表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

旅立ち編_第二章_2_偵察部隊

時間を少し遡ることになる。


朝焼けで白んできた空に3機の機影が照らされた。


ブレードスラップ音を轟かせながら空を突き進むそれは、4台の大型ローターを備えた大型ヘリだった。


影だけ見ると、脚を生やした独特なヘリにみえるがそういうわけではない。それぞれの輸送ヘリが人型のMⅢを機体下部に係留していた。


航続距離は限られるものの、専用輸送ヘリによる空輸は簡易的かつ迅速にMⅢを輸送する手段だ。


黒いMⅢが1機、白いMⅢが2機。


任務を言い渡された3機、もとい3人は早朝から公害級の騒音下で空の旅をするハメになった。


「なぁー。この仕事、ほんまにウチが出なあかんの?」


欠伸混じりに不平を漏らすのは黒いMⅢのパイロットだった。そんな不良兵士の悪態を、輸送機のパイロットは注意もできず聞き流していた。


「任務中でそんな態度をとるのはお前くらいだエマ・タマモノマエ。あと、せめてパイロット同士に絞った回線で愚痴れ」

「いやー、ウチだけちゃうやろアキラちゃん。愚痴りたいんわ。こんな朝はよからさ」


見かねて苦言を呈したのは今回の任務でオペレーターを務める女性だった。対して抗議するように、黒いMⅢが腕部をふらふら動かす。


「空輸中に!機体を!!動かすな!!!」

「コワイコワイ。はぁ……ベッドやとかわええのに」

「セクハラはヤメロ!!!」

「オペレーター、作戦内容の再ブリーフィングを頼む」


痴話喧嘩が始まりそうになったあたりで、男が口を挟んだ。

オペレーターの女性、アキラは咳払いをすると、モニター上の白いMⅢの機体状況を示すウィンドウに目を向けた。


口を挟んだ男の機体だ。大盾と斬首剣のような刃先の平たいブレードが目立つ機体だ。


「ウェイン・リヒト。それは必要か?出発前にもしただろう」

「痴話喧嘩を聞くよりマシだ」

「あー、確かに」

「ぐ……」


男、ウェインの言葉に声変わり前の中性的な声が同調した。もう1機の白い機体のパイロットだ。


もう1機の白いMⅢは7つのサブアームを持つ異形の機体だ。そのパイロットの声はどう聞いても子供のものだった。


「時と場所は考えてほしいよなー」

「……アルフレッドに言われてる始末だぞ」

「ガキのくせになー」

「くっ……」

「なんか貶された気がする」


アルフレッドと呼ばれた少年は唇を尖らせる。


流石にこれ以上、気を緩ませてはいけない。アキラは嘆息すると自身の姿勢を正した。


「繰り返しになるが、今回の仕事はギルドからジパング・インダストリーに依頼されたものだ」


先程の吠えるような応酬と打ってかわり、淡々と任務内容を読み上げる。


「昨日1007の0700〜1400にかけて大規模な武力闘争が確認された。今回の作戦は、武力闘争のあったエリアの調査だ」

「残存兵力の殲滅もやろー」

「黙ってろ」


口を挟んだエマをウェインが一蹴した。


「……内容には含まれている。目的は輸送経路の安全確保となるため、残存兵力がいれば殲滅する。何もなければ行って帰るだけの任務だが、その可能性は低い」


資料として衛星写真の資料が共有された。黒い靄のようなものが建物を飲み込んでいるように見えた。

周囲にも黒い点があり、拡大すると虫のような形をしている。


「ギルドの軍事衛星で確認された映像だ。破壊行動を行っていた勢力の機種も特定されている」


画面に機種と数が表示された。

アルメニア・エレクトロニクス製 コロニー 5機

同社製クラッドビートル5機

同社製 スコルピウス10機

同社製 アント 機体数不明

製造元不明 所属不明MⅢ 1機


「アルメニア社からはこの地域で作戦行動は実施していないと返答を得ている」

「どーだかなー」

「人の事は言へんけど、秘密主義やからな」

「……」

「……ギルドが直接確認しており、殲滅も書面で承諾されている。目標の規模から寄せ集めではなく、弊社が出張ることとなった。もうすぐスコルピウスの射程圏内に入る。気を引き締めて……」


アキラが言い終える前に、輸送中の黒い機体……エマのMⅢから赤い閃光が虚空に放たれた。


閃光は途中で途切れ、爆発を起こす。


砲弾だった。


「……は?」


呆けた声を出すオペレーターに対して、エマは欠伸混じりの声で返す。


「相手さん、気ぃ早いなー」

「いや、まだ射程圏内では……」

「それでも有効射程内や」


顔を青くするオペレーターをエマは諌める。実戦にイレギュラーはつきものだ。


「目視で撃ってきたか」


ウェインの推定にエマは頷き、先ほどまでのふざけた態度を収めた。


「目的地前やけど……輸送部隊さん、ウチらを降ろしてくれるか。空挺降下や。砲撃はウチが迎撃するさかい。ウェインとアルもええよな」


「問題ない」

「いいぜー」


「勝手に作戦の変更は……」

「現場判断や。ウチらはええが、これ以上近付くと輸送機が逃げられん。こっから徒歩で行くで。輸送部隊さんはウチらが下にたどり着く前に逃げーや」


マニュアルに即した言葉をエマは一蹴した。危険なのは自分達戦闘員ではない。迎撃や回避の手段を持たない輸送部隊だ。


無駄な死人を出す気はなかった。


「……すまない。幸運を祈る」


輸送機のパイロットからの返事と共に、分離ボルトの操作権限がMⅢパイロット達に移譲された。それを確認するとエマは満足そうに笑う。


「ほな行ってくるわ。ウチは前に出て狙撃手を潰す。ここからの指揮はウェインに任すで」

「了解した。執行部隊隊長殿」

「その呼ばれ方嫌いやねん。教導部隊隊長殿。今日中に返って始末書や」


ウェインの慇懃無礼な返答に軽口を返し、エマの黒いMⅢが先行して分離ボルトに点火する。


「……ホバーエンジン出力最大。アルフレッド、訓練通りだ」

「わかってる」

「これより作戦行動を開始する。

エマ・タマモノマエ、MⅢキツネビは先行した。

ウェイン・リヒト、МⅢオオタチ。

アルフレッド・クサナギ、MⅢオロチ出撃する」


分離ボルトが破断し、機体が空中に放り出された。

その間にも砲撃が黒い機体の発する赤い閃光に焼かれていく。


「……帰って来なさいよ」

「ああ。帰らなあんたが始末書になってまうもんな。……こっからは無線封鎖や。作戦完了まで通信はレーザー通信と有線通信に限定」


3機のMⅢ達は重力に引かれ、廃墟の街へと消えていく。


アウトベースのオペレーター室。輸送機のカメラから見送ったアキラは嘆息をはいた。

毎度のことだが、仲間を戦場に送る事には慣れない。


「まーた、あいつらは作戦無視?」

「……そんな感じ」


声をかけてくれた同僚に苦笑いを返す。


「まぁ、生きて帰ってくるだけマシかな」

「それはそうだけどさー」


事務席の上にある書類の山を指差し、唇を尖らせる同僚の愚痴を聞き流しながらこれまでのログを記録しておく。彼らの始末書に必要となるデータだ。


無線封鎖後、オペレーターである彼女ができるのはこれくらいだった。


「ていうかアキラ。あの女狐とできてるってマジ?」

「……ちょっと黙って」


----------


MⅢのホバーエンジンの出力は数値上は機体を空中に浮かせたり飛行して障害物を飛び越えるだけの性能を備えているが、実戦で使う事は少ない。


多用されない理由は言い出すとキリがないが、燃料を浪費してしまい稼働時間に影響が出るのと、脚部の耐衝撃性能を超えた高度で落下すれば機体脚部だけでなくパイロットが耐えられないためだ。


高高度からの空挺降下はイレギュラーな使用方法にあたる。非常時に空挺降下を行うため、3機とも追加燃料タンクを搭載していた。


「はい着地っと……。脚部に異常無し。追加タンクはあと半分。ウェインは……」


アルフレッドは口に出しながら機体状況を確認する。

前を見れば、ウェインの機体、オオタチがこちらを向いていた。


細身の高機動機に見合わない大剣と大盾のアンバランス感が魅力的な機体だと思う。


思考が脱線していると、レーザー通信が入った。


「機体状況に問題ないか」

「問題ないけど……キツネビは?」

「すでに狙撃機を潰しにいった。まぁ、心配はいらないだろう。同格のアサルトファイターでもいるなら話は別だが」


薄情に思えるが、アルフレッドも同意見だった。

自由奔放な女は戦場でも自由だ。


狙撃機でキツネビは落とせない。輸送機を守った、黒いMⅢが放つ赤い閃光……光学兵器による自動迎撃装置のためだ。

弱点もあるが、初見で気付ける者もいない。


「あちらは任せておけばいい。俺達も……」


ウェインのオオタチが盾を構えたのを目にし、アルフレッドもオオタチが見据える先に目をやる。


大盾を持った4脚の無人兵器がそこにいた。

クラッドビートルだ。


後続にサソリ型の無人兵器が2機……スコルピウスを引き連れていた。長距離砲にしては砲身が短い。近接タイプなのだろう。


「降下位置を予測してやってきたのか。随分と賢いな」

「よっしゃぁ!やってやる!!」

「はしゃぐな。分担を決めるぞ」

「デカブツやりたい!」

「決まりだ。お膳立てはしてやる」


軽口を交えつつ分担を決めた。スコルピウスの射線から隠れるようにオロチはオオタチの後に隠れる。


スコルピウスが前に出てきた。視覚情報から射撃装備がないとAIが判断したのだろう。


機関砲が火を噴き弾幕を張ってきた。

クラッドビートルはスコルピウスの後ろで悠然と待ち構えている。


「火力は想定より低い。やるぞ」

「いつも通り?」

「そうだ」


想定より衝撃が少ない。


オオタチはショルダージョイントから伸びるもう一つの腕、サブアームのみで大盾を持ち替えて突貫した。


オロチはそれに追随する。


武装の外見からすると鈍重に見えるオオタチだが、武装が盾と剣、対人砲のみのため見た目よりも機体は軽く、機動力がある。


最高速の時速200km近い速度に達し、みるみる距離が詰まっていく。


それを見て、想定より接敵が早いと考えたのだろう。

スコルピウスが砲撃を止めた。


「アル、今だ」

「了解!!」


追随していたオロチが跳躍した。

オオタチを飛び越え、敵のクラッドビートルすら飛び越え着地した。


無人兵器3機をオオタチとオロチで挟む布陣が出来上がった。


逃げ道を塞がれたスコルピウスが脚を止めた。


ウェインはそれを見逃さない。


大剣を横に薙ぐように1機を吹き飛ばす。


慣性と重量の暴力に。スコルピウスの四肢と機関砲がバラバラとなり宙に舞った。


もう1機のスコルピウスがオオタチに砲身を向けた。


「判断ミスだ」


機関砲が至近距離で火を噴くが、弾丸は綺麗にオオタチの胸部に当たる。


その程度で抜ける装甲ではない。

特にMⅢの胸部は機種に関わらず装甲が分厚い。


大盾を腕のマニピュレーターに持ち替え、スコルピウスを殴り飛ばす。仰け反った所に大剣を振り下ろした。


後はクラッドビートル1機だが。


「楽勝」


仁王立ちのまま機体は停止していた。


オロチの持つ7本のサブアーム。


その先端から伸びた高周波ブレードがクラッドビートルの各関節を貫いていた。


オロチがブレードを引き抜くと、自重を支えきれなくなったクラッドビートルは崩れ落ちた。


ウェインはそれを見届けると、嘆息を吐いた。


「無人兵器を殲滅しつつ、先に進むぞ。間違ってもアントを踏むなよ。脚部の噴出孔が破損する」

「りょーかーい」


上機嫌なアルの返事にウェインはため息をついた。

今回、ミヤビとセイカは出番無しです。思ったより長くなったので、次回も出番無しです。

次で、セイカとミヤビの時間軸に追いつきます。たぶん。


エマの機体の色が違うのは部隊が異なるからです。そのあたりも次回に書ければと思います。


それでは読んでくださったあなたへ感謝を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ