旅立ち編_第二章_4_輸送隊
「退いてくれたみたいね」
来た道を戻っていくMⅢを見送り、セイカは安堵のため息をついた。
「ミヤビも、お疲れ様」
「うん」
ミヤビにもスコルピウスの操作を手伝ってもらった。
ツチグモと共に運用が想定されたジョロウにも無人兵器を指揮する機能が備わっていた。
動作チェックとミヤビの練習も兼ねてスコルピウスを1機使ってもらった。
やはりというか、操縦技術に関してはミヤビの方が優れていると感じる。狙撃も上手く、相手MⅢに当てず威嚇射撃の目的を果たしてくれた。
「倒しちゃっても良かったのに」
「戦わないで済むなら、それに越したことはないわ」
相手に被害を出して、躍起になって追撃されても困る。
口には出さないが、そもそも相手に本気を出されて勝てるかどうか分からなかった。
相手MⅢの画像を記録して調べた。2機中1機は個人ブログのレベルだが数件だけ情報があった。
"ジパング社の次世代モデルか!?狂気の突撃型MⅢ"
おそらく軍事マニアの盗撮だろう。大盾と大剣の装備も形状も一致したMⅢ画像が出てきた。
もう1機の、ジョロウのように多数のサブアームを有した機体は何一つ情報が出てこなかったが。
「たぶん、ジパング社の部隊よ。偶然の接触かもしれないし、目を付けられたくないわ」
「……姉さんがそう言うなら」
半端な戦闘で消化不良なのか、妹はどこか不満そうだった。
代わりになるかわからないが、機体から出てきたらたくさん甘えさせてあげよう。
そう決めて、セイカは移動再開の準備を進めるのだった。
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結果的に、放棄された都市……廃都市のエリアから抜けるのに、ジパング社との遭遇戦から5日かかった。
斥候のスコルピウスが地盤沈下で地中に消えたり、無人の観測機が飛んできたり、野盗が襲ってきたり……。
迂回や機体の回収、そして機体が錆びないよう洗浄と、気にしていた追っ手とは全く別の事象に時間を取られた為だった。
今まで、衛生面では高い水準の生活を送っていた姉妹にとっては想像していたよりも過酷な5日間だった。
そのため、廃都市を抜けた先……地平線と山々が広がるだけの景色がとても美しく見えた。
「やっと抜けた……!!」
斥候のスコルピウスから送られてきた映像に姉妹は釘付けになっていた。
「ここからなら、あと3日もあればアウトベースに着くわ」
「水は……!?」
「この工程なら、備蓄に余裕があるわね」
「お風呂……!」
「そうね。今晩くらいは……」
途中、降った雨をシャワー代わりにしたりもしたが、ミヤビからの要望はお湯での入浴だった。
セイカもそれは同意見だ。3日めから伸ばしっぱなしの白髪がベタベタするような気がしていた。
「アウトベースに着いたら、髪も切ってしまおうかしら」
「えっ……」
妹が抗議の目を向けてきたが、これは許してもらいたい。長い髪とは何かと手入れが手間だとここ数日で痛感したのだ。
「肩にかからないくらいにしたいわ」
「私が手入れも手伝う……」
「この先、毎日手伝ってもらう訳にもいかないでしょ」
これはまかりは正論で黙ってもらうことにする。
「それより、出口だからこそ慎重にいくわよ。スコルピウスの脚部ホイールが進んだところを……」
スコルピウスが地盤沈下で落下した事件はなかなかのトラウマだった。石橋を叩いて渡るように、スコルピウスのタイヤ痕を踏む形で慎重に進めていく。
幸い、廃都市の出口で特にトラブルなかった。時間はかかってしまったが、身の安全には代えられない。
廃墟と瓦礫の砂漠のような土地を後にすると、周囲はなだらかな丘陵や森林こそあるものの平坦な地形だった。
まだ距離がありすぎて、城塞都市も地平線の向こう側のようだ。
廃都市の出てから進む地面は草が剥げていて茶色くなっていた。頻繁にとはいかなくとも、誰かが通っているのだろう。
あの研究所の人間たちだろうか。アウトベースを出入りしていたのかもしれない。だが、公にできる研究ではなかったようなので、人里に着けば表立って狙う事はできなくなるはずだ。
ミヤビは点検用の天窓から上半身を出して周囲の景色を眺めていたが、1時間もすると飽きたのか中に戻ってきた。
ミヤビがセイカの髪で三つ編みなどし始め、このまま何もなさそうだと思った頃だった。
「……救難信号?」
索敵を行っていた斥候のスコルピウスが救難信号の電波を拾ってきた。
距離としては10km弱は離れている。
ミヤビも、流石に三つ編みをする手を止める。
「……遭難?」
「どうかしら」
スコルピウスのマイクの感度を最大まで上げる。かすかだが、発砲音のようなものが耳に入った。
だが、遠すぎて視覚情報に関してはどうしようもなさそうだ。
高台があればよいが、ここには廃都市のような高層ビルや鉄塔の廃墟は見当たらない。
「戦闘……かしら。状況を知りたいわね」
選択肢としては2つだ。
1つは敵対的な勢力を制圧して先に進む。
この先で戦闘をしている双方が相手になるか片方なのか。情報がないと危険すぎる。
もう1つは迂回する。
安全だが、迂回した分アウトベースへの到着が遅れる。
ミヤビにもこの2案を共有すると……、
「姉さん、ドローンハッキングしてなかった?」
忘れようとしていたことを妹に指摘され、セイカは天を仰いだ。
ジパング社のMⅢと遭遇戦をしてしまった後、何機かドローンが飛んできたのだ。追っ手かと思ったセイカは反射的に待機中の無人兵器のAIを書き換えてクラッキングして奪ってしまった。
結果だけ言えば、ジパング社の物だったのだ。
識別信号や位置情報の発信など、こちらの情報がバレかねない機能は停止させたものの、置いていったことで痕跡を残すのも恐ろしく、輸送車両の中でいわゆるタンスの肥やしにしていた。
迂回すればいいだけの話なのだが、工程が来るって今晩の入浴がお釈迦になるのは耐え難かった。
欲望とは何とも非合理で非効率だと思うが……
「……これ以上、迂回したくないし……使いましょうか」
ミヤビも反対しなかった。
観測用のドローンを飛ばした場合、向こうの戦闘に参加しなくても気付かれれば巻き込まれる可能性が高い。
そのため、足を止めて戦闘態勢をとることにした。
クラッドビートルは3機全てを、スコルピウスは脚部換装が必要な1機を除き待機中の3機を起動させ、斥候と殿の2機を合わせ5機を動けるようにした。
もちろん、ジョロウも起動する。
敵機の索敵と観測を行うのは鹵獲したドローンだ。アントの足先にプロペラを付けたようなサイズ感で、プロペラ込みだと全長は2m以上あった。
マルチコプター型で垂直離陸で空に上がる。飛行する機体の移動速度は陸上機よりもはるかに速い。そして目視での索敵はビルをよじ登らせるよりずっと快適だった。
「この先、資金に余裕が出たら1機欲しいわね」
「それじゃダメなの?」
「盗品みたいなものだからどうかしら……」
あまり軽口を叩く間もなく、目標は見つかった。
MⅢらしき機体5機に対し、四輪の装甲車がカーチェイスを繰り広げていた。大きく蛇行して、MⅢの進行を妨げるように走っている。
殿なのだろう。装甲車の向こうにも車両が見えた。輸送部隊なのだろうが、所属までは分からなかった
「救難信号を出しているのは車両の方ね」
「……どうするの?」
「国際的には助けるのがルールだったかしら……というよりも、あのMⅢモドキは私達にも邪魔ね」
1機を除き、あり合わせのパーツで組まれたような歪な人型の機体達は生意気にもホバーエンジンは付いているようで、滑るように大地を滑走していた。
狩りに夢中でこちらに気付いていない。
対して装甲車は赤い旗……否、旗ではなく人の髪だ。銃座にいるのは女性だろうか。無意味を承知で、装甲車の機関砲の弾を羽振りよくばら撒いていた。
よく見ると、周囲にタイヤのようなモノが転がっていて、それを撃っているようだ。着弾したのか、車両をひっくり返せそうな大爆発を起こした。地雷だ。対戦車用だろうか。
装甲車のバックドアが開いており、そこから同様のタイヤ状の地雷をばら撒いていた。
これはこれで困る行為だったが、命懸けで身も蓋もない状況なのだろう。
「目標は装甲車の護衛と保護。正面からあのMⅢモドキ部隊を潰す。ミヤビは機関砲のスコルピウス1機を盾にしながら突貫。スコルピウスの権限を渡すから前線での操作は任せるわね」
「了解」
ジョロウがスコルピウスの後ろに付いて、サブアームをスコルピウスの上面から被せていた。さらにマニピュレーターでスコルピウスの機関砲を保持する。
スコルピウスを盾かつ銃座代わりとするつもりのようだ。
合体したような見た目となったジョロウとスコルピウスは器用に攻撃目標のいる方向に向き直った。
MⅢのホバーエンジンとスコルピウスのローラーで滑走する分は機動力にも影響は無さそうだ。
「いけるよ」
「じゃあ、砲撃で相手の注意をこっちに向けるわよ」
斥候のスコルピウスの長距離砲が火を噴いた。
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「うわあああぁぁ!!しぬしぬしぬしぬしぬ!!!」
機関砲の着弾が上げる土煙を避けるように防塵ゴーグルの男は装甲車のハンドルを切った。
装甲車は急ハンドルにタイヤを浮かせながらも何とか運転手の意思に従ってくれた。90度以上方向を変えて土煙に突っ込む事態は避けることができた。
「ちょっとは静かに運転できないのか!?男だろ!!」
「無茶言わないで下さい副隊長!!」
装甲車の銃座から砲撃音の中でも耳に入る怒声に男は泣き言を返した。
「次来るよ!!方向転換!!!」
「無茶苦茶だあ!!装甲車はMⅢみたいな機動ができるようになってないんすよ!!!」
「できなきゃ死ぬだけだ!!!」
赤髪の副隊長の下知に、男は半狂乱で答える。装甲車は再びタイヤを浮かしながら方向転換する。
「カズ姉!!地雷がもうなくなる!!!」
「スペアタイヤも投げ付けな!!」
「くそっ!!救援はいつ来るんすか!!?」
「文句は護衛をケチった隊長に言いな!!」
カズ姉と呼ばれた赤髪の女性、カズサはバックドアから転がった対戦車地雷に機関砲を撃った。
着弾した地雷は爆発を起こして目眩ましになってくれる。外れても、MⅢはそれを避けなければならない。
だが、着弾したはずの地雷は爆発せず、ゴムと鉄のミンチになっただけだった。
「不発!?くっそ!?」
「カズ姉それスペア!!!」
「投げる時に言え!!!」
などと怒鳴るが、車両の揺れでカズサも危うく舌を噛みそうなる。
「カズ姉ヤバい!!」
妹分の怒鳴り声に、盗人共のMⅢに向き直る。ブラフに気付いた1機が回避行動を取らず、機関砲を構えていた。
機関砲はさそど射撃精度は良くないはずだ。
しかしフルオートで撃たれて無事で済むだろうか。
いや、そもそも装甲車に積んでいる地雷に当たれば装甲車ごと吹き飛んでしまう。当然3人とも吹き飛ぶ。
極限状態で思考がフル回転し、時間が止まったかのように錯覚する。
それでも、打開策が見つからなかった。
無関係な過去の映像が脳に浮かぶ。
これは娘を産んだ時、陣痛で泣き叫んでいた時だろう。打って変わって、今度は別の任務で大儲けした時の記憶。
これが走馬灯という奴かと、頭の中は妙に冷静だった。
しかし、周囲の景色は見えない。声が聞こえない。
すでに装甲車は爆散して、もう死んだのだろうかと思い始めた時だった。
鈍い、地響きのような轟音でカズサは我に返った。
機関砲を構えていたMⅢの上半身が吹き飛んだ音だった。わずかに遅れて気化した燃料が爆発を起こす。
「うおおお!!?大戦果じゃないすか!?」
「違う!!ウチじゃない!!」
勘違いしたゴーグルのバカに対して、妹分が怒鳴り返した。それでも、気のすく光景にほおが緩んでいる。
憎らしいクズ鉄どもも、事態を理解できず足を止めた。一瞬だが、時が止まったかのように静かになる。
そんな戦場の中で、
「……助けて欲しい?」
そんな声が耳に入った。
ミヤビとセイカがようやく第1村人(?)とエンカウントです。戦闘は次回で描きます。
山の中や何もない荒野で、女性の綺麗な美声が脈略なく聞こえたら怖いですよね?たぶん。
ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。




