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旅立ち編_第三章_5_修理

「彼から連絡が来たわよ」


翌朝、部屋で朝食をとっていると、姉はモバイル端末を片手にそんな事を言った。姉の妙な言い回しにミヤビは訝しげな表情を浮かべた。


「彼って誰?」

「今日、手配した整備士連れてくるそうよ」

「ああ……」


アルフレッドのことだった。

約束は違えなかったらしい。


「嫌い?……まぁ、ジョロウを壊されたものね」

「……戦って機体が壊れるのは当り前」

「へえ……?」


セイカが意外そうな表情をする。


「……何?」

「何もないわ」


姉の煙に巻くような返答にミヤビが唇を尖らせた。

変な勘ぐりをされている気がする。


「本当に?」


姉はコーヒーを口に運んで誤魔化した。


----------


機体を預けている倉庫街に着くと、すでにアルフレッドが来ていた。ジョロウの周囲でつなぎ姿の男達が足場を組んでいた。


「……約束より早い」

「まぁ、前準備とかあるからな」


少年は距離を取りつつ返答する。その妙な様子にミヤビは首を傾げた。


「何?」

「いや、お前はよく気づかないな……」


アルフレッドはミヤビの後を見ていた。その目線を追い掛けると、姉が眉間にしわを寄せて整備士を見ていた。

思わずミヤビも一歩離れた。


「その整備士、ジパング社の?」

「それは、そうだろ……ウチで手配したんだから」

「……本当は?」


セイカの追求にアルフレッドは黙る。ミヤビは首を傾げる。


「あの男の指示?」

「……指示っていうか……安く済むっていうか」


答えを言われ、少年は口を割った。

ツカツカと姉は少年との距離を詰める。アルフレッドも舐められまいと、見返すが少し手が震えていた。


「どういうつもりで私達を嗅ぎ回ってるの?」

「……?何のことだよ」


アルフレッドは姉の言っている事が分かっていない様子だった。もしかしたら何も聞かされていないのかもしれない。


対して、ミヤビは姉が何を警戒しているのか分かった。


姉妹とアルフレッド達とはアウトベースに来る前に一度ぶつかっている。あの辺りに来ていたとなると破壊し尽くした研究所も見ているのかもしれない。


それを踏まえると、彼らの動きが怪しく見える。


機体を修理するだけなら、わざわざジパング社の整備士を派遣してくる必要はない。質を気にしなければ、安い下請けなどいくらでもいるはずだ。


「おいおい、ウチの若いのを虐めないでくれるか?」


整備士達の中から腕章を着けた男……、整備士長が出てきた。セイカとアルフレッドの間に入る。


「責任持って機体は直すさ。妹ちゃんを泣かせた奴に目くじら立てたくなる気持ちは分かるけどよ」

「……」


的外れな仲裁だ。あくまで恍ける方針らしい。


それで姉の警戒が溶けるとは思えない。だが、セイカは嘆息をついて一歩下がった。


『これ以上の追及は意味がなさそうね。ミヤビ、せめてツチグモには近付けさせないで』


久々にインプラントの通信機で姉の声が飛んできた。

ミヤビが姉の顔を見て頷くと、頷き返してくれた。


「私は無人兵器の整備をするから、ミヤビはジョロウの修理の立ち会いをして。フォローが必要な時は作業中のアントに話しかけて」

「わかった」


姉はそう言うと、ツチグモの牽引車両の中に入っていった。セイカを見送ると、アルフレッドが大きくため息をついた。


「さっさと終わらせて帰りたい」

「残念ながら、予備日を入れると工期は1週間だ」


整備士長の言葉に、少年はもう一度ため息をついた。


一悶着あったものの、アルフレッド達は作業を開始し、午前中で作業用の足場は完成した。今日の予定は足場組とシステムチェック、破損部位の取り外しとのことだった。


昼休憩の時間となると、整備士達は倉庫街にある飲食店へ食事に向かってしまった。他にこの倉庫を借りている者たちも同様で、作業中とうってかわって静寂に包まれていた。


そんな場所にアルフレッドとミヤビとセイカは残っていた。


「あなたは行かないの?」

「金がない」


セイカの問いにアルフレッドは短い返事を返して、栄養調整食品のカロリーバーを取り出して齧り出した。


どうやら、それが今日の彼の昼食らしい。

セイカとミヤビは手製の弁当で昼食をとる。外食は決して安くないためだ。


当然ながらアルフレッドは一足先に食べ終わる。姉妹と特に会話をすることもなく、足場と工具を積んできた荷台に登ると横になった。


あれで足りるものだろうかとミヤビが物思いに耽っていると、少食な姉の方が先に食べ終えてしまった。


「少し早いけど、私は作業に戻るわ。何かあったら呼んでね」


ここに来るまで無人兵器は酷使してきたので、カズサ達の依頼前にコロニー1機分のメンテナンスは終わらせたいらしい。


ミヤビも少し遅れて食べ終わる。

午前中の作業を見ていて思ったが、ミヤビ自身は特に何かする必要はなく手持ち無沙汰だ。


ここに来るまでに使った銃器のメンテナンスでもしながら眺めていようと、自分達の輸送車両を物色することにした。


コンテナ車両の中でライフルを2丁担ぐ。

整備のため、机代わりになるものを探していると、レーションの木箱が目に入った。蹴ってみると軽かったので、ライフルを入れて一緒に持ち出そうと蓋を開けると1つだけレーションが残っていた。


残り物をポケットに入れると、ライフルと座椅子用にするコンテナを放り込んで外に持ち出した。


「……何やってんの?」


流石にガチャガチャと騒音を立てながら銃器を運んでいると気になったのか、アルフレッドが声をかけてきた。


「暇だから使った銃の整備する」

「……システムチェックの時、繋ぐのは俺だけどお前にダブルチェックしてもらうぞ」


この後、ミヤビもやる事があるらしい。


「それが終わってからなら、たぶん問題ないぞ」

「……わかった」


実務的な会話を終え、微妙な間ができる。少年が荷台に消えようとしたところでポケットに入れたものを思い出した。


「これ、いる?」

「……何それ?」

「軍用レーション」


食べ物と聞いて少年が思わず身を乗り出した。

しかし、分かりやすく反応してしまった事に赤面して顔を逸らした。


「何でだよ」

「1つだけ残ってたから」

「いらな……」


意地を張ろうとした少年を、腹の音が静止した。

身体は正直なようだ。

投げて渡すと片手でパシリと受け取った。


「ちゃんと食べるべき」

「仕方ないだろ。お前のMⅢと俺のオロチの修理費で今月厳しいんだよ」


そう言うと、アルフレッドは渋い顔をしながらフードバー状のレーションを齧った。ボリボリと音だけ聞いても硬そうな咀嚼音が聞こえてくる。


「……何?」

「感想は?」

「そこは、お礼は?じゃないのかよ?」

「機体、直してもらってるから」

「……俺が壊したんだが?」

「……戦ったら、壊れるのは普通」


泣いてしまったことを棚に上げる。感情が理屈や理性で何ともならないのは少し前に経験したことだった。


「……じゃあ、貸し借りなしでいいか」

「……うん。じゃあ感想」

「それは必須なのか……。お前の距離感が分からん」


などと言いつつも、最後の一口を放り込んでから腕を組んで考えている。思ったよりも律儀な少年だ。


「……怒るなよ」

「うん」

「フードバーのレーションは不味い」

「不味いよね」

「……まぁ、でも、助かった。朝と夜は社食が使えるけど、昼にこっちから戻る時間なんてないからな」

「そっか」

「余ってるならまた分けてくれると嬉しい」

「余ってたら」


不味いレーションではさほど会話は続かなかった。

沈黙が気不味い。何かないかと考えていると、今度はアルフレッドから口を開いた。


「貸し借りなしなら、聞きたいことあんだけど」

「何?」


変なことでなければ答えてやろうと聞き返す。


「昨日の戦闘、最後に俺のMⅢをお前のMⅢの脚部で蹴っただろ?あれ、どうやったんだ?」

「……?普通に操縦した」


少年の質問の意図がわからず、ミヤビは首を傾げた。


「いやいや、脚部を自由に動かせる操縦桿なんてないだろ。それともモーションを記録してんのか?」

「これでできない?」


ミヤビは自分のインプラントとトントンと叩く。しかし、アルフレッドは頭を振った。


「できねーよ。それは上半身とサブアームを好きに動かせるだけだ。それでも便利だけどさ」

「できないの?」

「できんの?」


アルフレッドは目を丸くする。ミヤビは他の機体を知らないので、よく分からない感覚だった。


「そもそも転けるだろ」

「うん。慣れるまで何回も転けた」

「……安全装置で脚部は意図的な接触ができない」

「アラートなったかも」


アルフレッドは理解できないと頭を掻くが、ミヤビも嘘を付いているつもりはないし、嘘を付いているように見えないので少年も混乱していた。


もしかしたら喋りすぎてしまったのかと思ったが、姉の静止は入っていない。


「まぁ、システムチェックで分かるか……」


少年はそれで無理やり納得したようだった。


そして、システムチェックの時に今度は整備士長がアルフレッドがしたような表情をすることになった。


インプラントにプラグを繋いで、強化人間の操縦システムの起動も含めて確認を行う中、アルフレッドでは起動できないプログラムがあったのだ。


姉妹がシステム音声で人機直結システムと聞いているものだった。


ミヤビがそれを動かすことになった。


「……これ、エラーもセキュリティも全部無視してないか?」


ダブルチェックをしていたアルフレッドが外部端末を眺めながら呟いた。整備士長は少年の後から端末を眺めながら顎に手を当てる。


「……お嬢ちゃん、動かせるか?」

「動かせる」


整備士長の指示に、ジョロウの無事な肩関節を動かしてみせた。整備士長は顎に手を当てる。


「操縦用のプログラムなら、動作チェックだけで良さそうだ。お嬢ちゃんしか動かせないようだし、これのチェックは後回しにするぞ」

「いいのかよ」

「いいみたい」


アルフレッドは端末に多数出ているセキュリティ警告とエラー表示が気になるようだ。


システムチェックを終えて、修理の工程が決まった。予備日を含まなければあと3日で終わるとのことだ。


今日中に残った破損関節の取り外し。

2日目には関節の予備パーツの取り付け。

3日目には脱落部位の予備パーツを装着。

4日目には脱落部位の分解とパーツ取り。


動作チェックは4日目に行うとのことだ。


ミヤビにとって、早く直ってくれること以上に重要なことはない。


「初期起動は俺がやるけど、最終的な動作チェックはお前に任せるぞ?」

「わかった」


初日はスケジュール通り。定時までに破損パーツの取り外しを終えてアルフレッドとジパング社の整備士は戻っていった。


---------


「試運転も兼ねて、良さげな仕事も探さないといけないわね」

「うん」


翌朝。

修理工程の2日目だ。

セイカは都市国家の依頼があり動けない。

今日もミヤビには立ち合いをしてもらう必要がある。


「3日目に1度、仕事を見に行きましょう」

「……カズサの依頼じゃ、ダメ?」

「ちょっと出費が多いかしら。良さげな依頼がなければ、良いと思うわ。」


朝食とともに、ミヤビが昼食用のお弁当を準備しつつ、話をしていた。


今日の昼食はサンドイッチのようだ。


料理に関してはミヤビの方が上手い。理由としては、食べたことのあるものの種類の多さだ。培養槽育ちのセイカには、味の想像ができず単調な味のものか、レシピ通りにしか作れない。


「……1人分多くないかしら?」

「……!」


セイカの指摘に、妹はピクリと肩を震わせた。


「……昨日、思ってたより、足りなくて」

「ふぅん?」


正直なところを言うと、アント達のカメラと集音マイクで、あの少年と妹のやり取りは見聞きしていた。


おそらくは彼の分なのだろうと分かっていつつも、口には出さなかった。妹の人間関係に口を出すのも野暮というものだろう。


セイカが渉外を務めるとなると、妹の人間関係は課題の1つだった。


研究所で妹は、母と姉以外には敵意を向けることが多かった。そんな妹が、他者に、それも同年代らしき異性に興味を持つのは悪いこととは思えない。


第一印象は良くない少年だったが、どうにも演技だった様子だ。指導役がいないと素が隠せていないように見える。


「……問題は整備士長かしら」


中年の男で、どう見ても中堅以上のベテラン。ウェイン・リヒト〜指示を受けているとしたら彼だろう。間接的に情報を取られるのは気持ち悪い。


おそらく、修理はしっかりこなし、工作のようなことは特に何もせず情報だけ持っていかれる。ミヤビの戦力だけでなく、機体の情報はおそらく持っていかれるし、妨害のしようがなかった。


「……そんなことより、初仕事に集中すべきかしら」


できないことより、今できることに集中すべきだ。別の伝手を得れば対抗手段になりえるかもしれない。


気分を切り替えて、セイカはコーヒーを飲みほした。

少しボーイミーツガール感がでてきました。


アルフレッドは旅立ち編から続きを描くなら掘り下げたいキャラクターです。ひと言で言うなら、虚勢を張ってる良い子です。


ミヤビの男性嫌いは、性的な視線を嫌悪している結果です。年齢的な情報は出してないですが、アルフレッドを毛嫌いしない理由は、ませる知識も無いほど幼いからですね。


それでは、読んでくださったあなたへ感謝を。

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