旅立ち編_第三章_9_罠
「しかし、他所も目を付けてきた訳だねぇ」
カズサに指名の依頼を相談したところ、特に他所へは紹介していないとのことだった。
「まぁ、あんた達は噂になってるからね」
「そうなの?」
「救難信号出すと、ギルドが至急の救助依頼を出すんだけどね。その緊急の依頼を横から掻っ攫った美人姉妹ってところかね?ギルドだけじゃなく、キャラバンでも噂にはなってるね。その指名は値踏みだと思うよ。新人なら割安ってのもある」
だが、キャラバンの仕事上で繋がりはある輸送部隊とのことで、指名してきた依頼主が人狩りや略奪には関わってないことは教えてくれた。
そのため、仕事は受領済みである。
今はカズサ達、輸送部隊バンジュウの護衛任務中だ。
3人は通信で画面越しに会話をしている。
近場の城塞都市に物資を運び、1泊して戻る。片道2日かかるため、3泊4日の工程となる。
セイカはスコルピウス2機と電源車両2台、燃料車両1台とツチグモ、ジョロウの編成でカズサ達と並走していた。
この仕事を修理したジョロウの試運転も兼ねている。
「ウチは小規模の車両部隊だから早い方だよ。1日200km前後進める。大規模になると、護衛に戦車やら盾用の重MⅢを連れるから半分以下の速度になるね」
装甲で覆われた輸送車両が鈍足なこともあるが、隊列の維持と地雷の警戒と除去は速度に大きく影響するとのことだ。
「……航空機じゃダメなの?」
「あー、そこからなんだね」
ミヤビの疑問は当然のように感じられるが、セイカもオープンネットワーク上の知識で理由は知っていた。
「ミサイルがどこから飛んでくるか分からないのと、軌道エレベーターの防衛だね」
各大陸……中央大陸・東方大陸・暗黒大陸・西方大陸に1本ずつ軌道エレベーターが存在する。
「歴史の授業になっちまうが、もともと軌道エレベーターは5本あったのさ。西方大陸に2本だ。その片方に航空機が突っ込んじまった。歴史的な大災害だよ妹ちゃん。……それ以降、高高度を飛行する物体は問答無用で衛星砲に撃ち落とされることになっちまった訳だね」
軌道エレベーターでは航空機では運べない重量物を無重力の宇宙を経由して大量に運べる上、宇宙からの鉱物資源を地上にもたらしている。
完成した当初は技術革新を起こし、世界を発展させた。そして、歪が産まれてテロが起こり巨大国家が力を失うほどの大災害……人災が起こった。
同時多発的に軌道エレベーターが攻撃を受けることになったのだ。
6本中、5本は守り切られたが多少の被害があり、崩れた外壁が各国家や連合体の振り注ぐ結果となった。完全に破断した西方大陸南側の被害は言うまでもない。
ちぎれた軌道エレベーターは今だ止まったままとのことだ。
「ま、瓦礫の雨が降るよかマシって事だね。アタシらは軌道エレベーターまで荷物を運ぶ事はないが、機会があれば受けてみると良いさ。以上、歴史の授業は終わりだよ」
辛気臭い話は終わりだとカズサは肩をすくめた。
「それより、姉ちゃんの機体と妹ちゃんの機体で護衛は大盤振る舞い過ぎないかい?費用とか考えてるんだろうね」
「ジョロウの試運転も兼ねてるのよ。1日動かしたらツチグモに格納する予定よ。ミヤビ、状態は?」
「……問題なさそう」
修理を終えたジョロウは輸送部隊の速度に合わせてホバーエンジンで滑走している。時折、サブアームやマニピュレーターを動かしているのは手持ち無沙汰なのか動作確認かのどちらかだろう。
「今後の編成も考えないとね」
「コロニーと無人兵器群だけなら効率的だけど、アントはいらないのよね」
編成は今のところ手探りだ。
ツチグモとコロニーは輸送車両並みに鈍足で燃費も良いわけではない。理想は電力だけで動いてくれる無人兵器だけでの編成だが、中継機が必要になる。
ジョロウは中継機の性能も持っていて脚も早いので、現地オペレーターとしてミヤビとジョロウ、無人兵器の編成も考えた。MⅢは巡航速度であればホバーエンジンの燃料も長時間持つ。それでも数日走り続けられる訳では無い。
その考えをカズサに話してみる。
「もう1台燃料車があっただろ?それにホバーエンジンの燃料を積めばいけるんじゃないかい?」
「それだと、ミヤビが1人で……」
「過保護過ぎだよ。なんなら、何機かアントを燃料車と電源車の助手席に積んどけばいい。これなら、昼は妹ちゃんが、夜は遠隔で姉ちゃんが護衛できるね」
確かに、個人の戦闘能力でいうならミヤビの方が遥かに強い。セイカはオペレーターに徹して、情報と無人兵器でミヤビをサポートする形は、自分達が所持している武装からも最適解かもしれない。
「……次の依頼、ライトキャリッジの護衛で試してみるわ」
スコルピウス2機、電源車両2台、燃料車両2台、ジョロウ1機、アント4機とメモを残しておく。
電源車両と簡易的な指揮車両を増やせば、ジョロウをクラッドビートルにしても良いかもしれない。
コロニーは電源車両・指揮車両・輸送車両を兼ねていて便利だが、ただ護衛に使用するにはオーバースペックで足も遅い。
テロリストや盗賊の討伐ならともかく……というか、それを無人で行うための車両なのだ。
「車両編成で悩んだらまた相談してくれたらいいよ。ウチらの本職だからね」
カズサ達の護衛は行きも帰りも機動兵器での襲撃は起こらなかった。
ここに来てから、アルフレッドとの決闘を除けば比較的順調だ。戦うのが仕事とはいえ、襲撃など無いに越したことはないものである。
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カズサ達の護衛を終えてアウトベースに戻り次第、次の依頼の準備を始める。ジョロウを出すほどの襲撃はなかったため、機体の修理に追われる事もなく燃料と弾薬の補給のみでジョロウは万全の状態となった。
それは無人兵器のスコルピウスも同様だ。足回りの消耗品を交換し、依頼当日までに予備バッテリーも含めて充電をしておく。
次の依頼までにメンテナンス面での憂いは無さそうだ。
そして、ライトキャリッジの輸送隊長との打合せ。
彼らは足の早い輸送部隊として重宝されているらしかった。
都市外を走るための2車線を占領するような大型の輸送車両ではなく、城塞都市内でも走れる車幅の軍用トラックで輸送を行なっているらしい。
さらに、舗装されている廃道を活用することで斥候に地雷除去車両を置かないという。そのため、時速30km前後で移動できればよい輸送部隊の倍以上の速度で移動するとのことだ。
多少迂回があった所で、彼らの方が到着が早い。
今回は城塞都市の都市外にある資源プラントに物資を届けるという。テロリストに襲われ、弾薬と武装を至急届ける仕事との事だ。
その特色から、至急の依頼が多い代わり短い工数で高い売上を得られるらしく、姉妹への依頼料も日数に対して割高だった。
……そういう経緯でツチグモとコロニーは使えない。渡りに船と言うべきか、先日カズサに相談した編成での護衛が最適な内容だった。
ジョロウを修理していた期間と異なり、先の依頼の報告に、保存食と弾薬の買い出し、次の依頼の打ち合わせ、そしてさらに先の仕事を探す……等々やる事が多かった。これらのルーティン化も今後の課題としておこうと、セイカは業務を進めながら思うのだった。
少し前に不審者に着けられたことや、自分達と同様の容姿の人間への嫌がらせなど、頭の隅に追いやられていた。
「……それじゃ、よろしく頼む」
「こちらこそ。よろしくお願いするわね」
ライトキャリッジの輸送隊長と挨拶を交わし、いったん通信を切り随伴する。
さすがにカズサ達とのように軽口を交わしたり相談事をしながらの移動と言う訳にはいかない。
「ブリーフィングでも話したけど、普段の巡航速度と異なるわ。前方の索敵に重点を置くわよ」
「うん」
予定では1日かからずに資源プラントに到着するという。
移動速度が速い分、先頭の車両が攻撃を受けた際に複数台が巻き込まれる可能性が高い。斥候と殿にスコルピウス1機ずつ、さらに先頭車両の前にジョロウを置くことにした。
「操縦はセミオートでいい?」
「システムもすぐ起動できるようにしておいて」
「わかった」
基本的には通常通りスコルピウスの精密射撃での対応になるが、随伴車両の強度も高くないためミヤビが即応できる状態を維持する。
「……速いけど走りやすい」
「舗装が残っているだけで違うわね」
電源車両は自動運転で接続されたスコルピウスに追随させ、燃料車両は遠隔で運転しているが舗装が残っているだけで安定感が違う。
凹凸にハンドルが流されることも少ない。
普段から彼らが通っているのか障害物も少なかった。
「廃都市……」
「あそことは別の場所だけど良い思い出が無いわね」
当然、古い道路の舗装が残っているような場所には古い建築物も残っているわけだ。
部隊長の男に通信を繋ぎ報告をする。
「斥候のスコルピウスが廃都市に入ったわ」
「了解した。ブリーフィング通り、障害物があったら報告してくれ」
通り慣れた道とのことだが、古い建築物が建ち並ぶ以上、後から崩れることもままある。手持ちの爆薬で対処できるものは吹き飛ばし、難しければ予備ルートを使うという。その辺りの判断はプロに任せることにした。
「ミヤビは廃墟に注意して」
「うん」
廃墟を利用した待ち伏せや障害物に備えて、移動速度を落とす。
……多少速度が落ちても、カズサ達の車列に比べると速い。車体が軽いと、足が速いだけでなくすぐに停車できるためだ。
便利と思う反面、大型の特殊車両と比べ装甲が低いのは気になる点だ。
隣の芝は青いと言うが、自分達の傭兵の仕事は荒事を請け負うものだ。目的に合うかは要検討と言ったところだろう。
そんなことも考えつつも周囲の確認は怠らない。廃都市に入ってしばらく経った時、廃墟が崩れているのを見付けた。
「斥候が障害物を見付けたわ」
「了解した。付近の状況を確認してくれ。爆薬を積んだ車両を前に出す」
「アントを出すわね。ミヤビも周囲を警戒して」
「わかった」
電源車と燃料車の助手席に押し込んでいたアントが器用にドアを空け外に飛び降りる。
計4機が車両と同等の速度で斥候のスコルピウスの周囲でに集まっていく。
「システム起動」
人機直結システムを起動して警戒態勢に入った。これで機体は反射的に動かすこともできる。
「姉さん。前の方はどう?」
「特にサーモグラフィーにも反応はないのよね……。ただ……廃…き……が……」
「姉さん?」
突然通信にノイズが入った。
「姉さん!?」
「……」
応答がない。
代わりにシステム音声が返答する。
"上位権限者とのリンクが切断されました。制限解除個体01に操作権限を移行。自律型致死兵器システムがフルオートに切替わります"
そして、そのまま通信が途切れてしまった。
「切り替え了承!」
無人兵器のスコルピウスとアントも自動迎撃に切り替わってしまう。カカシになるのを防ぐため警戒度を最大にした。味方の識別信号以外は無差別に攻撃してくれる。
ミヤビは外部スピーカーを繋ぐ。
「警戒!通信が切れた!車両からも出ないで!!」
叫ぶように指示を出しつつ、スコルピウスのカメラも含めて周囲を見渡す。
「通信が切れたのに、ジョロウはスコルピウスとアントを認識している……?」
つまり、妨害電波ではないのか。
そして、視認できる範囲に敵影はない。状況が掴めない。妨害電波でないならなぜ通信が途切れたのか。
「アラートっ!うしろ!?」
ロックオンアラートが鳴った。
爆発音が響いた。




