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第一話

 寝台特急「山手線」という架空の列車の乗車記を書きました。

 つたない文章ではありますが、もし読んでいただければ幸いです。

 なお、物語の時代背景としては、昭和50年代をイメージしています。

 ちなみに、何にも事件はおきませんし、大恋愛もありません。楽な気持ちで読んでいただければと思います。


 ※私の他のSNSに2014年投稿した作品です。

 これは、鉄道ファンの鉄道ファンによる鉄道ファンのための、とある一夜の物語である。


(一)


 12月24日 金曜日


 私は焦っていた。

 こともあろうに、地下鉄銀座線は遅延していた。表参道駅で安全確認を行ったためと案内があった。

 そのため、上野駅の到着は3分遅れ。私の時計は、すでには23時30分をまわっている。

 急いで改札を抜け、地上へ通じる階段を全力で駆け上る。果敢に二段飛ばしに挑戦し、一歩目は見事に着地したが、二歩目でこけた。

 その弾みで鞄の中身をまき散らしてしまった。急いでかき集める。焦りは頂点に達する。

 地上に出ると、そこはまさに国鉄上野駅の中央改札であった。

 12月の金曜日だからなのか、それともクリスマスイブだからなのか、時刻も時刻だというのに人の多いこと。

 人ごみをかき分け、中央改札を突破。大きく左へ折れ曲がり、山手線のホームへとさらに走る。

 息を切らしながらさらに階段を駆け上り、やっと山手線のホームに着いた。

 その瞬間!

 甲高い汽笛と重厚な台車の響きを轟かせ、電気機関車 EF65 1099 が私の目の前を通過した。そして、カニ24、オハネフ25、オハネ25、オハネ25・・・、と青い車体が続く。カニ24は電源車、オハネフ25、オハネ25はともにB寝台車、ブルートレインだ。

 私の目の前には、6号車の食堂車 オシ24 が停車した。

 切符には3号車と記されているが、すでに発車ベルが鳴っている。この列車はこの駅が始発駅であるから、停車時間をとって堂々と出発してもらいたいと思うのだが、この列車の後ろには通勤電車が続いている。よって、すぐに発車しなければならない。

 仕方がないので、最寄りのドアからそそくさと車内に入る。そして、発車ベルが鳴り終わるとドアが閉まった。食堂車のスタッフが、ホームに向かって頭を下げる。遠くの方で汽笛が鳴った。列車はゆっくりと動き始めた。

 23時36分、我が寝台特急「山手線」は、上野駅を定刻に発車した。

 焦りに焦り、息も絶え絶えだ。だが、なんとか間に合った。全力を出し切ったかいがあった。


 『本日も寝台特急「山手線」にご乗車いただきありがとうございます。この先の停車駅と主な駅の到着時刻をご案内いたします。次の停車駅は御徒町・・・』


 オルゴールの音色に続いて、車掌さんの放送が始まった。それを聞きながら、前方の3号車へ移動する。

 5号車、4号車ともに2段ベッドが並ぶB寝台だが、誰も乗っていない。車掌さんの放送が無人の車内に響く。

 3号車も同じB寝台だ。てっきり私だけかと思ったが、デッキと客室を仕切るドアを開けて中に入ると先客がいた。

 小学生ぐらいの男の子が、進行方向左側、つまり通路側の補助椅子に座っている。五年生か、それとも六年生か。いずれにせよ、中学生ではないだろう。

 ちなみに、私はこの3号車の中ではやや後方の12番下段。彼が座っているのは、中ほどの7番8番のところの補助椅子だ。7番上段のベッドに彼のものと思われるバッグが見える。

 御徒町、秋葉原、神田と各駅に停車していく。だが、3号車に新たに乗ってくる人はいない。

 なんと、東京駅でも誰も乗ってこなかった。ホームにはサラリーマンやカップル、それに大きな荷物を抱えた旅行者風の人もいるのだが、この列車には目もくれない。後続の通勤電車や、隣の京浜東北線の電車を待っているのだろうか。

 23時46分発の有楽町駅でやっと一人乗ってきた。コートの下に背広をまとったサラリーマン風のおっさんだ。足元が覚束ない。フラフラしている。

 酔っ払いが間違えて乗ってきたかと思ってしまったが、どうやら切符は持っているようだ。少しばかりキョロキョロした後、切符に記された番号のベッドを見つけたのであろう。そのベッドに潜り込み、さっさとカーテンを閉めてしまった。あのおっさんは前方の3番下段。

 新橋駅でもまた一人乗ってきた。やはりサラリーマン風のおっさんだ。しかも、またもや千鳥足である。ベッドに入ると、すぐにカーテンを閉めてしまうところまで同じだ。このおっさんは9番下段。

 進行方向左側に、東海道本線のホームが見える。列を作って並んでいる人々。時刻表をめくると、23時56分発の小田原行きがある。それが東海道本線の終電だ。

 ふと見ると、あの少年も私のと同じ時刻表をめくっている。見れば分かる、彼も鉄道ファンなのだろう。

 浜松町、田町と停車していく。

 「恐れ入りますが、切符を拝見させていただきます。」

 車掌さんが検札にやってきた。

 3番下段と9番下段のおっさんたちは、カーテンの隙間から腕だけを伸ばし、切符を差し出している。

 なんだか、随分と乗り慣れた感じのするおっさんたちだ。もしかすると、この列車の常連なのかもしれない。

 23時56分、品川駅を発車。この駅で三人乗ってきた。皆、そそくさと自分のベッドに潜り込む。

 東海道本線、京浜東北線と別れ、こちらは大きく北へと向きを変えていく。

 0時になる直前、車内放送が始まった。この先の停車駅などを案内し、さらにこれが今夜最後の放送である旨を伝えている。そして、減灯。車内の明かりが暗くなった。

 0時0分、大崎駅を発車。

 それと同時に日付が変わった。



 (2)へ続く


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