旅立ち編_第二章_6_善意
「……あんたら2人だけなのかい?」
ミヤビとセイカを見比べて、カズサは目を丸くしていた。
カズサはツチグモのコンテナ車両……ジョロウの格納スペースでドカッと胡座をかいていた。
ミヤビとセイカはその対面に座っている。コグモが車椅子型に変形しているが、相手が床に座っている状況で1人だけ椅子に座るのも気が引けたため、セイカも床に腰を下ろしていた。
セイカはミヤビを横目に見る。どうも、この赤髪の女性……カズサの圧に押し負けてしまったらしい。気不味そうセイカから目線を反らした。
「ええ。この車両群で人間は私達2人だけよ」
「はぁ、それなりに修羅場はくぐってきてるけど……。強化人間にしたって、ここまで車両や兵器を同時に動かせる奴は聞いたことがないねぇ」
カズサは姉妹が世間に疎いのを聞くと、足下を見るどころか何でも聞けと豪快に笑った。
答えたり説明できたりする事はするし、助けられる範囲なら助けてくれると豪語する。
「……あなたはそれでいいの?」
「あんた達が傭兵団とかだったらウチらは足下見られて大損してた所だからね。お互い様だよ」
その言葉に甘えて様々な質問もさせてもらった。
まずはある企業について、
「株式会社シンノーシは聞いたことがあるかしら?」
「株式会社シンノーシかい?この辺りの土着の医療機器メーカーだね。だから、企業連合より都市連合にコネクションの強い所だね。そこがどうかしたのかい?」
出自について、
「私達はそこから逃げてきたのだけど……」
「あそこは軍需系はやってなかったはずだけど……いや、まあ、医療と軍事は切り離せないけどね。まぁ、都市外の隠し工場や研究所なんて珍しい話じゃないさ。難儀だったね」
その企業との取引について、
「私達と関わって迷惑にならないのかしら?」
「ギルドや企業連合に比べりゃあそこは弱小だよ。気にすることもないさ。それに、隠れてやってた研究ならギルドに依頼を出したり手配書だしたりするような公な方法であんた達を探すなんてできないだろうさ」
危険性ついて、
「あなた達やギルドに危害が及んだりは?」
「それこそ命知らずにも程があるね。妹ちゃんに、ウチの馬鹿の話聞いてみな。アルビオン社に喧嘩売って身内は皆殺し。あいつ自身も死にかけて白髪の女を見るたびあの調子なのさ」
傭兵の仕事に関して
「私達はギルドに傭兵として登録したいのだけど……手続きどころかアウトベースに入るのも初めてなのよ」
「最初はみんなそうさ。アウトベースに入るならウチラの新入りとして入ればスムーズだね。そのまま専属になってくれると嬉しいねぇ。
アルメニア製無人兵器指揮車両のコロニーを使えるんだろう?ウチらはギルドの衛星通信が使えるから、ウチらは何処からでもあんた達から護衛してもらえて、あんた達は何処からでもウチらの仕事を受けられて悪い話じゃないと思うよ。喜んで手伝うし、専属の件も考えといてくれ」
商売の話も絡めてきた。抜け目のない女性だった。しかし、セイカとミヤビにとっても悪い話ではない。
「この手の仕事をする上で気を付けることは?」
「企業連合とギルドには喧嘩を売るなってところか。今は企業連合同士、直接やり合ってないが、企業の依頼を受ける時は、何処が何処に嫌がらせしたい案件なのかキッチリ調べることだね。
あと、フェデラルとアルメニアは引くほど仲が悪い。今でも互いの下請けを潰しあってるくらいだから、関わらないのが身のためさ」
一般常識なのだろう。メモも見ずスラスラと話してくれる。覚えておくべきだ。
「アルビオン社とジパング社は?」
「とくに仲が悪いとは聞かないね。得意分野が被らないのもあるだろうけど。あ、でもアルビオン社は義手やインプラントは毛嫌いしてるね。
アンタや妹ちゃんの襟足に着いてるそれさ。ジパング社が特許フリーにしてる強化人間技術で、ギルドでも検査や手術を受けられる。だから珍しくもないのさ。それくらいかね。別に付いてるだけでアルビオンから撃たれたりしないよ」
あとは今回の護衛費の相談くらいだろうか。おおよそ聞きたかった事は聞けた気がする。
「もちろん。アウトベースまで護衛はするわ。専属契約に関しては、ギルドで傭兵登録してからでいいかしら。自分でも相場は調べたいわ」
「かまわないよ。ウチらとしてはアウトベースへ帰れれば、ひとまず文句はないからね」
からからと男勝りな笑い方をするカズサは話していて気持ちのいい女性だった。そろそろ出発の準備かカズサは身を捩る。
「あ、アルビオンの化物って……」
「おっと、そうだったね妹ちゃん」
ミヤビの問に、カズサは思い出したように座り直した。セイカは首を傾げた。
「アルビオン社?」
「妹ちゃんに、ウチの馬鹿が言った失礼な言葉だね……まず、ホムンクルスは知ってるかい?」
「文字通りなら人造人間だけど……」
「そうだね。ただ、それだけじゃなくて、医療研究での専門用語……って言ったらいいのかね。薬品の初期治験用の実験人体だそうだよ。細胞の3Dプリンターで脳味噌まで生きた状態で作れるとさ」
そこまで聞いて、すでに聞きたくなくなってきた。
「実験動物のマウスとかの人間版だね。マウスと同じで、基本的にアルビノだけらしい」
「それの……えっと、化物っていうのは」
「本来は動かないんだと。生命維持装置を付けて薬の実験が関の山だそうさ。アルビオン・バイオニクス社は、その技術を応用して化物みたいに強い兵士を作れるんだとさ」
おおよそ、途中で想像した通りの答えが出てきた。ミヤビも、聞いて後悔しているようで眉間にシワを寄せている。
「元々は戦場神話みたいな話だったんだが……そうじゃなくなった。暗黒大陸で起こった都市間戦争で実戦投入されたのさ。アイアスって都市がアルビオンと協力してたから実物を見たと。敵対したカルコサっていう都市は都市連合の再生プログラムを受けるくらいにボロボロにヤられたそうだ」
「だから化物……」
具体的な都市名まで出ているということは、調べれば裏もとれる。実際に調べた者もいたのだろう。
「そもそも、それ以前から中央大陸北部系やアルビノっぽい女傭兵がアルビオン社に何人かいたんだが……、全部が全部"そう"なんじゃないかって話さ。実際、どいつもこいつも若いのにエースパイロット級なんだよねぇ……て、大丈夫かい?」
口を押さえて俯くセイカに、流石に不味いと思ったのかカズサは話を中断した。
「ごめんなさい、ちょっとグロテスクね……」
「あ……まぁ、そうだね。悪い、戦い慣れてるみたいだし、この手の話題も耐性があるもんだと……」
本当の問題点はそこではない。
物心付いた時には培養槽の中だったセイカにとっては全くの他人事とは思えなかった。
ミヤビは……平気そうだ。むしろセイカの背を撫でてくれている。
そもそもミヤビは培養槽での記憶があるのかどうか。セイカ自身も物心ついた時期の記憶は曖昧だ。
「……作り方とか」
「いや、続けんのかい……流石にそれはアルビオン社しか知らないだろうさ」
この問題に関しては確証もないため棚上げにするべきだ。そう言い聞かせて、半分聞かなかったことにした。
「まぁ、見かけが似てるってだけでも、キツイ話だったかい?」
「そう……ね」
「悪かったね。変な話して」
「聞いたのはこっちだから……」
セイカが苦笑し、カズサも苦笑いを返すとすっくと立ち上がった。
「変な空気にさせた後で悪いけど、そろそろノロマな輸送車両もこっちに来る。ウチらも情報共有や車両整備をしないといけないから、1時間くらい時間をおくれ。姉ちゃん、落ち着いたら、無線かなんかで声をかけとくれ。車列の相談もしたいからね」
「分かったわ。ありがとう」
「それはこっちのセリフだね」
カズサはそう言うとツチグモのコンテナ車をあとにした。調子を崩してしまったセイカに気を使ってくれたのかもしれない。
確認すべきことが増えたかもしれない。生活基盤を整えたあとのことも考えておくべきだ。
「……大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも」
ミヤビは姉の言葉を聞くと、セイカをギュッと抱きしめてくれた。
妹の体温と匂いに包まれる。吐息の音が耳に入る。妹が呼吸するたび、妹の胸が上下しているのがわかる。
柔らかくて心地よい感触が、嫌な思考を端に追いやってくれる。
「……ありがとう。もう少しだけお願い」
そう言って妹の背に手を回した。
ハグにはストレス軽減効果があるというのは、あながち嘘ではないらしい。
頼りになる姉がとる行動ではないだろう。
だが、少しだけ妹に甘えさせてもらうことにした。
カズサはセイカを姉ちゃん、ミヤビを妹ちゃんと呼んでます。まだしばらく会話パート続きます。次回でお風呂に入って終わりの予定です。
それでは、ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。




