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旅立ち編_第三章_7_不審者

「今、いるの?」

「いる」

「いるなぁ」


帰宅までの夜道。セイカの仕事が長引いたので、普段の帰宅時間より遅く、人通りも少ない。

3人は歓談しながら歩いていた。


アウトベース内に各エリアへ移動するための環状線が通っているが、セイカとミヤビの借りている部屋は倉庫街から徒歩で帰れる距離だった。


理由としては金銭と利便性だ。安全性や騒音を考えると当然だが、安全で静かな中心部の方が高く、流れ弾や騒音の多い外縁に近い土地の方が安い。


カズサと相談して選んだのは、外側に近い独身女性専用のマンションだ。どうせならとキャラバンの使用する倉庫街に近い所にしたのだ。


「ギルドのガードも完璧じゃないぜ?賄賂で通す奴もいるし」

「このマンションのガードは全員女性で、その務めてるマンションに住んでるのよ」

「あー。それなら大丈夫か」


自分の住んでるマンションに不審者を入れたい女はいないだろう。住民の連れ添いや、管理部署の許可を得た者しか部外者は入れないらしい。


「それなら、俺はガードいる入り口まで着いてれば良いってことだな」

「……夕食ぐらいごちそうするわよ」


ミヤビの顔色を確認しつつ、そんな提案をしてみる。研究所で男性に向けていた拒否的な反応はしていない。


だが、アルフレッドの方が頭を振った。


「借りが多くなりすぎると返せなくなるんで」

「……奴隷にできるかも」

「油断も隙もないな」


妹の物騒な軽口をケラケラと笑いながら流した。見ている限りは妹と相性が良さそうだと、セイカは勝手に期待している。


ただ、軽口を叩いているように見えて、周囲を見ている事に関心する。


ミヤビの方を向いたり、前に出て後歩きをしたりと、分からない者からすれば会話をしながら歩く落ち着きのない子供のようにしか見えないのだ。


だが、目線はミヤビとセイカをほとんど見ておらず、周囲に向けられている。


「それにしても素人っぽいな。都市軍の諜報員(プロ)はここに来ないから、変な例えかもだけど」


声量を落として話す少年の言葉にセイカは首を傾げる。


「分かるものなの?」

「同業(傭兵)なら、企業連合(ウチ)かギルドの人間が着いてたら今日は諦める」

「逆に狙うような奴もいそう」

「いや、いたけどさ」


口を挟んだミヤビに、少年は肩をすくめた。


「全員殺したなぁ」

「そっか」


話題と和やかな雰囲気が噛み合っていない。一応、ゲームの会話と考えれば妥当だろうか。


そんな会話をしている内に、家についてしまった。


「お疲れ様です」

「ありがとう。お疲れ様」


ギルドの女性ガードが声をかけてくれる。ボディアーマーにサブマシンガン、折り畳み式の盾を背負い発煙筒にナイフとフル装備だが、気さくに声をかけてくれるので、そこまで威圧感はない。


「……あなたも入られるのですか?」

「いや、俺は入んないよ。ここまで」

「わかりました」


ガードの口調が少し固くなった。アルフレッドが着ているのはジパング社のロゴが入った作業着だ。企業の人間相手では気を使うらしい。


「じゃあ、また明日」

「ん」


アルフレッドは外からヒラヒラと手を振り、妹も振り返した。


----------


「さて」


姉妹を見送った少年は踵を返して敷地から出た。


まだいる。


姉妹はガードのいる建物に入ってしまったのだから帰ればいいものを。


防犯カメラとガード、その他にも防犯設備があるであろう建物に忍び込むなどアルフレッドも考えたくない。


そもそも居住区は自動拳銃くらいしか銃火器は持ち込めない。

対してギルドのガードは短機関銃や小銃の他、ボディアーマーに防刃スーツとフル装備だ。


入り口には車両止もあり殴り込みも現実的ではない。


「何したいのか分かんないのが気持ち悪いな」


ここまで来る途中も後ろを見ていたが、確認できた人数は2人。もう1人くらいはいるかもしれない。


「俺狙いの可能性もあるか」


一緒にいて身内と思ったのかもしれない。そもそも、企業連合の制服に気付かないレベルの相手なのだ。


手持ちの装備は自動拳銃と軍用ナイフだ。


「無理そうだったら逃げよう」


腰の工具入れに隠したナイフと拳銃に手を掛け、来た道を戻るように歩き出す。わざわざ相手のいる方向に。


前から見たら、ご機嫌に後に手を組んで歩いているように見えるだろう……素人なら。


少なくとも、ウェインとエマには通用しない。


目星を付けていた交差点。

街灯が壊れていて暗い道。その直前で足踏みをしてみた。


男が両手を広げて飛び出してきた。


「なっ……クソっ!!」


目算を誤り向き直ろうとするがもう遅い。


ナイフを構えて無防備な下半身にアルフレッドは飛び込んだ。


男の絶叫が響き渡った。


「うわ痛そっ」


全体重を乗せてボディアーマーがないであろう下腹部下にナイフを突き出したのだが、舐めきっていたのか避けもしなかった男の下半身に深々と刺さった。


肘と身体の回転を使い、間を空けずに引き抜く。幸い骨に引っ掛かる事なく引き抜けた。


男の体重に潰されてはたまらないので、ナイフを引き抜く動作を使って身を翻すように男の横に逃げる。


男は激痛にのた打ち回っている。


身体を回転させた時にもう1人見えた。


3人目はいない。


いたとしてもすぐ援護できる場所にはいない。


「このガキ!!」


もう1人は拳銃を持っていた。アルフレッドは足を止めない。動いている的に拳銃がなかなか当たらないのは知っている。


男が発砲した。が、腕が跳ね上がっていた。


これでは当たるはずもない。


こっちも素人だ。


アルフレッドもすでに拳銃を取り出していた。撃鉄も上がっている。牽制のつもりで胸を狙って数発撃つ。


「がっはっ……」

「あれ……?」


男が血を吐き、少年は目を丸くした。傭兵を付け狙う相手がボディアーマーすら着けていないとは思っていなかった。


肺を撃ち抜いてしまったようだ。こちらを尋問しようと思ったのだが、使えなくなってしまった。崩れ落ちる男にもう数発発砲し介錯してやる。


残ったのは虚勢してしまった男。


周囲には誰もいないようだ。


絶叫と発砲音のためか、辺りの建物で消灯していた部屋も灯りが付いていた。


とりあえず、これ以上抵抗されても筋力では勝てないので、腕を撃って潰す。


「誰に雇われたよ?」

「痛い……痛い……助けて……」


嗚咽を漏らして呻くだけのため、もう一発足に撃ってみる。男は悲鳴を上げる。


「誰に雇われた?」

「しっ知らない!!」


意外と骨があるのか脅されているのか。もう一発鉛玉をプレゼントする。


「じゃあ、何で襲った?」

「しっ……」

「し……?」


分かりやすくスライドの引く音を立ててやる。


「白い女を……連れて……かっ金……」

「どこで?」

「ね、ネット……」

「わかった」


つまりこちらが知りたいことは何も知らないわけだ。


役に立たないとわかり胸を撃ってとどめを刺す。


やはりこの男も防具を着けていなかった。


旧市街のならず者か何かだろうか。テロリストなら武器は持ち込めずとも、防弾対策くらいはしている。


アルフレッドは嘆息をついた。


結局、服が汚れただけで大した収穫もなかった訳だ。


「ネットか。調べたところでなぁ」


SNS上で詐欺まがいの発信は腐るほどある。発信者の特定も現実的ではなく、情報としては下の下でしかない。


このボロ雑巾のような男達も被害者と言えば被害者のようなものだろう。襲ったところで、あの姉妹をどうにかできるとは思えない。


「君!大丈夫か!?」


長いため息を付き、帰ろうとした所で女性の声が耳に入った。


見ると、あの姉妹のいるマンションのガードだった。銃声と悲鳴を聞いてわざわざ駆け付けたのだろう。


住民の知人、それも子供ということで気にかけてくれたのだろうか。


「……大丈夫、みたいだな」

「……まぁ、本職だし」


しかし、気不味くなった上、アルフレッドはギルドの職員と共に後片付けをすることになった。

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