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旅立ち編_第三章_4_費用

「あーくそ……」


アルフレッドが遠隔操縦用のコクピットブロックから出てきた。勝った側であるはずの少年は苦々しい顔をしている。


「油断したな」

「……わかってるよ」


ウェインの一言に少年は唇を尖らせていた。そもそも、傷一つ付けられることなく勝つつもりだったのだろう。


少し遅れて、トボトボとミヤビも出てきた。

一方的な敗北がよほどショックだったのか、どこか呆然としてるように見える。


セイカは思わず歩み寄る。


「……大丈夫?」


肩を撫でつつ声をかけるが、妹は俯きがちに黙ったままだ。


「ミヤビ?」


セイカは妹の顔色を伺うため、しゃがんで覗き込む。


ミヤビは唇を噛んで黙っている。


拗ねたような表情でセイカから顔を反らした。


セイカは妹を落ち着かせようと頬を撫でてみる。


「あっ」

「げっ……」


怒りを堪えているのかと思ったが違っていた。

いや、間違ってはいないのかもしれないが。


ミヤビがポロポロと涙をこぼし始め、セイカとアルフレッドは思わず声をあげてしまった。


堪えきれず落涙してしまったミヤビは、顔を隠すようにセイカに抱きつく。


「あーあ……」

「……俺か!?俺が悪いのか!?」


カズサから視線を向けられた、少年は動揺を隠しきれない様子だ。


少年は助けを求めるようにウェインに目も向けた。


もしかしたら、ミヤビに泣かれて戸惑ってしまっている今の様子がアルフレッドという少年の素なのかもしれない。


「おい無視すんな!」


ウェインは呆れたように嘆息をつく。

少年に啖呵を切らせたのだとしたら、あんまりな対応ではないだろうか。


「お前は悪くない」

「だよな?」

「だが、泣かせたのはお前だ」

「どういう事だよ!!」


フォローになっていない返答に少年は納得いかない様子だ。居心地悪そうにミヤビを見ている。


流石に少年が哀れになってきた。


「ルール通り戦った結果よ」

「それは……そうだけどさ……」


一言だけフォローしておいた。

それでもバツが悪そうにしている。


ウェインはやはり呆れた様子で頭を振った。


「そう言えば、修理費はお前持ちだったな?」

「え?ああ。そう言ったけど」

「お前持ちなんだぞ?」


そのやり取りで、セイカはこの男が何を言っているのか薄々分かった。


カズサも理解したようで、哀れむような表情をする。

少年は妙な視線に首を傾げる。


10秒は経っただろうか。

少年がハッとして顔を青くした。


「待て!あれの修理費もか!?」


アルフレッドが指差したのは、完膚なきまで武装を破壊されたジョロウだった。ウェインは頷く。


「そうだ」

「聞いてない!!」

「修理費はお前持ちだと言った」

「それは……!!」

「"お前の機体の修理費""とは言っていない」


この男は悪魔だろうか。しかしウェインは軽蔑の眼差しを向けるセイカなど視界に入っていない様子だ。


「この手の理屈を押し付けてくる輩は少なからずいるぞ。いい学びになったな」


などとウェインは締めくくった。


ガックリとうなだれる少年を見る限り、本当に修理費を工面することになるのだろう。そして、嫌な記憶はそう簡単に忘れない。


そう言えば、この男は教導部隊の隊長だったか。

つまり、この男はこの演習場を借り上げた費用で、ミヤビの力量を測り、少年の訓練という2つの目的を成し遂げた訳だ。


この決闘はこの男の一人勝ちだ。戦わずして勝利者となったのだ。


セイカは、軽蔑しつつも立ち回りは参考になると考えている自分が嫌になった。


----------


アルフレッドから1日待って欲しいと言われた。あの様子で待たないなどと答えられるほどセイカは鬼にはなれなかった。


泣いていたミヤビでさえ、いつの間にか同情の眼差しを向けていたため待ってあげることとなった。

連絡先も交換した上、会社の名前に泥も塗れないので、カズサ曰く逃げる事は無いだろうとのことだった。


修理費は負担してもらえるとはいえ、傭兵ホワイティア姉妹の懐事情は温かくはない。


通り名として語呂はなかなか良いかもしれないと現実逃避しながら、セイカとミヤビはギルドの中央エントランスで依頼を物色していた。


カズサ達、輸送隊バンジュウとは専属契約を結んだ。彼女らがキャラバンとして働く際、無人兵器満載のコロニー1機を護衛に付ける。移動距離1000km分の護衛は定額内で過剰分は追加料金。そして、燃料費と電力費はセイカとミヤビ持ち、弾薬費と修理費はカズサ達が持ってくれる事となった。


弾をケチられては護衛にならないとの事だ。

カズサたちが再び輸送隊として動くのは5日後とのことで、その間にできる仕事が欲しい。


何回か、傭兵部隊への勧誘や僚機契約の声をかけられたが、丁重にお断りした。ジパング社の名前は便利なもので、しつこく勧誘してきた男も書類を見せて研修中と偽れば一撃だった。


そもそもミヤビの機体は修理中な上、無人兵器を理由に弾除けにされてはたまらない。

腰抜けだの、小娘だの、噂話はしっかり聞こえていたのだから。


「あのー……、よろしいですか?」


端末を相手ににらみ合いをしていると、頭の上から声がかかった。また勧誘かと顔を上げると、いたのは受付に控えているギルドのオペレーターだった。


「何かしら?」

「仕事、お探しですよね?」

「ええ。そうだけど……」


ジパング社のあの男のせいで、セイカの人間不信度は上がっていた。返答が少し失礼だったかもしれないと後悔したが、女性オペレーターはあまり気にした様子は見せなかった。


「こちらとか、どうでしょうか?」


彼女が端末を横から操作し、番号を入力した。

"実弾演習の攻撃目標役"とのことだった。


「新兵教育。攻撃目標の無人兵器を操作し演習の補助……」

「すぐの仕事をお探しのようなので。まぁ明後日なのですが……」

「都市国家アイアス……場所が暗黒大陸じゃない」


たしかに、すぐの仕事を探してはいたものの遠すぎる。カズサ達の護衛であれば、彼女達の利用している衛星通信を使用できるがそれ以外で勝手に使うわけにもいかない。


「そこは大丈夫です。都市連合の衛星通信で遠隔で受託と実施ができますよ」

「……だとしたら、安全で出費も少ないのだから、受けたい人はたくさんいるんじゃないかしら?」


セイカの指摘に、オペレーターの女性は苦笑いをする。


「複数機の操作では単純な動きしかできない無人兵器だと有人機に勝ち目がないですし……」

「……負け役は嫌がる人が多いと」


無人兵器を所望する依頼としては、危険な紛争地の偵察であったり、爆薬を搭載して特攻であったりと、無人兵器ならではのものが多い。


そんな依頼が並ぶ中で、演習相手など無人兵器を自動迎撃にすれば事足りるサンドバッグ役は気分の良いものではないのだろう。


「依頼内容にも問題はあるのですが……」

「……これ、演習で勝利した方が報酬が上がるの?」


演習で勝利回数が多い場合、単純に報酬額が加算されるため報酬が何倍にもなる。逆にこの条件が達成できなければ、紛争地帯の偵察の依頼の方がスコルピウスをダメにしたとしても儲かる。


無人兵器のオペレーター複数人で受注し、マニュアルで操作する方法もあると思うが、必ず条件を達成できるとも限らないから集まらないのだろうか。


悩んでいたものの、試しに一度受けるだけなら良いだろうという結論になった。


「では、依頼主と連絡をとりますね。たぶん、すぐ繋がるかと思いますけど、そのまま打ち合わせをされますか?」

「そうね。お願いしたいわ」


そう言えば、どこかで聞いた覚えのある名前の都市だ。だが、初仕事の重要性に比べれば些細なことであった。


----------


「アンナ・クライヴよ。今回の仕事で、アイアス側の事務窓口になるわ。よろしく」

「セイカ・ホワイティアよ。よろしくお願いするわ」

「ミヤビ……・ホワイティア。よろしく」


ギルドの衛星通信設備に繋ぐ配線を購入し、姉妹はツチグモの培養槽室に戻っていた。


母が私物化していた部屋だが、本来はオペレーター室であり通信設備が充実しているためだ。


ミヤビはオペレーター用の機材で、セイカは培養槽の設備でブロンドの女性……アンナと通信を繋いでいる。


「しかし……、エリアは絞ってないとはいえ遠方なのに良く受けてくれたのね」

「ギルドからの紹介よ。衛星通信での遠隔操作で良いのなら問題ないわ。使ってよい無人兵器の機種と演習の目的を教えてくれる?」


セイカが確認したい内容を並べた。少し返答に間があり、セイカは首を傾げた。


「どうかしたの?」

「いえ、ギルドから聞いているけど、新米なのよね?」

「そうよ?」

「慣れてるなと思っただけ。他意はないわ」


それだけ言うと、アンナはブリーフィングを始めてくれた。

演習は都市外の城壁外縁。

時間制限は30分。5セットの演習を予定。

平地で起伏は少ない。陣地用の障害物が配置される。


軍学校出の新米パイロットの演習。3対3の小隊戦

弾は訓練用の蛍光樹脂弾を使用する。


用意された機体

クラッドビートル・スコルピウス・センチピード


「気になるところは?」

「……いくつかあるわね」


内容と機体情報を見つつ、セイカは顎に手を当てる。


「報酬は演習で勝利した方が高いけど、新兵を叩き潰していいの?」

「かまわないわ。士官学校出で天狗になっているから、プライドをボロボロにしてやってほしいわ」

「それこそ、上官がやればよいのでないの?」


正論に対し、アンナは渋い顔をする。


「……戦後処理と治安悪化で、出払うことが多いのよ。新米訓練用に無人兵器を購入したはいいものの、私達素人のオペレーターだと動く的にしかならなかったわ」

「……他の傭兵は?」

「1月前から出していたけど、受けてくれたのはあなた達が初ね。近隣のパイロットでも募ったけど、治安が悪い状況だと、他に割の良い仕事が多いのよ」

「動く的役は人気が無いそうよ」

「そんなつもりはないのだけど、それはギルドからも言われたわね」


競合はなし。話を聞く限り演習相手は無人兵器を舐めている可能性があるので、演習で不意は付きやすそうだ。


「無人兵器の操作方法に制限はあるの?」

「ないわね。演習日にコードを渡すから好きに扱っていいわよ」

「慣らしがしたいわ」

「午前から繋げられるなら1時間確保できるわよ」

「あと、センチピードは別機体にしたいかしら。これは部隊戦用の機体じゃないわよ」


依頼主は無人兵器の扱いには慣れていない様子なので、上手くやれば継続して受注できるかもしれない。


今回のジョロウの修理はやらかしてくれた相手が持ってくれるが、それはイレギュラーなケースだ。


将来の不安を解消をするための思惑を巡らせながら仕事の細部を詰めていった。

姉妹の傭兵生活がスタートしました。

初っ端から機体が大破状態なので幸先は悪いですが。

次からやっと機体修理に入ります。


それでは読んでくださったあなたへ感謝を。

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