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旅立ち編_第一章_9_葬送

「ひとまず、ここから離れたいのよ」


セイカの方針に従って、まずはこの施設から離れることとした。3時間ほど移動してから、母を弔うこととなった。


ミヤビにも留まる危険性は理解できた。母の遺体もこのままでは腐敗してしまうこともわかる。それでも……


「……母さんの、遺体。置いていきたくない」


荒れ地に埋める事には抵抗があった。反対されると思っていたが……


「……ミヤビが反対しないなら、火葬にしようと思ってるのよ。」


「……火葬?」


「東方の……というか、それがこの辺りの地域のことなんだけど。遺体を燃やして骨にして弔うそうよ。ものが腐敗しやすい多湿な地域だと主流らしいわ」


「燃やすの?」


「そうだけど……弔う方法がお墓に埋めるだけじゃなくて、ペンダントのロケットに骨の粉末を形見として入れたりもするらしいから……たぶん、私たちでもお墓を作りたい場所まで持ち運べるわ」


姉は、自分が蹲っている間にいろいろと考えてくれていたのだった。


そして、火葬を行うまで移動時間は、母の私物を含めた物資の整理することになった。姉としては自分のサイズに合う衣類を探したいらしい。


「ここに、姉さんはいたの?」

「そうよ。そこの円形の機械が培養槽ね」


研究室……のように見えるのだが関係ないものも多い。カーテン式のクロゼットに椅子やテーブルはともかく、冷蔵庫に洗濯機……後付けらしいシャワールームに簡易ベッドまである。


「……母さんもここに来てたの?」

「……そうね。月1回くらいかしら」


そこによく座ってたわと、姉は丸テーブルと椅子を指差す。


研究室などにあるような無機質のものではなく、パイン材と金属のテーブルセットだ。


冷蔵庫には酒瓶が入っていた。酒類の良し悪しはわからないが、華やかなラベルで高価に見えた。


母の趣味だったのだろうか。ミヤビの知らない一面だった。


「服以外の私物はあまり無さそうだし、休んでてもいいわよ?」


姉はカーテンクロゼットを確認しながらそう言った。

姉にヒョコヒョコと追随するコグモという無人機が服置き場にされていた。


言葉に甘えて、椅子に座る。母もこうして姉と話していたのだろうか。


「見たことのない服ばかりね……。下着なんてパッケージのままじゃない。ミヤビ、何かわかる?」


コグモに乗せられている服もビニールがかけられているもので、着た形跡がなかった。


姉が手に持って見せたランジェリーも新品のようだ。その形を見て、ミヤビは首を傾げた。


「……サイズが小さい。母さん、もっとあったと思う」

「え……?」


ミヤビの言葉に姉は怪訝な表情をする。

姉……セイカはしばらくそれを眺めていたが、おもむろにパッケージを開けた。


ミヤビの目の前で白衣を脱ぎ捨てると、姉の細身の肢体が露わになった。インナーも着けてなかったようだ。


ミヤビは思わず視線をそらすが、姉は意に介してない様子で着替え始める。


チラチラと姉の身体を観察する。ミヤビと異なり、細く華奢な四肢はスラリと長く腰も細い。胸は……慎ましいが綺麗な形をしていた。


眺めていると、上向きな先端を下着が覆った。

それは姉の身体にフィットしていた。


「もしかして、それ、姉さん用じゃない……?」

「……そうみたいね」


姉はこちらを向かずに答える。ミヤビはなんとなくだが、姉の顔を覗いてはいけない気がした。


「なんなのよ……」


姉は長く息を吐いたあと、そう独り言ちた。


----------


母の火葬を行えたのは完全に日が暮れた後だった。


専門の道具も儀礼的なものなど流石に手持ちにないため、フィールドリペア用の金属板の上に遺体の入った木箱を置き、瓦礫や土で熱が逃げないように簡易的な炉のようなものをアント達で作った。


火はスコルピウスの予備兵装にあった火炎放射器で代用した。恐らく対人兵装のバリエーションの1つで火力は十分過ぎた。


火力を最小にしても煙突部分から火柱が頭を出している有様だ。


その脇で、アントが金属板を切り出し箱を作っている。骨を入れるための骨壺代わりである。


セイカは無人兵器達に用途外の雑務をさせながら、ミヤビと地べたに座ってスコルピウスが炎を炉に吹き入れる様子を眺めていた。


後ろでは、コグモが自分に座れと訴えるかのように背もたれを立ち上げている。


また、肉体の視覚外ではアント達が周囲を巡回行をしていた。


この場にいない2機スコルピウスが長距離砲用のレーダーとカメラで追跡や不明な機影が接近してこないか警戒を続けている。


セイカが見ている景色は今この場のものだけではない。妹が母に対して喪に服している中、違うことを並行して行っている自分は薄情なのかもしれない。


それでも、セイカにとって大事なのは母の死よりも妹の安全なのだ。目の前の、母を火葬する光景も見ているようで見ていない。

あと20分ほどで火を止めなければと考えていた。


次は次はと手順を考えていると、妹の頭が肩に寄りかかってきた。疲れて寝てしまったかと思ったが、そうではないらしい。


「どうしたの?」


「……ありがとう。準備、いろいろ」


「いいのよ。一応、長女だもの」


「それでも……。私、何もできてないから……」


妹は妹で、任せきりな点で思うところがあるらしい。


「じゃあ、私の代わりにしっかり見送ってあげて」


「……どういうこと?」


「私は目の前のことだけに集中できないもの。今もいろんなものを見て、動かしてるわ」


「……」


「ミヤビなら祈ることに集中できるでしょ。役割……って言ったら、変かもしれないけど」


「……変じゃない。ちゃんと、姉さんの分も祈るから」


「お願いね」


火を止めると、もう燃えるものが残っていない炉から急速に光が失われていった。


冷めるのを待ってから、骨を骨壺に入れる。


ここで妹はポロポロと涙をこぼし始めてしまったが、拭いながら骨を拾っていた。

セイカも1つだけ拾わせてもらった。


----------


「一緒に寝ていい?」


その晩、寝具……シェラフを引っ張り出してくるとミヤビはそんな事を言った。


睡眠スペースのある車両はあるが、寝所を別ける理由もないのでセイカも一緒に寝るつもりでいたのだが。


「一緒に寝るわよ?」

「……そうじゃなくて」


同じシェラフに入りたいということらしい。


軍用の備品で、大男でも入れるサイズのため無理ということはない。


「私はいいけど、狭いと思うわよ」

「それでもいい」


2人で1つのシェラフに入ることになった。

セイカはコグモと繋がる襟足の配線を外に出すため、ミヤビの方を向いて横になる。


「……それ、外さないの?」

「スコルピウスとアントに夜警させてるから、繋いでる必要があるのよ」

「寝られるの?」

「大丈夫。慣れてるわ。ありがとう」


心配してくれる妹の頭を撫でた。ミヤビは照れ臭そうに頭を振ると、シェラフの中に逃げ込む。そのままセイカに抱きついた。


ミヤビはセイカの胸に顔をうずめる。妹に甘えられてセイカも悪い気はしないが、少しくすぐったい。


「それがしたかったの?」

「……うん」


しっかりと抱きついていて、眠ってしまうまで離れてくれそうにない。

セイカもミヤビの背に手を回して抱き返した。


「姉さん?」


そのまま、眠ってしまおうかと思い始めたところで、ミヤビが声をかけてきた。

表情は、胸に埋まっていて確認できない。


「これから、どうするの?」


抱きつく力が強くなる。

落ち着いてくれたと思っていたが、落ち着き冷静になったことで、先のことが何も分からないことに気付いてしまったのか。


「……まずは家と仕事かしら」


「うん」


「明日にちゃんと話すけど、ギルドのアウトベースに向かおうと思ってるわ」


「そっか」


「……怖い?」


「ううん」


「じゃあ、不安?」


「……うん」


「……何が不安かしら?」


「……また、失敗するかも」


「……そうね」


失敗とは、今日のことだろう。


母が死んで、取り乱して、姉に暴言を吐いて……どれかではなく、ミヤビにとってどれも失敗なのかもしれない。


「失敗はいやよね」

「うん」


やり直せばいい、などとは言えない。それは命をかけない物事の理屈だ。


「私がついてるわ」

「……姉さんは、いなくならない?」


難しい話だ。この先の生き方を考えると確約できる話ではない。


「私もミヤビとずっと一緒にいたいわ。姉妹だもの」

「……私も」


なので、願望で誤魔化した。だが、本心だ。


「私がミヤビをサポートするわ」

「じゃあ、私が姉さんを守る……だから、いなくならないで……」


妹の腕の力が一際強くなる。


少し痛い。


失敗そのもの、というより大切な人がいなくなることが不安なのかもしれない。


妹が眠れるように、姉はトントンと背を叩いてやることにした。


「ずっと一緒よ。起きた時にいなくなったりしないから、寝ちゃいなさい」


もう片手で抱き返し、背を叩く。

しばらくそうしていると、ミヤビの腕の力が緩くなってきた。


走って、戦って、泣いて……妹も疲れ切っているのだ。


いつの間にか、胸にあたる息も弱く一定した寝息へと変わっていた。


少しだけ背を反らし、胸と妹の頭の間にスペースを作り、顔をのぞき込む。


ミヤビの寝顔を確認すると、セイカは妹を抱き直して目を閉じた。

これにて第一章は終了です。

第二章からは姉妹の視点が外に向かっていき、世界観に関わる固有名詞も増えていく予定です。

ここまで読んでくださったあなたへ感謝を。

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