旅立ち編_第ニ章_3_追跡者
「お、ようやっと来たやん」
ウェインとアルフレッドがようやく本来の作戦エリアに到着すると、エマのMⅢ、キツネビからのレーザー通信が入った。識別信号からしても近くにいるはずだが見当たらない。
周囲にはスコルピウスとアントの残骸が転がっているばかりだ。
「上や上」
見上げると、30階はありそうなビルの上にキツネビの姿があった。
わざわざ登ったのか、降下の際にそこに降り、光学兵器で全て焼き払ったのか。恐らく後者だろう。転がっている残骸は全て溶けているか炎上していた。
「そっちの獲物はどうやったん?」
「ここに来るまで、クラッドビートルが2機、スコルピウスが4機だな」
「デカブツおったんや。羨ましいなぁ」
軽装機しかおらず、全てレーザーで切刻んだということらしい。
MⅢキツネビは執行部隊隊長であるエマの専用機だ。ショルダージョイントと腰部分に2機ずつ繋がる三日月状のユニットが迎撃レーザーの発生装置となっている。機関銃の弾すら撃ち落とす不可視の城壁だ。
彼女とやり合うにはゼロ距離で戦うしかない。
メインの武装は別にあるが、これでも装甲車程度の装甲であれば貫けるため、迎撃用であるがエマは攻撃にも利用している。
スコルピウスやアントのような細いフレームの機体では、相手にならない。
「エマは何見てんの?」
「おもろいで?」
アルフレッドの言葉に答えるとともに映像データが送られてきた。キツネビのカメラの映像だろう。
3機のクラッドビートルの後ろ姿。5機のスコルピウスと1機のコロニーが随伴して防衛戦を敷いていた。
相対しているのは……同じく無人兵器のスコルピウスだった。何機かはすでに撃沈しているが、残骸を見るに10機以上の部隊に見える。
「報告より接敵数が少ないと思ったが……無人兵器が暴走して食い合いしてるのか」
「ちょっと違うなぁ。あの相手のスコルピウスは他所様みたいやで。ここのオペレーターは堅実で、無人兵器のAIが戦いやすい布陣を作るタイプや。たぶんな」
エマの言葉を聞き、よく目を凝らしてみる。
見れば、相手取っているスコルピウスはビルの壁面をよじ登ったり飛び移ったりとデタラメな動きをしていた。
なんとかクラッドビートルの城壁をこじ開けたいのだろうが、後衛のスコルピウスの機関砲に食われていく。また1機落ちた。
対して、防衛側の守りは堅牢だった。よく見ると周囲にアントが展開してる相手の観測をしている。徐々に後退しているものの、下がり切る前に攻撃側のスコルピウスはジリ貧になるだろう。
確かに、同じオペレーターの操作を学習したAIには見えない。ウェイン達と相対した無人兵器も小隊として部隊行動をとっていた。
観察した感想としては、捨身ともとれる行動をするスコルピウスの相手はしたくないと思った。
「どっちが暴走したAIなんだ。あれは」
「ここの惨状見る限り、防衛してる方なんやろな。相手方のオペレーターが無能なんやろ」
無人兵器の特性上、使用者側は人的被害が出ないため無理な特攻をさせる者は少なからずいる。
相手にしたくない部類だが、冷静に対処されてしまうとチェスの駒を何も考えずに動かすようなものでポーンにクイーンが取られてしまう。
おそらく、あの防衛戦に指揮機であるコロニーが出張っているのは演算補助と総指揮のためなのだろう。あの近さならレーザー通信で容量の大きいデータのやりとりができる。
「勝ち残った方がウチの獲物やでー」
「……了解した。終わったらアキラに安全確保の報告と調査部隊の派遣依頼を……」
「いや、そっちも仕事しいや」
エマの言葉にウェインは首を傾げる。
「降下した時にな、あの防衛戦と真逆の方向、複数の車両が動いた跡があってん。暇なら調べてきて欲しいわ」
「む……」
「いや、気付いてたんなら調べとけよ」
「ウチはまだ戦闘中やー」
などと言ってエマは観戦を続行するつもりのようだ。
ウェインはあきらめてため息をつく。
「了解した。執行部隊隊長」
「……教官殿ぉ。ウチは昔みたく名前で呼んで欲しいなぁ」
「……もう少し、隊長としての振る舞いができたら考えてやる。アル、行くぞ」
「了解」
唇を尖らせるエマを尻目にウェインのオオタチは踵を返した。
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「確かに、大型の車両が移動した跡があるな」
オオタチはホバーエンジン出力を抑え、歩行で移動していた。アルフレッドのオロチも、ウェインに習い歩行で移動している。
だが、
「……どれ?道路がボロボロ過ぎてわかんないんだけど」
アルフレッドには見分けがつかなかった。そもそも廃棄された都市のアスファルトは整備などされているはずもなく、どこかしこもひび割れて雑草が生えている始末だ。
「……そうか。そうだな……」
ウェインは分かりやすい目印を探す。教導部隊隊長という肩書の通り、アルフレッドの教導もウェインの任務に含まれている。
オオタチの映像を画像データで保存し、マーキングを付けてオロチに送ってやる。
「その背の高い植物が折れている所と、先にある瓦礫が不自然に途切れている所があるな。その2点を繋ぐようにアスファルトが陥没しているのは分かるか?」
言われて、アルフレッドは送られてきた画像を目を凝らして見る。わかるような、わからないような。
「確かに凹んで……あ。この草が潰れてる所か」
「そうだ。その先を見ると答え合わせができるものがある」
アルフレッドがより前方……先を見ると、街灯と倒壊したビルの瓦礫が避けられ道が開いている。それを不自然だと思えた。
「あの瓦礫を避けて進んだってことか?」
「正解だ。あの瓦礫まで行くと、もう一つ痕跡があると思うぞ」
まるでジュニアハイスクールの校外学習だと内心自嘲しながら、機体の歩を進める。
ホバーエンジンの出力を抑えているのも痕跡を可能な限り壊さないためだが……全部一度に説明しても、こいつは覚えられないだろうとウェインは口を噤んだ。
「これ、機体の足跡か?」
「たぶんだが……クラッドビートルあたりで瓦礫の山を押し退けたんだろう。機体は耐えれても、地面はそうもいかない」
くっきりと、真新しい4つの穴がアスファルトを貫通していた。
「どれもまだ新しい。戦闘速度で追跡すれば追い付けるか……」
人型……2脚型MⅢの踏破力は多脚タイプよりも高い。多脚よりも機体が軽い分、高い障害物を戦闘速度を維持したまま飛び越えてしまえる。
相手は車両で、瓦礫を撤去し迂回しながら進んでいるとなるとそこまで遠くには……
などと考えていると、付近にあった廃墟が吹き飛んだ。
「ウェイン!!」
アルフレッドに言われるまでもなく大盾を構え直した。だが、思案していたため、注意力が散漫になっていた点には言い訳できない。
そう、相手はそこまで遠くには行っていない。離れることができていないのだ。
振り注ぐ瓦礫を無視して数秒前の映像を表示し射線を確認する。盾は確認できた方向に向け直す。
「すまない。被害は?」
「ない。ボロいビルが吹き飛んだだけ」
廃墟が倒壊する音が辺りに響いている。が、MⅢに搭載されたマイクは波長の違う音を拾ってくれた。
甲高い風切り音が耳に入った。
アルフレッドは指示を待つことなく、オロチをオオタチの後に隠した。
再び近くの廃墟が吹き飛んだ。瓦礫と粉塵が広がっていく。このままではカメラが使えなくなる。
さらに立て続けに砲弾が飛んできた。周囲の、かろうじて形を保っていた近代建築が次々と瓦礫へと変わっていった。
「どうすんの!?エマ呼ぶ!?」
アルフレッドが悲鳴のような声で聞いてくる。
「いや、このまま後退する」
「はぁっ!?ヤラレっぱなしじゃん!!」
ウェインの返答に、アルフレッドは信じられないと声を荒げた。
「そうでもない。相手もやり合う気はないらしい」
これだけ撃たれていて、至近弾すらなかった。
それどころか、途中から着弾点が離れていっている。
次に着弾したのは、ウェインとアルフレッドが進もうとしていた先にある廃墟だった。
アルフレッドも、砲撃の意図に気付いた。
「あー……。これって……」
「着いてくるな……ということだろうな」
遠くでも爆発音がする。おそらく砲撃している機体は単機ではない。
これまで接敵した機体を考えるとスコルピウスの長距離砲だろう。
綺麗に外したということは観測機がいるはずだ。周囲を見渡すと、高層ビルの側面に不自然な突起が見えた。
近接戦闘用のオオタチの望遠レンズでは詳細を確認できそうにない。
「アル、あれを確認できるか?」
「ええ!?……無理。遠すぎるって……でも、なんか動いてるな」
方角を示してアルフレッドに確認させたが、オロチでも無理なようだ。
ただ、相手は気付かれたと感じたのだろう。突起が消えていく。ビルの反対側に移動したか。
無理に追ったとして、追い付いたとしても想定される損傷と燃料の消費に見合わない。
「勝手に去ってくれるなら、キャラバンの行路に支障はないだろう。方角だけ記録しておけばいい。あとはアキラに調査隊の派遣を要請して……追跡はドローンにでも任せるべきだな」
「はぁ……了解。久々に死ぬかと思った」
アルがため息交じりに踵を返す。ウェインは念のために殿を務めた。サブアームで盾で背を庇いながらアルの後に続いた。
わざわざ盾で背を庇ったものの、これ以上の砲撃が飛んでくることはなかった。
後退後、報告と調査隊の派遣依頼をしている中で、戦闘狂……エマが選択肢を間違えたと頭を抱えていたのはまた別の話だ。
追っ手側だった彼らの視点はいったんここまでとなります。次からは再び姉妹の旅路に戻ります。
小ネタとして、エマの専用機であるキツネビは最強の盾とも言える装備を持っていますが、敵味方問わず全ての弾丸を撃ち落とします。
つまり味方の射撃機と連携が取れない上、他の射撃武装が積めない欠陥機でもあります。
この先の話で出せるかわからない設定のためここで出しました。
それでは、ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。




