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旅立ち編_第三章_12_復讐者

「死ね!!」


これで10機目。


あと何機いる。


アントが熱源探知による索敵情報を送ってきてくれる。


「くそっまたヤられた!!」

「数じゃこっちが上だ!なき事言うな!!」


まだ親玉含めて12機いる。


だが、ビルの上に陣取っていた狙撃機は全て潰しことで、高所は安全圏となっていた。


ジャンク部品を組み合わせただけのMⅢとは言え、数というのはやっかいだ。姉のような統率の取れた行動を敵が取らないこと、そして、廃都市という閉所だからこそ、対処できている。


弾薬は……足りない。

煙幕や燃料の節約にも使っていた迫撃砲の弾は早々に尽きてしまった。機関砲でも相手の装甲が薄く有効打になるが、こちらも残り弾数が心許ない。

サブアームの装甲も損耗している。


「ジリ貧にさせろ!!」


流石にそこはバレていた。

だが、スコルピウス2機の弾はまだ残っている。


理由としては、ミヤビは姉ほど無人兵器の操作に長けていないため、姉のように連携動作をさせることができないためだ。下手をすると自機に誤射しかねなかった。


相手はしつこく追ってくる。こちらはビルの上を跳び回っているというのに位置がしっかりバレていた。


おそらく観測用のドローンがいる。分かっていても、戦闘能力の無いマルチローターの小型機など探していられない。


ミヤビはジョロウのホバーエンジンを最大にし、ビル間の古い幹線道路を飛び越える。


「死ね!」


その拍子に下から追ってきていたスクラップのようなMⅢに機関砲を浴びせた。


鉄屑になったか自機で確認はしない。這い回って付いてきてくれているアントからカメラの映像情報を貰い、撃破を確認した。


あと11機……と思ったが1機増えた。まだ12機いる。


索敵漏れか、近くに根城でもあるのか。前者であって欲しい。まだまだいるとは考えたくなかった。


「頑張るじゃねぇか!?だが時間をかけ過ぎだよなぁ!?お姉ちゃんマワシてる映像送ってやろうか?」


オープン回戦でわざわざ挑発してくるのが鬱陶しい。


ブラフだ。そんな事ができるならすでにしてきている。姉は無事なのだ。そう言い聞かせる。


「黙って死ね!!」


返答代わりにスコルピウスの長距離砲を撃ってやりたいが、動きながら狙撃できるものではない。


だが、そんな下品で反吐が出る挑発も、神経を逆撫でするだけではなく、ミヤビの精神を削っていた。


次はスコルピウスを追い回している相手を狙う。

狙撃機を自由にする危険性は流石に解っているようで、いくら潰しても1機は貼り付いてきた。


スコルピウスの長距離砲の弾は無駄にできない。

親玉のMⅢは他と違い目に見えて重装甲だ。


あの装甲を抜くにはスコルピウスの火力が必要になる。


そのために、また別のビル列へと跳び移る。


「しまっ……」


ホバーエンジンの出力を誤った。

ギリギリ、ビルの屋上に届くも重量軽減が足りず、踏み抜いてしまう。


燃料が半分を切ったため、出力を落とした事が裏目に出てしまった。即座に出力を戻すが、ジョロウの足を掴んだ重量は手を離してはくれない。ホバーエンジンは、助走さえ付ければ滑空するだけの出力があるが、MⅢの自重を完全に支えるほどの出力はない。


「まだっ!!」


せめて落下速度を軽減するために、右側のサブアームを廃ビルに突き刺した。ガリガリと廃ビルに深い溝を作りながらジョロウは地に落ちていく。


モニター端のサブアームの状態がみるみる黄色から赤色に表示が変わる。脱落しなかっただけマシかもしれない。


地響きと共にジョロウが地に足をついた。


ジョロウの膝関節が、足首関節が限界まで屈伸し衝撃を吸収する。


身体には強い衝撃が走った。パイロットスーツが、血流が下にいきすぎないように脹ら脛を圧迫した。意識が飛ばなかった自分を褒めてやりたい。


ジョロウの膝関節は無事だ。

黄色の表示で留まっている。


だが、足首が駄目だ。足首関節が赤の表示となり、足先との接続がオフラインになった。


オートバランサーは姿勢制御が不可能と判断し、機体転倒を防ごうと膝を付かせようする。


だが、動けなくなるのはダメだ。


ミヤビは残った左のサブアームで無理やり機体を支えるが、姿勢制御が難しい。動かせる気がしない。


「あっはっは!いい格好になったな!!」


煩わしい笑い声が耳に入る。極度のストレスと衝撃でのダメージで呼吸が整わなず、言い返す気も起きなかった。


「……おいおい、死んだなんて言うなよ?お楽しみはこれからなんだからよ」


近くにいた敵機がすでに集まってきていた。

まだマニピュレーターは動かせる。


「腕を潰せ」


機関砲で腕部の武装が撃ち抜かれた。


サブアームはジョロウの自重を支えていて防御もできなかった。


「機体は有効活用してやる。中身のお前はたっぷり可愛がってやるよ。散々、仲間を殺してくれたなぁ」


敵MⅢが警戒しつつ徐々に距離を詰めてくる。どこに隠れていたのか、工具を手にした男どもとセットだ。機体のコクピットハッチをこじ開けるためのものだろう。


舌を噛み切ろうか。


それとも拳銃で顎下から頭を撃ち抜くか。


または、スコルピウスで機体ごと逝くべきか。


どれが一番苦しくないだろうか。


そんな事を本気で考え始めた時だった。


"……上位権限者との接続を確認"


システム音声が単純な事実を告げ、ミヤビは我に返った。


"制限解除個体00に自律型致死兵器システムの操作権限を返還しました"


気付くと、敵MⅢが上を見上げていた。バラバラとローター音が耳に入る。


後退し、射撃しようとした敵機が、上から飛んできた弾丸に撃ち抜かれた。

思わずミヤビも上を見上げた。


「……姉さん?」


しかし、目に入った機体はスコルピウスではなかった。


「悪い。お姉さんじゃないんだわ」


放射状に広がった7本のサブアームを持った白いMⅢ。


声はアルフレッドのものだった。


輸送ヘリから降下したオロチが、ホバーエンジンを最大で衝撃を殺しきって着地する。


ちょうど敵MⅢとジョロウの間に割って入った。ホバーエンジンの噴流が起こす暴風で、有象無象は吹き飛ばされて転がっていった。


「なんで……」


「なんで企業の連中が出てくんだよ!?」


呆然と呟くミヤビに対して、相手からは悲鳴のような声が耳に入った。


「仕事だからだけど?」


アントからの情報では、上空に輸送ヘリ1機。MⅢはオロチ1機だけだ。

それだけで、相手方の雑兵は恐慌状態に陥っている。


「狼狽えんな!相手は1機だけだ!!囲んで潰せ!」


「お、威勢の良いのもいるんだな」


アルフレッドは楽しそうに笑っているが、相手の言うことは最もだ。


「ネブロだっけー?今投降したら命だけは助かるかもよ」

「てめえ!!」


少年の発した固有名詞に男は激昂する。アルフレッドは意に介した様子もなくケラケラと笑っている。


悠長に相手を煽っているが、目の前に敵機、周囲には歩兵がいる状況のはずだ。


「何やってる!さっさと撃て!!」


敵MⅢは動かなかった。


「何やってんだ!!」

「き、機体が動かない!!」


相手の声が少年は可笑しくて仕方ないようで、まだ笑っている。


「さっさと撃ってれば、まだ戦闘にはなったかもな」

「何だと?」

「企業の専属傭兵が、意味なく敵と会話するわけないじゃん?ホントに数秒でいいとは思わなかったけど」


そんな事を話していると、目の前の敵MⅢが動いた。


ショルダージョイント下部にある対人砲が下を向く。


「え?」


ホバーエンジンの暴風に地を這っていた男の、そんな声が耳に入った。


対人砲が火を噴いた。


「やめろ!味方だ!」

「たっ、助け!!」

「何やってんだ!やめろ!!」

「機体が言う事を聞かない!!」


阿鼻叫喚だった。


勝手に味方を殺していくMⅢにパイロットは悲鳴をあげ、撃たれた側も、ネブロという男も悲鳴のような声で静止を訴える。


しかし、MⅢは止まらない。


オロチの足下が真っ赤な血の海になっていく。


「なっ!何をしやがった!!」

「お前も通信切れよ。もう話すこともないだろ?いい加減ウルサイ。」

「……うん」

「てめ」


少年の言葉通りに通信を切る。

もう、あの煩わしい声は耳に入らない。


「クリア。ミヤビを回収して」

「クリア了解。目標を回収する」


「姉さん!?」


セイカの声が耳に入り、声をかけるが返事はない。同士討ちをした敵MⅢも離れていく。


ミヤビは仕方なく少年の方に声をかけた。


「姉さんは!?」

「あー無事無事。無傷。それより機体を安定させてハッチ開けろ。操縦系も止めて出られる用意。機体は別途回収する。早くしないと俺が怒られそう」


ジョロウに膝を付かせハッチを開ける。

オロチの方もコクピットブロックの高さをジョロウに合わせてハッチを開く。


少年は手際よくサブアームのくびれに命綱代わりのワイヤーを付ける。

パイロットスーツにある安全帯をワイヤーと繋ぐと、ジョロウのコクピットにするりと入り込んできた。


「動けるか?」

「う……うん」


立ち上がろうとして、ミヤビは足が痺れている事に気付く。壁面に手をついて立ち上がろうとすると、少年の方がかがんできた。


「高機動型にはよくあるやつだな。それは動けるって言わない」

「わっ」


安全帯にワイヤーを繋がれると膝裏と背中に手を回されて抱きかかえられた。突然のことに身を難くすると、少年は首を傾げる。


「どこか痛むか」


ぶんぶんと首を振ると、少年はやはり首を傾げる。


「まあ、オロチに移るまでた。我慢してくれ」


流石に、異性に抱えられるのが初めてで緊張しているなどとは言えず、ミヤビは黙って頷いた。


----------


「目標の回収完了。軽症。出血なし。別命あるまで待機するぜー」


アルフレッドは企業連合の訓練を受けているだけあり、救援任務も手慣れた様子だ。

対して、少年に抱えられてガチガチに固まっている妹を見て少しだけ頬が緩んだ。


かと言って、溜飲が下がることはないのだが。


「やめろ!仲間だ!!」

「違う!俺じゃない!機体が勝手に……!」

「撃つな!撃たないでくれ!」

「ああ……!何で、何で……!」


阿鼻叫喚を他所に、セイカは作業(殺戮)を進めていく。


「てめぇ!何しやがった!!」


まだ元気のある男がいる。ギルドに登録されている情報ではネブロという傭兵だ。

向かってきた味方機を撃ち殺すではなく、武器や脚部を破壊しているあたり、仲間に対する情はあるようだ、


「……あなた達の機体。ほとんどが盗品なのね」

「だったら何だってんだ!!」

「セキュリティソフトも安全装置も死んでるから、乗っ取りやすかったわ」

「……クソ野郎が!」


今さら後悔しても遅い。


セイカはアルフレッドが持ってきたジパング・インダストリー社の衛星通信を使用してクラッキングを行なっていた。


ミヤビを救助してもらった少年のオロチは衛星通信の中継機を兼ねている。


アウトベースの倉庫内では、待機中の無人兵器のAI達が操作系をオーバーライドしたMⅢを操るためにフル稼働していた。


MⅢはコクピットブロックが入力機器、頭部が通信機器、胸部がメインシステム、脚部がエンジン、ショルダージョイントと腕部マニピュレーターが出力機器と役割が別れている。

システムのメンテナンスや整備の行き届いた機体であれば、不正なアクセスや外部からの設定変更に警告が出るし、物理的な安全装置で通信機器の電力供給のカットや頭部のパージなどができただろう。


「……だったら、俺の機体は乗っ取らねえんだ?何かカラクリがあるんだろ!」


矛盾点を見付けたようで、鬼の首でも取ったかのようにネブロは吠える。


この男の機体も盗品だ。


確かに、セイカはまだ、ネブロの機体はオーバーライドしていなかった。


「あなたも戦利品の具合くらい確かめるでしょう?」

「何だと!?」


ネブロの扱っているMⅢ。

フェデラル社の純正品で見たことのないモデルだ。


おそらく、輸送部隊を襲ったか、役割を終えた試作品の横流しの品だろう。


脚部は多脚のようにも見えるが、脚部全体がホバーエンジンとそのブースターとなった高出力タイプ。通常の人型MⅢと変わらない上半身と比べるとかなり大型だ。

起動力は低くないだろうが、上半身の装甲は明らかに重装型で、ジョロウやオロチにくらべ大型で関節も太い。


燃費と瞬発力はともかく、高い積載量と起動力、重装甲を大型化によって実現している。


武装は対機動兵器ライフルに機関砲、対人砲。ショルダージョイントの上から伸びている砲身はレールガンだろうか。


「今回の件で、私も前に出れる予備機が欲しくなったのよ」

「なにっ……」

「貰うわね。その機体」


ネブロのMⅢが操縦を無視してその場に急停止した。

男のコクピットモニターにはNo Signalの文字が表示されてコクピットハッチが明け放たれた。


これでは高級な重装MⅢもただの高級な棺桶だ。


ネブロはすぐに機体を見限り脱出を試みるが、ハッチを出てすぐのところで、武装を捨てた愛機のマニピュレーターが待ち受けていた。


「がっ……はっ……」


気遣いも手加減もなく鷲掴みにされる。肋骨が折れ、圧迫された肺から空気が押し出されて悲鳴も出なかった。


そのまま、愛機と向き合うように、機体の前に持っていかれる。


「それで、あなた達は誰に雇われたのかしら?」

「……っ、なんの、ことだ?」


マニピュレーターに締め付けられながらも、男、ネブロは不敵に笑う。流石にセイカも大した胆力だと思う。


研究所の警備兵はどれも泣きわめいて命乞いをしたと言うのに。


「じゃあ、何が目的なのかしら?」

「……仲間を、殺され……黙ってられると思うか!」


何のことなのか。


「……なんの話?」

「俺達の仲間5人!殺しやがっただろうが!!」


5人……5機……。思い当たる節が1つだけあった。

カズサ達を襲っていたスクラップだ。


「ああ、あの盗賊?それだけ?」

「それだけとは何だ!?」

「だったら殺せばいいわよね?私達を。あなたは妹を捕まえようとしたように見えたのだけど」


ネブロが舌打ちするのを見逃さなかった。

図星だろうか。


「喋れば、助かるかもしれないわよ?」

「……ゲロったら用済みな事くらい分かってんだよ。クソが……そこらの三下と一緒にするんじゃねえ」


ネブロの愛機が、武装を失って転がっている仲間に銃身を向ける。

ネブロは苦い顔をする。


「どうせ皆殺しにするつもりなんだろうが!!クソアマが!!」

「あら、私達のこと、よく分かっているのね。女は甘いと思われるのが、普通だと思ったのだけれど」

「……っ!クソが!!」


それでも喋る気は無いらしい。


流石にギルドに所属するプロなだけはあるようだ。


「……もう、いらないわ。あなた。根城を隅から隅まで、お仲間もバラして、調べればいいものね」


黒いMⅢはネブロを掴んだ手を大きく振り被る。


「っテメエらみたいな奴が!!人間様のように普通に暮らせると思うな!!最後は俺らと大差ね……!!」


呪詛を吐き終える前に投げ捨てた。


ネブロだったものは半壊している仲間の機体に直撃し、真っ赤な染みとなった。


恐慌状態になった男の絶叫が耳に入るが聞こえない事にする。


別にスッキリできた訳でもないが、直近の脅威は排除できた。それで良しとし、状況を確認する。


オーバーライドしたジャンク品のMⅢは攻撃対象を失い、棒立ちの状態となっていた。


役割の終わった機体達には、自身のコクピットブロックを撃ち抜く命令を下した。


周囲からほぼ同時に射撃音が響く。一括で命令を下されたジャンク品達が同時に指示を実行したためだ。


「……クリアよ。アルフレッド、いいかしら」


少し間があってから、少年との通信が繋がった。


「その機体のことなら、持って帰って問題ないぜ」

「持って帰るのは確定よ。引続き衛星通信を使わせて欲しいわ。ジョロウの回線が生きてるから、私達の機体と車両を帰還させたいのよ」


返事にまた少し間が空く。


「……ウェインがOKだってさ。その代わり、ウチの調査部隊に現場引き継ぎして欲しいって」

「了解したわ」

「あともう1つ」

「……何?」

「こいつが……代われって、しつこいんだけど……。補助席から身を乗り出すな!……もう繋いでいい?」


狭いコクピットの中での少年と妹のやり取りが容易く想像できた。


「お願い」

「姉さん!」

「……はぁ」


後ろでため息をつく少年の声とセットで、ミヤビの声が耳に入る。


「怪我はしてない?」

「大丈夫よ。してないわ」

「変なこともされてない?」

「何も。こっちにはアントが10機以上いるのよ?」

「そっか、そっか……そっか……」

「うえっ!おい泣くなよ……」


妹の嗚咽と、狼狽する少年の声。機体のモニター越しに見える惨状とは見合わないやりとりが耳に入ってきておかしくなる。


「ミヤビ」

「……うん」


少し気が早い気もするが。


「おかえりなさい。お疲れ様」

「……ただいま」

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