旅立ち編_間章_3_姉妹生活
新たなキャラバンとの伝手を作るための護衛の仕事のはずが、無法者集団の根城を殲滅と武装解除の仕事となってしまった。
予定も大幅に変わり、仮眠を挟みつつ3日ほどで往復する工程が、1日(24時間)の工程になってしまった。
今回の件においてはギルドの不手際があまりにも大きく、元の報酬額に対して倍以上の賠償金とともに機体の修理と補填がされることになったのは不幸中の幸いである。
当アウトベースでは大掃除という名の粛清が行われる事になり、完了するまでは駐留する企業連合の直属部隊と専属傭兵が警備とその指揮を引き継ぐらしい。たかだか地元で有名な悪党集団に重要な通信設備を破壊されたとなっては、ギルドも立つ瀬がなく徹底した浄化が行われるだろうと言うのが、ウェインから聞いた話である。また、そもそも中央大陸の東部と東南部は賄賂などの不正腐敗は少なくないという。
長時間機体に繋がっていること自体は慣れているものの、24時間近い機体の操作は訓練で数回行った程度であり、セイカがツチグモから降りる時には疲弊しきっていた。
「姉さん」
ツチグモの操縦槽から出ると、ミヤビがツチグモの牽引車両の中から手を降っていた。
周囲から塩素のような薬品臭がする。セイカが遠隔で現場の引継ぎに機体回収や撤収に駐機など行っている間、妹は車両の清掃をしてくれていたらしい。
「掃除してくれたのね」
「うん」
流石に死体や嘔吐物をそのままに帰ることはできないと考えていたため、とても助かる。
ミヤビは牽引車両の接続部から飛び降りると、セイカに抱き着こうとして……ピタリと動きを止めた。
セイカも、迎えようと思ったが同じく動きを止める。
お互いに気になったもの……臭いだ。
姉妹とも、自分自身が汗臭い気がするし、ミヤビは薬品臭も気になる。
「何やってんの?」
そんな奇行を見たアルフレッドが口を挟んだ。ツチグモの牽引車両の上から顔を出している。
まだいたのかと、妹を助けてくれた相手に失礼なことを思ったが、彼のMⅢオロチがボロボロのジョロウと並んで姉妹の借りている区画に駐機されていた。
機体があるのだから、いて当然である。姉妹を眺めた少年はなんとなく察したようで、
「帰るんなら送るけど……、先にシャワー浴びてくるか?」
「そうね。帰るけど、先にシャワーは浴びたいわ」
「了解」
共用のシャワールームで汗と臭いを洗い流して戻ってくると、少年はジパング社の装甲車を用意して待っていた。
今回は助けても貰った上に、タクシー代わりにするのは少し気が引けた。ミヤビとしても思うところはあるようで、
「……今日はお弁当ないよ?」
「残念ながら、今日はウェインの指示。普通に仕事なんだわ」
アルフレッドは大げさに肩をすくめて見せた。そういう事ならと遠慮なく姉妹は装甲車に乗り込んだ。
姉妹の自宅は徒歩で通える距離であるため、車だと本当にすぐに到着してしまう。降りる前にアルフレッドから声をかけられた。
「あー、ウェインからお姉さんに。細かい調整や相談は明日にでもさせて欲しいだってさ」
「忙しいんじゃないの?」
「時間は作るって言ってたぞ。昼過ぎに顔出すってさ。伝えたからなー」
伝書鳩の役割も終えた少年は装甲車の中からヒラヒラと手を振る。
態度には出さないものの少年も忙しいようで、軽口もほどほどにそそくさと去って言った。
「……あの男と何か話すの?」
「え?ああ……」
会話を聞いていたミヤビが怪訝な表情をしていた。
「今回の件とか、仕事を依頼したいとか、そんな話よ。またちゃんと説明するわね」
1から説明となると時間がかかりそうだ。先延ばしにしてお茶を濁すことにした。
妹は不満そうだが、散々な仕事を終えた後に、また仕事の話をするのも気が重い。明日の自分達にがんばってもらいたい。
部屋に入ると、セイカはコグモと繋がっている配線を外しベッドに倒れ込んだ。24時間ぶりのまともな寝床はセイカを抱きしめて離してくれない。
「姉さん、お風呂、入らないと」
「わかってる……わかってはいるのよ……」
妹の指摘にシーツに顔を埋めながら答える。今の自分の姿は姉の威厳などかけらもないことだろう。
しかし、培養槽育ちで筋力どころか基礎体力も不足しているセイカにとって、長時間張り詰めていた今回の仕事は相当キツイものだった。途中で寝落ちなかった自分を褒めてやりたい。
妹は無情にも、そんな姉を猫でも持ち上げるように脇に手を差し込んで持ち上げた。
「じゃあ、一緒に入る」
「あ、あとで入るわよ」
「ダメ。姉さんは今みたいな時、サボる」
培養槽内で育ったセイカはそもそもの生活習慣の知識はあっても習慣づいていなかった。
研究所を出てからミヤビにその事を早々に見抜かれてしまい、歯磨き、入浴、髪の手入れ、化粧などなど妹に管理されてしまっている。仕事中はともかく、私生活ではどちらが姉だかわからない状況に陥っていた。
しかし、ミヤビも嫌々という様子はないので家では甘えさせてもらっている。
姉妹揃って脱衣所に行き、倉庫で着替えた仕事着を洗濯機に放り込もうと……したが、妹が見ているのでショーツなどのインナーはネットに分けて入れる。
あまりダラダラとしていると妹に脱がされるという背徳感を味わうことになるため、さっさと私服も脱いでしまう。これは仕事着と別に洗濯するため籠に入れた。
姉がテキパキ動くのを確認すると、ミヤビも服を脱ぎ始めた。
「……ミヤビが先に入る?」
「一緒に入る」
どうやら一緒に入るのは決定事項らしかった。
一度シャワーを浴びたのだから、軽く済まそうという目論見は崩されることとなった。
姉を浴室に押し込むように妹も入ってくる。
こういう時、この部屋がバスルームとトイレが別々で助かるのだが、バストイレが一緒であれば両方まとめて済ませられるのにとも思う。
この部屋を頑なに主張したのはミヤビであるため、始めから想定されてたということである。
妹に丁寧に髪を洗われる。ブラシで汚れを落とし、泡立てたシャンプーで洗われ、リンス……トリートメント。
髪を短くしたのは正解だった。長いままだったと思うとどれだけ時間がかかるのだろうか。おそらく頭皮がフヤケてしまうに違いない。
続けて、ミヤビの髪も洗う。これはセイカが洗う事になる。流石に妹の髪を洗うのに手を抜くほど人でなしではない。同じ手順で丁寧にあらう。
ミヤビの髪はもみあげは長く残しているが後ろは短くしている。動く時、後ろ髪が襟足のインプラントに引っ掛かるのが邪魔だからとの事だ。
セイカと違い白い髪は紫……すみれ色に染めている。自分も染めようかと思ったが、髪が傷むらしいと聞いて私生活がズボラな姉は断念した。枝毛だらけになりかねない。
「次は体」
「えぇ……シャワー浴びたじゃない」
「ダメ」
洗うという名目のもと、妹にボディチェックされることになった。それに、今日は特に入念な気がする。
骨が浮くほどではないが、身長に対してまだまだ筋肉も脂肪も足りていない痩せっぽちな身体だ。
セイカの背中には機体に接続するためのインプラントが襟足から腰辺りまで背骨に沿って並んでいる。この周辺を洗うのは手間なので、羞恥心はあるものの妹が洗ってくれるのは非常に助かる。
前まで洗おうとするのはまだ我慢できたが、VラインやIラインをマジマジと眺め始めたので、流石に1歩下がる。
「……そこ、必要かしら」
「本当に変なこと、されてない?」
どうやら姉の貞操を心配しているようだ。だが、襲ってきた相手はツチグモの自動防衛が働きミンチより酷い有様に成り果てたので、妹が考えるような事態には至っていない。
そもそも襲撃者はセイカの顔すら拝めていない。
「むしろ、今の方が恥ずかしいわ」
「ふうん」
「ちょっと……!」
太股に泡を塗り拡げるついでに際どいラインを指で撫でられ。セイカは抗議するが、そんな反応も楽しまれている気がする。
「……じゃあ、次はミヤビを洗ってあげるわ」
「うん」
意趣返しを試みるも妹は動じた様子もなく身を預けてきた。ここまでノーガードだと、セイカの方が恥ずかしくなる。
襟足のインプラントから背中、腰、お尻まで泡を塗り拡げてやる。ミヤビの身体は姉より肉付きがしっかりしている。筋肉質だが、皮下脂肪も張りもあって触り心地が良い。
前。妹に胸のサイズが負けているのはセイカにとって少しコンプレックスだ。胸筋に支えられたミヤビの胸は綺麗な形をしていた。掌が先端を撫でる時、弱い部分なのかミヤビは少し強めに口を閉じる。
故意的に刺激したら妹はどんな反応をするのだろう。
何を考えているのか。
たぶん、まだ戦闘の興奮と高揚感が残っているせいだ。疲労感で寝れなければ、少し発散すればいい。邪念を頭の隅に追いやりながら、妹の体を洗い終えた。
ドライヤーで髪も乾かした。ラフなシャツとパンツに着替えた。自室の電気も消し、今度こそ寝るだけだと思っていたのだが。
「一緒に寝る」
「っ……」
「ダメ?」
「……ダメじゃないわよ」
妹の寝室もあるのだが、ミヤビも今日は甘えたいらしい。今回の仕事のことを考えると当然とも思え、あきらめて部屋へ迎え入れた。
ミヤビはセイカのベッドに潜り込むとピッタリ密着して腰に手を回して抱き着き、胸に顔を埋めてきた。
……浴室で触れられた余韻が残っているようだ。変な声が出ないように、セイカはキュッと口を閉じる。
「……姉さん?」
「……何?」
「あの男と何かあった?」
唐突な質問に、セイカは首を傾げる。あの男とは、たぶんウェインのことだ。
「なんで?」
「前はもっと……嫌ってなかった?」
今回の仕事では、衛星通信のアンテナにアルフレッドとその機体まで貸してもらい、正直なところかなり助けられてしまった。
おかげでミヤビも無事な訳だが……
「そんなに変わったかしら」
「……うん」
自覚はなかったが、妹から客観的に見て軟化したと言うならそうなのだろう。
「……好きなの?」
「は?」
あまりにも飛躍した問いにセイカは目を丸くした。いや、姉妹で恋愛話などしたいと思ったこともあるのだが。
「それは飛躍しすぎじゃない?」
「……ホントに?」
妙に追及されて、思わずセイカはムッとする。そういう話題ならこちらにもカードはある。
「そういう話なら……ミヤビこそ彼とはどうなの?」
「彼?」
「アルフレッドよ」
「あれはそんなんじゃない」
反撃するも、あれ扱い。まだ少年は妹の好感度を上げきれてないらしい。
「抱っこまでされてたじゃない?」
「むっ……」
だが、他の男性に対してより態度が柔らかいのは把握している。
「他の男と違って、嫌いとか、嫌って訳じゃないんでしょ?」
「……」
他の異性に対してと明確に対応が違う部分を指摘されて、妹は口を紡ぐ。
少し指摘しすぎただろうか。
「仲良くなったら、ちゃんと挨拶させてほしいわ」
「……」
別に責めてる訳では無い。むしろ応援というか、妹のパートナーになれるのではと期待している部分の方が大きい。
「相性だって、良さそうじゃない?」
「……姉さんは」
妹が俯きがちにシャツをキュッと掴んだ。
「私に、他所に行ってほしいの?」
「そ、そんな風には言ってないでしょ」
どうにも、変な方向に解釈されてしまったらしい。セイカは慌てて取り繕うが、ミヤビはぐいと詰め寄ってきた。
胸の位置にあった妹の顔が目の前に来る。
「……私は、姉さんが1番好き」
「それは、私も……」
答えようとした口を塞がれた。驚いて後ろに下がろうとするが、足を絡められて逃げることはできなかった。
唇に妹のやわらかい唇の感触が重なっている。
「み、ミヤビ!?」
離れたタイミングで服が開けている事に気付く。いつの間に脱がされたのか。
インナーにミヤビの指がスルリと滑り込んでする。そちらに気を取られると、また唇を重ねられた。今度は舌も侵入してきた。
強引だが痛みはない。舌が絡まって、指は先端を焦らすように撫でる。バスルームの事もあり、身体が反応してしまう。
甘く思考が溶けるような快感に抵抗ができなかった。
唇が離れると、とろんとした妹の顔が目の前にあった。
「姉さん」
「ま、待って……」
いつの間にか、妹の胸に触れていた。興奮を主張する妹の先端が指の間にある。
「触って……」
擦れると、ミヤビが声を漏らした。
妹はこんなふうに感じるのか。
「あ……」
ガラス越しにずっと妹を見ていた。
そういう欲求がなかったかと言うと嘘になる。
触れたいという思いには、興味も、好奇心も……劣情も混じっていた。
妹もそれを赦しているし、求めている。
我慢する必要なんてあるのだろうか。
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気が付いたら朝になっていた。
姉として許されない酷い夢をみたものだ……と、現実逃避したくても湿ったシーツと裸体を晒したまま胸に顔を埋めている妹が夢ではないと告げている。
しかも寝覚めはいつもよりスッキリしている事が、よりセイカの背徳感に拍車をかけた。
誰に相談するべきかと悩みに悩んだ結果。
カズサに腹を抱えて笑われることになった。
はい。押し倒されました。
仕事時とギャップのあるセイカの生活感を書くのは楽しかったです。




