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第3話 崩壊と再生

馬車は石畳の道をガタゴトと揺れながら進み、やがて大きな門をくぐった。


街は活気に満ちていた。


石造りの建物が規則正しく並び、通りには露店がひしめき合っている。色鮮やかな果物や、キラキラと光る魔装具のパーツが所狭しと並んでいた。耳に入ってくるのは、人々の明るい笑い声と、街角に置かれた魔装式の音楽装置から流れる、楽しげな旋律だ。人々は笑顔で通りを行き交っている。僕が断片的に覚えている世界の光景、あの瓦礫と炎の世界とは全く違っていた。僕は思わず息を飲んだ。


空を見上げると、巨大な飛空艇が静かに浮かんでいる。船底に青い紋様が輝く、美しい金属の塊だ。


「あれは……」


僕がぼんやりと見上げると、セフィラが穏やかに言った。「あれは魔装具の技術を使った飛空艇よ。この300年で、魔装具の技術はとても発達したの」


セフィラはそう言って、腰に下げたランタン型の魔装具を軽く叩いた。「このランタンも、私が自分で作ったものよ」と教えてくれた。

僕は、セフィラが持つ小さなランタンから、遠い空に浮かぶ巨大な飛空艇まで、人間が生み出した技術の結晶を、ただじぃっと見つめ続けた。


僕たちが通り過ぎた広場では、僕と同い年くらいの少年少女たちが、楽しそうに笑いながら談笑している。僕と変わらない、普通の姿だった。


宿屋に着くと、セフィラはボロボロになった僕の服を見て、「まずは着替えましょう」と言った。


着替えの際、アルヴィンは僕から一歩距離を取り、手に持っていたケープを床に投げた。彼の表情は、相変わらず険しい。


「お前のその腕は、何の前触れもなく変異するんだろう。街中でそんなものを晒せば、騒ぎになる。これを着ていろ」


彼が差し出したのは、直接袖を通さず羽織るケープのような外套だった。僕の力が触れて、また服を壊してしまうのではないかと思ったが、僕は黙ってそれを拾った。

外套を羽織り終え、鏡に映った自分を見た。黒い髪に、黒い目。うつろな表情ではあるけれど、さっき見た街の少年たちと、外見は何も変わらない。


一階の食堂で食事をとることになった。僕の前に置かれた温かいスープとパン。一口食べたが、味覚がまだ戻っていないのか、ほとんど味がしなかった。それでも、その温かさだけは、僕の中に微かな安らぎをもたらした。


その時、


パキッ……


持っていた金属製のスプーンが音を立てて崩れ落ちた。砂がこぼれるように、金属の粉が皿の上に散らばる。


「あっ……」


慌てて手を引っ込めようとした瞬間、僕の右腕に本能的な力が湧き上がった。赤い紋様が薄っすらと浮かび、崩壊したはずのスプーンが、一瞬にして元の形に戻った。しかし、すぐにその再生したスプーンも、再び粉となって崩れていく。


アルヴィンが驚きを隠せない顔で言った。「今のは……崩壊させて、そして再生させたのか?」


セフィラが身を乗り出すように僕を見た。その薄緑色の瞳は、強い探究心に満ちていた。


「ナギの力は、対象を砂のように崩壊させる力と、それを一瞬だけ元の状態に戻す再生の力、二つで一対なのね。あの再生は、持続する力ではない。崩壊の力が強すぎるから、再生したとしても、すぐに元の状態(崩壊)に戻ってしまう。まるで、綱引きをしているみたいにね。」


セフィラは僕の能力について推測してみせた。


食事が終わり、セフィラは真剣な顔で僕たちに再度向き直った。


「ナギ。私たちは、あなたを人間として解放すると決めた。そのためには、聖王連合の非道な行いを止めなければならない」


セフィラは落ち着いた声で、アカツキの目的を説明した。


「私たちの目的は主に三つあるわ。

一つは、非人道的に封印された禍津ノ兵器を解放すること。

二つ目は、暴走し異形となってしまった兵器を鎮魂すること。

そして三つ目は、この非道な管理体制を作った聖王連合を止めることよ。

その戦いには、あなたの力が必要不可欠なの」


僕はすぐに答えた。


「……わかった。僕は、道具だから。言われた通りにするよ。」


セフィラは困ったように首を横に振った。


「違うわ。これは命令じゃない。あくまでも協力のお願いよ。……私たちは、あなたを危険な状況に連れ出さざるを得ない。どうか、私たちの大義のために力を貸してほしいの」


そのとき、隣に立つアルヴィンの冷たい視線が、僕の背中に突き刺さった。彼は何も言わなかったが、「当然の義務だろう」とでも言いたげな無言の圧力を感じた。


僕には、セフィラの言葉の意味が理解できなかった。


「……?」


僕はただ、ぼんやりと首をかしげることしかできなかった。道具とは、使われるもの。僕を解放した彼らの言うことに従う。それが僕に与えられた、唯一の役割だと信じていたからだ。


セフィラは、僕を一瞬、ひどく憐れんでいるような顔で見た気がした。

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