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旅立ち編_第二章_7_宴会

結論から言うと、移動工程は遅れるどころか思っていたよりも短縮できた。


流石本業と言うべきか、キャラバンに所属しているカズサ達は障害物や地形データを把握している分より速い速度で車両を進めていった。

また、地雷除去車両で多少の危険物など無視して進むことができたのも大きい。


逆に、カズサ達からすると無人兵器を指揮車両3台分引き連れるのは虎の威を借りた気分だと言う。その言葉の通りと言うべきか、カズサ達を助けた後に襲撃は一度も無かった。


そして、予定よりもスムーズに移動できたこともあり、早めにキャンプを張ることになったのだが……


「アタシらの守護天使様に乾杯!!!」


焚き火を囲み、カズサがそんな事を叫ぶ。傍らには無表情のミヤビが肩を抱かれていた。

カズサの号令に皆がワッと歓声と拍手を送った。


カズサと中心にいる妹は酷く居心地が悪そうで、鉄仮面の無表情を決め込んでいる。


「この新鮮な鹿肉は女神様からの贈りもんだよ。感謝して食いなぁ!!」


そんな掛け声とともに宴会が始まった。


ようやく解放されたミヤビはそそくさと姉の隣を陣取る、カズサはミヤビとは逆のセイカの隣にドカッと腰を降ろした。


「ほれ、姉ちゃんも食いな。妹ちゃんが獲ったんだ。遠慮なんていらないよ」


カズサから鹿肉の串焼きを渡された。促されるままひと齧りする。しっかり火は通っているが、柔らかく塩味が効いていた。噛むと肉汁が口の中に広がる。


「……美味しいわね」

「だろう?」


カズサがニカッと笑い、ミヤビも得意気だった。

そういえば、研究所でミヤビはサバイバル訓練もしていた事を思い出す。カズサは下処理が重要なのだと講釈をたれていた。


相槌をうちながらセイカは肉を齧りながら周囲を見渡した。


カズサ達輸送隊は30人ほどの人数で、半数は女性だった。セイカとミヤビからすると大所帯ののように感じたが長距離遠征をする輸送部隊は3桁の人数となるそうだ。


皆、コンテナやらキャンプ椅子やらに腰を降ろして酒やら肉やらを口に運んでいる。


「なぁ、俺らにも話させてくれよ」

「うるっさいね。下心が見え見えなんだよバカども」


一部、こちらに来ようとする男は女衆に追い払われていた。見れば、ミヤビも冷やかな目を向けていた。


どうにも、妹は男嫌いの様子だ。


「馬鹿が料理中に妹ちゃんの尻に触ろうとしたからねえ。蹴っ飛ばされてたけど」


カズサの言葉に、セイカも言い寄っていた男をみる目が冷たくなった。


席順も、セイカとミヤビの周りは女性陣が囲む配置をしており作為的なものを感じる。トラブルを避けたいのもあるだろうが、気を使ってくれているのだろう。


2人だけ、怯えた様子のゴーグルの男と、カズサの隣にいる熊のような巨漢の男だけ、女性陣の中にいた。


「こいつはリハビリ。この熊はアタシの旦那だ。イイ男だろう」

「隊長を務めているグリッドだ。よろしく頼む」

「セイカよ。よろしく」


見た目通りの低い声だが、不思議と威圧感は感じなかった。


「助けて貰ったこと、護衛の件も感謝している」

「こちらこそ。気遣いにも感謝してるわ」

「俺達が返せるのは金銭と気遣いぐらいしかない」


含みのあるような答えにセイカは首を傾げた。


「君達が抱えているだろう問題に対して、たぶんだが……俺達は役に立たない。仮に、俺達が足枷になるなら迷わず置いていけ」


「それは……」


「それは薄情じゃない。君達は俺達が払うものに対して、きちんと対価を返している。覚えておきなさい」


「かたっくるしい話をしてんじゃないよ!飯が不味くなる」


カズサが割って入り、グリッドはため息をついた。どうにもカズサとは真逆な性格のようだ。


「こんな性格だから、後からヤバいって分かってもあのクソ傭兵の契約取り消しできなかったんだよ」

「それはもう言うな……」


旦那の失態を突付いて黙らせると、カズサは酒を仰いだ。グラスを一気に飲み干しても顔色変えず、追加で注いだもう一杯を口に付ける。


「ほんと、アンタ達のおかげで命拾いしたよ。死んじまったら酒も飲めないからね」


「……毎晩、キャンプはこんな感じなの?」


「え?いや、今日が特別だよ」


賑やかな様子を眺めながらカズサは質問に答えてくれる。うまく話をそらせたようだ。グリッドはカズサにバレないように頭を下げ、セイカは苦笑を返した。


「遠征中でも何でも、嫌なことがあった時はこうして宴会にするのさ。今回は幸い誰も死んじゃいないけどね」


「……誰が死んだ時でもやるの?」


「尚更派手にやるね。厄払いっていうか……楽しいことで上書きすんのさ。葬式の時も皆で飲み食いするだろ?それと一緒だよ。まぁ、……気落ちしたままだと仕事に影響出るって意味もあるけどねぇ」


誰かの顔を思い出すように、カズサはシミジミと語る。ずっとそうしてきたのだろうか。


「おっと、湿っぽい話題になっちまったよ。アタシらしくないね」


照れ隠しに笑うとカズサはまた酒をあおり話題を変えた。


「ちなみに風呂も準備してるからね。移動中はなかなか入れないよ!アンタらも入るかい?」


カズサの言葉に、周囲がスッと静かになった。気のせいではない。


離れた男性陣が聞き耳を立て、そんな露骨な様子を女性陣が無言で威圧している。


「男って……」

「あっははは!まぁ、男なんてそんなもんだよ!!」


カズサは大笑いしつつ旦那をバシバシ叩く。叩かれるグリッドはバツが悪そうに顔を反らしていた。


「……私達は遠慮しておくわ」


セイカの返事に、男達は落胆の声を上げて、女達はそんな男どもにブーイングと野次を送っている。

賑やかな人達だ。


「髪だけでも洗っとかなくていいのかい?妹ちゃんもだが、(あね)ちゃんなんて、手入れ大変だろ?」

「否定はしないけど……。まあ、私はそのうち短く切るつもりよ。好きで伸ばした訳ではないし」


もったいないと、男女双方からミヤビと同じ意見が飛んできたが聞こえなかったことにした。


「ふーん。じゃあアタシが切ってやろうか?」

「え?」

「長さを揃えるぐらいならしてやれるよ」


グリッドが口を挟まない。本当にできるようだ。


「……頼もうかしら」

「了解了解。明日の朝に声かけとくれ」


汚れないようにするのも手間だったので、いい機会だと思ったが、隣のミヤビは不満そうだ。


「……もったいない」

「それは妹ちゃんに同意見だけどねぇ。髪は本人のものさ。で、髪を洗うお湯くらい都合するよ?」


カズサはセイカ越しにミヤビの頭を撫でながら風呂の話を蒸し返した。

彼女たちの設備はわからないが、隊員達の反応を見る限り、男性陣から覗かれる心配があるのは確かなようだ。


それなら、自分達で用意したもので良いと思った。


「お風呂は……自分達でできるから大丈夫よ」

「おや、アンタ達の車両は便利だね。いや……MⅢの整備ができそうな車両だったし、熱湯が出せるのかい」


カズサは納得した様子でうんうん頷く。


「じゃあ、この後あんた達はゆっくりしな。今晩の夜警もウチらに任せて貰っていいよ」


「それは流石に……」


「コッチの都合だから気にしなくていいさ。一応、装備もあるしレーダーだけ共有しといてくれ」


護衛を引き受けているこちらの仕事だと思ったのだが、カズサは譲ることはなかった。


「しっかり鍵を閉めて、寝な。アントだったか、入口に置いとくのもいいね。酔っ払った馬鹿が忍び込んでこないようにね。ウチらも流石に馬鹿に付けられる首輪は持ってないからね」


嫌な脅しにセイカは口をへの字に曲げ、ミヤビは顰めた顔を返した。


宴会は夜中まで続いたが、日付が変わる前にはお開きとなった。片付けもカズサ達が行ってくれるそうで、夜警のことも含めて甘えることにする。


スコルピウスのレーダー情報を夜警を担当するタブレット端末に共有し、ツチグモの入口を見張るアントを何機か引き連れて姉妹は宴会場を後にした。


そして、姉妹にとっては念願の入浴タイムである。

ちょうど良いサイズのMⅢ装備のコンテナを水漏れせぬように溶接した簡易的な浴槽だ。


キャンプ前に張っていた熱湯の洗浄水は予想より冷めてしまっていたため、熱湯を足して温度を調整する。


コンテナ車両の入り口や天窓もロックし、一応忍び込んでいる者がいないかアントに確認させ準備が整った。


「これは……気持ちいいわね……」

「うん……」


服と下着は濡れない位置に畳み、セイカとミヤビは浴槽に身を沈める。


「コグモは繋いだままでいいの?」

「あー……外すと逆に乾くまで繋げられないのよ。培養槽内でも繋がってたから防水は問題ないわ」


コグモ自体も防水仕様のためお湯がかかっても問題がない。だが、座椅子部分のクッションが濡れると乾くのに時間がかかるため、限界まで配線を伸ばして濡れない位置でこちらを向いている。


「なんか、見られてるみたい」

「実際、見えてるわよ。私に繋がってるんだから」

「む……」


上半身を出してコグモを眺めていたミヤビは、セイカの言葉にザバっと湯船に体を沈めた。


妹が勢いよく湯船に身を沈めた際に揺れたものをセイカは眺める。少なくとも、自分のものよりは大きい。

四肢も肉付きがしっかりしている。


「大きいわね」

「……えっち」

「私も食べて動くようになったら、それくらいになるのかしら」


培養槽から出て食事量も運動量も増えているはずだ。体力は多少マシになってきたが、セイカの身体はまだ肋が浮いて見える。


胸も無いわけではないが、妹と比べると見劣りしてしまう。


「……それなら、姉さんは下がツルツルで羨ましい」

「これは羨ましいものなの?」


セイカが首を傾げるが、ミヤビは力強く頷く。


「……整えたりしなくていい。あの日の汚れもとりやすいと思う」

「なるほどね……」


最初は自分が発育不全なのかと思ったが、人によるらしい。見た目が子供っぽいと思ってしまうが、手入れという意味ではメリットがあるのかと、何となしに頷いた。


会話が途切れると、途端に静寂さが気になった。先ほどまで、宴会の喧騒の中にいたからだろう。


「……良い人たちよね」

「……うん」


誰がとは言わなかったが、伝わったようだ。ミヤビも頷いた。出会った当初、警戒していた自分達が馬鹿みたいだ。


しかし、もちろん人間が皆、彼らの様に友好的でないことは知っている。むしろそちらの方が身に染みてよく知っていた。


「あんな人達もいるのね」


セイカにとっては他人から人として見られる事すら初めてだった。逆に、自分達の人間関係が母だけだったのだと強く実感する。

また、それと同時に


「あと、男性って皆ああなの?」


異性からの目というのもセイカにとっては初めてだった。


「うん。そう」

「……あのグリッドって人は違うように見えたけど」

「あの人はカズサがいるから、裸を見慣れてるだけ」


あまりにバッサリ言い切る妹に反論すると、かなり直接的な返答が返ってきた。思わず口の端をゆがめる。


「やっぱり、してるのかしら」

「……夫婦って言ってたから。してるはず」


カズサとグリッドのやりとりを見ていたが、あまりそういった部分は想像できなかった。


「私達もいつか、経験するのかしら」


ふやけた思考で何となしに言ったのだが、突然妹が立ち上がった。ミヤビは目を丸くしている。


「……いるの?その、したい男……」

「え……、ちっ違うわよ!仮定の話よ!!なんとなく思っただけ!!」


妹の飛躍した勘違いに慌てて訂正を入れるも、ミヤビは怪訝な表情を崩してくれなかった。

さらには「姉さんは誰にも渡さない」などと言う始末だ。


仮に、セイカにそういう相手ができるとしても、ミヤビに相手ができてからになりそうだった。


----------


「お、来たね」


翌朝、カズサは昨晩の宴会会場で姉妹を待っていた。手には銀色の小綺麗なハサミとクシを持っている。


「さくっと切っちまおうか」

「お願い」


セイカをコンテナに座らせると、シーツを首に巻いて簡単に散髪の準備をした。


「どれくらいにするんだい?」

「肩にかからないくらいがいいわね」

「……やっぱり、もったいないと思う」

「ふてくされてないで、妹ちゃんも手伝いな」


カズサは手慣れた様子で髪を解いてハサミを入れていく。切る時にミヤビに髪の先を持たせて、切った髪を集めさせている。


「手慣れてるのね」

「まぁね。一応、親でもあるからね」

「娘さん?」

「そんなところさ」


曖昧な返事に、セイカはなんとなく察してしまった。ミヤビは首を傾げている。


「……ごめんなさい」

「あ、悪い。分かりやすかったかい?気にすることはないさ。何年も前の話だよ。ほら、もう終わるよ。鏡で確認しな」


照れ笑いを浮かべたカズサは話を反らして、手鏡を取り出した。手鏡を渡され、仕上がりを確認する。肩に少しかかるくらいの長さで後ろの方ほど短くなっている。


「強化人間のインプラントがあるから、後ろは妹ちゃんみたく邪魔にならないようにしたよ」

「ありがとう。でも、もう少し短くてもいいかも……」

「注文より長めにしたんだよ。後はちゃんとした店で金払って整えな。切った髪はとっとけばウィッグにもできるよ」


カズサはいい出来だと自画自賛し、満足そうな顔で腰に手を当てている。


なんとなくだが、この輸送部隊に女性が多い理由が分かった気がした。


「ちょ、なんだい妹ちゃん。あんたは切る必要ないだろ?」


手隙になったカズサに、ミヤビが後から抱きついた。カズサは離れようとするが、妹は見た目よりも力が強い。引き離すこともできず、そんな状態でじっと顔色を伺われ、流石のカズサも観念したようだ。


「全く……大人をからかうもんじゃないよ」


カズサはお返しにとミヤビの頭を撫でた。

二章はここまでです。

間章を挟んで、三章では姉妹は傭兵となるため、あれやこれやと忙しくすることになります。

また、あの3人組ともエンカウントします。

ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。

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