operation.35
ここからは特にプロットも決めてないので、話数表記に切り替えます。
朝から妹は上機嫌のように見える……というか上機嫌だった。そんな妹に対して、姉であるセイカは対応どころかどんな顔を向ければいいか頭を悩ませていた。
アウトベースに来て1ヶ月も経たない内にトラブルに巻き込まれたものの、お陰で金銭的には余裕ができつつある状況で、傭兵業を始めた姉妹にとっては幸先のいい状況に見える。
問題はそこではなく、昨晩のことだ。
一言で説明すると姉妹でしてしまった。
培養槽育ちのセイカは肉体年齢的には成人であるものの異性とデートすらしたことがない。
それらを省略して、さらに同性の、そして妹と、性交渉を行ってしまった事を引きずりつつ仕事場の倉庫へとやって来た。
妹のミヤビとの向き合い方がわからない。
「私はカズサに仕事の予定を確認してくるわ。ミヤビはアントとスコルピウスの清掃を始めておいてほしいの」
「わかった」
平静を取り繕いつつ、ミヤビに手伝いを頼む。機嫌がいいことを除けば妹はいつも通りである。
昨晩のことをどう思っているのだろうか。
そもそも妹から誘ってきたので、望んた結果を得られたからこその上機嫌なのかもしれない。
そんな妹と別れて、カズサを探す。同じ倉庫を借りているので、他との打ち合わせなどしていなければいるはずだ。
「お、姉ちゃーん……ん?」
カズサからのセイカの呼称はすっかりメンバーにも伝染していた。
「おはよう……どうかしたかしら?」
「あ、いや何でもない……おはよう」
何かに気付いた様子だったが、バンジュウの車両整備士の男は肩を落としてセイカを見送った。
他にもバンジュウのメンバーとすれ違うのだが、どこか様子がおかしい。男性メンバーは肩を落とし、女性メンバーは何かを讃えてくる。
確かにならず者は潰したが、それは数日前のことだ。
妙な対応をされカズサの居場所を聞きそびれ、自分の足で探すハメになった。
幸いなのは、すぐにカズサが見付かったことだろうか。
「おや、姉ちゃんじゃないか……おや?」
「おはよう……どうかした?」
カズサは、セイカを見るなり怪訝な表情をした。何やらセイカの首元を覗き込む。
そして、何やら如何わしい笑みを浮かべた。
「おやおや。まぁ、相手選びには困らないだろうけどさ。若いねえ」
「……何のこと?」
「何、誤魔化すことないよ。命の危険に遭うと、そっちの欲求も強くなるってもんさ。楽しんだかい?」
「えっ……」
カズサが何を揶揄しているのかわかり、セイカは顔を真っ赤にする。カズサは自身の首元を指さし、セイカに首元を確認するよう促す。
セイカは慌ててモバイル端末のカメラで首すじの写真を撮り確認した。
首の襟足に近い部分、鏡で見てもすぐに気付けないような位置に赤い跡……キスマークがしっかり付いていた。
「そこだけだよ」
真っ赤になって他にも付いていないか探すセイカに、カズサは笑いながら教えてくれた。
妹からすると、変な虫を追い払うためのマーキングのつもりなのかもしれないが、セイカが羞恥で顔から火が出そうな気分だ。
手でキスマークを抑えて蹲ってしまう。
「元気そうで何よりだよ。仕事の打ち合わせかい?」
「……そ、それもあるのだけど」
カズサから傷テープをありがたく受け取りつつ、セイカは周囲を見渡した。
「2人で話せないかしら?」
「内緒話かい?……構わないよ。整備の終わった輸送車両があるから、そこでいいかい?」
カズサはセイカの様子を汲んでくれ、人のいない場所に誘導してくれた。
他の人に聞かれたい話でもない。
輸送車の牽引車両内に入り、カズサは内側から鍵を閉めてくれた。
空き箱を椅子代わりに膝を付き合わす。
「で、どうしたんだい」
「実は……」
最初、セイカと向き合うカズサの表情は真剣そのものだった。
真剣そのものだったのだが。
話を聞くと、腹を抱えて笑い出した。
「んっふふ……つまりなんだい?首のそれは妹ちゃんに付けられたのかい?あはははっ」
「……そうよ」
恥辱に耐えつつ、呪い殺してやろうかという思いで睨みつけるが効いていないようだ。カズサはひとしきり笑うと息を吐いて呼吸を整えている。笑い過ぎて呼吸困難になりそうな様子だ。
そんなに面白いだろうか。
「……笑い過ぎじゃないかしら」
「いやぁ、真剣な顔で何の相談かと思ったら、妹ちゃんとの惚気話聞かされたらねえ?」
こちらは恥を忍んで悩みに悩んで相談しているのにこの態度はないと思った。
「私と!ミヤビは!姉妹なのよ!!」
「そうだねぇ」
思わず声を荒げたセイカの主張を、カズサはにやにやしながら頷く。
「普通!近親者で!そういう事はまずいでしょ!!」
「都市の中でならね」
カズサの返答に、セイカは言葉に詰まってしまう。反論を探すセイカをカズサは楽しんでいる様子だ。
怒りに任せて声を荒げたセイカだが、早々に勢いを削がれつつあった。
「姉ちゃんは城塞都市内の連中みたいな倫理観せてるね。まぁ、それが正常かもしれないけどさ。学校とか行ってたのかい?」
「……オンラインでなら」
「なるほどねえ。しっかりしてるわけだ」
カズサはわざとらしくうんうんと頷く。恨めしそうに睨むセイカの目など気にする様子はない。
「親兄弟姉妹での行為は不埒だと習ってるだろうね」
「……ええ」
「でもやっちまったんだろう?」
カズサはすごく楽しそうだ。首を絞めてやりたい。
「首にしっかりマーキングされてるし、妹ちゃんも乗り気だったんじゃないかい?」
「っ……それは……」
そんな部分的なもので、この場にいない妹の様子を言い当てられるとは思わなかった。
会話の流れがカズサに奪われてしまう。
「で、あんたは気持ちよかったのかい?」
「の、ノーコメントよ」
「隠せてないよ。楽しかったようでなによりだ」
人生経験の差、または年の功と言うべきなのだろうか、いろいろと言い当てられてしまう。
羞恥やら情けないやらで意気消沈しているセイカを見て、カズサは大げさに肩をすくめてみせる。
「もっとヤバい話も聞いたことあるからね。姉妹で楽しんだなんてかわいいもんだよ」
「そう……」
「ヤバい話、教えてやろうかい?」
「……参考までに」
息子の嫁に……、親子で……、孫娘に……、母親から姉妹まで……、聞いておいてセイカは途中でギブアップした。
「倫理観終わり過ぎてないかしら!?」
「ヤバい話をまとめただけで、蔓延してるって訳じゃないからね?」
それでも、あんまりな内容にセイカは口を押さえる。結果を聞くと、だいたい親族同士で殺し合いまでに発展してるとのことだ。
「どこでそんな話聞くの……?」
「独り立ちする前は他のキャラバンに着いて回ってたからね。初めて行く土地では、近付いちゃいけない危ない連中の話を聞くんだよ。その話の中でね」
確かに必要な情報な上、そんな連中には近付きたくない。納得とともに、自分の悩みが少しだけ小さいものな気がしてきた。
「姉ちゃんか妹ちゃんのどっちかが男だったなら、もう少し真剣に聞いたかもしれないね。世間知らずなあんた達が変な男に引っ掛かるより全然いいじゃないか」
なんだか言いくるめられてしまった気もするが、相談した甲斐はあり、セイカは少しだけ気が楽になった……気がする。
「後はそうだね……、妹ちゃんとはちゃんと話したのかい?」
「……何を?」
「やってどうだったとか、お互いどう思ってるかとか」
「こ、恋人じゃないんだから……」
「あんた達は恋人みたいな事をした訳だよ」
改めて指摘されると羞恥心がぶり返してくる。
「じゃあ、まずはそこからだね。恋人や夫婦なら週の回数とか上か下かの話だけど、普通の関係じゃないんだから確認する事は多いだろ。例えば、どっちかが別の誰か……異性か同性を好きになった場合とか」
カズサの指摘に、妹が警戒していない異性……アルフレッドの顔が浮かぶ。
少年と妹が関係を持ったとして、セイカは気にしないと思う。逆にセイカに相手ができた場合は想像ができなかった。現状、候補がいる訳でもないが。
「……そこまで頭が回ってなかったわ」
「役に立てたようで何よりだよ。2人で相談して決めればいいさ。拗れそうならまた相談してくれ。こんな笑い話な相談ならいくらでも大歓迎さ。次があるなら酒を飲みながらにしたいね」
「……次の機会が無いことを祈りたいわ」
セイカの様子を見るカズサは楽しそうだ。相談して迷惑がられるよりはいいのかもしれない。
「相談はこれだけかい?」
「後は、今後の仕事のことかしら」
「おっと、真面目な話かい」
先程の相談も、セイカにとっては真面目な話だったのだが。
「ジパング・インダストリー社と契約しようと考えてるわ」
ウェインから話を持ちかけられた仕事が、姉妹の出自に関わること。
セイカとミヤビに追手がかかっているかもしれないということ。
ジパング社との仕事が上手く行けばそれらが解消できる可能性が高いこと。
場合によってはキャラバンの、カズサ達の仕事に支障が出るかもしれないこと
先程とは違い、カズサは顎に手を当てつつ真剣に聞いてくれた。
「反対はしないよ。でも協力もできそうにないね」
「……そう」
「勘違いするんじゃないよ?アタシらじゃ役に立たないって話さ。聞く限りだと企業間戦争じゃないか」
関わるのも考えたくないとカズサは頭を振る。
運ぶ品物も考えないと、相手の邪魔をするための攻撃対象になりかねないとのことだった。
「護衛ができない時はできないでいいよ。金で解決できる問題だからね。回数分の金額にするか月額の金額にするか、その時に相談しようじゃないか」
「それだけでも助かるわ」
「あんた達は死なないように気を付けな。ヤバくなったら逃げるんだよ。匿うくらいなら、アタシらでもできるかもしれない」
「……そうね。ありがとう」
契約している仕事のことより、セイカの心配をしてくれるあたりがカズサらしい。
「こっちとしても、積荷選びに役立つ話だったよ。今後もなんかあったら教えとくれ。しかし、なんかキナ臭いね」
1つの企業が企業連合に喧嘩を売って勝てるはずないのにねと、カズサは言い切る。
相手のバックに何かいるのか、ただの無能なのか、それを調べるのはジパング社なのだろう。その辺りは、正式に仕事を受ければ何か聞けるかもしれない。
最後に次の輸送遠征の予定を確認して、内緒話に使っていた牽引車両から出ようとして……カズサがドアの前で止まった。
「……どうかしたの?」
「姉ちゃん、アタシは入る時に鍵を閉めたよな?」
声を抑えたカズサを怪訝に思うも、セイカも声を抑えて応じる。
「ええ。閉めてたわね」
「……開いてるんだよ」
背筋が寒くなる。
セイカも仕事中に武装集団に襲われたばかりであり、ギルドもアウトベースの通信設備を侵入者に破壊される醜態を晒し、ギルドの倉庫でも警備は万全とは言えない状況である。
カズサは拳銃を、セイカは電撃銃を取り出して安全装置を解除する。
車両内には、他に誰もいなさそうだ。
「……そのちびロボットちゃんでドアを開けてくれるかい?」
「……わかったわ」
セイカと配線で繋がったコグモが前に出る。
対してカズサとセイカはドアから少し距離をとり、壁面に背中を預けた。
やはり、車内には誰もいなさそうだ。というか、いたらすでに襲ってきてもいいはずだとも思う。
コグモが前脚でドアを押し開ける。
罠は無いようだ。
カズサにハンドサインを受け取り、コグモをそのまま外に出させて周囲を確認させる。
セイカの目には自分が実際に見ている光景と合わせて、コグモのカメラの映像が見えている。
「あれ、姉ちゃん。こんな所で何してるんですか?」
外で通りかかったバンジュウの女性職員がコグモを見かけて首を傾げた。
カズサとセイカは顔を見合わせる。
結論から言うと、何もなかった。
「……誰かネコババでもしてたのかもしれないね」
「それはいいの?」
「限度と内容によるね。それよりも、姉ちゃんの相談を聞かれたかもしれないねぇ」
「……まぁ、恥ずかしい以外は特に害のない……話だから……」
なんだか肩透かしを食らった気分で2人はため息を付いた。そんな2人を見て、バンジュウの女性職員は首を傾げる。
「そう言えば、妹ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ミヤビなら、無人兵器の清掃を先に始めて貰ってるはずだけど?」
「え?姉ちゃんの後ろに着いていってたじゃないですか」
「……え?」
再びカズサと顔を見合わせる。流石に妹に聞かれたとなると話が変わってくる気がする……どこまで聞かれたのだろうか。
セイカは自分でも驚く速度でモバイル端末を取り出し、ミヤビに通話を試みる。……繋がらない。
インプラントの通信機で呼びかけてみるが、返事がない。
「繋がらない……。きっ……聞いてたのかしら」
「……かもしれないね。男女でも、後からその気だったか、じゃなかった言い出しちまうと、拗れるのはよくあるやつだね」
カズサの言葉に、セイカの顔はみるみる青くなる。
確かに、楽しんだと思っていたら他の人に相談されていたとなるといい気分でないことくらいはわかる。
「さっ、探しに行くわ!!」
「ちょ、妹ちゃんの腕っぷしならともかく、アンタは1人でウロウロするべきじゃないよ!落ち着きな。アテはあるのかい!?」
「でも!」
カズサは今にも飛び出していきそうなセイカの腕を掴む。
「ん?ここにいた……のか?」
そんな状況といざ知らず、ウェインがセイカを見付けて声をかけてきたが……様子を見て顔を引きつらせた。
「……出直すべきか」
「待って!」
カズサを振り払ったセイカにガッシリと服を掴まれ、ウェインは逃げるタイミングを失った。
「付き合って!!」
「……語弊の出る言い回しはやめるべきだ」
ウェインは眉間にしわを寄せ、冷や汗を垂らして周囲を確認する。おそらく仕事の話をする相手であるはずのセイカが理性的でないことはわかる。
セイカの大声で何事かと野次馬が集まりつつある。そして、自身に冷ややかな視線が集まりつつあることが理解できた。
当然だ。自分でもこの状況を見れば、男が女に別れ話でもして詰め寄られているように見える。……いらない噂が増えそうだ。
最後に、ウェインはカズサに助けを求めるように目を向けるが、目を逸らされた。
「……駄目?」
「断ってはいない。あと、落ち着け」
あえて周囲に聞こえるような声量で答える。
ウェインは半ばあきらめ、トラブルに巻き込まれる事にした。
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「……ん?」
本日は非番のアルフレッドは、アウトベースの中央エリアを散策していた。この辺りはアウトベース内でも交通の便がいいため商業施設も充実している。
給料も入り、金欠を脱したため反動で無駄遣いをしたい気分だったのだが……
「あいつ、1人で何やってるんだ?」
知っている顔を見付けてしまった。ミヤビだ。
1人という点は他人の事は言えないのだが、その少女はいつも姉にくっついているイメージがあったので違和感があった。
なんだか俯きがちにトボトボと歩いている。
「……うーん」
そもそも、ミヤビはアルフレッドより腕力のあるので1人でも問題ないだろう。
しかし、なんだか様子がおかしいのはひと目見てわかる。また、1人になりたい時というのもあるはずだ。
今日は肉の気分である。普段行かない高めのレストランにでも行きたいと思っていた。
初見はともかく、金欠の時に交換条件とは言え手作り弁当など渡してくれた相手であり、もはや見知った仲ではある。
「うわ、旧市街の方に行くじゃん」
俯きがちで、前などちゃんと見ていないのかもしれない。
「……ストーカーみたいで嫌だけど、仕方ないか」
何かあったら助けてやろう。
その時は、代わりに何か奢ってもらえば良い。
何もなければ……という事はないだろう。家に帰る方向でも様子でもないため、何だかんだ声をかける事にはなりそうだ。
こっそりと、後に着いて行くことにした。
少し日常パートになりそうです。
たぶん戦闘とかはないです。




