表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

第2話 目覚めの虚無

意識を取り戻したとき、最初に感じたのは、深い虚無感だった。体は重く、感覚はぼんやりしている。まるで分厚い膜越しに世界を見ているようだ。


僕は道具だ。


それだけが、確かな諦念として僕の中にあった。


僕はゆっくりと目を開けた。そこは、布張りの天井がある狭い空間だった。馬車の荷台だと気づくのに、少し時間がかかった。


僕は自分の右腕に目をやった。あれがいつのことだったのか、時間感覚はなかったが、黒く異形化していた皮膚は、元の普通の状態に戻っていた。剣で突き刺されたはずの傷跡すら残っていない。


「目が覚めたのね」


柔らかな声が聞こえて、体を起こした。昨日僕を解放してくれた銀髪の女性が、僕の前の席に座っている。その後ろ、馬車の御者を務めているのが、引き締まった体躯の男性だ。


「気分はどう?」


「……特に何も」


僕は虚ろな声で答えた。道具に気分なんてない。


セフィラは少し悲しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締めた。


「そうね。まずは自己紹介をしましょう。私はセフィラ。こっちはアルヴィンよ。私たちは、**禍津ノ兵器解放を目的とする互助組織『アカツキ』**として活動している」


「解放を目的とする……」


「あなたの名前は?」セフィラは尋ねた。


僕は頭の中を探ったが、記憶はすぐに崩壊する。燃え盛る映像や叫び声の断片はあっても、自分の名前といった肝心な情報は、砂になって消えていくようだった。


「……わからない。覚えてない」


セフィラは懐から小さな金属のタグを取り出し、僕に見せた。


「それも仕方がないわ。でも、あなたの名前はわかった。封印されていたフレームのタグに、管理番号と並んで『ナギ』って書いてあった。それがあなたの名前よ」


ナギ――。


僕はその名を口の中で転がしてみたが、何の感情も湧いてこない。ただ、そうなのか、と受け入れるだけだった。


「あなたたちを縛っていた鎖、封印紋の鎖は、肉体を縛るだけでなく、精神に拷問のような負荷をかけ続けた。300年もの間、その苦痛に晒され続ければ、記憶が失われるのは当然よ」


300年。その途方もない時間の長さに、現実感が湧かない。


アルヴィンが手綱を握りながら、静かに口を開いた。


「我々がお前たちを救出したのは、アカツキの目的のためだ。我々は、聖王連合によって非人道的に封印された禍津ノ兵器を解放し、そして暴走した兵器を鎮魂することを目的としている」


「その異形の腕が、またいつ剣を砕くかも分からんからな。」


アルヴィンのその一言が、僕の体を引き締めた。昨日、僕が暴走して彼の剣を砕いたことを言っているのだろう。その目は、僕を警戒し、そして恐れていた。


セフィラが補足した。


「今からおよそ300年前、大きな戦争があったの。そのとき、人間同士が戦うためにあなたたち禍津ノ兵器を造り出した」


僕は、禍津ノ兵器……。そんな気がする。僕のこの力が、それを証明している。


セフィラは続けた。「でも、その力が制御不能になりすぎたから、戦争は停戦という形で終わった。その後、聖王連合は『危険だから管理する』と称して、あなたたちをあんな非人道的な方法で閉じ込めたのよ」


彼女の言葉は、淡々としていたが、その中に怒りのようなものが含まれているのを感じた。


「私たちは、あなたたちを道具として扱うために解放したんじゃない。人間として生きてほしいと願っている」


「人間……」僕はその言葉を繰り返した。それは、僕には遠すぎる概念だった。僕の思考の中には、ただ道具という言葉だけが定着していた。



その時、御者を務めていたアルヴィンが、手綱を引いた。


「セフィラ、街に近づいてきたぞ」


アルヴィンは警戒心を強めるように、短く告げた。その瞳は、未だ僕に鋭い警戒を向けている。



馬車の振動が変わり、外の景色が賑やかになっていく気配を感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ