旅立ち編_第三章_10_愚者
反射的にサブアームが動いた。
装甲が誘導弾を受け止めた。爆風で機体のバランスが崩れるが、前方のサブアームが機体を支える。
ミヤビは、その爆風で機体が吹き飛ぶ力を利用して機体をドリフトさせた。180°回転し向き直り武装を構える。
「……何?」
サブアームの装甲は損傷したがフレームは生きている。装甲裏の隠し腕はバイパスも含めて断線しているが、榴弾砲は撃てるようだ。
人機直結システムを使っていなければ、こんな反射的な動作はできなかった。初手で死んでいた。
どこからミサイルが飛んできたかは言うまでもない。
「何をしているの?」
対戦車ミサイルだろうか。標準機の着いた筒を抱えた男は……悲壮な顔をしていた。
罠に嵌めたのなら、笑うところではないだろうか。
「何でそんな顔をしているの?」
「……あんたに恨みはないんだ」
「なら、今すぐ止めるべき」
この男は何を言っているのか。
彼らのトラックの荷台シートが外され機関砲が顔を出した。
再びロックオンアラートが鳴る。
「止めるべき」
「……仕方ないだろ」
ミサイルはともかく、トラックで撃てる程度のものでMⅢの装甲を抜けると思っているのだろうか。
いや、そもそも彼等は戦闘において素人だ。
そして、気付いてすらいない。
「あんただって、家族は大事だろ?」
「……あなたは騙されてる」
人質か。
どこの下衆だ。
あの連中の中に、まだ生きているのがいるのか。
頭に血が上っているが、思考は想像以上に冷静……冷徹になっていた。
「あんたを連れて行けば助けて貰える……」
「……これが最後。止めるべき。誰に脅されているのか、私に……姉さんに言うべき」
「逆らえる訳ないだろ!!」
説得は……、無理そうだ。
ミヤビは姉ほど交渉や渉外の類が得意ではない。
「……そう」
ミヤビは、ジョロウのマニピュレーターが構えた機関砲を下げる。
それを見た男は嘆息をついて頬を緩めた。
「ありが……」
そして、吹き飛んだ。
男の乗っていた車両が爆発したのだ。
「何でっ……!」
「俺達は、言う通りに……!!」
続けて別の車両も爆発する。
ジョロウは武器を構えていない。
彼等は誰に攻撃されているのか分かっていない様子だった。また1つ、さらに1つと彼らのトラックが吹き飛んでいく。
彼等は素人なのだ。
無人兵器に……無人兵器を指揮する車両や機体に攻撃をするとどうなるのか分かるはずもないのだった。
また1つトラックが吹き飛ぶ。
斥候と殿には長距離砲を装備したスコルピウスがいる。
自律型致死兵器システムは男が標準レーダーをジョロウに飛ばした時点からライトキャリッジの車両が出す識別信号を攻撃対象に切り替えていた。
何度か攻撃の取り止めをスコルピウスに指示したが、彼等が標準レーダーを切らなかったため、AIが指揮車両となっているジョロウの保護……敵対者の排除を最優先に切り替えてしまった。
こうなってしまうと停止命令は聞いてくれない。姉ならもっと上手く操作できたのだろうか。
そんな事を考えている間にも依頼主達が吹き飛んでいった。
スコルピウスは綺麗にミヤビ達の燃料車とジョロウを残して敵対者の車両を鉄屑に変えた。
そこでようやくAIが命令を求めて来た。スコルピウスの操縦AIを停止させ、人機直結システムでオーバーライドする。
自動索敵はできなくなるが、これでスコルピウスもジョロウのサブアームのように動かせる。
姉ほどではないが、ミヤビも3機までならこのシステムで動かせる。今はジョロウを操縦しているため、スコルピウス2機が限界だ。
アントはフルオートの状態を維持して索敵させることにし、斥候と殿のスコルピウスと合流した。
スコルピウスと電源車の接続は切る。高機動戦闘の邪魔になる為だ。
「……どうしよう」
最適解は警戒態勢を維持し、通信が回復するのを待つことだろう。
ただ、問題はなぜ通信が切れたのか分からない点だ。
確認すると無線通信もライトキャリッジの衛星通信も生きていて、ジョロウはオンラインを維持している。
「……容赦ねえなぁ?」
「……誰?」
不快な、下卑た声が通信越しに耳に入った。
聞き覚えはない。ただ覚えていない可能性もあるが。
「攻撃されたとはいえ、お前等の雇い主だろ?」
「……わざわざ元凶が出てくると思わなかった」
彼等はこいつに脅されていたらしい。
「クソ役にも立たなかったがなあ」
アントが周囲にMⅢの熱源反応を捉えた。
ビルの上、或いは向こう側、または道を塞ぐように現れた。
遮蔽物の多いエリアでレーダーが馬鹿になるのはいつものことだが、それまで熱源センサーにも反応がなかった。
おそらく、エンジンを停止させて潜んでいた。
待ち伏せだ。
「大人しくしてれば、生命だけは助けてやる」
「……質問に答えろ」
「……気の強い女は嫌いじゃねえが……」
アントに気付いていないか、性能を把握していないようだ。今のうちにこちらを攻撃できる機体の位置を把握する。
「てめえ、状況分かってんのか?」
「雑魚が群れたところで、勝ったつもり?」
「マジで気付いてないのか?」
何を言っているのか。
だが、相手がお喋りなおかげで、敵の優先順位は付けられた。
「何で通信が切れたと思う?」
「何……?」
「……何でお前のお姉ちゃんと繋がらないと思う?」
背筋が泡立つ。
妨害電波はない。無線通信も衛星通信も生きている。それなのに姉…セイカと通信ができない。
この男は自分と姉を知っている。
「……お前!!」
つまり、この男は姉を攫ったと言うのだ。
「あっはっは!声が変わったなぁ!?」
煩わしい笑い声が耳に入る。
相変わらず、通信は繋がらない。
姉の声が聞けない。
無事かどうかもわからない。
姉が死んだら……殺されたら……。
命があっても、こんな連中に捕まったら……。
「お姉ちゃんが大事なら、分かるよなぁ?」
……することなんて変わらないじゃないか
「死ね!!」
「なっ、てめぇ!?」
スコルピウスの長距離砲が火を噴いた。
1発は道を塞いでいたMⅢに風穴を空け、もう1発は衝撃で狙いがそれて廃墟を瓦礫に変える。
「人の話を……!」
「死ね!」
スコルピウスが外した相手にサブアーム裏の迫撃砲を叩き込んだ。
機体のダメージは少なくとも、足場が崩れた。
下には古い下水道か地下鉄の空洞があるらしい。
ホバーエンジンの出力を最大にし、廃ビルに向かって跳躍する。廃ビルに4本のサブアームを突き刺すと、そのまま昆虫の脚のようにサブアームを動かして上に上がっていく。
「お頭!登ってくる!!」
「くそっ!撃ち落とせ!撃て!話が通じねえ!!」
廃ビルの上からMⅢが頭を出した。
機関砲を構えようとした時点でミヤビは行動を変える。ジョロウはサブアームを突き刺した状態で迫撃砲を廃ビルに撃ち込んだ。
ホバーエンジンで重量の負荷が軽減されているジョロウは爆風で吹き飛び、高さの低い別の廃ビルに着地した。
「ま、待って待って待って!!」
などと言っても物理現象は待ってくれない。ジョロウが迫撃砲を撃ち込んだ廃ビルは中程で大きく抉れていた。そこを起点に傾き……倒れる。
逃げ遅れた敵のMⅢは倒れた廃ビルと向かいの廃ビルに挟まれて動かなくなった。
ビルの上から、遠目に黒いMⅢが目に入った。
アントの索敵範囲外の位置に、重装甲に覆われた無骨なMⅢがこちらを見据えていた。
フレームに統一感も意図もなく、バラバラに組み立てられたMⅢ達と比べて上等な機体だ。
臆病者にはもったいないが、あれが指揮官機か、それに類する者が乗った機体に違いない。
「クソっ……殺せ!!」
「お前たちが死ね!!」
スコルピウス2機もジョロウに追付く。
閉所で包囲戦をしようとした無能に砲身を向けた。
----------
時間は少し遡る。
「通信が切れた?」
セイカはツチグモの機体内、培養槽の内側にいた。
コグモを底面に収納し、背中のインプラントをアームに接続。身体を持ち上げた慣れた姿勢。
以前と違う点は培養液に満たされていない点と、ちゃんと服を着ている点だろうか。ちなみに、背中の開いた仕事着に合う服はなかなか無く、結局はジパング社の強化人間用パイロットスーツを買うことになった。
培養槽の壁面をマルチモニター代わりに無人兵器と仕事のオペレーターを務めていた。
そんな中、唐突にミヤビのジョロウ、無人兵器、各車両との通信が切れてセイカは首を傾げる。
再接続を行うも、そもそも接続先が見付からないとエラーが出た。
試しに近くのコロニー内に待機しているアントと接続すると、いつも通りに繋がりアントがハッチから這い出て来た。
ツチグモの回線は外部に繋がっていると表示されている。となると、セイカの周辺機器の問題ではない。
再接続を行うため、流石にツチグモの中からは出られない。接続したアントで周囲を伺うと、カズサがギルドのガードと何か話し込んでいた。周囲も騒がしく、総じてみると、ギルドのガードの周囲に人が集まっている。
「何か合ったの?」
「うおっ!?……姉ちゃんかい。いや、オープンネットワークが切れちまってね。姉ちゃんは繋がるのかい?」
カズサに言われ、通常のWEBページを開こうとすると通信エラーの表示が出た。
「繋がらないわね。あと、衛星通信も切れてて、仕事先と繋がらないのだけど」
「それ、妹ちゃんは大丈夫なのかい!?」
「あの子は私より強いし、無人兵器はミヤビのMⅢが次点の指揮車両になるから、大丈夫よ」
「それならいいんだが……で、どうなってるんだい?」
「今、災害無線で本部に確認中でして……」
ギルドのガードも困惑した様子で答える。
そもそも設備の維持管理が本職ではない人間だ。
どこに確認を取るのが良いだろうか。
ギルドに強く出ることができ確認のとれるところ……で、頭に浮かんだのはジパング社のいけ好かないあの男……ウェインだが連絡先を知っている訳では無い。
そう言えば、少年……アルフレッドであれば連絡先は知っている。この手の事は頼りにならないかもしれないが、違う情報を持っているかもしれない。
善は急げで繋いでみると、繋がった。
アウトベース内でのモバイル端末通信が繋がるとなると、完全に衛星通信の問題か。
「ウェインだ。今アルフレッドは仕事中だ」
「……何であなたが出るのよ?」
なぜかウェインが出た。
「ご挨拶だな……。急ぎならアルと繋いでやろうと思ったんだが……」
「ごめんなさい。用はあるわ。あなたでも……」
突如、ツチグモの機体内が大きく揺れた。
培養槽の表示が真っ赤に染まり、アラートと共にエラーと警告の表示で埋め尽くされた。
文字数足りず、まだ続きそうです。
読んでくださったあなたへ感謝を。




