operation.38
アルフレッドに相談相手になってもらいかつ、弄ばれた結果として、ミヤビは家に戻ってきていた。
少年は必ず許してもらえると言っていた。何の保証もなく、まだ会って間もない少年が。
まずは謝ろう。自分の部屋のベッドで膝を抱えつつ、そう考えていた。
ミヤビが戻っていることはアルフレッドがセイカに伝えてくれてあるとの事だ。
「……そう言えば、前にもこんな事あった」
初めて姉と対面した時だ。自分は姉に酷いことを言った。そして、閉じこもっていた。そんな態度だったのに、姉は迎えに来てくれたのだ。
ミヤビは立ち上がって部屋を出た。
出迎えるくらいはできないだろうか。
2LDKの部屋のキッチンに向かう。冷蔵庫を開けると、まだ食材はそれなりに残っていた。
「……簡単なものなら作れる」
セイカが帰ってくるまでまだ少し時間があった。
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「今日はいろいろとありがとう。助かったわ」
「どーいたしまして。まぁまた飯でも奢ってよ」
妹が先に帰っているため、セイカはアルフレッドに家まで送ってもらうことになった。
カズサ達の次に、少年には世話になっている気がする。
「でも、ミヤビと話したことは教えてくれないのね」
「それ話したら、俺とあいつで喧嘩になるか、マジで嫌われるかのどっちかだから」
アルフレッドの言葉にセイカはほくそ笑む。
妹に嫌われたくはないのか。それとなく少年と妹の関係は進んでいるような気がした。
「……何?」
少年が首を傾げる。気付かれてしまったようで不審そうに顔をのぞき込んできた。
「別に……名前で呼ばないのかしらと思っただけよ」
「む……」
誤魔化すつもりでの発言だが、アルフレッドからすると思うところがあった部分のようで、口をへの字曲げた。
「あ、2人きりの時は呼んでたり?」
「呼んでないけどさ……なんで2人きり……?呼び方なら今のままでもお姉さんと区別はつくし……」
照れている。年齢的に、まだ異性に興味や関心が無いのかと思っていたがそうでもないらしい。
「名前で呼んでくれた方が、妹も嬉しいと思うわ」
「そう?馴れ馴れしくない?」
どうやら適度に距離を取っていたつもりのようだ。
「そんな事ないわ。それに、この先一緒に仕事をするなら必要だとも思うのだけど」
「あー……、そっか。そうだよな」
ちょっとずるいだろうか。だが、効果は抜群だったようでアルフレッドは腕を組んで頷いた。
「次からそうする。たぶん、ウェインにも同じこと言われるだろうし」
言い訳つきだが言質をとった。次に妹と共にアルフレッドに会う時が楽しみだ。
「……そんなことより、俺等と働くことまだあいつに言ってないんだろ?それでまた喧嘩とかやめてくれよ?」
「そこは大丈夫よ。ミヤビの方が乗り気になると思うわ」
「だったらいいけどさ。……あいつも待ってるだろうから、立ち話はここまでにしようぜ」
少年葉逃げるように話を切り上げて、姉妹の住むマンションを後にした。逃げられてしまったが、どうにも脈はありそうだ。今後の妹の立ち回り次第だろうか。
「さて……」
ミヤビの相手のことも重要だが、今日はミヤビと話さないといけないことも多い。
そして、昨晩と昼のこともあり気不味い。
だからといって、逃げ場があるわけではない。セイカはマンションに入りロビーを抜け、エレベーターで部屋のあるフロアまで上がり、部屋の前まできた。
こんな時に限って、肉体関係が拗れて男が女に刺されたなどという話を思い出す。その女が言い放った台詞は「お前を殺して私も死ぬ」だったか。
妹に限ってそれはないはずだ。そもそも一線は越えてしまったとはいえ同性である。
余計な事を考えたせいで不安になってきた。
馬鹿な妄想を頭を振って遠くに追いやり部屋に入った。
リビングの明かりが点いていた。自室ではなくそちらの部屋にいるのだろうか。
「……ミヤビ?」
「あ、姉さん」
妹はキッチンに立っていた。包丁を手に持っており、思わずセイカは固まる……が、キッチンに立っているのだから料理をしているだけだ。そのはずだ。
「……おかえり」
妹がカウンターキッチンから出てきた。
……包丁を持ったままだ。
「ただいま……包丁は置かないの?」
「あ」
指摘されて妹は包丁をしまって出直してきた。緊張していただけのようだ。禁断の関係からの「姉さんを殺して私も死ぬ」にならなくてよかった。
「……えっと、ごめんなさい」
先に口火を切ったのはミヤビだった。
「嫌なことして……」
「い、いいのよ。私も、カズサに相談する前にちゃんとミヤビと話すべきだったわ」
セイカが答えて、再び間が空く。
また沈黙になるのは駄目だ。セイカは腹を決めて口を開いた。
「座って話しましょ」
セイカが食卓の椅子に腰を下ろすと、ミヤビも習って正面の席に座ってくれた。
嫌な……気まずい話はさっさと済ましておくべきだ。
「……ちなみに、私とカズサの話はどの辺りまで聞いてたの?」
「姉さんが大きい声、出してた時まで……」
やはり後をつけて……または廻り込んでいたのか。妹に後を付けられたことには全く気付けなかった。戦闘技術の無駄遣いだ。
「……そうなのね」
そして、そこまでしか聞いてなかった、精神的に聞けなかったから家出じみた行動をとったのかと納得できた。今後、妹には下手な隠し事はしない方がいいだろう。
ため息をつくセイカの様子をミヤビは俯きがちに、上目遣いで伺っている。
「……もうしないから」
「ああ……、それは違うのよ。その……私だって、嫌って訳じゃ……なかったのよ」
この辺りのことも、きちんと話すべきだ。だが、すでに顔から火が出そうな気分で心が折れそうだ。セイカは顔を手で押さえて目を逸らした。
姉の言葉にミヤビは目を丸くしていた。
「……そうなの?」
「ずっと……ずっと、培養槽の中でミヤビを見るだけだったから、触りたいと思ってたわ。……上を触ったらまたは下を触ったら、どんな反応するのかとか、声を出すのかとか……考えたこと、ないって言ったら嘘になるのよ」
喋りながら、今自分はどんな顔をしているかと気になるが確認のしようがない。具体的な性的な嗜好など、他人どころか母にも話したことはなかった。
少しだけ早口になっていることだけは自覚できたので、息を吐いて自分を落ち着かせる。
「……でも、倫理的にどうかとも思ってはいたのよ。流石に今回のは……やらかしたと思って、カズサに相談したんだけど……2人で話せって笑われちゃったわ」
セイカは苦笑いする。
ミヤビは嬉しそうにしているように見えた。
「……嫌ではなくても、私達は姉妹なのよ。そういう事をしたって恋人にはなれないし、夫婦にもなれないわ。すでに家族だもの」
「……うん」
釘を差されると、妹は肩を落とした。
「でも、姉妹、同性だから……その、男女なら大きな問題になる部分は気にしないで済むわ。……ミヤビが嫌じゃないなら、その……私も、したいわ」
「私もしたい」
とりあえず、具体的な行為についてはこれで良しとする。回数などは後回しで良いと思う。
わざとらしく咳払いをして、話を切り替えると、妹は首を傾げた。
「ただ、他に家族になりたい人、好きな人ができたら、その人を優先して欲しいし、したいと思うわ」
「そんな人いない」
ミヤビはムッとするが、セイカからするとミヤビにこそ先に相手ができそうだとも思っている。
半分近く姉としての願望かもしれないが、ミヤビとアルフレッドは妹が気がないと言うほど仲が悪いようには見えなかった。
「今は、そうかもしれないわね。この先どうなるか、分からないでしょ?」
「……私は、姉さんが1番で……」
「……2番目に好きになった人はどうするの?異性で、好きって言われて、カズサみたいに私たちの事情も笑いとばしてくれるような人だったら?」
少しずるい言い回しかもしれないが、何も決めていない時に関係ができて隠し合うような状況になる方が良くないと思う部分だ。先に決めておきたい。
対して、ミヤビは唇を尖らせた。
「……都合良すぎない?」
「仮定の話だからいいの。私はミヤビとその人が家族になるなら応援したいわ。ミヤビは?」
妹は俯いて考えている。
「……」
葛藤のある部分なのか、想像していたより時間がかかる。しばらくして、ミヤビは顔を上げた。
「……姉さんが取られないなら、いい」
「ふふっ、私だってミヤビを蔑ろにする人は好きになれないわよ……いるといいわよねそんな人」
ちゃんと考えて答えてくれるのは純粋に嬉しい。その時が来た時、言葉通りにできるかどうかは分からないが、落とし所を探すしかない。
「この話はこれくらいにしましょう」
「……週の回数は?」
「……それも大切だけど、今日にミヤビが聞けなかった、ジパング社との仕事の話をしたいわ」
今日の仕事ことを槍玉に挙げられては、ミヤビも口を紡ぐしかない。
ムスッとする妹に、思わず笑いがこぼれそうになるが、これは真面目な話である。セイカは表情を引き締めた。
「ジパング・インダストリー社の専属傭兵として、
契約しようと考えているわ」




