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旅立ち編_第三章_2_邂逅

中央エントランス。


アウトベースの中心にあるオフィスエリア。そのさらに中心にこのアウトベースを統括するギルドの支部が入る建物ある。


その支部の受付窓口と、輸送経路の状況や近隣城塞都市の状況を流すモニターが並んだエントランスが中央エントランスと呼ばれている。


「少し不便な位置じゃないかしら。依頼の契約や報告も行っているのよね」


「意図的だろうね。有事の際はガードの司令部になるらしい。それに、倉庫街の方の派遣所やギルド指定の端末でも仕事のやり取りはできる」


そう聞くと、今度は逆に人が多いように思えてくる。オンラインでも済ませられるなら、そちらの方が楽なように思える。


カズサと話をしつつ、受付から渡された端末に個人情報を入力すると端末に番号が表示された。


「わりと、視線を感じるわね」

「そりゃあね。通常、キャラバンの出す救難信号にはギルドの傭兵が対応する。無名に仕事と報酬を掻っ攫われたら気になるもんさ」


良くも悪くも目立っているということだ。

周囲を見渡すが、アウトベースに入る際に通信を繋いできたウェインという男は見当たらない。まだ来ていないのだろう。


噂する話も耳に入ってくる。


「あんな小娘共が……?」「無人兵器のオペレーター……?ただの腰抜けじゃないか」「アルビオンの……じゃないのか?」「声かけてみろよ」


悪意というほどではないものの、あまりいい気分はしない。

ミヤビはと言うと、一方向を睨んでいた。目を向けると、何人かの集団に目を向けていた。


「ミヤビ……?」

「……ずっとコッチを見てる」


ガラは良さそうにない。セイカも横目で見るが、確かにこちらを見ている。ミヤビと目が合っている事にも気付いているようで、顔に傷のある男が睨み返している。


「……妹ちゃん。止めときな」


カズサも気付いたようだ。小声で静止するが、ミヤビは視線をそらす気はないようだ。


「誰?」

「……ネブロって傭兵とその派閥だよ。いい噂は聞かない連中さ。アタシらが雇っちまったクソ傭兵も、息が掛かってるって噂を後から聞いた。それで、旦那と揉めたのさ」


だとしたら、ミヤビは仲間を殺した敵にでもなるのだろうか。それにしても露骨すぎる気がする。


「ギルドは取り締まらないの?」

「明確な不正行為や証拠があればね」


つまり、現場レベルの問題には基本不干渉というわけだ。


妹としては、相手から視線をそらす気はないようだ。セイカとしても、見て見ぬふりをして後を付けられたりしてもたまらない。


静かに緊張感が高まる。


「えらい別嬪さんやねー」


そんな雰囲気を、独特な訛りのある声がぶち壊した。ミヤビの前に立ち塞がるように黒い女性が立っていた。


髪も黒ければ服も黒い。上下でデザインの揃った黒い服はどこかの制服のようにも見えた。接近に気が付かなかったようで、ミヤビも目を丸くする。


突然割って入ってきた女性に気を取られたが、すぐに我に返ったセイカは男達に視線を戻した。


男達は立ち上がって出口に向かう所だった。


「お姉さんも、スタイルええね」


黒い女はいつの間に隣に来ていたのか。無遠慮に頬に触れようとしてきたため、セイカは思わず立ち上がった。


「いけずやわ。……お姉さんは背も高いんやね」

「な、なんなの?」

「ウチと遊ばへんかってこと」


同性であるはずなのに、何やら不埒な視線を向けられた感覚を覚えて頭の中が混乱する。


女はするりと腕を絡めてきてセイカを逃さない。振りほどこうと腕を引くが、動かない。想定より力が強い。


助けを求めるように視線を泳がせると、カズサは呆れた様子で、ミヤビは……すごい顔で女を睨んでいた。


「姉さんから離れて……!」

「小さい娘の方が積極的やね。3人で楽しまへん?」

「貴女はいらない……!」


ミヤビが女の腕を掴んでセイカから引き剥がそうとしてくれるが、剥がせないようだ。


「何をしている」

「いった……!」


そんな声とともに、女の手が払われた。先ほどまで腕に絡みついていた女性は、逃げるようにセイカから離れる。


女を払った手を追いかけると、昨日、通信で見た男……白いMⅢのパイロットがいた。たしかウェインといったか。


「いらないトラブルを起こすな」

「えー。横取りはずるない?」

「アキラに報告してやろうか」

「ホンマにずるない?」


グリッド程ではないが背の高い男性だ。

ウェインがひと睨みすると女は観念した様子で、ミヤビからも離れた。


ウェインはそれを見届けると、セイカとカズサに向き直った。


「申し訳ない。迷惑をかけた」

「え……ええ」


黒い女性とウェインとで印象の落差が大きすぎて、セイカは戸惑いを隠せなかった。

代わりにカズサが大げさに肩をすくめて返事をしてくれる。


「いいさ。ジパング社の女隊長の性癖は有名だからね。アタシも声をかけられたことあるよ」

「……性癖?」


セイカが首を傾げるが、ウェインは眉間にシワを寄せたまま答えなかった。これ以上、この話題を広げたくないようだ。


「……オオザキ婦人と共にいるということは、君達2人がそうなんだな」

「そうよ」


強引な話題の修正だが、黒い女性について掘り下げても良いことは無さそうなため、話に乗ることとする。


「すでに既知かもしれないが、ウェイン・リヒトだ。教導部隊の隊長……まぁ、研修担当みたいなものだ」

「セイカ・ホワイティアよ」

「……ミヤビ・ホワイティア」


自己紹介をされたので、名乗る。


ファミリーネームは偽名だ。

母の姓は使用せず、名前も口外もしない方針にした。

追っ手に見つからないようにするのが目的だ。


「では……名前呼びていいか?」

「かまわないわ」


事前に確認するあたり律儀な男だと思う。


「では、セイカ。ギルドでの手続きを終えたら場所を移そう。ここでは目立つ」


ウェインの言葉で周囲に目を向けると、たしかに先程よりもこちらに向く視線が増えているような気がした。


「場所はとってある」

「アタシも一緒でいいかい?」

「かまわない。確認するべきこともあるだろう」


カズサも同行してくれるのは心強い。


ウェインの誘導に従って移動した先は中央エントランスがある建物の2階だった。

ギルド職員が使う会議室が並んでいる。その1室の前で少年が手を振ってきた。


「アルフレッド。よろしく」


素っ気ない自己紹介だけされて部屋に案内された。


「いや、お前は仕事しろよ」


そして、少年は何故か着いてきていた黒い女性をブロックした。


「ええやん?」

「じゃあ、アキラも呼ぼうか」

「……いつか泣かす」


少年の一言に、黒い女性は呪詛を吐いて去っていった。アキラとは誰なのかと聞くと、彼らのサポートオペレーターで黒い女性の彼女らしい。


少年に席を進められて席に着いた。


「端的に言うと、スカウトだ」

「そう」

「ジパング・インダストリー所属のテストパイロットになって欲しい」


予想外だったのは、専属契約ではなく完全に雇用する話だったことだろうか。


「……悪いけど、断るわ」

「そうか」


セイカの返答に対し、ウェインの返答はあっさりしたものだった。断られるのも予想していたのだろうか。


対してカズサとアルフレッドが驚いている。


「話くらい聞いてみなよ?」

「バカじゃねえの?」


カズサはともかく、少年からはシンプルに暴言が飛んできた。


「まあ、君の返答だと、一般的にはこの2人のような反応になる」

「そう」

「雇用条件や契約書類は渡しておこう。保留と言うことにしておいてくれ」

「……それも断ったら?」

「老婆心で言うのなら、選択肢を持っておく事は君達の為になるだろう。その書類の期限は1年だ。使わなければ、ただの紙切れでしかない」


引き際の良過ぎるウェインを訝しげに思いながらも2人分の書類を受け取った。


「いや、オカシイだろ。断るにしても話ぐらい聞くもんだろ?」


少年の方は溜飲が下がらないようだ。ジロリと睨見つけてくる。


「……子供には関係ない」

「あ?」

「姉さんの決めた事に口を挟むな」

「雑魚に子供扱いされたくないね」


ミヤビが言い返してしまった。


「……戦った事もないのに?」

「あんなポンコツみたいなMⅢで俺に勝てる訳ないだろ?」


アルフレッドも言い返す。完全に売り言葉に買い言葉だった。


そして、意図してなのか少年はミヤビの逆鱗に触れてしまった。


「私の機体はポンコツじゃない!」

「あ?じゃあやり合ってみるか?場所もあるぜ?」

「ま……」

「やる!!」


口を挟む間もなかった。ウェインに目を向けると涼しい顔をしている。

カズサは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

してやられたと思った。

この男の本命は模擬戦でのこちらの手札と実力の確認だ。


「アルフレッド。修理費はお前持ちだぞ」

「了解!実力差ってやつを教えてやる!」

「……こっちの台詞」


その後も口喧嘩を続ける子供2人を尻目にウェインは肩をすくめる。


「お互い、血の気の多い身内を持つと苦労するな」

「……そうね」


男は白々しくそんな事を言った。

出会って早々、喧嘩を始めました。

次は1対1での戦闘です。2人の機体が活躍します。

ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。

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