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旅立ち編_第三章_1_到着

結論だけ言うと、特に何事もなくアウトベースへ到着した。


カズサ達を助けた後は護衛として同行させてもらったが、武力衝突という意味では申し訳なくなるほどに何もなかった。


その事をカズサに伝えると、


「都市軍で言ったら中隊規模の武装した奴に手を出す馬鹿はいない」


とのことだった。また、何もなくても燃料と電力は消費する。弾薬の補充も考えると報酬は半分も残らない金額だった。さらに維持費も考えると全く足らないとカズサから釘を差される始末だ。


戦闘以外だと、ギルドから衛星通信で連絡があった。カズサ達が救難信号後に報告を行ったためで、内容はキャラバンの救助と護衛に対する謝意と、アウトベースに到着した際の打ち合わせだった。車両とMⅢのスペースの確保と、一月分の土地代は免除してもらえるそうだ。


伝えられる金額の桁の大きさに目が回りそうだった。


そして、打ち合わせも根回しも終え、滞りなくアウトベースの中に入れるはずだった。


「見えてきたよ」


カズサからの通信が耳に入る時、すでにセイカの目にはアウトベースの外周を覆う壁が映っていた。正確にはスコルピウスの望遠カメラの映像だ。


「……?聞こえてるかい?」

「え、ええ。聞こえてるわ。……あれなのね」


動揺を隠しきれず、カズサに首を傾げられてしまった。ミヤビもセイカの様子に首を傾げている。


まだミヤビには見せていないが、国境や関所のような3mほどのコンクリート製の壁と、天井のない鋼鉄の門が進行方向にあった。


問題はそこではない。門の隣にいるMⅢだった。


「おや、珍しいね」


ようやくカズサの目にも映ったようだ。


大盾と大剣を携えた白いMⅢが門の隣に佇んでいた。


「輸送隊バンジュウのグリッド・オオザキだ。間もなく到着する」

「視認した。コードの送信を確認。お疲れ様。今回は災難だったな」


グリッドが門の守衛に通信を行い、まだ距離はあるものの門が開き始めた。


白いMⅢは動く様子はない。


「今日は珍しい門番がいるな」

「あ、ああ。そうだな。ちなみに期待の新人の物見遊山なら門の中にもっといるぞ。繋いでいいか」

「走りながらの立ち話で良いのなら」

「助かる。リヒト隊長、繋げられます」

「ああ。紹介ありがとう」


白いMⅢが頭を上げた。こちらの車列に目を向けているようだ。


「ジパング・インダストリー教導部隊の隊長を勤めるウェイン・リヒトだ」

「隊長のグリッド・オオザキだ。企業連合直属部隊の隊長殿が、うちのような小さい会社に御用が?」

「ああ。新人が、ジャンクとは言えMⅢ5機を一蹴したと聞いてな。話をさせてもらう事は可能だろうか?」


どうやら、アウトベースではすでにセイカとミヤビの事がすでに噂となっているらしい。


「……スカウトか?」

「そんなところだ」


グリッドがチラリと横を見る。隣にカズサがいるのだろう。少し間を置いて返事を返した。


「……物事には順序ってもんがある。交渉なら俺らが優先されるべきものじゃないか?」

「だからあなた達に確認をとっている。もちろん、優先させて貰えるなら、ただとは言わない」

「……少し相談させてくれ」

「了解した」


通信を繋いだまま、いったん音声と映像を切った。

グリッドとカズサがセイカに繋いできた。


(あね)ちゃん、どうする……って妹ちゃんは怖い顔してどうしたんだい?」


カズサに指摘されて、モニターを睨んでいたミヤビはふいと顔を反らしていた。

流石に望遠カメラでなくても見える距離になり、ミヤビも白いMⅢに気付いていた。

カズサは首を傾げる。


「はっきり言うが、企業連合からのお声かけなんて滅多にあるもんじゃない。悪い話ではないと思うぞ」


「でも、あなた達との話もあるでしょ?」


「アタシ達は保留で構わないよ。話を聞いてから決めたらいいさ」


むしろグリッドとカズサは話をする事を推奨してくれている。遭遇戦をやらかした事を知らないのだから当然だろう。


「……相場も何も知らない状態で交渉はできないわ。……時間が欲しいかも」

「まぁ、それもそうかい」


なんとか絞り出した言い訳も、ただの先延ばしにしかならない。話をしたいという事は、気付かれていない可能性もあるが……立場はセイカ達の方が圧倒的に下だ。


本当な商談が目的だとしても、飢えた状態で残飯を得るような形は避けたかった。


グリッドが代わりに返事をしてくれる事になった。


「時間を貰った上で悪いが、振られたようだぞ」

「む……そうか。では、順番を守るとしよう。次点の整理券はいくらだ?」

「……俺らがそいつらに払う護衛費の3倍。彼女らがギルドに登録した後だ」

「了解した。払おう」


払うのか……とグリッドの口が動いたのが見えた。セイカも同じ意見だった。


「ああそうだ。ひとつ伝言を頼めるだろうか」

「なんだ?」

「あの件は気にしていない。ドローンも好きに使ってくれて構わないと」


ウェインはそれだけ言うと、通信を切った。


……どこまでバレているのだろうか。

そもそも、巨大な軍需企業の連合体が軍事衛星を持っていないはずがない。途中から観測ドローンが飛んでこなかったのは、追跡方法を衛星映像に切り替えたからだろう。


幸いなのは、それでいて交渉のテーブル用意してくれているところか。


グリッドが"彼女ら"と溢してしまったことを咎める声。臨時収入が入ったと喜ぶ声。3分の1はこちらに回してくれるので報酬が倍になることなど。


企業連合などという巨大勢力と交渉しなければならない事で頭がいっぱいになり、カズサ達の声がどこか遠くに聞こえた。


----------


ジパング社の白いMⅢに見送られ、無事、鋼鉄の門を抜けた。

「これは……圧巻ね」


アウトベースは輸送隊……キャラバンの中継地である。門を越えるとコンテナを吊り上げる巨大クレーンと積上げられたコンテナが並ぶコンテナターミナルが広がっていた。


「このターミナルを主に使うのは長距離地上輸送を行う大規模な輸送隊だよ。アタシらは向こうだ」


カズサ達に付き徐行で進み続けると、景色が代わりトラックヤードが建ち並ぶエリアに辿り着いた。大型の輸送車両が軒下に並んでいる。


カズサ達の大型輸送車両もここで荷降ろしを行うという。2台の輸送車両とはここで別れ、燃料車両や電源車両、装甲車といった車両とともに、セイカとミヤビは倉庫街のエリアに辿り着いた。


この倉庫街はギルドに登録した傭兵やキャラバンの輸送隊が車両を格納、整備を行っているエリアで居住区と隣接している。


借りた倉庫の区画はカズサ達の隣であり、ギルドも気を使ってくれた……というわけではない。


セイカの扱うツチグモやコロニーといった機体は大型輸送車両と同等のサイズであるため、倉庫街でも大型車両を格納しているエリアとなったこと。


そして、キャラバンの輸送隊としてあちこち移動しているカズサ達と同タイミングでアウトベースに入ったため、順番の関係で隣となった形だ。


MⅢ昇降用のキャットウォークが無いことを除けば、そこまで不便ではなさそうだ。

車両を停めたあと、MⅢのジョロウもツチグモのMⅢ格納車両から降ろす。遠隔操作で四肢の関節をロックし区画内に駐機させた。


この車両倉庫では無人兵器の輸送指揮車両であるコロニーやMⅢが珍しいのか、野次馬の人集りができている。


「見せもんじゃないよ!!」


カズサの一括で散っていった。


「全く、こちとら忙しいってのに」

「……いなくなったかしら?」


野次馬がいなくなったのを見計らって、セイカとミヤビはツチグモから顔を出した。


立ち止まって眺める人はいなくなったが、車両の整備や荷降ろしをしている人達は仕事をしつつチラチラとこちらを見ている。


「まだまだやることは山積みだよ。まずは中央のオフィスエリアで問診と血液検査。2人は健康診断もあるよ」


オフィスエリアは全ての区画と隣接しているため、利便性が高い。地図を見ると、アウトベース内のギルド関連施設の他、病院などの公共施設、生活必需品の店だけでなく趣向品の店もオフィスエリアに一通り揃っていた。


ギルドに指示された病院では。


「健康上で大きな問題はなさそうだけど痩せ過ぎ。栄養剤出しとくよ。血液検査の結果は郵送されるから」


などと言われた後、そのまま部屋の契約……鍵を受け取りに行く。費用面と姉妹の強い希望で、セイカとミヤビは2LDKで一緒に住める部屋になった。


「ギルド女性職員が宿泊するための集合住宅なので、安全性は高いです。賃貸のみですが男性は宿泊者同行でないと入れません。この集合住宅エリアの入口とロビーにはギルドのガードもいます。これが地図データと鍵ですね」


などと説明を受けた。既婚者でもない限り、ギルド職員やキャラバンの輸送隊メンバーなどほとんどの女性労働者はここに住んでいるらしい。


都市ほど治安が良くないのが理由だ。夜間と旧市街エリアは女性のみで出歩かないようにと注意を受けた。戦闘訓練を受けているミヤビはともかく、セイカは素直に忠告通りにするべきだろう。


「次は買い出しだよ!」


カズサに引き摺られて、オフィスエリアにあるショッピングモールに向かった。消耗品から衣類、食品まで買い揃えた。


(あね)ちゃん……もうちょっと色気のある下着も買っときな。女学生じゃないんだから。下着も女の武器だよ。妹ちゃんを見習いな」


なぜ、今のところ見せる予定もない、見えない部分に金銭を使わないといけないのだろうか。見本にされた妹は、恥ずかしそうに見ていたシースルーの下着セットをセイカから隠した。


あまりの荷物量にアントを1機連れてくれば良かったと後悔したが、カズサ曰く居住区とオフィスエリアにはたぶん入れられないとのことだった。


結局、持ち歩くのは難しい物量となり、武装を外した装甲車で居住区まで行くこととなった。


目立つのではと思ったが、同じような思考の者が多いようで装甲車が多く走っていた。

たしかに、燃費が悪いとはいえすでに走れる車を持っているのに、オンロード用の通常車両を買う理由は無い。


「もし、このアウトベースに腰を据えるんなら、買っといてもいいと思うよ。特に(あね)ちゃんは上手くやれば仕事をするのに場所を選ばないからね」


「でも、通信が切れると危険じゃないかしら」


「自分達で索敵する必要もあるから、無人兵器の簡単な操作くらいできる輸送隊は多いよ。操作補助付きの機体リースにしたり、ギルドの仕事なら衛星通信や軍事衛星のカメラも使わせて貰えるさ」


「ギルドからの仕事なんてあるの?」


「輸送経路上の不穏分子……武装集団の排除だったり、キャラバンの輸送部隊護衛だったり色々あるよ。仲介費が安くないから、輸送部隊はアタシらみたく自分達で用心棒を雇う所も少なくないけどね」


装甲車の中でそんな会話をしていると、集合住宅に到着した。すでに日は沈んで暗くなっていた。


カズサは既婚者のため、別の集合住宅に泊まる。今日の同行はここまでだ。ギルドのガードに台車を借り、姉妹の荷物も降ろした。


「じゃ、ゆっくり休みな。明日はギルドの中央エントランスで、アンタ達を傭兵として登録しに行くよ10時には迎えに来るよ」

「わかったわ。ありがとう」

「たぶん、あのジパング社の隊長殿も声をかけてくると思うから、どうするか決めておきなよ」


慌ただしさを理由に忘れていたことにしていた事を思い出すことになり、セイカは目を逸らした。

ようやく目的地に到着した姉妹です。

ただ、一安心とならず、いよいよあの3人組とエンカウントすることになります。


それでは、ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。

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