旅立ち編_第三章_11_孤立
「何!?」
「どうした!?」
警告は外部扉と鍵の破損を告げていた。
警告が侵入者に切り替わった。
「もっと静かにやれねぇのか!?」
通信ではない声が耳に入った。少なくともカズサの声ではない。何か対応しようと思ってもセイカ自身は動けない。
それよりも先に機械……AIが判断を下した。
"制限解除個体00の保護を最優先。自律型致死兵器システムをフルオート"
「まずっ……」
システムが全自動で攻撃態勢に入った。
戦場でもない所で識別信号など設定していない。
「戦闘エリアを固定しなさい!侵入者の排除!!」
"承認しました。ツチグモ内の不審者を排除。ツチグモを戦闘modeへ緊急移行。制御槽を格納"
システム音声に、セイカは慌てて身を屈めた。安全性など無視した速度で培養槽が持ち上がった。壁面に四肢をぶつけでもしたら打撲では済まない。
「なっ……逃げんな!!」
セイカを入れたまま、培養槽が壁面に収納された。罵声が聞こえた気がしたが、それどころではない。この無法者の所為で無人兵器が暴走しかねないのだ。
「機体はアントに限定!スコルピウスとクラッドビートルは待機!!」
"承認、戦闘エリアのツチグモ内部へ限定を完了。侵入者の排除に移行します"
培養槽が全天周囲モニターに切り替わる。ツチグモの起動を止めることは諦めた。倉庫が壊れた暁には賠償金は無法者に押し付ける事にして、人的被害を出さない事を最優先にする。
モニターに培養槽のあった部屋の映像が映る。
侵入者は3人のようだ。このままアントが雪崩込んで……
「あんたら!何やってんだい!!」
カズサが入って来てしまった。優しいことにギルドのガードもセットだ。侵入者もそれに気付き、発砲する。カズサは格納庫側に逃げて事なきを得るが、このままではカズサもアントに轢き潰されてミンチになってしまう。
「攻撃目標を危険度最大値の侵入者のみに限定して!今すぐ!!」
"……承認。武装した侵入者を排除"
今まで、これほど叫んだ事があっただろうか。だが、まだやる事は終わっていない。AIが危険度を測定するが、カズサとギルドのガードも攻撃対象となっている。
ツチグモ内のスピーカーを繋ぐ。
「カズサ!あとガード!武器を捨てて!今すぐ!!」
突然、格納庫内に怒声が響き、侵入者もカズサ達も騒然とする。
しかし、声色から意図を汲んでくれたカズサはすぐに拳銃を投げ捨てた。
ガードが気でも狂ったかと言いたげな顔をしていたが、入り口から雪崩込んできたアントの群れを見た瞬間に投げ捨ててくれた。
ツチグモの外でも、突然コロニーから湧き出てきたアントに騒然としていた。
アントの群れは侵入者に突進していくが、危険度の下がったカズサとギルドのガードの目の前でテレビ画面が一次停止されたかのように動きを止めた。
侵入者の2人はアントに向かって発砲したが、拳銃などアントにとっては豆鉄砲に過ぎず見るも無惨な肉塊に変えられていく。
1人だけ、アントの大群に驚いた拍子に拳銃を落とした結果、命拾いしたようだ。
アントは侵入者を踏み潰す寸前で停止していた。
"侵入者の無力化を確認。自律型致死兵器システムをマニュアルに。制御を制限解除個体00に変換。保護は継続"
散々ツチグモの中を汚した後片付けは人間がやれというのだから、不敬なAIだ。
機械に愚痴を言っても何も解決しないため、セイカは大人しく操作を引き継いだ。
「し、死ぬかと思ったよ……」
「わ、私もです……」
「……ごめんなさい」
セイカの操作で整列して戻ってゆくアントを見送りながら巻き込まれた2人はため息を吐いた。
故意ではないものの、助けようとしてくれた2人には申し訳ないことをした。
「姉ちゃんは大丈夫なのかい?あいつらは?」
流石に場馴れしているようで、カズサは持ち直すのが早かった。腰を抜かしているギルドのガードを他所に、立ち上がると奥の部屋へ向かう。
足の踏み場もないほどに車内を埋め尽くしていたアント達も、セイカの観測用に動かしている数機しか残っていなかった。
セイカの心配をしてくれるのはありがたいのだが
「私は大丈夫。あっ、見ない方が……」
「うっ……」
奥の部屋には人だったものが2つと、生き残りが1人。
金属の塊に幾度と踏まれたため、骨格すら砕けて人の原形を留めていなかった。かろうじて、血溜まりの形が人だった事を主張している。
生き残りの方はアントに押さえつけられたままガチガチと歯を鳴らしながら仲間だったものを眺めていた。
あまりの光景に吐いて漏らしたのだろう。生き残りの下で、血ではない水たまりができていた。
カズサも思わず口を覆うが、周囲を見渡す。
「……姉ちゃんは何処にいるんだい?」
「……操縦室が別にあるの。私は無事よ」
「それならいいが……」
ヨタヨタとカズサに付いてきたガードが惨状を目にしてしまい、盛大に嘔吐した。
気持ちは分かるがこれ以上車内を汚さないでほしい。
「ひとまず荷台を切り離すわ。掃除も必要だし……」
車内にガタンと衝撃が走ると、惨状の広がる部屋の壁面中央が外側に剥がれ落ちた。そこから外の光景が目に入る。
「……この車両もMⅢだったのかい?」
「一応……。今は重要な事じゃないわ」
フォルムはクラッドビートルに近い形状をしているものの、体躯は倍近くあり全高は10mを超えており、脚部とマニピュレーターを4本ずつ有した異形の形状になっていた。
その1本のマニピュレーターを車両内に伸ばす。
生き残りが伸びてきた機械の手を見て悲鳴を上げた。
「い、嫌だ!!グチャグチャは嫌だ!!」
「だったら質問に答えなさい」
もはや発狂しそうな様子だが答えて貰えないと困る。一掴みで握り潰すわけにもいかないが、もう脅す必要もなさそうだ。
「誰の命令で動いているの?」
「お、お頭の指示……」
「個人名を言いなさい」
「ネブロお頭の指示で……」
誰だ……?セイカが歯噛みしつつ黙すると、カズサが助言をくれた。
「ここに来た時、妹ちゃんと睨み合ってた奴だよ」
「ああ……」
そう言えば、そんな事があった。キャラバンを襲うような、ギルドに離反しかねないような行動もする輩だったか。
「姉はあたし達が……妹はお頭が……」
今、こいつはなんと言った。
「妹を……?何て……?」
セイカが声を出すとビクリと震える。
マニピュレーターを動かせば、またペラペラと聞いてないことまで話し始めた。
「キャラバンを脅して……衛星アンテナの中継地を潰して、あんた達を孤立させてそれぞれ人質に……え」
思わず、アントもろともに握り潰してしまった。ギルドのガードがまた吐いている。
カズサは口を押さえつつも呆れた様子だ。
「これじゃ、どっちが悪者か分かんないね」
「……カズサ」
カズサはセイカがとった行動の割に、落ち着いた声を出すと思ったが……。
「……衛星通信機の付いた車両を貸して」
「……貸してやりたいのは山々なんだが……オーバーホール中なんだよ」
「通信だけできればいいのよ!!」
と、言われても、カズサも無い袖は振れない。
だが、行動の通り、彼女は頭に血が上りきっているようだ。まだ短い付き合いだが、カズサは声を荒げるほど興奮した彼女を見るのは初めてだった。
そして、聞く限り事態の原因はギルドとキャラバンの不手際による物が大きく、強引に事をなすための戦力がある。
「奪うとか考えるんじゃないよ!」
「そうだな」
男……ウェインの声が耳に入り、セイカはハッとする。どこまで聞かれたのか。反射的に外のスピーカーと接続を切った。
「制限解除個体00……だったか?」
不特定多数に聞かれて良い言葉ではない。そして、その単語はセイカの神経を逆撫でする。
「それは名前じゃない!!どこまで聞いた!!」
怒鳴り声など意にも介していない様子でウェインの笑い声が耳に入る。
「システム音声は筒抜けだったな」
「……どうするつもり?」
足音。
集音マイクを使ったとしてもツチグモの操縦槽の中で聞き取れる足音など限られている。
「そうだな……情報料を払わないとならないな」
MⅢの足音だ。
外部カメラに目を向けると、白いMⅢ……オロチが倉庫内に入って来るところだった。
次でやっと旅立ち編が終わりそうです。
お付き合いいただけると嬉しいです。




