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旅立ち編_第三章_3_決闘

MⅢの格納庫が並ぶエリアの地下に屋内演習場がある。それをジパング・インダストリー社は事前に今日一日借り上げていた。


事前に、だ。


どういう形であれ、この実戦テストを行うつもりでいたのかもしれない。


少年のMⅢの搬入も既に済んでおり、ミヤビのジョロウを運び込むだけで戦闘の準備が整ってしまった。


「ここは演習場となっているが、傭兵達が資金を出し合って賭博試合の会場にもなっている場所だ」


ウェイン・リヒトは白々しく、屋内演習場の概要を説明している。


そもそも傭兵としても働く人間としても年齢的にも上の男をもう少し警戒しておくべきだったと後悔しても、もはや遅かった。


セイカが忌々しげに睨みつけても涼しい顔をしている。実直に見せかけて、どれだけの相手をだまくらかしてきたのだろうか。


「MⅢを遠隔操作する設備が揃っているため、安全に実弾演習を行うことができる事もあって、傭兵達の娯楽にも使われている訳だ。最大4機まで遠隔操作で演習を行える設計だ」


通常より操縦にラグがあり高速機動のGがないため通常の操縦と感覚が異なるという。ミヤビのジョロウが先に演習場の中に入り、慣らし運転からすることになった。


スポーツ試合用のドームをさらに巨大にしたような演習場内をジョロウがホバーエンジンで滑走している。


だが、ミヤビがいるのはジョロウのコクピット内ではない。セイカの目の前にある、MⅢの後方にあるコクピットブロックだけを切って置いた操縦シミュレーターような個室の中だ。


この設備がミヤビが入っているものも含めると8台並んでいた。


セイカとミヤビにカズサ、ウェインとアルフレッドがいるのはドーム球場で言えばVIP席に当たるような演習場内を一望できる場所だった。


「対角線状の位置に、同じ設備がある。シミュレーターブロックが8種類あるのは4大連合企業製のコクピットブロックに対応したものが2つずつ用意されているからだ」


つまり、同モデルの機体4機でも遠隔操作で安全に演習ができるということらしい。


「アタシもここに来るのは初めてだね」


カズサが感嘆の声をもらす。

対して、術中に嵌められたセイカとしてはそんな余裕はなく、じっとりとウェインを睨んでいた


「……あんたらやっぱり姉妹だよ」


などとカズサに言われる始末である。


ミヤビも少年との決闘を取り下げることなかった。戦わせないと物理的に殴りにいきそうな雰囲気があったため、セイカは渋々承諾することになった。


少し前まで妹は母が全てだった。


亡くなった今でも重要な存在だろう。


そんな妹が母の形見に近いMⅢを愚弄されては黙っていられるはずがなかった。


変に誤魔化させるより、堂々とガス抜きができるのであれば、戦わせる他なかった。


「問題ない」

「了解。こっちの準備は終わったわ」


ミヤビから部屋に通信が入り、ジョロウが足を止める。セイカは部屋にあったマイクで返事をした。


演習場のどこにカメラが仕込まれているのか、室内にある大型モニターにジョロウをピックアップした映像が表示されていた。


「妹ちゃんの機体、なんでサブアームの先端があんなに黒いんだい?」

「汚れよ。落とす間もなかったから」


カズサが端的に返す。正確には返り血が酸化したものだが、嘘は言っていない。


「了解した。アル、出てきていいぞ」

「りょーかい」


ウェインの言葉にアルフレッドから返事が返ってきた。演習場の壁面にあるハッチが開き、白いMⅢが出てきた。


セイカも見たことのある機体だった。7本のサブアームをマントのようにたなびかせながら演習場に入ってくる。


サブアーム先の装甲板は細く、もはや盾というより剣だった。だが、厚みはしっかりとしていた。おそらく、ジョロウと同様に裏に武装が仕込まれているのだろう。


ミヤビのジョロウのように拡大した映像が別のモニターに表示された。


サブアームがたなびいているように見えたのは、少年のMⅢがサブアームを細かく動かしていたからだった。合わせてマニピュレーターも閉じたり開いたりと動いている。機体を歩かせつつ、わずかな動きで動作確認しているのだ。


「こっちは問題ないぜ……って、お前は気が早えよ」


ウェインに報告をしながらも、すでに姿勢を低くして身構えているミヤビに注意する余裕が少年にはあるようだ。


「見たことないMⅢだね」

「アルフレッドの専用MⅢのオロチだ。アイツの反射神経と強化人間の性能に合わせた専用機だからあまり表には出ていないな。訓練中だが、専属傭兵としても活動している」


カズサの言葉に、ウェインが簡潔に説明を返した。


「なんか、アタシには妹ちゃんの機体の上位型に見えるんだが……」


本当にやるのか、まだ止められると、カズサが暗に伝えてくれるが、セイカは頭を振った。


「では、備え付けの合図音で開始する。カウントは3カウントからだ。武器使用は自由。頭部の破壊、機体の大破、武装または機動力の喪失にて戦闘継続不可能となった時点で敗北とする」

「了解」

「……了解」


アルフレッドとミヤビが返答した。オロチもジョロウも中腰の姿勢になって構える。


3からカウントが始まった。


……モニターに表示される演出がやたらと凝っているのは賭博試合用に作られたものだからだろうか。


2……


ミヤビが人機直結システムを起動した。どうやら本気でやり合うつもりのようだ。


1……


自分ならどう戦うか。少なくとも同じ土俵で戦うべきではないと考える。妹はどこまで冷静に動けるだろうか。


0の表示とともに電子ブザー音が鳴り響いた。


初動は、2機とも突貫だった。


盾を装備した高機動型MⅢは白兵戦特化の突撃機だ。おそらく、オロチという機体も射撃精度は高くないのだろう。


一度当たってみないと相手の性能と実力は分からないのは分かるが、どう考えても機体のスペックでは負けている可能性が高い。

妹の初手は悪手だと思う。やはり冷静ではない。


ジョロウは機関砲も装備しているが、威嚇射撃はしなかった。余計な動作を挟んで、格闘戦の初撃が遅れるのを嫌った。


ジョロウがサブアーム振りかぶり、ゼロ距離まで接近したタイミングで振り下ろされた。


慣性と重量が乗った重い一撃だ。


しかし、軽くいなされてしまった。オロチの2本のサブアームで受け止めることもなく初撃を流される。


即座に、ジョロウは大きく横に跳んで距離を取った。同時に重砲の発射音が響いた。


ジョロウのサブアームに砲弾が直撃する。一撃で抜かれはしなかったが、着弾の衝撃でバランスを崩しながらの着地になった。


「へぇ。今のに反応できるのか」


攻撃を流すと同時に、オロチの反対のサブアームがジョロウを捕らえていた。


どうやらオロチのサブアームの裏側には高火力の火器が備え付いているらしい。通常の腕部パーツに直撃すれば吹き飛んでいた。


そのまま追撃できたはずだが、オロチは足を止めた。

完全に舐められている。


「……!」


ミヤビが歯軋りする音が耳に入った。


「次は俺からいくぞ?」


ジョロウが姿勢を整えた後にオロチが姿勢を低くし突貫してきた。だが、ジョロウのようにサブアームを叩き付けるモーションではない。


機体を回転させつつ、7本サブアームが花弁のように開かれる。


サブアームの先端からブレードが出ていた。


たまらず、ジョロウはサブアームの装甲で受け止めようとした。


だが、サブアーム同士がぶつかり鍔迫り合うことなかった。オロチの7本のサブアームはジョロウのサブアームを撫でるように切り裂く。


本体から切り離されたサブアームの先端が轟音を立てつつ転がった。


高周波の振動ブレードだ。1本の刃渡りは短いものの、ジョロウのサブアームの同じ箇所を7回切り裂いたのだ。


装甲を切り捨て、フレームも両断された。


しかし、オロチの攻撃はまだ終わっていない。機体の回転を終えて向き直ると、すでに7本中側面4本のサブアームがジョロウに向けられていた。


サブアーム裏側から銃口が覗いている。


「へえ」


ジョロウが跳んだ。

しかし、逃げるのではなくオロチに向かってだ。

腕部のマニピュレーターに装備していた機関砲をゼロ距離で突き付けた……が、オロチの腕部…マニピュレーターに機関砲を掴まれた。


サブアームに隠れていたが、オロチのマニピュレーターは通常のMⅢのものより大型だった。そして、指先がブレードになっている。


「で、どうするよ?」


グシャリと紙屑でも潰すように機関砲が握り潰された。


懐に飛び込んだつもりが誘い込まれていた。オロチのサブアームが蛇のようにまとわり付き、逃げ道を塞ごうとする。


「このっ……!!」

「お……?」


ジョロウがサブアームで機体の自重を支える。ジョロウは片方の脚部をオロチの脚部に叩き付けた。


人間で言うならローキックのような動作だ。ジョロウの脚部の分厚い正面装甲が、オロチの脚部の側面にめり込んだ。


オロチが怯んだ隙に距離を取ろうとして……失敗した。


オロチはの強靭なマニピュレーターは、すでに握り潰した機関砲を捨て、ジョロウのボディを掴んでいた。


あえてホバーエンジンの出力を落とし、オロチは自重でジョロウを釘付けにする。


「悪い。ザコって言ったのは謝る」


片足とサブアームでは、ホバーエンジンの出力を最大にしても2機分の重量からは逃げられなかった。


「これはちょっと、手加減できない」

「あっ……」


オロチはサブアームを干渉させ、ジョロウのサブアームを拘束した。


あとは蹂躙だった。


オロチは空いているマニピュレーターで、ジョロウのサブアームの関節を1本ずつ潰していった。


破損した関節ではサブアームの自重を支えられず、破損部分から崩れた。


「これで終わりだよ」

「うっ」


ジョロウのマニピュレーターも二の腕関節を潰された。


全ての武装を潰したのを確認すると、オロチはゆっくりとジョロウから離れた。


正確に言うと、ゆっくりとしか離れられなかった。蹴られてひしゃげた脚部のホバーエンジンが停止していたためだ。


「勝負あったな」


ウェインの言葉と共に、戦闘終了のブザーが鳴り響いた。


武装を全て剥がされたジョロウは、オロチが離れた後も立ち尽くしていた。


アルフレッド専用MⅢオロチ

武装

サブアーム7本

ブレードシールド 7枚 サブアーム搭載

対機動兵器ライフル7丁 装弾数30発×7 サブアーム搭載

対機動兵器高周波ブレード7本 サブアーム搭載

高周波破砕アーム 2本


オロチは多彩な武装と繊細に動かせるサブアームが特徴のトリッキーな機体です。

オロチのサブアーム搭載のシールドはジョロウのように打撃武器として使用できます。ただ、その用途で使うことになる戦況だと、まず敗北するのでその前に撤退させられます。


カスタムMⅢジョロウ

武装

サブアーム 4本

カイトシールド 4枚

迫撃砲 4丁 サブアーム搭載

散弾機関砲 2丁


ジョロウのサブアームは大型で、高機動かつパワーアタッカーな機体です。ヒットアンドアウェイを繰り返せばもう少し長期戦になったかもしれません。

ジョロウは正確には専用機ではないです。そのあたりは後々。


破れかぶれの蹴りですが、脚部フレームを歪め、衝撃で片足のホバーエンジンが止まり、オロチの機動力を奪うだけの威力はありました。

ただ、結果的にアルフレッドのお遊びを止めさせてしまったため、そのままゼロ距離で捕まり蹂躙されることになりました。


それでは、ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。

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