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二十五、追われる美女騎士

ロイドからの指令を受け、俺たちは王国南部フェリシアへ向かっていた。

出発の前、グラトスがわざわざ術皇騎士団から「魔法も流派も得意な、選りすぐりの三名」を護衛として紹介してくれるという……


……当日現れたのは、先日の戦いで散々やらかしていた“三馬鹿トリオ”だった。

有能と聞かされていた分、余計に落差がきつい。正直、旅の前途は不安しかない。


馬車を操るのは、寡黙で真面目……のはずなのに、やたら動作のぎこちないメイス騎士バルド。

頑丈な体格なのに、手綱を握る腕がプルプル震えているのは気のせいか?


その横を並走するのは、威勢だけは百人前の葡萄騎士ローレン。

腰の袋には葡萄がぎっしり詰まっていて、馬上でもモシャモシャ食い続けている。

(おい、馬に種飛ばすな……絶対馬車の方にも飛んだだろ今)


そしてもう一人——後方でフラフラしながら馬に乗っているのが、酒臭全開のワイン騎士マルセル。

朝っぱらから顔が真っ赤で、馬と一緒に千鳥足。

(どう見ても飲んでるだろ。てか日本なら飲酒運転で捕まってるぞ)


……護衛っていうより、むしろ俺がコイツら守らなきゃいけない気がするんだが。



馬車の中は、外の頼りなさが嘘みたいに、豪奢で静かだった。


「いやぁ……勇者殿と同じ馬車に乗れるとは、某の生涯の誉れでありますぞ!」

向かいに座るグラトス殿下は、相変わらず目をキラッキラさせている。


「勇者殿が窓の外を眺める……そのお姿すら神々しい!」

「いや、ただ退屈してるだけなんだが」

「退屈すら美徳に変える……これぞ勇者伝説の一幕!」


(……恥ずかしいからやめろって。こっちが赤面するわ)


エリシアが書類を片付けながら、静かに言った。

「フェリシアに着いたら、まず侯爵に会います。イザベル=ド=フェリシア侯爵――領民には“母君”と呼ばれて慕われている方です」


「侯爵に?」俺が首を傾げる。


「はい。南部の農業都市を治める彼女の協力なくして、巨大教会の建設阻止は成し得ません。……ですが今は、法国からの圧力で相当追い詰められているはず」


グラトスが拳を握る。

「ならば、我らが救わねばなりませんな! 勇者殿と某が正義の鉄槌を下せば――」


「いや、殴れば解決って話じゃねぇだろ……」

俺は思わずツッコミを入れた。


エリシアは小さく微笑む。

「まずは直接会って、お話を伺いましょう。それが最善です」


(……ふむ。表から侯爵、裏から魔族。どっちも相手にしなきゃならねぇってわけか)



ドカーン!!!


森の奥から爆発音。

「逃げたぞー!」「こっちだー!」

怒号と黒煙が、木々の間から立ち昇った。


「……なんだ?」


視線を向けた瞬間、森を割って駆け出してくる一頭の馬。

その背にまたがるのは、金髪をなびかせた美女だった。


「……カタリナ!?」

エリシアの声が震えた。


「知り合いか?」

「子供の頃、法国に留学していた時の……旧友です」


後ろには、甲冑に身を包んだ八騎の追手。

遠目でもわかる。全員が手練れ。


「おいおい……よりによって、こっちに突っ込んで来るのかよ」

「ジーク様!助けましょう!」エリシアが即答する。


「……了解」


馬車を止め、迎撃体制。

俺が剣を抜こうとした瞬間、グラトスが立ち上がった。


「勇者殿!某にお任せを! 紅蓮の障壁をご覧あれ!」


高らかに詠唱。


「紅蓮よ、立ち塞がれ――《炎壁》!!」


熱風とともに、街道を塞ぐ炎壁が立ち上がった。


「っ……!」

追手の馬たちが一斉にひるみ、立ち止まる。


「な、なんと……殿下の魔法がここまでとは……」

エリシアも驚きを隠せない。


「今ですぞ、勇者殿!」


俺は剣を掲げ、雷光を纏わせた。


「天を裂き、雷霆を我が刃に。万象を貫き、悪しき魂を灰燼と帰せ――《雷帝聖裁》!」


ドゴォォォン!!!


轟雷が八騎を薙ぎ払い、地面に叩きつける。

三人程レジストしたようだが、馬も、しばらく動けまい。


「カタリナ!こちらへ!」


美女は巧みな馬術でこちらにくると、


「エリシア!? なぜここに……!? その魔法、あなたたち……王国の騎士!?」


「話はあとだ! 警戒しつつ、とにかくここを離れるぞ!」


「バルド! 全力でこの場から離れよ!」

「は、はい殿下!」


御者台でバルドが力強く手綱を振り、ローレンとマルセルも顔を引き締め、馬で周囲を警戒する。


……三馬鹿だと思ってたが、いざって時は案外真面目じゃねぇか。……逆に怖ぇよ。 


その横を駆ける金髪の美女――カタリナ。

ただ者じゃない気配をまとった横顔に、思わず息を呑んだ。


馬車は轟音を残し、爆煙の森を背に駆け抜けていった――。

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