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旅立ち編_第二章_5_出会い

「……助けて欲しい?」と、通信機からそんな澄んだ女性の声が飛び込んできた。


怒声が飛び交う戦場で聞くことなどほぼないような、艶めかしさのある声に、カズサは思わず身がこわばる。


「オープン回線っす!!!」


運転手の男の怒鳴り声でやるべき事を思い出す。

相手が何者かなど、どうでもよいのだ。


敵の敵は味方だ。


少なくとも救難信号で駆け付けてきた相手のはずだ。


「繋ぎなっ!!」

「っす!!」


このバカは、この声にビビっていないようだ。バカとハサミは使いようとは言ったものだ。


運転手は無線機を腕だけ伸ばしてよこしてきた。股に手が当たったが緊急時だ許してやる。


「救援求む!報酬は言い値で払うよ!!」


クズ鉄共相手か、自分たちにか、どっちに言った言葉かどうかなどどうでもよかったが、報酬はチラつかせておいた。


「……了解したわ」


少し間があったが、返事が返ってきた。少なくとも幻聴ではなかったらしい。


オープン回線で返事をしたため、当然追っ手側にも筒抜けだ。脚を止めていた残りのMⅢ4機がこちらに向き直った。


「あなた達の相手はそっちじゃないわよ」


声とともに、砲撃のあった方向から機関砲の砲撃音が響いてきた。


最新の正式なパーツで組まれたMⅢならいざ知らず、重機や旧式のあり合わせで組まれた機体では強度が足りていない。


1機が砲弾の雨に咽まれる。雑に溶接された増加装甲が吹き飛び、組み立てのあまいフレームが脱落して腕部だったパーツが宙を舞った。


クズ鉄の塊のような機体が、文字通りのクズ鉄となった。


砲撃の方向に土煙を上げる機影が目に入った。


「あっちだ!あっちに逃げるよ!!先に言ってる輸送車にも方向を共有しな!!」

「了解ッ……副隊長、隊長から通信繋げと……」

「文句は生き残ったら聞いてやるって言ってやりな!!MⅢの高速戦闘に巻き込まれたらミンチになるよ!!」


装甲車を砲撃の射点と思われる方向へ走らせた。

凄まじい風圧とともに巨大な6脚……?のMⅢがすれ違っていく。


「見ない機体だね……。前方にくっついてたのはアルメニア社の無人兵器かい?」

「アルメニアのスコルピウスを銃座代わりにしてましたね、アレ。後の機体もアルメニアっぽいけど見たことないッスね」


「男ってなんでそういうのばっかり詳しいの?」

「男はナニカに乗りたい生き物なんス」


「まぁ、何でもいいさ……」


助かる見込みが立ち、緊張の糸が切れた。カズサは崩れ落ちるように車内の座席に寄りかかる。


馬鹿な軽口を叱咤する元気もなかった。


「久々に死にかけたね……」

「護衛の傭兵に裏切られるとか、最悪ッスよ」

「いや、あれはそもそも積荷狙いの賊だったよ。新米にしても安すぎるって、アタシは言ったんだけどね」


しっかり武装した傭兵を1人でも雇っていれば端から襲われもしなかっただろう。


あのクズ鉄の賊は軽い武器だけで、MⅢや戦車を正面から抜ける装備もしていなかったのだから。


「間違って雇ったんなら、キャンセル料だけ払ってキャンセルすりゃ良かったんだ」

「まあカズ姉、生き残ったんだしクズは死んだし、ほどほどに……」


「……まだ終わってないんだよ、あんたら」


カズサが顎で前を見ろと促す。下っ端2人は目の前に見えた光景に顔を顰めた。


巨大な大盾を構えた巨躯、クラッドビートルが3機並んでのお出迎えだった。後には車両の他、スコルピウスがノソノソと歩いていた。


「あれとの交渉か……」


雇った傭兵は賊だったわけで、現在こちらにはろくな戦力が無い。さらには命の恩人でもあり、アウトベースまでの護衛も頼むことになるだろう。


足下をみられても文句は言えない状況だ。


「今月は給料なしかもね……」

「「そんなっ!!」」


---------


見た目よりも脆い。

そして火力もない。


地雷の除去も兼ねたスコルピウスの機関砲の掃射で容易く1機がバラバラになった。


整備もまともにされていないのだろう。機関砲の弾丸の衝撃で装甲もフレームも吹き飛んでいた。


「ちくしょう!!なめやがって!!」


「……五月蝿い」


わざわざスピーカーで怒声を浴びせる暇があるなら散開するべきだろう。


相手は味方が2機もやられたのに足が止まっている。


ミヤビはスコルピウスの機関砲と外装を掴んでいたマニピュレーターを開き、ジョロウのブレーキをかけた。


2機の速度に差が出て機体が離れた。


敵が機関砲を向けてくる。


ジョロウとスコルピウスは左右に別れて跳躍した。


「なっ……2機だったのかよ!!」


観察力も足りない。


これは雑魚だ。

スコルピウスの操作のため機体と接続しているものの、ジョロウのシステムを使う必要はなさそうだ。


跳躍と合わせてスコルピウスは再び機関砲を掃射する。棒立ちの相手はただの的でしかない。


「うわあああっっ!!うがっ……ブツッ」


スコルピウスの機関砲が直撃した機体が声の主だったようだ。


耳障りな悲鳴が途切れた。


残り2機。


倒れた味方機に気を取られているのか、機関砲がこちらに向かない。


スコルピウスの方は砲身の温度が危険値の警告が出た。


残りはジョロウの獲物だ。


ジョロウは着地から間髪入れず、ホバーエンジンの出力を最大に再跳躍。


着地する先は2機いる敵機の内1機の目の前。

ミヤビはサブアーム用の操縦桿に持ち替えた。


目前に着地されようやく事態に気付いたようだがもう遅い。


ジョロウの脚部並みの膂力を持つサブアームが、敵の機関砲を腕部ごと吹き飛ばした。

当然、反動がジョロウにも返ってくるが、オートバランサーが使用していない後方側のサブアームで機体を支える。


ミヤビはさらにもう1本の、左右反対側のサブアームを操作し、立て続けに敵機を殴打する。

今度は反対側の腕部も吹き飛んだ。


あとは繰り返しの作業だ。コクピットブロックが潰れるまで繰り返すのだが……いいものを見付けた。


装甲車がばら撒いていた対戦車地雷だ。

サブアームで地雷の方向に敵を押し倒した。当然ながら地雷は爆発し、敵機が吹き飛ぶ。


さすが、戦車を破壊するための地雷だ。威力は十分だった。


あと1機。


敵はもはや武器すら構えていなかった。戦意を喪失している様子だった。


だが、容赦する気もなかった。

ジョロウの武装は模擬戦の時から変わっていない。使用する射撃武装をサブアームの迫撃砲に切り替えた。


射撃用のレーダーを照射され、敵は我に返ったようだ。

「ま、待ってくれ!!助け……」


操縦桿の引金を引いた。


「……目標の沈黙を確認。戦闘終了」


バラバラになって炎上する最後の1機を尻目に、ミヤビは姉のセイカに報告を送る。

スコルピウスのレーダーにも反応はなかった。


姉からの返答が入る。


「ミヤビ、お疲れ様……て言いたいところ何だけど、もう1つ、頼まれてくれないかしら」

「……どうしたの?」

「とりあえず、まずは戻って来てくれるかしら」


スコルピウスと戻って来ると、すれ違った覚えのある装甲車がコロニーやツチグモと共に停車していた。


装甲車の付近に3人の人がいる。無線機で何か話しているように見えた。

ミヤビのジョロウに気付いた赤髪の女性が手を振っている。


「顔を見て話をしたいそうなのだけど、私1人だと流石にね……」


セイカの四肢は細く、長い期間培養槽にいたので筋力もない。そして、生身で銃を撃ったこもない。1人で出ていくのはあまりに無防備過ぎる。


さりとて、無人兵器のアントを引き連れて話をするのは護衛にしては威圧的過ぎる。


「じゃあ、まず私が会ってくる」

「ありがとう。ひとまず話を聞くだけでもいいから……。一応、小銃は持っておいて。ジョロウは私の方で格納するわね」


ジョロウの操作権限を姉に渡し、ミヤビはホバーエンジンを止めて機体を降りた。


コクピットハッチの昇降ワイヤーで降りる時に赤髪の女性と目があった。


歩み寄る時も操縦ヘルメット越しに3人を観察する。女性2人に男1人。


赤髪の女性は中年……母と同じくらいの年だろうか。体形は母と異なり、服の上からでも筋肉の厚さが分かるほど四肢が太く力強い体付きをしていた。


もう1人の栗毛の女性も似た体型だ。対して、ゴーグルの男は細く頼りなさそうな見た目だった。ゴツい女性と並んでいるため、余計に弱々しい印象を受ける。


歩み寄る前に、肩からかけた小銃を確認する。マガジンに弾も入っている。


「穏やかじゃないね」

「……こんな場所だし」

「まぁ、それはそうだね。まぁ、女はなめられやすいからね。女同士だ。気持ちはわかるよ」


赤髪の女性はミヤビの返答に肩をすくめた。


「アタシはカズサ・オオザキだよ。小さいが、キャラバン所属の輸送会社バンジュウの副社長を……現場では副隊長だね。務めさせてもらってるよ。改めてお礼を言わせておくれ。あんた達は命の恩人だよ」


キャラバン。たしかギルド管轄の組織のはずだ。これからキャラバンの拠点であるアウトベースに向かうのに嬉しい誤算かもしれない。


ミヤビもヘルメットを取って挨拶をした。


「……ミヤビ。MⅢの……」

「ひいっ!!」


突然、後の男が悲鳴を上げた。

赤髪の女性、カズサも目を丸くしていたものの、男の反応に首を傾げた。


「アルビオンの化物じゃないッスか!!?」

「……化物?」

「そのバカを黙らせな!」


カズサの指示で部下の女性が男を物理的に黙らせた。意識を落とされた男はズルズルと装甲車の向こうに引き摺られていった。


「バカなこと言わないように見張っときな!」

「……アルビオンの化物って何?」

「……死にかけて混乱したバカの世迷言だよ」

「……」

「……」

「……」

「……わかった。アタシの負けだよ」


カズサは無言の圧力に屈したようで、諦めたようにため息をついた。


「あのバカは元は盗賊でね、アルビオンに喧嘩売って殺されかけたことがあるのさ。今は足を洗った後だから、多めに見てやっておくれ」


カズサの返答に、ミヤビは首を傾げた。


「そうじゃなくて、アルビオンの化物って、何?」

「……え……知らないのかい?」


カズサが首を傾げたのを見て、ミヤビは失敗してしまったかと思った。一般常識なのだろうか。


「不機嫌そうにするから、わりと言われたことがあるのかと思ったよ……」

「……化物の方は。アルビオンなんとかは、知らない」

「まぁ、知らない奴は知らないかねぇ……?悪口みたいなもんだよ。知りたかったら後でもいいかい?急いで話すことでもないし、バカが変なこと言って悪かったね」


カズサはバツが悪そうだがホッとしている様子だ。そんな酷い詐称なのだろうか。


「助けてもらって追加の頼み事は気が引けるんだが……アウトベースに着くまでの護衛も依頼したいし報酬の相談もしたい」

「……そう」

「しかし、アタシとしては厳ついMⅢから可愛らしい娘が出てきてびっくりだよ。強いんだね」

「ずっと、訓練してきてたから」

「そうかい。専属傭兵ってのは見た目と強さが一致しないところはどこでも一緒なんだね」

「……専属?」

「?……アルメニアの専属傭兵だろ?見た目も、中央大陸の北部系に見えるし、機体もアルメニアの無人兵器だし……」

「違う」

「え……」


ミヤビの返答にカズサの表情が曇る。


「じゃあ、どこの所属だい?」

「どこでもない……逃げてきたから」

「訳ありって事かい?」

「……そんなところ」


ミヤビとセイカの立ち位置は、現状あの盗賊共と大差ない。最悪、脅してでも交渉すべきだろうか。


「……しっ。わかったよ」


だが、カズサの反応は思っていたものと違っていた。

自分で自分の頬を叩くと、わざとらしい作り笑いを向けてきた。


「オバサンに話してみな!あんた達とするべきなのは交渉じゃなさそうだ」


なので、カズサの反応にミヤビは呆気にとられてしまった。


「恩には恩で返す主義なんでね。人間、困ったときはお互い様ってもんだよ」

「あの……隊長に確認は……」

「そもそもアイツのせいで今の事態になってんだ。文句なんて言わせないさ」

「カズ姉の悪い癖が……」


後から聞こえてきた部下の問いを一蹴して、カズサはミヤビに向き直った。


「さっきのゴーグルのバカ同様、アタシらの所には訳ありも多い。まずは腹割って話してみようじゃないか!他のヤツにも挨拶させておくれ!」


これまで会ったことのないタイプの人物に、ミヤビは流されるままになってしまった。

カズサはシンプルに善人です。

カズサにとっては大企業と交渉しないといけないと思っていたらその必要がなくなり、姉妹にとっては嬉しい誤算でwinwinのエンカウントです。

ここから傭兵になるまで会話パートが続きそうです……。

それでは、読んでくださったあなたへ感謝を。

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