」

「……その辺りを依存するのも避けたいのよね」


いい落とし所はないものかと考える中で、専属傭兵という契約形式を思い出す。


「……専属傭兵契約では駄目なの?」

「……」

「……何?」


あからさまに呆れられて、セイカは思わず眉間にしわを寄せた。そこまでおかしな事を言っただろうか。


「役職付きのスカウトを提示しているのに、FCオーナー契約で働きたいと言われたら呆れもする」

「……そんなに?」


所属すると言っても月とスッポンだと言わんばかりの例を出されてセイカは思わず聞き返す。しかし、頭を振られただけだった。


「いや、まあ、君にとって研究所に対してかなりのマイナスイメージが定着していることはわかった」

「そんなに?」


被害妄想の解消は難しいとでも言いたげな言い回しにまたセイカは聞き返しすが、これも気に流された。


「段階的に信頼関係を気付いていこう。まずは専属傭兵として契約し、テストパイロットの依頼を受注してもらおう」

「それなら……書面で内容をもらいたいわ。ミヤビにも共有しやすいし」


かなり呆れられたことは癪に触るものの、ウェインのあげた妥協案に思わず頷いてしまいそうになった。


セイカの反応に、ウェインは頷き返す。


「うちの研究者とやり取りをしていれば、変態であっても君達を蔑ろにすることはないと分かってもらえるだろう」


「ちょっと待って。変な単語が耳に入ったわ」


今、変態と言ったか。


「研究者とは一癖も二癖もあるものだ 。会えば解る」


その一言で済ますつもりか。


「……研究所の実験部隊が難しければ、教導部隊所属の専属傭兵なり、執行部隊隊長の僚機契約なり選択肢はある」


睨みつけると、ため息とともに言い訳じみた選択肢を出してくれた。


最初にやり取りした時の探りを入れるような問答とは違い下手に出てくることには違和感がある。


「それほど引き入れたいものなの?」


「君と同じレベルでインプラントを入れている人間はジパング社にも一桁しか人数がいない。研究所からすると貴重なサンプルで、実動部隊からすると切り札になりうる戦力だ。欲しがらない理由がない」


物心ついた時からインプラントが着いていたセイカからするといまいち実感がわかない。


だが、この理由が事実なら、セイカとミヤビが敵対企業からの脱走者と分かりスパイの疑惑が晴れたことで、内部から是が非でも契約してこいと言われているのかもしれない。


「……正直に言うなら、誰かが仲介に入らないと研究所と執行部隊で君達の競りが始まってしまう」


そして内側は一枚岩ですらないようだ。


「専属傭兵としてなら、まずは教導部隊の隊長として君達と専属傭兵の契約を結ぼう。この場合、能力的にアルフレッドとの小隊編成となる。君の妹には我慢してもらうことになるかもしれないが」


彼はミヤビとアルフレッドの仲が悪いと思っているらしい。そう言えば、2人がやり取りしている時に限ってウェインがいなかったように思う。


「それだと、貴方に矛先が向かないかしら?」

「……第三者が手綱を握った方がいい場合もある。片方に任せると独占しようとしかねない」


とは言うものの、彼の眉間には酷くシワが寄っていた。


彼はこの先の苦悩から目を逸らすように頭を振った。


「仕事内容も傭兵のままで煩雑になるが……君達の希望だ。最初の予定としては研究所でインプラントのデータ収集とリミッターの取付。教導部隊の訓練への参加。執行部隊の強行偵察任務と選り取り見取りだぞ」


「……スケジュールによるわね」


「基本、アルフレッドのスケジュールに追随する事になる。身体が2つ3つ必要になるような事にはならない。アルにしても、俺以外と連携を取るいい機会になる」


話す内容としてはこれくらいかと、ウェインは一息ついた。


情報量は多いが、どれもプラス要素になり得ないものが多くて困る内容だった。良いニュースとしては、契約すればこの先しばらく金銭的に困ることは無いということくらいだろうか。


それだけ悪いニュースのインパクトが強い。


「顔合わせは……まぁ、教導部隊の隊長は俺で、執行部隊の隊長とも君達は会っている。研究所は最初の仕事だから問題はないか」


「……え?執行部隊とかは知らないわよ」


そんな物騒な名前の部隊と絡んだ覚えがなかった。


「ここに来てすぐ、訛りの強い黒い女に絡まれていただろう。あれが執行部隊の隊長だ。名前はエマ・タマモノマエという」


そう言えばそんな事があった。


「あの女か……」


ボソリと、セイカは独りごちた。

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